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Volume 12, No.6 Pages 515 - 519

3. 告知板/ANNOUNCEMENTS

最近のSPring-8関係功績の受賞
Award-winning Achievements on SPring-8

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「日本物理学会第12回論文賞」を独立行政法人日本原子力研究開発機構 野村拓司研究員が受賞

 

 社団法人日本物理学会では、独創的な論文により物理学に重要な貢献をした功績を称えるため、論文の重要性が顕著であることが認められた会員に対して、「日本物理学会論文賞」を贈与している。

 

受賞者紹介

 野村 拓司  独立行政法人日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門

        放射光科学研究ユニット放射光量子シミュレーショングループ 研究員

 論文(功績)名:Perturbation Theory of Spin-Triplet Superconductivity for Sr2RuO4

 

 銅酸化物高温超伝導体の発見に端を発した強相関電子系における新奇超伝導の探索が活 発化する中、ルテニウム酸化物で発見されたスピン3重項p波超伝導が注目されている。野村氏は、この物質についてハバード模型という標準的な模型に立脚し、電子間相互作用を高次まで取り入れた詳細な摂動計算を展開して、電子の多体効果によりこの新しい超伝導のメカニズムが理解できることを理論的に示した。この論文に加え、この分野の研究を活発化させた点も高く評価され、これらの功績により今回の受賞となった。

授賞式は9月に札幌で開催された日本物理学会(札幌)において行われた。

 

 

「日本物理学会第1回若手奨励賞」を大阪大学大学院 基礎工学研究科 関山明助教、財団法人高輝度光科学研究センター 鈴木基寛主幹研究員、独立行政法人日本原子力研究開発機構 服部高典研究員、妹尾 仁嗣研究員が受賞

 

社団法人日本物理学会は、将来の物理学をになう優秀な若手研究者の研究を奨励し、日本物理学会をより活性化するために今年度より若手奨励賞を設置した。

 

受賞者紹介

 関山  明  大阪大学大学院 基礎工学研究科 物質創成専攻物性物理工学領域 助教

 功績名:バルク敏感光電子分光の開拓と強相関物質電子状態の解明

 

 関山氏は、SPring-8供用開始頃より軟X線ビームラインBL25SUにてバルク敏感高分解能 光電子分光を進め、500〜1000 eVの高エネルギー軟X線励起光電子分光において世界で初めて100 meVを切るエネルギー分解能を達成した。さらに物質のバルク電子構造・フェルミ面を解明できる軟X線角度分解光電子分光・3次元角度分解光電子分光の開発も行い、従来の光電子分光では困難だった強相関電子系物質のバルク電子状態を解明する事に成功した。これらの功績が高く評価され、今回の受賞となった。

 授賞式は9月に札幌で開催された日本物理学会(札幌)において行われた。

 

受賞者紹介

 鈴木 基寛  財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 主幹研究員

 功績名:X線円偏光変調法による磁気分光法の開発とナノスケール磁性体への応用

 

 我々の身の回りにある磁石(=磁性体)は、含まれる元素によって性質や用途が異なる。放射光X線による磁気分光測定は、磁性体を元素別に解析できる実験法である。しかし、信号自体がとても小さいため、強力な放射光を使ったとしてもノイズの少ないデータを得ることはこれまで非常に困難であった。鈴木氏は、可視光実験で使われている円偏光変調 法をX線に対して初めて適用することで、極めて高い精度の磁気分光法を開発した。これによって、従来の方法では感度が不足した、ナノサイズの微粒子や貴金属元素を含む磁性薄膜などの精密な観測を可能にした。この手法は、SPring-8 BL39XUビームラインで年間30以上の研究グループに利用されている。また、この手法の優秀さは海外でも認められており、米国やフランスの放射光施設でも同等の装置が導入されている。これらの功績が高く評価され、今回の受賞となった。

 

