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Volume 12, No.6 Pages 512 - 514

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第4回産業利用報告会
Symposium Report on the Industrial Applications

廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro

(財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

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 今年で第4回となるSPring-8産業利用報告会が、9月11、12日に東京の総評会館において開催された。第1回の産業利用報告会は、産業界専用ビームライン(サンビーム BL16XU、BL16B2)成果報告会、BL19B2を中心に複数の共用ビームラインで実施されたトライアルユース課題の報告会及び兵庫県ビームライン(BL24XU、BL08B2)の成果報告会の同時期開催であった。一昨年の第2回産業利用報告会より産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム)、ひょうご科学技術協会、高輝度光科学研究センターが主催する合同報告会となっている。過去3回の報告会はSPring-8放射光普及棟を中心に行ったが、参加者から毎年寄せられていた"交通の便がよい場所での開催を"の要望にこたえて、今回は東京御茶ノ水の総評会館での開催となった。

 11日の午前10時に高輝度光科学研究センターの永田常務の司会で、高輝度光科学研究センターの吉良爽理事長、兵庫県立先端科学技術支援センター長の千川純一氏、産業用専用ビームライン建設利用共同体運営委員長である林栄治(関西電力)氏による主催者挨拶で開会した。主催者挨拶に引き続き、文部科学省研究振興局基礎基盤研究課大型放射光施設利用推進室長で、量子放射線研究推進室長も兼務されている林孝浩氏にも来賓としてご挨拶いただいた。

 開会挨拶終了後ただちに、松下テクノリサーチの尾崎氏の座長で、"リチウムイオン電池正極材料のXAFS解析"(豊田中央研究所 野中氏)、"斜入射X線回折法によるガスクラスターイオンビーム加工の表面損傷の評価"(日立製作所 平野氏)、"X線3Dトポグラフィー用特殊スリット(V-slit)の評価"(富士電機アドバンストテクノロジー 田沼氏)、"L特性X線を用いた第6周期元素化合物の状態分析法の検討"(三菱電機 上原氏)の4件の口頭発表が行われた。昼食休憩後は電力中央研究所の山本氏を座長に、"Ni薄膜のマイクロ蛍光XAFS分析"(松下テクノリサーチ 尾崎氏)、"溶融塩浴からのタングステン電析技術とXAFSを利用した浴分析"(住友電気工業 新田氏)の2件が発表された。以上6件の口頭発表のうち4件がXAFSに関連した発表で、放射光の産業利用においてもXAFSが有力な手法であること、半導体材料、エネルギーデバイス、鍍金技術の検討まで広い分野での利用が可能であることを示す発表であった。毎年いろいろな産業分野での放射光利用の成果が発表されるサンビームの発表は、放射光利用の可能性の広さをアピールしてきた。本年の発表には放射光技術の利用・応用の発表の他に田沼氏や上原氏など放射光利用技術開発に関する発表もあり、専用ビームラインの特徴を活かした積極的な技術開発が行われていることが印象的であった。特に、上原氏は、学会発表に先んじて産業利用報告会でご紹介いただき、上原氏が産業利用報告会の目的である"SPring-8の産業利用ユーザー間の技術交流促進"の例を率先して示してくださったと理解し、深く感謝している。

 共用ビームラインでの成果報告は11日の午後2時15分より行われた。この発表は、先端大型研究施設戦略活用プログラムの2006年度実施分の成果報告会でもあり、2006B期に実施した6件の戦略活用プログラム課題の成果が報告された。前半の座長を渡辺産業利用推進室長が務め、"微小角入射X線散乱(GIXS)によるDLC膜の構造解析"(豊田中央研究所 伊関氏)、"ナノ触媒金属微粒子から成長した単層カーボンナノチューブの硬X線光電子分光及び微小角入射X線回折による研究"(富士通研究所 二瓶氏)、"SiC上に形成したグラファイト薄膜のSPELEEM観察"(NTT物性科学基礎研究所 日比野氏)による3件の発表が行われた。これらの発表は、課題実施ビームラインや実験手法、さらには研究の目的や用途が異なっているにもかかわらず、すべてカーボン材料が扱われ、カーボンが大きな可能性を有する材料であることを示す発表となった。後半は橋本コーディネータを座長に"突起状を滑るゴムの変形挙動に関する研究"(横浜ゴム 網野氏)、"Zn-Al合金の凝固組織形成過程の直接観察に関する研究"(新日本製鐵 原田氏)、"放射光CTイメージングによるNi基合金中の応力腐食割れ(SCC)き裂の検出"(発電設備技術検査協会 中東氏)の3件の発表が行われたが、いずれの発表もX線イメージングの技術によるもので、非破壊可視化技術へのニーズが高いことが伺えた。今回発表された6件中5件は産業利用ビームラインBL19B2以外で実施された課題であり、産業利用分野での新規ユーザー拡大を目的とした戦略活用プログラムの遂行に多くのJASRI職員が努力したことを示すものである。JASRI職員の戦略活用プログラムへのご協力に改めて感謝いたします。なお、今回の報告会での口頭発表希望を先端大型研究施設戦略活用プログラムの実験責任者から募ったところ、予想を上回る多数の申し込みがあった。プログラム編成の都合から、申し込み先着6名の方に発表していただいたが、口頭発表していただくことができなかった方には、この場を借りて、改めておわび申し上げたい。

