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Volume 12, No.4 Pages 323 - 328

3. 利用者懇談会研究会報告/RESEARCH GROUP REPORT (SPring-8 USERS SOCIETY)

マイクロナノトモグラフィー研究会の活動状況
Recent Activity on the Micro – nanotomography Committee

戸田 裕之 TODA Hiroyuki[1]、上杉 健太朗 UESUGI Kentaro[2]

[1]豊橋技術科学大学 生産システム工学系 Department of Production Systems Engineering, Toyohashi University of Technology、[2](財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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1.設立趣旨と活動方針
 この研究会は、2006年4月からのSPring-8利用者懇談会の新体制による活動開始に合わせて立ち上げられた。X線マイクロトモグラフィーのユーザーは、これまで医学・歯学、地球・宇宙物理学、材料科学、産業技術など多岐にわたる研究分野に点在する感があり、相互の情報交換を行う場を持たなかった。そのため、3D/4D画像解析に象徴される各種応用技術は孤立した各個人の対応による他なく、その意味ではSPring-8の威力を最大限に発揮してきたとはいえない。また、実験室レベルで利用できる多種多様な可視化用機器と比較した時の、SPring-8で行うマイクロトモグラフィー実験の先進性、特徴付けも利用経験のない者にはわかりにくく、潜在的な良質ユーザーの利用機会を損なっていた面も否めない。この様な状況に鑑み、当研究会では下記の様な点に焦点を絞り、活動を行っている。
(1)マイクロ・ナノトモグラフィーの利用によりユーザーが得た科学的成果について、成果報告会などの形で情報交換を行う。異分野のユーザー間、およびユーザー/施設間の研究成果の相互理解促進を図る。
(2)試料準備技法などのノウハウの共有、その場観察等の応用技術や3D画像の処理・解析技術などの情報交換、相互提供、共同開発を推進する。また、周辺分野の研究者・技術者や他の放射光施設のヘビーユーザーなどを招いて情報収集を行うなどする。
(3)既存あるいはこれからSPring-8を使おうとするユーザーの要望やニーズを吸い上げ、取りまとめる。また、SPring-8施設側の可視化技法開発状況、施設の維持改良情報などを入手、共有する。ユーザー/施設間の双方向の交流機会を提供する。さらに、施設側の光学系開発等に必要な試料の提供・斡旋や実証試験の分担など、より密接で建設的な協力関係・共同作業を推進する。
(4)新規産業利用などのサポート活動として、実験技術などに関する啓蒙活動、SPring-8のマイクロトモグラフィー装置を活かしきるためのユーザー側視点からのアドバイスなど、安定した関与を心掛ける。
(5)回折、中性子イメージング、マイクロビームを用いた化学分析など、相補的な特徴を持つ放射光・中性子関連技法を援用することによりマイクロトモグラフィー利用研究の一層の高度化を図る。このため、それら関連技術の勉強会・見学会、専門研究者からの情報収集などを積極的に行う。

 以上により、SPring-8でのマイクロ・ナノトモグラフィー利用研究の大幅な質的向上、各分野での先端的応用研究の支援、応用範囲拡大などを期待している。これにより、SPring-8のマイクロトモグラフィー技術を最大限に引き出す研究や斬新な応用手法を追求する研究が活性化されるとともに、ビームラインの高度化などSPring-8における3D可視化技術の発展にユーザーサイドからも積極的に貢献したいと考えている。




2.イメージングに利用できるビームライン
 現在、SPring-8におけるマイクロ・ナノトモグラフィー実験は、主としてBL20B2、BL20XU、BL47XUで行われている。BL20B2では、医学利用研究を目的とした小動物の実験や、大面積X線検出器を利用した実験など、ユニークな実験が行われている。X線CT撮影での到達可能な空間分解能は10µm程度であるが、幅20mm以上におよぶ高画質なCT像を得ることが可能である。BL20XUは、極小角散乱実験や1µm程度の分解能を持つ投影型マイクロCTを中心に利用されている。そのほか、集光光学素子の開発・評価、走査型X線顕微鏡、結像型X線顕微鏡、位相コントラストマイクロCT、X線ホログラフィーなども開発・利用されている。BL47XUは、現在主に硬X線領域の光電子分光とマイクロトモグラフィー(X線CT)の実験に使われており、当研究会の関連では1µm程度の分解能を持つ投影型マイクロCTとともにフレネルゾーンプレートを利用した結像型高分解能マイクロCT(ナノトモグラフィー)装置を利用している。