受賞者紹介

 服部 高典  独立行政法人日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門

        放射光科学研究ユニット放射光高密度物質科学研究グループ 研究員

 功績名:放射光を用いた高圧下におけるX線回折手法の開発および液体・結晶の精密構造解析

 

 服部氏は、放射光を用いた高圧下におけるX線回折手法の開発およびそれを用いた結晶・液体の精密構造解析を行っている。新しい手法によって得られた高精度のデータを用いて、液体の圧力誘導構造変化に対する定量的な議論を可能とし、単純であると思われてきた液体の変化が、物質により多彩な姿を見せることを次々と明らかにしてきた。このような先駆的な高圧液体研究は世界的にも高い評価を受けており、これらの功績が今回の受賞となった。

 

受賞者紹介

 妹尾 仁嗣  独立行政法人日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門

        放射光科学研究ユニット放射光量子シミュレーショングループ 研究員

 功績名:分子性導体における電荷秩序の理論研究およびその物性の系統的理解の探求

 

 妹尾氏は、電子相関の強い低次元分子性結晶において、従来知られていた分子二量体に電荷が等価に分布するモット絶縁体とは異なる、スピン構造や電荷の偏った新しいタイプの電荷秩序が出現するという理論的予言を1997年に発表(第9回日本物理学会論文賞受賞)し、その後の有機導体における電荷秩序研究の火付け役となった。その後も、電荷秩序メカニズムの系統的な理論を次々と発表し、この分野でリーダーシップを発揮している。これらの功績が高く評価され、今回の受賞となった。

 

 

「第21回日本IBM科学賞」を東京工業大学 廣瀬敬教授、財団法人高輝度光科学研究センター 佐々木裕次主幹研究員が受賞

 

 日本アイ・ビー・エム株式会社は、1987年創立50周年を記念し、わが国の学術研究の振興と優れた人材の育成に寄与することを目的として、「日本IBM科学賞」を創設し、物理、化学、コンピューターサイエンス(バイオインフォマティクスを含む)、エレクトロニクス(バイオエレクトロニクスを含む)の基礎研究の幅広い分野で優れた研究活動を行っている、国内の大学あるいは公的研究機関に所属している研究者を表彰している。

 

受賞者紹介

 廣瀬  敬  東京工業大学大学院 理工学研究科地球惑星科学専攻 教授

 功績名:ポストペロフスカイト相の発見と地球コア・マントル境界域の研究

 

 地球の内部が超高圧・超高温状態にあることは広く知られているが、人類がその状態を実験室で作り出すことは、瞬間的な衝撃圧縮を除くと未だに実現できていない。そのため、地球深部がどのような物質からなり、どのような性質をもっているのか、ほとんど未解明の状態にある。廣瀬氏は、世界の先頭に立って、超高圧・超高温技術の開発を行い、この謎に迫る研究を展開してきた。その結果、地球コア・マントル境界域に相当する極限状態を実現することに成功し、また、この領域で地球内部の鉱物が従来全く知られていなかった結晶構造に変化することを発見した。これらの研究は、固体地球科学の分野に革命的な進展をもたらした。

 廣瀬氏の手法は、レーザー過熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた極限環境の実現と、放射光によるX線構造解析の組み合わせからなる。この手法を駆使することにより、同氏はコア・マントル境界域に相当する超高圧・高温発生に成功するとともに、地球内部にもっとも多量に存在する鉱物MgSiO3ペロフスカイト相が、この高圧高温領域で新しい構造であるポストペロフスカイト相に相転移することを発見した。

 コア・マントル境界部には、大きな地震学的異常が観測されることが50年以上も前から知られていたが、これらはMgSiO3ペロフスカイト相だけでは説明のできない現象であった。廣瀬氏は、第1原理電子状態計算によってポストペロフスカイト相の地震波伝播特性を求め、数々の地震波異常が、ポストペロフスカイト相によって説明可能であることを示した。この発見は、地球コア・マントル境界域研究にブレークスルーをもたらし、以後、地球活動における同境界領域の重要性が大きくクローズアップされるに到った。

