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Volume 14, No.2 Pages 100 - 101

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

利用研究課題選定委員会を終えて、分科会主査報告2 −散乱・回折分科会−
Proposal Review Committee (PRC) Report by Subcommittee Chair – Diffraction and Scattering –

篭島 靖 KAGOSHIMA Yasushi

兵庫県立大学大学院 物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo

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 散乱・回折分科は、さらにD1:構造物性(単結晶、粉末結晶、表面界面、構造相転移)、D2:高圧(高圧物性、地球科学)、D3:材料イメージング(トポグラフィー、CT)、D4:非弾性X線散乱(コンプトン散乱、核共鳴散乱、高分解能X線散乱)、D5:小角・広角散乱(高分子)の5つの分科に分かれている。これらを見ていただくだけで、散乱・回折分科への申請が、手法・ビームラインとも多岐にわたっていることがご理解いただけると思う。前期に引き続き、応用研究の比重がコンスタントに高く、SPring-8の実用性が広く認識されてきている証と考えられる。

 本分科会の概要を述べたいのであるが、何分分野が多岐に渡っておりとても私1人の手に負えないので、以下各分科の審査員に分科の概要を分筆いただいた。

 

 D1分科では回折散乱という手法が広い範囲にわたって応用されている構造物性に関わる申請を扱っており、関わるビームラインの種類、また、課題申請数も多く、特にB期には例年非常に多くの課題申請が集中するという印象をもちながら審査を行ってきた。すぐれた成果を得るためにはそれに見合うビームタイムの配分をする必要があるので、競争率が高くなると比較的評点の高い課題でも全くビームタイムが配分されないことになる。施設側にはこのような申請時期による競争率のアンバランスができるだけ解消されるような対策を講じることを期待する。一方、この分科でも最近、様々な外場変化を組み合わせて物質構造の静的、特に動的な応答を計測する実験の提案が増加してきたように思える。2008A期からBL02B1に単結晶精密構造解析を目指した汎用回折装置が新規導入されたので、今後この装置の特徴を生かしたユニークな課題が申請されることも期待したい。

 

 D2分科の主な審査対象課題は大容量マルチアンビル高圧装置(MA)が利用できるBL04B1、およひレーザー加熱ダイヤモンドアンビル装置(LHDAC)を主体としたBL10XUに関わるものである。大型のMAを所有する研究室はあまり多くなく予備的実験が困難であることなどの理由から、前者においては申請者の顔ぶれが固定されつつある。より幅広いユーザーの開拓がコミュニティーとして必要であろう。一方で、この種の実験では長時間の実験が不可欠なものが多く、限られたユーザーに対してさえ、十分な実験時間が確保されていないという側面もある。BL10XUにおいては、長い期間にわたる長期利用課題などの優先ビーム配分により、また一般ユーザーの利用時間が比較的短いことや、比較的手軽なDAC実験はユーザーが幅広いなどの理由により、最近特に採択率が低くなりつつある傾向にある。理由は異なるものの、両者とも希望者に十分なビームタイムを確保することが困難な状況であり、なんらかの対策が必要である。

 

 D3分科(材料イメージング(トポグラフィー、CT))への申請は、BL28B2に単色・白色トポグラフィー、BL20B2、BL20XU、BL47XUにマイクロCT、X線イメージング(マイクロビームを含む)、X線光学系開発等が主である。特にBL47XUでは、マイクロCT関連と硬X線光電子分光が相乗りしているため、競争率が極めて高く、このビームラインで採択されることは非常に難しい。第一希望のBL47XUではボーダーライン以下であるが、第二希望のBL20XUで採択される課題が結構あった。いずれも研究グループが比較的固定されているため、課題申請に関して不慣れな印象は少なく、申請書を見る限りビームラインの選定、実験の可否に関して、不適切な申請は少なかったように思える。一方で、新規参入のユーザーも散見されたので、今後の新しい展開が期待される。全体の印象としては、分析対象がより一層実材料を指向する傾向が顕著になってきたようである。イメージングは、一般にも分かり易い成果を提供できる研究分野であり、一層の発展を期待したい。

 

 D4分科では非弾性散乱をキーワードとする課題を審査している。特に最近の傾向として、高分解能X線非弾性散乱(BL35XU)を利用する課題が増加している。これは、BL35XUの装置が、中性子では測定不可能な小さな試料(1 mm角以下)でも100 meVを越えるエネルギー領域でのフォノン分散測定が可能なことが大きな理由の一つになっている。銅酸化物に加えて、最近相次いで発見された新超伝導体(MgB2、ボロンドープダイアモンド、鉄プニクタイトなど)の電子-格子相互作用のレベルの高い研究が多く申請されている。そのため、アモルファス系、液体系のフォノン測定の課題が圧迫されている傾向も見られる。この装置の次世代版の建設が認められ、数年後に1桁以上の強度増加見込まれることは大変喜ばしい。またコンプトン散乱(BL08W)も装置の再配置により、数倍の強度増加が期待されるとのことである。

 ここで審査体制と関連する問題として、D4分科とD1分科の課題の類似性があげられる。特に競争が激しい課題では、ほとんど同じ内容の複数の申請が、D4とD1分科に分かれて申請される場合がある。この場合には異なる審査員による評価がなされるので採点基準が異なる場合もあり、最終段階での総合評価や、類似課題の合同実施などの議論を慎重に行っている。将来的には、このような課題に対しては、最初から同じレフェリーによる審査や合同実施の可能性の問いかけを分科会として行うことも必要かも知れない。

 

 D5分科には、高分子ならびにソフトマター関連の申請が圧倒的に多い。BL40B2やBL45XU、BL40XUなど小角、広角X線散乱実験が主である。高分子溶液や高分子固体の構造解析が多いが、最近の傾向として時間分解測定の申請が増えている。また、微小角入射広角小角散乱測定への申請がかなり増え、バルクな構造に加えて、表面構造の役割への認識が強まってきている。申請数もうなぎ上りに増えてきており、優劣をつけるに忍びないことも多々ある。審査をしていてつくづく感じるのは、同じような実験内容であっても、如何にオリジナリティの高い研究であるかを旨くアピールするかしないか、申請書の書き方で審査員の抱く印象は大きく異なることである。採択率の低い申請者は是非とも一度、この点を再点検されては如何?高分子およびソフトマターの専用ビームラインBL03XUが来年早々には稼動を始める予定であるが、D5への申請にも変化が出てくるかもしれない。

 

 分筆いただいた、黒岩芳弘、入舩徹男、山田和芳、田代孝二の各氏に感謝いたします。

 

 

 

篭島 靖 KAGOSHIMA Yasushi

兵庫県立大学大学院 物質理学研究科

〒678-1297 兵庫県赤穂郡上郡町光都3-2-1

TEL : 0791-58-0230 FAX : 0791-58-0236

e-mail : kagosima@sci.u-hyogo.ac.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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