3.研究会のメンバー構成と研究分野
 研究会には現在21名が所属しており、その内訳は大学8名、研究所7名、企業5名となっている。メンバーを研究分野別に分けると、医学利用、材料科学・材料工学、地球・宇宙科学、産業利用、撮像再構成技法に、数名ずつに分けられる。以下、それぞれの分野の特徴的な最近の研究を紹介する。
 まず、医学利用分野では、冠・腎微小血管構造など血管の3D観察、生体軟組織イメージング、骨欠損部の治癒挙動観察など、様々な医学分野のイメージングが行われている。特に、in vivo観察技法の開発による生体の高分解能観察・高精度計測と、細気管支内流体シミュレーションに代表される3D画像を用いた各種定量解析やシミュレーションが特徴的な研究である。図1に、最近の代表的な医学利用分野の成果の一例を示す。



(a)ラット冠循環の3次元イメージ(拡張期) [1]



(b)マウス細気管支の3次元イメージ[2]



(c)骨欠損部の治癒挙動[3]


図1 最近の代表的な医学利用分野のイメージング例(研究会報告より抜粋)




 地球・宇宙科学分野の利用では、NASAのStardust計画を代表例とする隕石・宇宙塵などの地球外物質、火成岩、変成岩、堆積物などの地球物質を対象に、投影型マイクロCT、結像型マイクロCT、位相コントラストマイクロCT、ホロトモグラフィー、蛍光X線マイクロCTなど、様々な手法を適用している。この他、画像再構成手法の開発、X線線吸収係数の定量性の向上、3D画像解析などのソフト開発やユーザーインターフェースの開発を行っている。図2には、最近の代表的な地球・宇宙科学分野の成果の一例を示す。



(a)岩石中の鉱物粒子の配列の解析[4]



(b)岩石中の鉱物粒子の配列の解析[5]



(c)コンドリュールの3D像[6]
図2 最近の代表的な地球・宇宙科学分野のイメージング例(研究会報告より抜粋)




 材料科学・材料工学分野では、セラミックスや金属など各種構造機能材料のミクロナノ構造や変形、破壊、損傷、疲労破壊などの各種挙動の3D観察が行われている。前者では、セラミックスの細孔の可視化や金属材料中の水素マイクロポアの熱処理中の成長挙動観察、後者では、はんだ接合部熱疲労特性評価や亀裂の進展挙動のその場観察などが代表例である。医学利用分野と同様に、材料試験機を用いたin-situ観察など、4D観察の試みもある。また、3D画像内の数百〜数万点の粒子を追跡することによる材料内部の応力、歪み、亀裂進展駆動力などの3D可視化手法開発、EBSPの3D版ともいえる結晶粒の3D変形挙動可視化、大径試料内部の局所的な高分解能観察を可能にする関心領域撮影など、応用技術開発も積極的に行われている。この他、吸収端差分イメージングによる材料内部の化学組成3Dマッピングとその局所的な破壊との関連づけなどの試みも行われている。図3には、最近の代表的な材料科学・材料工学分野の成果の一例を示す。



(a)電気化学処理による多孔体の3D構造[7]



(b)はんだ接合部内部構造[8]

 
 

(b)粒子やポアなどのミクロ組織追跡による材料内部の歪み可視化[10] 
 
 
 
(c)アルミニウム結晶粒界および粒子の可視化[9]
 


(c)構造材料中の亀裂とその周囲の損傷可視化[11]


図3 最近の代表的な材料科学・材料工学分野のイメージング例(研究会報告より抜粋)


 最後に、産業利用分野では、ヒト毛髪の構造観察によるヘアケア関連の基盤研究、医薬品造粒顆粒の3D観察による製剤品質の定性・定量的評価、コンクリートの可視化による劣化挙動の解析、タイヤ分散材の効果のその場観察など、様々な産業利用目的に成果を挙げつつある。図4には、最近の代表的な産業利用分野の成果の一例を示す。



(a)スタッドレスタイヤのテトラポット状フィラーの可視化[3]



(b)コンクリート系材料の断層像[12]



(c)ヒト毛髪の断層像[3]



(d)造粒顆粒の3D像[13]


図4 最近の代表的な産業利用分野のイメージング例(研究会報告より抜粋)




4.研究会活動報告
 平成18年度には3回の研究会・報告会活動を行った。以下にその内容について報告する。

第1回研究会
開催日時 平成18年8月21日(月)12:45〜18:00
開催場所 SRI研究開発株式会社
神戸市中央区筒井町2-1-1
次第
1.自己紹介を兼ねた研究紹介 ※一人10分以内
戸田裕之、大垣智巳、小林正和、上杉健太朗、井上敬文、上椙真之、小笠原康夫、岸本浩通、佐山利彦、鈴木芳生、世良俊博、大東琢治、土山明、人見尚、松本健志、安田秀幸、山原弘、中野司
2.議事、連絡事項など

