ページトップへ戻る

Volume 12, No.5 Pages 415 - 420

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

JASRI/SPring-8研究講演会
「女性研究者が手がける有機・高分子材料科学 −放射光利用研究の現状と将来−」を開催して
Organic and Polymeric Materials Science being led by Female Scientists – The Present and Future for Synchrotron Radiation Utilization –

佐々木 園 SASAKI Sono

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

pdfDownload PDF (106 KB)


­ 有機・高分子材料は、近年、新しい先端材料として構造材料から電子材料、医療材料、そして環境材料に利用されています。新規有機・高分子材料の開発や材料の構造物性評価のための新規実験・解析手法を構築する過程において、大学・公的研究機関そして企業で活躍する女性研究者が増えてきたせいか、その女性ならではの視点が活かされた研究成果が見られるようになってきたように感じられます。SPring-8の実験ホールでも女性研究者や女子学生を頻繁にみかけるようになりましたが、利用者懇談会の研究会、例えば、高分子科学研究会や高分子薄膜・表面研究会では、各々で会員数約40人中女性メンバーは数名程度で依然として少ないのが現状です。SPring-8が女性にとって敷居が高いというわけではないと思いますが、SPring-8の放射光利用研究を、有機・高分子材料分野の女性研究者に良く知ってもらい、よりいっそうの参画を促進しようという目的で、標題の研究講演会の開催を企画しました。今回、SPring-8内外の多くの方々のご賛同とご協力を得て、2007年6月1日(金)、SPring-8放射光普及棟にて、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)の主催、(独)理化学研究所、(社)高分子学会およびSPring-8利用者懇談会の協賛で開催することができました。
 講演会の冒頭に、吉良爽理事長(JASRI)から開会の挨拶がありました。研究活動を行う能力においては男女間で差はなく、今後もより多くの女性がSPring-8で研究を発展させて、分野の第一線で活躍されることを期待している、という旨の力強い激励を頂戴しました。特に、サイエンスにおいては、"女流研究者"ではなく、男性研究者と同じ土俵で"女性研究者"としての活躍を目指してほしいとの言葉は、強く印象に残りました(ここでの"女流"とは、スポーツや将棋の世界で見られるような、女性だけの枠組みの中で専門的な活動することを意味しています)。次に、高原淳教授(九州大学先導物質化学研究所/(社)高分子学会・常任理事/SPring-8利用者懇談会利用促進委員会・副委員長)および高田昌樹主任((独)理化学研究所播磨研究所/JASRI利用研究促進部門・部門長)が、協賛機関を代表してそれぞれ挨拶をされました。高原教授からは、高分子学会の紹介があり、その中で男女共同参画社会構築に関する高分子学会の取り組みについて紹介されました。高田主任からは、女性研究者は依然として数が少ないため、各々が日常直面する研究活動やそれを支える生活環境における女性特有の問題について、経験に基づく情報交換と精神的支援を行えるようなネットワークを持つことはバックアップとして重要であり、本研究会が女性研究者ネットワーク構築の一助となればと期待しているというご意見を頂きました。
 


 
 
吉良爽理事長(JASRI)



高原淳教授(九州大学)



高田昌樹主任(理研/JASRI)


 午前の講演プログラムは、北村英男主任((独)理化学研究所播磨研究所)のご講演から始まりました。「世界の放射光科学COE:SPring-8」というタイトルで、放射光に関わる国内の光源開発、特に北村主任が手がけた真空封止アンジュレーターの技術開発の軌跡、そして、その技術が現在SPring-8サイト内で建設中の、国家基幹技術としてのX線自由電子レーザーへと発展し光科学の一大拠点が形成されることへの期待についてご講演されました。コンパクトX線自由電子レーザー施設建設計画は、国家戦略としての位置づけが強いとのご説明でしたが、サイエンスを志す多くの者が新しい光の発振を心待ちにしていることは疑いの余地がありません。北村主任のご講演を通じて、SPring-8から始まる先端光科学の可能性を伺い知ることができました。




北村英男主任(理研)

 「第1部 女性研究者が手がける有機・高分子材料最先端科学」の最初は、結婚・出産・子育てを経験しながら第一線で活躍してこられた研究者、今栄東洋子特別研究教授(慶応義塾大学大学院理工学研究科/日本学術会議会員)です。今栄教授は、長年に渡りデンドリマーに着目して研究を展開されています。「機能性分子組織体の構築と中性子を用いたその構造解析」というタイトルでご講演されました。デンドリマーは中心分子の官能基に多官能性分子を化学結合して成長させた分岐型(樹木状)分子で、その分子量からは高分子に分類されますが、その性質は従来の線形高分子や共有結合で架橋したゲルや多官能性分子の重合物と異なります。ご講演では、中性子光源を利用したデンドリマーの構造解析およびダイナミクス研究について概説されました。また、センサーやナノデバイスなどへの応用として、デンドリマーを主成分とする薄膜研究の紹介と当該研究における放射光利用の可能性について言及されました。




