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Volume 13, No.5 Pages 381- 385

2. 利用者懇談会研究会報告/RESEARCH GROUP REPORT (SPring-8 USERS SOCIETY)

SPring-8利用者懇談会第一期研究会活動報告
Activity Report of SPring-8 Users Society

SPring-8利用者懇談会 利用促進委員会 Organizing Committee, SPring-8 Users Society

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 2008年3月をもって第一期研究会2年間の活動が終了した。SPring-8が共用開始から7年経ち、建設期から本格利用期に入ったことによりビームライン・サブグループ(BL-SG)の担う役割が変革してきたことを受けて、利用者懇談会組織改革が坂田前利用者懇談会会長の時代に提案された。その主旨は従来の、立ち上げを行っていたビームラインを中心としたグループではなく、SPring-8で展開されるサイエンスを中心とした研究会を組織することによりその活動を活性化することにあった。この新しい研究会体制での活動が終わり、各研究会には活動報告を提出いただいた。以下に、研究会が所属する研究分野の活動をまとめ、最後に利用促進委員会として第一期研究会活動を総括する。 
 各研究会および研究分野は、グループの大小、活動の形態や方法が異なるため、研究分野総括は内容、スタイルが様々であるが、ご容赦いただきたい。

イメージング研究分野
 X線マイクロ・トモグラフィ研究会では光学技術、画像解析、応用技術などの情報交流が進み、学術面でも成果を挙げることができた。施設の改善等についても意見を取りまとめ、色々なチャンネルで働きかけた。最新の情報機器の導入とソフトウエア高速化はその最たるものといえる。このほか、ホームページなどによる情報発信、新規ユーザーの開拓・実験開始ついても積極的に展開した。これら一連の活動は、研究会からのプロジェクト予算申請、国際シンポジウム開催となって結実した。
 マイクロ・ナノイメージングと生体機能研究会では、ワークショップの開催などを通して新規ユーザーの獲得と研究組織づくりの努力がなされ、ある程度成果が上がっている。また、研究会で推進すべき、SPring-8の光源特性を生かした重要課題の抽出についても議論が進んでいるが、具体的な施設の改善や高度化の提案にはまだ至っていない。CTなど共通の手法を利用するマイクロナノトモグラフィ研究会との連携も今後視野に入れた活動を期待したい。
 X線トポグラフィ研究会では、X線トポグラフィと関連する技法に関する最新情報の共有と意見交換をした。X線トポグラフィの三次元化の有用性が改めて認識され、三次元観察がBL28B2で利用できるようになった。また、産業利用に関しては、BL19B2でもトポグラフィが実施できるように整備が進んでいるところである。新規ユーザーの開拓を行い、新規グループの実験、新規会員の増加につながった。
 顕微ナノ材料科学研究会では、研究会を通じて情報交流を行うと同時に、SPring-8における実験体制の問題点および将来のビームライン設置に関して議論を行った。その結果BL17SUのSPELEEMの担当者が1名から2名に増員され、利用者にとって大変大きな貢献ができた。また新設ビームラインについては所属委員が代表になり新東大ビームラインが立ち上がることになった。この成果は大変大きくこの具体的な世話に関しても本研究会のメンバーが関与していくことになった。

エネルギー・環境研究分野
 X線スペクトロスコピー利用研究会では、XAFS法および蛍光X線法における種々の実験手法の利用普及のために計3回研究会が開催され、さらに期間中に時分割XAFSなどの手法では目覚しい発展がなされた。これら活動は実験ステーションの拡充にもつながっている。また、新たに産業利用のためのXAFS専用ビームラインが建設、利用開始されている。
 表界面・薄膜ナノ構造研究会では、高輝度X線回折や散乱を利用した表面物質構造科学という新分野創生と新規ユーザー開拓をめざし、計3回研究会が開催された。学産官を越えた新しい新規利用者が有機的にリンクされ、実験成果の情報・意見交換が活性化された。
 結晶化学研究会では、放射光利用によるX線結晶回折実験における、高輝度で高エネルギー分解能を活かした先端物質研究の推進と利用研究者の拡大を図るべく、計2回の研究会と関連学会シンポジウムが開催された。パワーユーザーを中心に新規利用者の拡大が達成され、更に微小単結晶構造解析のための先端的実験ステーションの整備協力が行われた。
 前述の3研究会では、分野内での連携のみならず、分野をまたがる活動についても、研究情報交換や研究成果に関する個別の討論を通して活発に行われており、活動全体を総合的に評価すると、十分に研究会発足当初の目標を達成していると思われる。今後の研究会活動における提言としては、これら研究会に共通することであるが、共同研究組織を通じた大型外部競争的資金獲得を意識した活動の活発化が望まれよう。また、学産官協力の顕著な共同研究成果を強力に社会アピールすることにより、より一層の施設改善のサポートが得られやすくなるものと思われる。