 兵庫県ビームラインの発表は、11日と12日の2回に分けて行われた。11日には、"マイクロビームX線3Dトポグラフィー"(富士電機アドバンストテクノロジー 田沼氏)、"極薄SOI基板の酸化プロセスのその場観察"(NTT物性科学基礎研究所 尾身氏)、"兵庫県ビームラインにおける粉末X線回折装置の現状"(ニッテクリサーチ 前原氏)、"高温電気化学反応を対象とするXAFSを用いたその場観察"(JASRI 梅咲コーディネータ)の4件の発表があった。富士電機アドバンストテクノロジーの田沼氏の発表は、同氏のサンビームでの発表と関連するものであり、同氏がBL16XUとBL24XUのそれぞれの特徴を活かした技術開発を行っていることがわかった。4年前に第一回の産業利用報告会を開催するにあたり、それぞれ異なったビームラインで活動するユーザー間の技術情報の交流を通じて、利用経験のないビームラインの利用を検討する機会にしたいと考えていたため、田沼氏の発表は産業利用報告会の具体的な成果のひとつと考えている。12日の午後には、兵庫県地域結集型共同研究事業の成果報告が行われた。中前事業統括が同事業に関するイントロダクションをされた後、"兵庫県ビームライン(BL08B2)全体の概要"(放射光ナノテク研究所 横山氏)、"高エネルギー光電子分光法の開発について"(JASRI 池永氏)、"放射光を利用したナノ粒子分散系の構造解析"(住友ベークライト 竹内氏)、"微小角入射X線回折による液晶配向膜表面の分子配向評価"(JASRI 広沢)、"SAXS装置の性能と金属ナノ粒子形成過程観察への応用"(放射光ナノテク研究所 桑本氏)の5件の発表が行われた。小角散乱などBL08B2を利用した成果の発表もあって、BL08B2の利用が本格化したことが印象づけられた。来年の成果発表が楽しみである。

 12日の午前に行った招待講演は今年初めて行った企画である。SPring-8利用者懇談会会長の坂井先生に座長をお願いし、利用者懇談会よりご推薦いただいた"SPring-8での先端的構造科学のための計測技術開発−精密電子密度計測から時分割構造計測まで−"(JASRI 高田部門長)、"測るものづくり〜コンプトン散乱で調べる垂直磁化膜"(群馬大学 櫻井先生)2件の招待講演を行った。最先端の放射光利用に関するご講演は多くの参加者の注目を集め、2日目開始早々にご講演いただいたにもかかわらず、講演会場は立ち見が出るほどの盛況だった。お忙しい中、ご講演をご快諾いただいた先生方と、講演者の推薦などでご尽力いただいた坂井先生に改めてお礼を申し上げます。

 ポスター発表のコアタイムは例年どおり2日目(12日)の昼食直後に設定し、サンビーム19件、兵庫県11件、JASRI24件及び共催の利用推進協議会から2件の発表が行われた。ポスター会場にはコアタイム開始前から多くの参加者が集まり、コアタイム中は身動きができないほどの盛況であった。発表者のひとりからは"聴講者からの質疑がつづき、コアタイム中は自分のポスターから離れることができず、他の発表を聞くことができなかった。来年はぜひ改善してほしい!"と要望されたことが示すとおり、会場のあちこちで活発なやりとりが行われていた。

 第4回産業利用報告会は12日の午後4時に大きなトラブルもなく予定通り終了した。参加者にご記入いただいたアンケートを見る限り、サンビーム、兵庫県、JASRIの三者による共催や開催場所、開催期間、口頭発表とポスター発表の実施については評価するとの意見が大多数で、多くの参加者にある程度満足していただける報告会になったと考えている。初めての試みであった招待講演も好評で、多数の回答者が次回以降も招待講演開催を希望していた。一方、"ポスター会場が狭い"、"ポスター発表者が他のポスター発表も見ることができるような工夫が欲しい"、"1日目に講演が集中しすぎる"、"1日目の開始時刻が早すぎる"、"1日目の講演終了時刻が遅すぎる"など、今年も多くの問題点をご指摘いただいた。それぞれの指摘事項をよく検討し、次回はできるだけ改善したいと考えている。なお、東京開催は予想以上に好評で、"東京で年2回程度の開催を希望する"といったうれしい要望も寄せられた(しかし、年2回開催はやはり難しいと思います)。

 開催直前に接近した台風はどうにかやり過ごしたが、今年も報告会当日は雨模様で、産業利用報告会は4回連続で雨天での開催となった。サンビームのユーザーさんが昨年提唱した"広沢雨男説"は残念ながら、ますます信憑性を増している。会場設営や撤収、受付対応などで報告会の運営にご尽力くださったサンビーム及び兵庫県の皆さん、どうもありがとうございました。次回もやはり雨だと思いますが、ご協力をよろしくお願い致します。

 

 

 

廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro

(財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0924  FAX:0791-58-0988

e-mail : hirosawa@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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