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Volume 12, No.3 Pages 276 - 278

2. ビームライン/BEAMLINES

産業利用ⅡビームラインBL14B2(XAFS)の紹介
Introduction of Engineering Science Research Beamline BL14B2(XAFS)

本間 徹生 HONMA  Tetsuo

(財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

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 産業利用ⅡビームラインBL14B2は、産業利用ビームラインBL19B2のXAFSを移設し、XAFS専用として整備している26本目の共用ビームラインである(写真1)。平成12年度以降、産業利用ビームラインの整備、産業利用推進室の設置等の施策を実施し、産業界の潜在ニーズの掘り起こしを進めた結果、産業利用課題が急増した。特にXAFS測定においてはBL19B2ばかりでなく、共用ビームラインでは唯一のXAFS専用ビームラインBL01B1でも多数の産業利用関連課題が実施されている。更に、成果専有利用の増加も著しく、BL01B1では、一般課題の倍率が3倍程度となっている。成果専有を含む産業利用の増加は今後とも続くものと予想され、BL19B2とBL01B1だけではXAFS測定需要への対応が困難になりつつある。今後、産業利用研究拡大の勢いを損なうことなくSPring-8の利用研究成果を質・量ともに拡大していくためには、早急に産業利用研究の効率的実施による上記懸案の解決を図る必要がある。そこで、他の利用技術に先駆けてXAFS測定専用の産業利用ビームラインを新設し、利用の効率化を図ることとなった。BL14B2では、急増するXAFSの広範なニーズに対応することを最優先に取り組む予定である。透過法、蛍光法、電子収量法などの測定技術により粉末から薄膜など様々な試料形態および広いエネルギー領域(4〜72keV)により広範な元素(Ca-K〜W-K吸収端)に対応し、量にも対応すべく効率的な利用を実現するためにQuick-XAFSや自動化を進める予定である。なお、BL19B2の全XAFS課題、BL01B1の成果専有課題を含めた産業利用分野を中心に産業利用ⅡビームラインBL14B2へ移行する。




写真1 BL14B2の光学ハッチと実験ハッチ



 平成19年3月の2007A期第1サイクルにビームラインに初めて放射光が導入され、その後、光学系の調整が行われている。5月のゴールデンウイーク明けの第3サイクルからXAFS測定系の実験装置の立ち上げが行われ、夏期シャットダウン明けの第4サイクルから供用開始が行われる予定である。
 本稿では、ビームラインの概要、実験ステーションの概要について報告する。本ビームラインは広範な産業利用ニーズに応え、効率的な利用によって産業界の利用拡大を主な目的とした汎用的な偏向電磁石ビームラインである。ここでは、ビームラインの概要について簡単に述べることにする。光学ハッチ内は標準的な偏向電磁石ビームラインの構成である。モノクロメーターの下流側にミラーを配置し、モノクロメーターからのストレート光、反射光を選択して利用することが可能である。写真2は、光学ハッチに設置されたモノクロメーターからミラーまでの写真である。モノクロメーターはSPring-8標準二結晶分光器で、分光結晶には現在のところSi(111)結晶を使用している。結晶には第1、第2結晶共に間接冷却の平板結晶を採用している。ミラーは1m長の平面鏡で、石英を母材としRhをコーティングしてある。カットオフエネルギーに応じてミラーの視射角を0〜8mradの範囲で設定可能である。本ミラーは高調波除去を主目的として利用することになるが、子午線方向の湾曲機構を有し、縦方向の集光が可能である。




写真2 光学ハッチ内に設置された光学機器(モノクロメーター、ミラー等)



 本ビームラインは2007年2月20日に運転前検査に合格し、2月28日までに実施された光学ハッチ、および実験ハッチの放射線漏洩検査終了後、光学系の調整を開始した。本ビームラインでは現在、およそ4〜72keV(ブラッグ角(θB)=30〜3°)の範囲でX線のエネルギーの選択が可能である。発光点から44mの位置に置かれた水冷スリットの開口を1mm(H)×5mm(W)にしたときのフラックス(実験ハッチの試料位置、100mA運転時)は、Si(111)を使用した場合、7〜35keVの範囲で1010(photons/sec)台前半である。フラックスはPin Photodiodeを使用して測定した。実験ハッチの試料位置付近におけるビーム位置は、θBが3〜30°の範囲で、Si(111)では水平方向に0.1mm、鉛直方向に0.1mm程度、Si(311)では水平方向に0.1mm、鉛直方向に0.5mm程度の変動に抑えられている。
 ミラーの反射率を測定した結果、30keVのエネルギーをもつX線では、3mradの視射角で強度はダイレクト光の10−2程度であった。ミラーの視射角の設定は実験に使用するX線のエネルギーに応じて適当に選ぶことになるが、本ビームラインでは実験ハッチに設置したミラーと合わせて通常2枚のミラーを同時に使用することになるので、高調波の除去は充分に行うことができる。また、ミラーを光軸上に挿入することで、モノクロメーターからのX線に平行に光軸の高さが変化する。上流側と下流側のミラー中心の距離は約7mで、視射角を最大の8mradとした場合、光軸はおよそ112mm低くなる。高調波除去のためにミラーの視射角を変えた場合でも、ミラーから下流に設置する光学機器や実験機器は昇降機付きの定盤上に設置されているため、高さ方向の調整を容易に行うことができる。
 次に実験ステーションの概要について簡単に述べることにする。実験ハッチには、高調波除去と入射X線を水平に戻すことを目的としたミラーが設置された定盤とXAFS測定機器類を設置するための定盤が光軸上に配置されている(写真3)。先にも述べたが、XAFSの広範なニーズに対応するために、汎用的なXAFS測定装置の整備を予定している。検出器、各種ステージ類は、BL19B2で使用していたものを移設する予定であり、2007A期の第3サイクルにおいて、透過法、蛍光法、転換電子収量法、Quick-XAFSなどの測定技術の立ち上げ調整を行う。BL19B2と同様に19素子Ge半導体検出器と精密ステージを利用することによって、環境試料などの極微量な不純物、蛍光体における発光中心、燃料電池などに使用される触媒、ゲート絶縁膜や蛍光体などの薄膜の局所状態分析が可能となる。多量の試料に対して効率的な測定を行うためにQuick-XAFSと自動試料交換装置などの自動化を進める予定である。更に、燃料電池や自動車等の排ガス処理に使用される触媒などのin-situ測定に必要なガス供給・除害装置の導入を検討中である。




写真3 実験ハッチ内に設置されたミラー用定盤とXAFS測定用定盤



 現在(2007A期第2サイクル)、光学ハッチ内に設置されたモノクロメーター、ミラー等の光学調整がほぼ終了し、実験ハッチに設置したミラーの調整中であり、立ち上げ調整はほぼ予定通りに進行している。2007A期の終わりまでに透過法、蛍光法、転換電子収量法、Quick-XAFSなどの測定技術の立ち上げを完了し、2007B期第4サイクルからの供用開始を目指している。
 最後になりましたが、本ビームラインの仕様決定・建設にご尽力頂いたSPring-8利用系スタッフの皆様に深く感謝いたします。




本間 徹生  HONMA Tetsuo
(財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0924 FAX:0791-58-187
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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