バイオ・ソフトマター研究分野
 タンパク質結晶品質評価研究会の研究活動としては、2007年9月のヨーロッパ宇宙機関による宇宙実験において微小重力下でのタンパク質結晶の品質評価を担当することになったのに伴い、当該研究会で議論を重ね、SPring-8の既存のビームラインBL28B2を利用してタンパク質結晶のロッキングカーブとトポグラフィの同時測定システムの構築を行い、微小重力下で成長したタンパク質結晶の品質を評価してきた。
 X線構造生物学研究会では、予算確保困難等の理由により特定の研究会は開催しなかったが、日本結晶学会、日本放射光学会等主要な関連学会や、タンパク3000プロジェクトや関連する特定領域研究の公開シンポジウム等、多数の会合の折に関係者の間で情報交換を行ってきた。また、本研究会に関わる点については、急激に拡大しているX線構造生物学において、技術的困難を伴うために未着手な領域を整理し、放射光科学との連携により問題解決のための戦略をねるとともに、XFELの開発も視野に入れて構造生物学の今後の発展の方向性を探ることを話し合ってきた。研究成果としては、2006年1月からの1年10ヶ月の間に204報の原著論文が登録されている。しかも、これらはいずれもインパクトファクターの高い雑誌に掲載されたものが多く、SPring-8の重要性があらためて認識された。
 ソフト界面科学研究会では、SPring-8を用いた研究計画や共同研究提案、当該研究会の将来構想等について議論するとともに、2007年10月には、SPring-8におけるソフト界面科学研究の最前線と、SPring-8未利用者による研究提案を発表し、今後の研究会活動計画、施設整備などについて話し合ってきた。その結果、専門分野の異なる研究者間の活発な交流・協力体制が生まれ、様々なソフト界面に対する挑戦的な測定が行われ、新規ユーザーが誕生するとともに、ソフト界面科学分野において世界に先駆けた優れた研究成果が数多く発表された。
 最後に、小角散乱研究会は、3回の研究会を開催し、メンバー間の密なる情報交換を行うとともに、メンバーからの積極的な研究成果の発信を柱として、施設側と密なる意見・情報交換による密接な連携関係を構築し、質の高いサイエンスを展開してきた。その結果、小角散乱ビームライン(BL40B2、BL40XU、BL45XU)を利用して原著論文が25報、総説が3報得られ、大きな研究成果を国内外に発信することができた。

ポリマーサイエンス研究分野
 ポリマーサイエンス研究分野に含まれる高分子科学研究会と高分子薄膜・表面研究会は、この2年間、非常に活発な研究会活動を行ってきた。各々の研究会主催の講演会や学習会にとどまらず、ポリマーサイエンスに共通した様々な課題を、時には小角散乱研究会なども、交えて熱心に議論を行ってきた。また、高分子討論会での特定テーマとして放射光関連セッションを設定する、あるいは高分子学会発行の国際誌から「量子ビーム関連研究特集号」を2ヶ月に亘って刊行していただくなど、内外組織との協力体制作りも極めて積極的に活発に行ってきた。更には、放射光利用による高分子科学の国際会議を全面的に支援するとともに、海外の放射光施設の研究者たちとの研究交流も非常に活発に行っており、高分子関連研究の遂行におけるSPring-8の有用性を世界中に認識してもらう上でも2研究会の果たしてきた役割は大きい。この分野の特徴は、研究会に所属するメンバーが産学官の広い範囲に及んでおり、高分子科学技術に対する共通意識が非常に強い点である。そのことが、新ビームライン「フロンティアソフトマター開発産学連合ビームライン」の立ち上げという、この2年間の本分野の研究活動の最大成果に結実したと思われる。このビームラインを世界のポリマーサイエンスにおける中心的存在に引き上げる上で、高分子関連の2研究会の使命は更に重要なものになると期待している。