 また、廣瀬氏は、より高圧の極限条件の発生技術の開発を続け、さらに高圧高温の世界レコードを次々と更新しつつある。そのなかで、さらに高圧である270万気圧・1800 Kという条件下で、太陽系の主要酸化物である水晶が新しい高圧相(パイライト型構造相)をとる事を発見した。ここで実現された極端条件は、太陽系では地球よりサイズの大きい天王星や海王星の深部に相当することから、本成果によって地球外惑星の深部に初めて研究のメスが入れられた。

 このように、廣瀬氏の業績は、固体地球物理学分野において傑出した成果であるだけでなく、鉱物物理、地震学、地球化学分野など広い分野に波及効果を及ぼしており、これらの功績が高く評価され、今回の受賞となった。

(日本アイ・ビー・エム株式会社のウェブサイトより転載)

 

受賞者紹介

 佐々木裕次  財団法人高輝度光科学研究センター利用研究促進部門 主幹研究員

 功績名:X線1分子追跡法の考案とその融合領域への応用

 

 X線計測法は、従来、結晶や多分子からの、静的で構造を平均化した散乱情報を抽出するための有力なツールとして用いられてきた。しかし、生体高分子については、機能発現に1分子の集合体が関与することから、その解明には1分子の動的な挙動の情報が重要になる。このため、通常はX線計測よりも可視光蛍光を利用した方法が使われるが、その精度は数ナノメートル(10-9 m)であり、10ナノメートル寸法の生体 分子の情報を抽出するには限界があった。佐々木氏は、従来のX線計測の常識から脱却し、1分子の内部運動を時間的にはミリ秒、空間的にはピコメートル(10-12 m)という、驚異 的な精度で計測できるX線1分子追跡法を考案し、これを用いて、DNA分子の内部揺らぎ、機能性分子の分子内運動の計測に成功した。これらの業績は、構造計測技術の開発、生物物理学の研究のいずれにおいても革新的な進展をもたらした。

 佐々木氏のX線1分子追跡法の原理は、単純ではあるが極めて巧みなもので、具体的には、数10ナノメートル程度の微結晶を分子にその運動機能を損なわないように取り付け、分子の動きに連動する微結晶に照射した強力なX線のラウエ回折斑点を時分割追跡する。 佐々木氏は、この手法を長さ6ナノメートルのDNA1分子に適用して水溶液中のブラウン運動を追跡し、ピコメートルの精度で分子内揺らぎの時間変化を捉えることに成功した。 また、光を吸収してプロトンポンプとして機能する膜タンパク質の動的挙動を追跡し、数マイクロ秒の光照射で分子が0.1ナノメートル程度の構造変化を起こす様子を見事に捉えた。これにより、難しいとされていた「機能している分子の構造変化計測(in-vivo計測)」に新しい道が開かれた。

 佐々木氏はまた、同手法をX線放射圧の計測に応用し、アクチン繊維やタンパク質分子などの軟らかい分子のブラウン運動にアトニュートン(10-18 N)という超微弱なX線放射圧が作用していることを発見した。これは、微弱な原子間力の働きを原理とするAFMで ピコニュートン(10-12 N)の力が有用になるのと比べると、その6桁も小さい力を計測したことになる。このような力場を制御できれば、タンパク質分子や高分子等の新しい表面構造解析法、ソフトに分子を捕まえる技術、など様々な応用の道が開けると期待される。

 以上のように、佐々木氏は、独創的なアイデアと技術開発によって、X線による生体分子計測に大きなブレークスルーをもたらした。その成果は、広域材料科学への応用や新原理の計測技術の開発にも大きなインパクトを与えている。これらの功績が高く評価され、今回の受賞となった。

(日本アイ・ビー・エム株式会社のウェブサイトより転載)

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794