今栄東洋子教授(慶応大)

 栗原和枝教授(東北大学多元物質科学研究所/日本学術会議会員)は、高分子・生化学分野で精力的に研究を展開されている研究者で、現在、高分子学会の男女共同参画委員長も務めておられます。本講演会の開催には、企画段階から積極的なご協力を頂きました。固体表面の液体はどんな性質を持つのか。その答えを明らかにするために、栗原教授の研究グループは、微細空間に閉じ込められた液体の特性を研究する新規手法として、ナノ共振ずり測定法を開発されています。「微細空間における液体の構造とナノレオロジー・ナノトライボロジー特性評価」というタイトルで、ナノ共振ずり測定法とその応用研究が紹介されました。これまでに、アルカリイオンの水和、ゲルや固−液界面における水の粘性・潤滑性を理解する上で有用な知見が得られており、微細空間の液体の構造解析における放射光への期待を述べられました。




栗原和枝教授(東北大)

 (グン)剣萍教授(北海道大学大学院理学研究院)は、高分子ゲルの物性研究で世界的に有名です。「生体軟組織を目指した高分子ゲルの創成とその物性研究」というタイトルでご講演されました。生体軟組織は、生体高分子(DNA、たんぱく質、糖鎖など)と水から構成され、その特異的な性質はソフトでウェットな物質状態に根本原因があると考えられています。教授の研究グループは、複雑系である生体軟組織の特性を高分子ゲルという物質系に写し取り、生体軟組織の優れた機能発現の原理を、物質科学の立場から理解する方法論を提案されています。その過程で、生体軟骨に匹敵する力学物性を示す人工含水材料であるダブルネットワーク(DN)ゲルを開発されました。放射光を利用したDNゲルの構造解明、力学物性と構造との相関性の解明について豊富を述べられました。




 剣萍教授(北大)

 午前の講演会は、楽しい雰囲気の中で質疑応答が活発に行われ終了時刻を大幅に超えるほどでした。懇親会を兼ねた昼食会の時間が少なくなったのは残念でした。その後に続いたビームライン見学会では、今回、初めて実験ホールに入られた方もおられ、施設が想像以上に広く大きいことに驚かれた様子でした。参加者は、BL02B2(粉末結晶構造解析)、BL04B2(高エネルギーX線回折)、BL40B2(構造生物学Ⅱ)そしてBL45XU(理研 構造生物学Ⅰ)にて、各BL担当者が説明する計測装置の特徴と研究成果を熱心に聞いていました。




BL見学の様子

 午後に開催されました「第2部 女性研究者が手がける有機・高分子材料の放射光構造物性研究」では、SPring-8をはじめとする国内外の放射光施設を利用して行った研究の最新の成果が紹介されました。講演者と講演タイトルを下記に示します。

「SPring-8 シンクロトロン放射光を利用した天然ゴム架橋体の伸長結晶化解析」池田裕子(京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科・准教授)


池田裕子(京工繊大)


「気水界面で形成する高分子ブラシ−微粒子系薄膜の構造特性」毛利恵美子(九州工業大学工学部・助教)
 
 
毛利恵美子(九工大)


「放射光を利用した生分解性高分子の結晶構造とその熱挙動に関する研究」佐藤春実(関西学院大学理工学部・博士研究員)


佐藤春実(関西学院大)


「超臨界歪み速度場による高分子ナノ配向結晶体の生成と構造のX線的研究」渡邊香織((独)科学技術振興機構研究成果活用プラザ広島・研究員)


渡邊香織(JST)


「延伸高分子膜表面における配位化合物形成とランタニド発光」長谷川美貴(青山学院大学理工学部・講師)
 
 
長谷川美貴(青山学院大)


「放射光微小角入射小角・広角X線散乱法による高分子薄膜の階層構造研究−キネティクス研究への展開の可能性−」佐々木園(JASRI利用研究促進部門・副主幹研究員)
 
 
佐々木園(JASRI)