安全・安心社会構築研究分野
 本研究分野では、マイクロデバイスから大型機器構造物を含む機械システムの破壊メカニズムや強度発現機構のナノレベルでの解明を通して未来機械産業の基盤を構築すると共に、社会の安全と信頼性向上へ貢献することを目的とし、様々な構造材料の性能発現メカニズムと、破壊あるいは損傷の初期過程をナノスケールで分析し、各材料の性能向上あるいは劣化の支配因子を解明するとともに、その制御方法を開発することを活動の目的とした。
 ナノ領域における本質的な物理化学事象を単に従来の連続体の力学を基盤とした機械工学的な視点で捉えるのではなく、原子の結合状態の変化とそれを引き起こす電磁気的あるいは化学的相互作用の視点を加えて量子力学的に整理することで、従来からその対応に苦慮してきた個体ばらつきあるいは時空間分布の発現メカニズムを解明し、その制御方法を確立することを目指した。具体的な研究内容は、原子力発電用容器ステンレス鋼やガスタービン用耐熱合金やそのコーティング皮膜あるいは燃料電池用電極材料、次世代半導体用高誘電率薄膜などの構造材料中のき裂先端近傍におけるサブミクロンスケールでの応力ひずみ場と転位発生密度分布の計測、微細介在物の三次元詳細分布とミクロンレベルでの初生き裂や疲労き裂進展形状のCTイメージング、金属/絶縁材料界面近傍の化学結合状態変動支配因子解明を目的とした光電子分光分析等であり、産学連携の研究会活動を通し、研究成果の普及と新たな課題申請を通した放射光の工学分野活用の拡大を有機的に推進した。
 これらの研究成果は、確実に次世代安全・安心社会インフラ用高信頼・高性能材料、構造の開発に貢献できるもので、従来の工学研究手法では困難であった物理化学現象の発現メカニズムを、放射光を活用して初めて明らかにできたものも多い。これらの活動を通し、産業界で問題になっている、応力腐食割れや金属疲労、フレッティング疲労など様々な事故原因や電子物性のひずみ・点欠陥依存ゆらぎ分布発生原因などの本質解明研究へのヒントが得られ、分析の対象もバルク多結晶から結晶粒界、界面/表面近傍の極微領域に拡大され、組成や結晶欠陥分布(ゆらぎ)と様々な物理化学的性質の相関性解明研究を加速できた。
 今後はCT技術を活用した不純物や析出物のナノスケールでの可視化も可能になるはずで、き裂の初生過程の観察が期待できる。また、化学反応の本質解明という視点では、計測の時間分解能の向上も必須で、パルス波のパルス幅縮小とビーム強度の向上により化学反応のIn-situ観察や経時変化分析、過酷環境下でのナノスケール時空間分解In-situ分析の確立を推進していきたいと考えている。

情報・磁性デバイス研究分野
 当研究分野は、4つの研究会から構成され、2006年10月31日SPring-8萌光館にて4研究会合同で研究会を開催した他、各研究会で2007年度末までに1〜2回の研究会を開催した。
 キラル磁性研究会は、キラルな磁性体で期待される特異な磁気光学効果や電気磁気物性を研究テーマとして、物理・化学、理論・実験の研究者が分野横断的に連携体制を築くこと目的として新しく結成され、キラル磁性体特有の現象を放射光で見いだすことを目指した。その結果、円偏光X線によりヘリシティを判定する測定手段を開発し、それを用いてマルチフェロイック物質DyMnO3のらせん磁気構造のヘリシティを判定することに成功した。
 ナノ・デバイス磁性研究会は、BL25SU、BL39XUを用いた磁気円二色性実験を発展させることを目的とする。この期間、BL25SUの試料最低到達温度を10K程度までを可能とし、BL39XUにおいて、時分割計測技術の進歩と蛍光XAFSの測定効率を上げることにより、精度の高いデータの取得が可能となった。
 磁性分光研究会は、吸収、二次光学過程を含めた偏光X線分光法による磁性材料研究における実験・理論研究者の緊密な連携を行う。極限環境下での相転移研究も重要なテーマである。この期間、研究会・セミナーを通じた理論・実験の連携が発展している。
 スピン・電子運動量密度研究会は、BL08Wに設置された磁気コンプトン散乱および高分解能コンプトン散乱スペクトロメータを利用した研究を推進している。この期間、2008年夏に予定されるBL08W実験ハッチ改造の準備作業を行った。

新産業育成研究分野
 本分野に属する研究会開催状況は、放射光応力・ひずみ評価研究会が6回、また赤外光励起による新物質プロセッシング研究会では3回開催され、前者は概ね活発な活動を展開できたと思われる。後者は、計算機シミュレーションではある程度の進捗があったものの、放射光実験では残念ながら具体的な成果を挙げるに至っていない。しかし、応用物理学会等をとおして研究者間での物質合成プロセスへの応用に関する情報交換は行っているようである。願わくは、SPring-8利用者懇談会組織下の研究会として、SPring-8の赤外線を積極的に使用した有用なデータの取得について、いま少し努力することに心がけた活動を望みたい。
 一方、鉄鋼・金属を中心とした応力・ひずみ測定は、実験データそのものがこの分野の企業にとって即刻重要な情報となるケースが多く、放射光の産業利用の良い見本となり得る。また社会で起きている金属疲労、脆性、腐食といった諸現象に直結する課題が多いので、金属薄膜コート、多層化、表面改質の応用の観点からも、試料環境の制御された多くの応力・ひずみ測定実験が進捗したことは好ましい進展である。

