Volume 13, No.4 Pages 305 - 307
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
Felicaを用いた新入退室管理システムについて
New Access Control System by Using FeliCa
1. はじめに
SPring-8の実験ホールは法律で定める放射線管理区域であり、入退室管理システムは、この管理区域への人の立入りを制限し入退室履歴などのデータを管理します。放射線安全管理上、重要な役割を持っているシステムです。SPring-8では実験ホール58カ所の出入口ドアで管理区域入域者を特定することが必要とされます。ユーザー利用実験中、出入りが頻繁なドアでは1日あたり約500回前後の開閉操作が行われます。
SPring-8加速器の運転を開始した当初より、磁気カード(ユーザーカード)式のシステムを導入し、およそ10年間運用されてきました。しかし、旧システムには、以下に示すような問題点が発生したため、新システムの導入を検討しました。
● 認証媒体に磁気カード(ユーザーカード)を使用していたため、読取機、カード共に汚れや摩耗による認証トラブルが頻発。
● 老朽化による機器の故障。
● 製造中止による交換部品の入手困難。
● 施設拡張毎にシステムを増設してきたことに加え、目的の異なる機能(建物内への入館管理)を含んでいたことによるシステムの複雑化。
このたび、入退室管理システムを一新し、非接触ICカード技術のFeliCaを用いた新入退室管理システムを導入し、平成20年4月1日から実際の運用を開始しました。
ここでは主にユーザーに関係する新入退室管理システムの機能について解説します。
2. 新システムの概要と特徴
新システムは、旧システムの機能を基本的に引き継ぎつつ、これから説明する機能、技術を用いた改善を行いました。
まず、新システムでは、個人認証の媒体に非接触式ICタグ(FeliCa)を使用することにしました。認証方式を変更するにあたり、「カードケースから取り出す手間を解消する」、「リーダの摩擦や汚れによるトラブルを低減する」、「照合時間を短縮する」、「長期間、規格が変わらず安定供給できる」などを念頭に置き検討しました。FeliCaは、偽造・変造しにくいセキュリティ機構を備えており、非接触ICカードとしては世界で初めて、セキュリティ評価基準の国際標準であるISO/IEC 15408 EAL4の認定を受けています。更に、JRのICカード乗車券やプリペイド型電子マネーに代表されるように、国内では非接触認証技術の主流になりつつあり、目標として掲げた内容を全てクリアできる技術と判断し、採用しました。FeliCaチップ自体は小型のため、カード型の形状にする必要がありません。被曝線量計を着用せず、管理区域内に入ることを防ぐため、円形ケースにFeliCaを内蔵し、被曝線量計と一体化しました(図1)。
図1 ICタグと線量計
次に、導入したシステムの構成は、非常にシンプルかつ拡張性があるものにしました。現在、SPring-8サイト内では、X線自由電子レーザー(XFEL)施設などの建設がすすんでおり、それらの施設にも対応できるシステムを採用しています。システムは、データを記憶する管理サーバ、データの編集や扉監視などを行う操作端末、ICタグ読取りを行うICタグリーダからなり、全ての機器はIP接続されています(図2)。IPで接続することにより、ICタグリーダを簡単に増設することができるようになっています。さらに、放射線管理区域内への入退室管理と建物内への入館管理は別システムとして分離し、それぞれのシステムの目的を明確化しました。
図2 システム概要
また、サーバで認証するのではなく、ICタグリーダ本体で認証する方式を採用しました。これは、サーバの停止や、ネットワークの障害が生じた場合でも、ユーザーの入退室操作に支障が無いような、障害に強いシステムとするためです。新たに利用者情報を登録すると、ICタグリーダにデータが送られ、ICタグリーダ内で情報が記憶されます。認証時は、リーダ内の情報が使われます。これにより、照合を0.2秒以内で行え、管理サーバやネットワーク障害発生時にも、ICタグリーダ単体で入退室管理を行うことができます。障害発生中に照合した入退室履歴はICタグリーダ内で記憶され、障害復旧後に、サーバにデータが送られるため、データが欠損することはありません。
3. 放射線管理区域(実験ホール)への入退室方法
これまで、放射線管理区域への入退室には、磁気カード(ユーザーカード)を使用していましたが、先に述べましたように、今後はICタグを利用して入退室を行うこととなります。そこで、入退室の操作方法について簡単に説明します。
3-1. 実験ホールへの入室方法
