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Volume 12, No.6 Page 427

理事長の目線

吉良 爽 KIRA Akira

(財)高輝度光科学研究センター 理事長 Director General of JASRI

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 供用開始10周年を祝って10月19日に記念式典が、また20日には国際シンポジウムが行われた、どちらも盛会に終わり、参加者にもおおむね好評であった。ここでは式典に関連して感じたことを書いておきたい。

 記念式典は、野依理研理事長の挨拶に続いて、渡海文部科学大臣(代読、林文部科学審議官)、井戸兵庫県知事、金沢学術会議議長などから祝辞を頂いた。吉良が運営制度の変遷を、続いて永田JASRI常務理事が産業利用の成果を報告した後、上坪JASRI副会長が「SPring-8の軌跡」としてこれまでの施設と研究の変遷についての記念講演を行い、最後に川上JASRI会長が締めくくりの挨拶をした。この日は東京でも地元でもいろいろと行事の重なった日であったが、議員や行政関係者、産業界などから予想以上の参加者があり、その多くが「よい会だった」と言ってくださった。各界にまたがる昔の関係者は久しぶりに旧交を温めて楽しそうであった。この行事は、新しい時代に移行するに際して、これまで努力された先達に、一度改めて謝意を表する機会にしたいと思っていたので、参加者に喜んでいただけたことは大層嬉しかった。

 学会の関係者を含めて何人かの方から、「産業利用の成果の報告は大変よかった」、「SPring-8からの強いメッセージの発信になっていた」などの好意的な言葉を頂いた。考えてみれば、産業利用の制度についてはたびたび社会と議論をしたが、成果について産業界以外の人に話す機会はそう無かった。供用開始から最初の10年間は、産業利用を定着させるための試行錯誤の時間であったともいえるが、その答えをこの式典の中で多くの参加者に読み取ってもらえたように思う。

 社会の関心は、これまではもっぱら産業利用に集中していたが、それもひとまず落ち着いて、これからは学術利用にも向いて来る。学術に課せられた課題は、世界一のマシンにふさわしい研究が行われているか、という問いに答えることである。産業利用の推進の議論は、世界一のマシンの利用という点には特に触れず、ひたすら裾野の拡大を中心として行われてきた。今度は学術利用が、世界一のマシンの有用性を社会に説明する番である。非常に荒っぽい言い方をすれば、社会に対する説明においては、利用の幅の広がりは産業利用が、質のピークの高さは学術利用が担うのがわかりやすい。

 産業利用への対処が優先した中でも、施設側は成果向上のために、重点課題の導入や課題審査における成果評価の導入などを提案して実行してきた。これからも、成果向上のための制度や運営について社会から見えるような形の努力が必要であろう。産業利用の促進においては、施設側の努力によって達成できる部分がかなりあったが、学術利用の成果向上においては、利用者自身と利用者のコミュニティーに負う部分がずっと大きな割合を占めるであろうと思う。

 「基礎研究は大切である」といわずもがなの原則論を振り回すだけでは現実は改善できない。その大切な原則を、不条理な現実の中でいかにして守ってゆくかを考えることが必要なのである。放射光のコミュニティーからの要望の中に、現実を踏まえた建設的な提案が含まれるようになることを切望している。XFELを軸とした10年後をにらんだ施設整備の計画は着々と進んでいる。それに見あう利用のヴィジョンを示すことは、施設と利用者コミュニティーの緊急の課題である。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794