先端科学開拓研究分野
 先端科学開拓研究分野は11の研究会からなり、その研究内容は原子核励起研究から巨大分子系の機能研究まで多岐に及んでいる。利用している実験装置・手法・放射光のエネルギーは広く分布しており、全体をまとめての研究動向や発展状況を述べることは困難であるが、いくつか共通していることなどを以下にまとめる。
 多くの研究会では活発に研究活動が行われており、インパクトファクターの高い雑誌への論文発表が行われている。新聞発表や受賞などの報告もあり、研究会の活動は概ね順調であると判断できる。特に多くの研究会では、これまでの研究成果に基づき、新たな実験手法の開発や、それぞれの得意な実験手法を新しい物質系へ適用しようとする意欲的な取り組みが見られ、高く評価できる。また複数の研究会で、この研究会活動を通じて競争的資金獲得のための申請を行っていることが報告されており、本活動が実質的に役に立っていることが分かる。一方、このように各研究会での活動は活発に行われているが、研究会間の連携に関しては、それほど意識されていないようである。もう少し研究会間にコミュニケーションがあっても良いかと思われる。また、研究会内外での情報交換に役立つと思われるホームページなどの整備は、一部の研究会を除いて、まだ十分に進んでいるとはいえない。今後これらを改善し、有意義な研究ネットワークが研究会間に拡がることを期待したい。

地球惑星科学研究分野
 地球惑星科学研究分野は、他の研究分野と異なり単一の研究会からなる研究分野であるが、惑星科学分野や地球科学分野などの研究者も含め100名に近い会員を有している。その結果、放射光を用いた地球惑星科学研究の一大拠点になっている。
 研究会の活動としては、日常的にはメールによる情報交換・科学的議論であり、このような日常的活動の上に年1回の研究報告会を行っている。このような活動を通じて、世界的な研究成果も次々と上げている。
 分野をまがる活動としては、年に1度の研究報告会は高圧構造科学研究会との共催として行い、幅広い立場から研究を進展させていることは評価に値する。合同研究会ということで、最新の研究成果、最新技術、ビームラインの現状・整備計画、将来研究の方向性等に関する報告を通して、SPring-8で展開されるべき地球惑星科学の方向性を見定めている。
 以上に述べたように、地球惑星科学研究分野は、極めて順調な展開を見せているが、唯一改善して欲しい点を述べるならば、このような活発な研究会活動を広く知らせるために、是非、独自のホームページを立ち上げて欲しいと思っている。それにより、SPring-8利用者懇談会における地球惑星科学研究分野の存在感は、非常に増すものと思う。

利用促進委員会まとめ
 まず、研究会会合の開催については、利用者懇談会が推奨したこともあるが、活動の活性化を図るという意図が伝わったと考えられ、組織改革前に比べて開催数が激増した。高分子や軟X線を始めとする一部分野では研究会が合同開催され、最新の技術・情報の交換が行われたが、研究分野を越えた交流の機会は全体的にまだ少ないようである。この点に関しては、利用促進委員会がリードしていく役割を担うべきであり、今後の課題である。
 対外的な活動としては、国際シンポジウム開催や学会でのセッションの企画、国際誌への特集号の掲載など、活発な活動をしている研究会が見られた。
 また、研究分野の動向、研究会が目指すサイエンスの方向、ビームラインの現状を議論検討し、それがビームライン担当者の増員や新ビームライン建設につながったケースがある。特に高分子分野の産学コンソーシアムの設立は特筆すべきである。ここにはJASRI部門長をはじめとする施設側の並々ならぬ努力があったと思われるが、不断の研究会活動がベースとなり結実した成功例であるといえよう。
 研究会が核となった競争的資金の予算申請も当初掲げられた目標の一つであった。いくつかの研究会で予算申請はされたようであるが、まだそのような動きは活発とはいえない。
 以上のように、個々の研究会により活動状況は様々であるが、SPring-8におけるサイエンスを意識した研究会の活動活性化という第一の目標は概ね達成されたといって良いと思われる。
 しかしながら、研究会のホームページの整備を例に挙げれば、研究会の情報発信はまだまだ不十分であるといわざるを得ない。異分野との交流は新しいサイエンスを拓くきっかけになることはいうまでもなく、異分野のユーザーおよび新規ユーザーに広く活動をアピールすることは大変重要であると考えられる。第二期研究会には今まで以上に情報発信に力を入れていただき、活発な研究会活動を展開されることを期待する。
 なお、この第一期研究会活動報告は、近々、利用者懇談会ホームページに掲載するので、今後の研究会活動にお役立ていただければ幸いである。


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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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