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Volume 13, No.3 Pages 272 - 273

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

三極ワークショップサテライト −Nanoscience with X-rays− 報告
Report on Nanoscience with X-rays Satellite

木村 滋 KIMURA Shigeru

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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 三極ミーティング(2008年3月18、19日)のサテライトワークショップの1つとして、Nanoscience with X-raysが前日の3月17日に開催された。本ワークショップはSPring-8が開催を提案し、APS、ESRFが承認する形で行われた。オーガナイザーは、Isaacs氏(APS)、Susini氏(ESRF)、および筆者が勤めた。本ワークショップはナノサイエンス、ナノテクノロジーの分野における放射光利用研究について、サイエンスと装置開発の両側から新規な研究について討論し、共同研究の機会を探ることを目的として開催された。正確な参加人数は把握できていないが、30〜40名ほどの参加者があり、活発な議論が行われた。発表内容については文末に示すプログラムを参照していただくとして、ここでは筆者の感想を中心に報告する。

 全体的な印象として、APS、ESRF、SPring-8のすべての施設において、ナノサイエンス、ナノテクノロジー研究が今後の放射光研究の大きな柱の1つになっているということが確認できた。APSに関しては、米国エネルギー省が整備している5つのナノテク研究拠点のうちの1つ、Center for Nanoscale Materials(CNM)がAPSに隣接して建設されており(図1)、ナノテク研究を強力に推進する体制が整いつつある。また、CNMの1つの設備としてSector26に「硬X線ナノプローブ」ビームラインが新規に整備され、ちょうど最初のユーザー実験が開始されるとのことであった。ESRFでは昨年度に作成されたパープルブックとよばれる2008〜2017年度のアップグレードプログラムに5つの分野が選定されているが、その1つにナノサイエンス、ナノテクノロジー分野が含まれており、今後、ビームラインの整備も含めてナノテク研究を推進していくようである。一方、SPring-8では昨年度までの5年間、文部科学省の「ナノテクノロジー総合支援プロジェクト」を実施し、放射光を利用したナノテクノロジー研究がかなり進んでいる。また、今年度からもJASRIの自主事業として「ナノテクノロジー支援領域」を重点領域に指定して、ナノテクノロジー研究を支援している。これらナノテク研究推進に共通している点は、これまでの放射光研究は、どちらかというと装置開発研究が主になってきたが、ナノテク研究では問題解決型の研究が重要になってくるという点である。そのために重要なのが、複数の手法(複数のビームライン、TEM、SPMなどの放射光以外の評価手法)にどのようにアクセスするか、という点であり、どこの施設でもこれを可能にする方法を検討している。その点で、CNMは、TEM、SPMなどの評価装置、EB露光装置などの微細加工装置、各種製膜装置を備えており、非常にうらやましい環境であった。

 

 

図1 APS放射光リングとCNM。手前の建物がCNMで、Electronic & Magnetic, Materials & Devices, Nanobio Interface, Nanofabrication Nanophotonics, Theory & Modeling, X-ray Microscopyの6つのグループが活動している。

 

 

 次に、技術開発に関する課題としては、照射ダメージの克服と試料のマニュピレーションに関する技術が重要視されているように感じた。特に、集光したナノビームを利用する場合、フラックス密度が非常に高くなっており、照射ダメージの問題がソフト・バイオマテリアル関係では深刻な問題になっている。現状、試料を冷却することぐらいしか有効な解決策がなく一番の関心事となっていた。試料のマニュピレーションに関しては、Comin氏(ESRF)からSPMとX線測定を組み合わせて、その場測定を行う取り組みについて発表があったが、ナノスケールの試料をどのように観察し、ハンドリングするかは今後の開発が必要不可欠な技術であろう。

 今後の研究開発の取り組みの方向性として、非常に注目を集めたのが、高田氏(理研)の発表した「ピンポイント構造計測」であった。時分割測定とマイクロ/ナノビーム計測の統合はどの施設でも目標にしている計測であり、高田氏の発表はかなり先進的なものであった。これについては、Isaacs氏により行われた本サテライトミーティングの報告(三極ミーティング内)でも最も重要なトピックスとして取り上げられた(図2)。

 これまで、ナノテクノロジー研究に関わる放射光施設の研究者が集まる今回のようなワークショップは無かったため、お互いの顔を知る、という意味で今回のワークショップは非常に有意義なものであった。これを機に各施設との情報交換が進むことを期待している。

 

 

図2 三極ミーティングで報告をするIsaacs氏

 

 

プログラム

Morning session - J. Susini, chair
  8:50 Welcome and workshop objectives
 E. Isaacs, CNM
  9:00 Hard x-ray nanoprobe and nanofocus
 G. B. Stephenson, MSD/CNM
  9:30 Nano-engineering platforms / challenges
 J. Susini, ESRF
10:00 break
10:15 Coherent diffraction imaging
 Q. Shen, APS, ANL
10:45 Scanning probes/x-ray nanoprobe integration
 F. Comin, ESRF
11:15 Imaging tomography using zone plates
 K. Uesugi, JASRI
11:45 Nanotechnology program at SPring-8
 S. Kimura, JASRI
12:15 lunch and discussions at the Guest House
(no-host)
Afternoon session - S. Kimura, chair
13:30 Surface, interface and nanoscale structure
 O. Sakata, JASRI
14:00 X-ray diffraction in nanostructures
 Z. Cai, APS, ANL
14:30 Nanocatalysis
 S. Vajda, CSE/CNM
15:00 Nanoscale phenomena near phase transitions
 M. Holt, CNM
15:30 break
15:45 Diffraction with nm-spatial and ps-time resolution
 M. Takata, RIKEN
16:15 Nano-diffraction at ESRF
 C. Riekel, ESRF
16:45 Workshop summary and discussion
 All

 

 

木村 滋 KIMURA Shigeru

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0919 FAX:0791-58-0830

e-mail : kimuras@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794