 講演タイトルから推測されますように、放射光X線回折・散乱法は、様々な外部環境下の高分子材料の構造評価に有効です。高分子の構造特性の一つは、サブnmから数百µmの異なるスケールで形成される秩序構造(階層構造)です。そのため、実験では、試料からのX線回折・散乱を広いq範囲(広角〜小角領域)で精度よく検出することが肝要です。新規材料開発と材料の構造物性制御には、高分子の静的・動的構造に関する知見を得ることが重要であることは言うまでもありません。今回の講演で、バルクから薄膜まで、そして、全体から局所領域まで、あらゆる形状やサイズの高分子材料の構造解析に放射光が有効な光源であることが示されました。それと同時に、女性研究者の講演を集めた事で、研究の方向性・着眼点と言う点で、むしろ"男女の違い"というものがあり、女性の美的感性がテーマの選択や研究発表の仕方にうまく活かされていたことに気づかされる場面が多々ありました。
 閉会にあたって、高分子学会男女共同参画委員長の栗原和枝教授が、女性研究者の存在意義と、本活動への今後の積極的な取り組みについて述べられました。参加者数は約40名で、終始和やかな雰囲気で盛会のうちに終了しました。

 今回の講演会では、幅広い世代の女性研究者にご講演いただきました。最新の研究成果と放射光利用の可能性に加えて、女性が研究者として社会参加・参画することの魅力や重要性についてもお話いただきました。後日に、本講演会にご協力頂きました男性の先生から「"講演会に参加してよかった"、"将来を考える上で励みになった"、という感想を研究室の女子学生達から聞き、今回の企画の意義と効果を実感した」というご感想を頂戴しました。参加者の多くは大学・企業の女性研究者と理工系の女子学生でしたので、女性研究者の生の声は、研究活動もしくは今後の進路決定などの参考になったと確信しています。他の参加者からも、「非常に面白かった」、「有意義だった」、「女性が(男性よりも)元気で勢いがあるように感じた」など、コメントを数多く頂戴し、思った以上の好反響を頂くことができました。講演予稿集を作成するにあたり、女性講演者に、各々の立場や経験に基づくご意見・ご感想、女性研究者・若手研究者へのメッセージなども記述して頂きましたので、以下にそれらを紹介させて頂きます。
 最後になりましたが、講演会の開催にあたりご協力いただきましたJASRI関係者と講演会にご参加頂きました方々に、心より御礼申し上げます。
 今回の講演会が、より多くの男性研究者の参加のもとに、男女共同参画のあり方についても議論できる講演会の開催へと発展させていければと考えております。


*女性研究者として思うこと(敬称略)*
(JASRI/SPring-8講演会「女性研究者が手がける有機・高分子材料科学」予稿集より)




講演会準備・予稿集編集担当
吉岡貴代子,射延文(JASRI)




会場の様子

 私の母校である奈良女子大学の校訓は"良妻賢母"であり、この教訓は長い間そして今でも引きずっている。20歳代の後半に学位を修得したときには第1子を授かっていたので、私の研究者生活は家事との両立の戦いであった。従って、下の子供が大学に入学してからようやく研究者として充実できた。昨年3月に名古屋大学を定年退職して慶應義塾大学に特別研究職として転職した今は以前よりはdutyが軽減された立場であるため、研究にさらに集中できるようになった。昨今の男女共同参画推進に伴って、女性研究者の状況が改善されつつあることはうれしい限りである。今は、多くの女子学生、院生が、将来への希望をもって科学を学び、科学研究に関わってくださることを願う。
(今栄東洋子)


 女性研究者という定義は成り立つのだろうか、そういう場合もあるだろうし、研究をしているとき女性だからと考えている訳ではない。最近、女性研究者の活躍に対するエールも大きくなり、その期待の大きさに時々緊張する。理工系の学科でも女子学生の比率は20%近くなっていることを考えると、良い仲間を得て、このエールを良い形に育てられるように、そして次の世代になるべく良いバトンを渡したいと思う。もっとも、これは当然の流れであるとも思う。そして、まず自分が研究を楽しむことからだとも思いながらいる。
 20年以上も前、亡くなられた山田晴河先生に、恵まれた現代に生きるあなた達は頑張りなさいというお手紙をスウェーデンまでいただいたことがある。こういうバトンがなくなる日がくれば良いとも思う。
(栗原和枝)


若い研究者へのメッセージ
 研究を続けられることの秘訣
  1)好きなことを見つけること
  2)リラックスして研究生活を楽しめること
  3)自分を信じること
剣萍)