放射線管理区域への入口扉付近に設置されているICタグリーダにICタグを近づけます(図3)。カードリーダの読み取り可能距離は約2cmです。ICタグの読み取りが成功すると、「ピー」という電子音の吹鳴と共に、ICタグリーダの「OK」ランプが点灯し、出入口扉が解錠されますので、扉を開け管理区域内へ入室してください。
図3 ICタグ照合方法
3-2. 実験ホールからの退室方法
退室時の操作方法は入室時と同じです。ICタグをICタグリーダに読み取らせ、放射線管理区域から退室してください。ただし、ICタグの読み取りが成功すると、「ピッピー」という電子音が鳴り、入室時の電子音と異なりますので注意してください。なお、入室した扉とは関係なく、どの扉からでも退室することが可能です。
3-3. 取扱時の注意事項
管理区域内へ入室、退室の際は、必ずICタグリーダで個人認証を行ってください。ICタグは電子精密機器ですので、下記の点に十分注意して取り扱ってください。
● 故意に強い衝撃を与えない。
● 高温になる場所にICタグを長期放置しない。
● 電磁波的に強力なスパークノイズ(溶接等)の環境下にICタグをさらさない。
その他、放射線管理区域の出入口扉を開閉した後は、扉がしっかり閉まったことを確認してから、その場を離れてください。扉が閉まっていないと、数秒後から「ピー」というアラーム音が鳴り続けます。カードリーダの電子音やLEDで出入口扉やリーダ自身の状態を確認することができますので表1と表2に示します。
表1 電子音による状態
電子音 | 状 態 |
ピー | 入室照合OK時 |
ピッピー | 退室照合OK時 |
ピッピッピッピッピ | 照合NG時 |
ピー(2秒) | 電気錠異常 |
ピー(連続) | 扉開タイムオーバー |
表2 ICタグリーダLED点灯時の状態
L E D | 状 態 |
OK(緑) | 照合OK時に点灯 |
NG(赤) | 照合NG時に点灯 |
施錠中(緑) | 扉施錠時に点灯 |
動作中(緑) | ICタグリーダ動作中に点灯 |
4. 管理区域扉の監視と入退室履歴の管理
本システムの最大の目的は、管理区域への入域者を制限することですが、次いで重要なのは入域を許可する利用者情報や、入退室の履歴などのデータを管理することです。現在、システム内には、放射線作業従事者約6,000人の情報が登録されています。また、入退室履歴、アラーム履歴など様々な操作履歴が管理されています。その中でも入退室履歴は、非常に重要なデータです。もし誤って個人被曝線量計を紛失、破損した場合などは、推定被曝量の評価が必要となります。その際、対象者が管理区域内にどのくらい滞在していたか、また共同実験者の被曝量や管理区域内の滞在時間と比較したりするなど、評価の対象として入退室履歴のデータが活用されます。したがって、ICタグを貸し借りして入室したり、他の人に続いて、個人認証を行わず管理区域内へ入室したりする等の不正行為は絶対に行わないでください。
SPring-8では1日あたり約7,000件の入退室履歴を管理しています。本システムでは、最大200,000件/日×1年間分の入退室履歴を記憶することができ、ICタグリーダで認証を行い、正常に照合された情報は、入退室履歴として管理サーバへ送信され、記憶されます。管理サーバのデータは、操作端末で画面表示、データ登録や帳票印刷ができますが、入退室履歴のような重要なデータの表示や登録はパスワードで保護されており、許可された者しか閲覧できない仕組みになっています。
操作端末は主に、利用者情報の登録、入退室履歴の監視などに使用しています。その他の機能として、ICタグリーダが設置された全ての管理区域扉やICタグリーダの状態を常時監視しています。扉やICタグリーダに異常が発生するとブザーやアラーム表示で確認することができるため、発生場所の特定、異常内容の把握など、迅速な対応を行うことができます。
5. 将来の展望
新システムの運用を開始してから、約4か月経過しました。ユーザーからは、大きなトラブルや問題は報告されていません。むしろ、使いやすくなったという声を聞いています。ただし、JASRI利用業務部や安全管理室からは、ICタグを発行する操作面で更に機能アップしてほしいという声が上がっています。今後、これらの意見を集約し、ソフトウェアのさらなるバージョンアップを検討しています。
更に、SPring-8サイト内には、建設中のXFEL施設をはじめ、試験加速器施設(SCSS)など様々な施設が混在しています。現在、それぞれの施設毎に入退室管理システムがあり、システム構成や認証方法も様々です。今後の計画としては、これらSPring-8サイト内に存在する施設の入退室管理システムを新システムに統合する予定です。そうすることで運用、管理、操作方法が統一化され、トラブルの少ない、より良いシステムになるものと考えています。
籠 正裕 KAGO Masahiro
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