第2回研究会
開催日時 平成18年12月18日(月)13:00〜17:00
開催場所 中央管理棟1階講堂
次第
1.基礎講習会
「CT撮像から再構成解析への一連の流れ:基本編」JASRI 上杉健太朗
「CT撮像から再構成解析への一連の流れ:実践編」JASRI 上椙真之
「マイクロトモグラフィー再構成画像の吸収係数補正とその応用」阪大 土山明,産総研 中野司、JASRI 上杉健太朗
「結像マイクロCTの現状〜ゾーンプレート結像光学系の理論など〜」JASRI 鈴木芳生
2.議事、連絡事項など

第3回研究会
開催日時 平成19年2月28日(水)13:00〜17:00
開催場所 中央管理棟1階講堂
次第
1.2006AB期の結像型CTにおける成果報告
「ヒト毛髪のX線CT観察」カネボウ化粧品・基盤技術研究所 井上敬文
「結像型高分解能X線CTを用いたゴム中のフィラー構造の観察」SRI研究開発株式会社 岸本浩通
「スターダスト計画によってもたらされた彗星塵サンプルの初期分析」大阪大学大学院 土山明,JASRI 上杉健太朗
「各種金属材料の組織観察」豊橋技術科学大学 戸田裕之
「球状グラファイト、アルミナ系共晶組織の3次元構造観察」大阪大学大学院 安田秀幸
2.基礎講習
「結像CT:基礎とSPring-8での現状」JASRI 竹内晃久
3.議事、連絡事項など




5.今後の活動予定
 本年度も昨年通り、年3回のペースで研究会・報告会活動を行う予定である。特徴的な技術の実施報告などを含めたテーマ色のある研究報告の他、基礎的な事項の紹介、解説を行う講習会的なもの、SPring-8施設側からの撮像技術などの開発状況の紹介を織り交ぜて、どのようなレベルのユーザーにも有益な研究会活動を目指している。また、本年度後半、ないしは来年度には研究会活動を兼ねた国際ワークショップ的なものを企画しており、ESRFやAPSなど海外の施設での技術開発や各種応用研究の状況に関する情報をも得られるものとする予定である。


 

 
研究会風景



参考文献
[1]E.Toyota,K.Fujimoto,Y.Ogasawara,T.Kajita,F.Shigeto,T.Matsumoto,M.Goto and F.Kajiya:Circulation,105(2002)621.
[2]T.Sera,K.Uesugi and N.Yagi:Respir Physiol Neurobiol,147(2006)51.
[3]X線マイクロナノトモグラフィー研究会:第10回SPring-8シンポジウム (2006)183.
[4]T.Nakamura,A.Tsuchiyama,T.Akaki,K.Uesugi,T.Nakano and T.Noguchi:Meteoritics & Planetary Science,submitted.(2007).
[5]T.Morishita,A.Tsuchiyama,T.Nakano and K.Uesugi:Jour.Geol.Soc.Japan,109(2003)Ⅲ.
[6]M.Uesugi and K.Uesugi:Antarctic Meteorites XXX,A119(2006).
[7]H.Yasuda,I.Ohnaka,S.Fujimoto,N.Takezawa,A.Tsuchiyama,T.Nakano and K.Uesugi:Scr.Met.,54(2006)527-532.
[8]H.Tsuritani,T.Sayama,K.Uesugi,T.Takayanagi,Y.Okamoto and T.Mori:Proc.of 13th Symposium on Microjoining and Assembly Technology in Electronics,13(2007)303-308.
[9]M.Kobayashi,H.Toda,K.Uesugi,T.Ohgaki,T.Kobayashi,Y.Takayama and B.-G.Ahn:Phil.Mag.A86(2006)4351.
[10]T.Ohgaki,H.Toda,M.Kobayashi,K.Uesugi,M.Niinomi,T.Akahori,T.Kobayashi,K.Makii and Y.Aruga:Phil.Mag.A86(2006)441.
[11]L.Qian,H.Toda,K.Uesugi,T.Kobayashi,T.Ohgaki and M.Kobayashi:Appl.Phys.Lett.,87(2005)241907.
[12]人見尚、三田芳幸、斉藤裕司、竹田宣典:SPring-8におけるX線CT像によるモルタル微細構造の観察、コンクリート工学年次論文集、26 (2004) 645-650.
[13]T.Morita and H.Yamahara:PHARM TECH JAPAN,22(2006)141.




戸田 裕之(TODA Hiroyuki)
豊橋技術科学大学 生産システム工学系
〒411-8580 愛知県豊橋市天伯町雲雀ヶ丘1-1
TEL:0532-44-6697 FAX:0532-44-6690
e-mail : toda@tutpse.tut.ac.jp




上杉 健太朗(UESUGI Kentaro)
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0833 FAX:0791-58-0830
e-mail : ueken@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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