 教育機関や研究機関の独法化が進み、今後、各機関間の格差が広がりつつある中、男女共同参画社会基本法にもかげりが生じてきている傾向にあるという。その流れの中で、いかに女性研究者・技術者・教育者として、より良く生きぬくか?自己実現に向けて、実力+αをそれぞれの個性の中で育み、Chanceを逃さず、Challengeして、華麗なるChangeを遂げよう!!(と、自分も励ます毎日です。)
(池田裕子)


 今年、私の所属する研究室では、配属になった学生の5人中4人が女性という異例の事態が起こりました。当初5人とも学部卒での就職希望であり、女子学生にとっては結婚・出産の時期を考慮した結果だったようです。聡明で将来的なプランを真剣に考える女子学生ほどこのような選択に至るのは、10年前と変わっていないようです。ところが、1ヶ月の研究室生活を経て、全員が進学希望に変わるという結果になりました。今年のケースは特異であるにしても、やはり研究生活を体験した後に進路選択が可能になれば、より学生が適切な進路を選ぶようになるのではないかと思います。また、実際に博士課程に進学した後に就職・結婚した私が身近にいたことも多少なりとも影響があったのならば、うれしさとともに重大な責任を感じます。私自身、まだまだ駆け出しの研究者にすぎませんが、研究者として仕事をしつつ結婚・出産・育児をするということが、単に「大変なこと」ではなく、「楽しくて幸せなこと」だと女子学生のみならず男子学生にも伝わるようにと願っています。最後に、女性が仕事を続ける上では配偶者の理解が最も重要であり、家事の至らなさを"見過ごす"ことも配偶者の重要な資質であることを日々実感し、感謝しています。
(毛利恵美子)


 自分が"女性"研究者であることを強く感じた(る)のは、やはり出産とそれに伴う育児を通じてです。これには、良いこともあれば悪いこともありますが、トータルでは圧倒的に良いことの方が多いと感じて(信じて)います。出産で研究から一時離れたときには、とてもつらかったのですが、その分たくましく(図々しく?)なったし、保育所のお迎えで帰宅時間が決まってしまうため研究時間が短くなったけれども、その分効率よい仕事の進め方を学ぶことができました(これは現在も進行形です)。そして何よりも、女性であることを意識し、子供たちのこと、後輩のことなどを考えるようになったのが、自分自身の中で一番成長した点だと思っています。これまでは当たり前のように思っていた環境も、先輩の女性研究者の方々が随分と苦労なさって、今日の私達の研究環境があるということを痛感しています。私自身は、女性研究者の数を増やすのに少しでも貢献でき、子育てしながら研究を続けることで、一つの例として少しでも後に続く方々の気持ちの支えになれればと思っています。結婚しても、子供がいても、遠距離結婚でも、実家の助けがなくても、何とかやっていける!・・・と思っています。                  (佐藤春実)


 私を含め研究者の多くが博士課程の後、ポスドクとして研究を行っていることでしょうが、20代後半から30代前半を任期が短く不安定なポスドクとして過ごさなければならなりません。また、優秀な研究者を輩出するために競争が必要なことは理解できますが、出産、子育てをする女性研究者は一般に男性研究者に比べて研究に割ける時間、労力が少なくなると考えられます。女性研究者に対する極端な優遇措置は現実的でないと思われますが、不利な状況の女性研究者に対し、育児休暇後の雇用の保障、奨学金・公募等の年齢制限についての緩和、等の是正措置は必要と思います。                  (渡邊香織)


 この仕事で出会ってきた女性とは大変さっぱりした関係が楽であると感じる。素直で頑固で表面は飽きっぽく根は粘り強い、という女性が多いかもしれないと最近思う。女性を意識した研究課題はこれまで縁がなかったが、これからも正面から自然科学と向き合い分子と光の世界に挑戦したい。
(長谷川美貴)


 女性と男性は本質的に異なる感性を持っていますので、研究に対する着目点やアプローチも両者で異なると思います。女性研究者が、女性らしさや能力を研究活動に活かすことができればと思いますが、そのためには、女性の社会的および体力的なハンディに配慮した職場環境や勤務体制をある程度整備することが必要だと思います。家庭で男性と女性の役割があるように、女性研究者が役割を持って科学と産業の発展に貢献していくことが理想です。私は、SPring-8での業務と研究活動を通じて、それを実現できるように考え、努力しています。若手の皆さんは、物事に対するしなやかな考え方を身につけて、研究活動を継続して頂きたいと思います。SPring-8の先端技術と女性研究者の感性を融合させて、ポリマーサイエンスに新しい流れを作りましょう。
(佐々木園)




蓄積リングを背景にした集合写真


佐々木 園 SASAKI Sono
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0833 FAX:0791-58-1873
e-mail : sono@spring8.or.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794