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Volume 12, No.2 Pages 124 - 126

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

2007A期の研究課題選定を終えて
Report of the Proposal Review Committee on the 2007A Public Research Term

佐々木 聡 SASAKI  Satoshi

東京工業大学 応用セラミックス研究所 Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology

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 本報告では、2007A期の課題選定の経緯と特徴を簡単に述べます。2007A期は移行期と位置づけられており、第6期課題選定委員会が継続して課題審査委員となり、第19回課題選定作業を行いました。




1.今期の課題募集と審査

 課題選定の結果は本情報誌に詳しく掲載されています。課題実施期間は2007年3月から2007年7月までであり、全309シフト(1シフトは8時間)中249シフトが共同利用に配分されています。一般利用研究課題842件と重点研究課題16件の総計858件の応募に対し、レフェリーによる事前評価と分科会委員による最終審査を行いました。その結果を受けて、12月22日開催の第1回利用研究課題審査委員会で、総計583件(一般利用研究課題572件、重点研究課題11件)が採択されました。採択された一般利用研究課題の中には、31件の成果専有課題、8件の成果公開・優先利用課題、2件の長期利用課題が含まれています。研究分野別での採択数は、生命科学145件(応募数169件、採択率86%)、散乱・回折226件(応募数329件、採択率69%)、分光53件(応募数128件、採択率41%)、XAFS56件(応募数78件、採択率72%)、産業利用103件(応募数154件、採択率67%)です。分光分野での採択率が大きく下がっているのが特徴です。ビームライン別でみると、BL25SUでの採択率が28.0%、BL27SUでの採択率が42.4%、BL47XUでの採択率が35.3%となっています。例えばBL25SUの場合、12シフト程度(採択課題の平均シフト数)のシフト数が実験に必要なのに対し、一般課題への応募数が今回で50と非常に多いことが採択率を下げています。結果として14課題しか採択できませんでした。このような状況下で、分科会の審査では、特定の小分野に研究課題が偏らないように留意しました。特にBL25SUについては、ビームライン建設などでビームタイムに余裕がでるまでは、小分野間のバランスに配慮した審査を行うことが確認されました。今回の課題選定で重点研究課題の件数が少ないのは、前回までで多くのプロジェクトが終了したためです。今回、重点課題で選定の対象となったのは重点メディカルバイオトライアルユース課題のみです。なお、文科省の新プロジェクトが想定されていますが、本公募の締切には時間的に間に合わず、別途に課題募集されます。そのため、必要なシフト数は留保されています。

 課題選定では、平和目的であること、共用ビームラインで一般利用研究課題の占める割合が50%を切らないこと、および挑戦的な課題を選定することに配慮しました。今回の課題選定にあたっても、(1)レフェリー制による評価、(2)ビームライン固有の状況を踏まえた上で、申請者の登録論文数を考慮した業績評価、(3)ビームライン担当者による推奨シフト数の採用、(4)その推奨シフト数に基づいたシフト充足率の維持、(5)安全審査の尊重、を行いました。(1)は一次審査で、科学技術的な妥当性を中心に審査しており、全ての分科会が対象になっています。レフェリー毎の評点が一定の分布になるように規格化された上で分科会の審査に回ります。この規格化でレフェリーの評価基準がある程度揃うことになり、公平性・透明性が充分保たれると判断しています。なお、レフェリーの評価がばらついた課題に対しては、分科会で丁寧に対応しています。(2)の業績評価では、JASRIに登録された原著論文の多い申請者には加点し、利用の割に登録論文数が極端に少ないリピーターに減点します。ビームライン毎に1論文を要するのに必要な標準シフト数(Nc値)や加点・減点値(dV値)を算出しています。実験責任者として過去3年間にNc値の2倍以上のビームタイムを利用したユーザーが評価対象です。利用シフト数と標準シフト数を比べ、標準論文数の2倍以上の登録がある申請者には加点をしています。そして標準シフト数の2倍以上の利用にもかかわらず登録がゼロの申請には減点しています。特許獲得と論文発表との関係などを検討中の産業利用分科には、今のところ、この業績評価を適用していません。

 今期、2件の長期利用研究課題の応募があり、2件とも採択されました。2007A0014課題(安田秀幸、大阪大学、高時間・空間分解能X線イメージングを用いた凝固・結晶成長過程における金属材料組織形成機構の解明、BL20B2 )と2007A0015 課題(Stephen Cramer, University of California, Davis; Nuclear Resonance Vibrational Spectroscopy (NRVS) of Iron-Sulfur Enzymes for Hydrogen Metabolism, Nitrogen Fixation and Photosynthesis, BL09XU)です。前者は、1000℃以上の高温で、合金の固液界面での結晶成長過程をX線イメージング観察しようとするものです。電子線では測定困難な領域にあり、高性能金属材料の開発に大きく貢献するであろう点が評価されました。後者では、前回で終了した長期課題で得られた測定技術や解析技術を継承発展させることを目指しています。NRVS法での金属固有の振動解析を通して、水素や酸素などの生体触媒の活性作用が解明されるものと期待しています。2007A期に有効な長期利用課題は、Fons課題(2005A採択、BL01B1+BL39XU)、Lewis課題(2005B採択、BL20B2)、雨宮課題(2005B採択、BL20XU +BL40B2 )、財満課題( 2005B採択、BL47XU)、寺崎課題(2006A採択、BL02B1)、桜井課題(2006B採択、BL40B2)、および豊島課題(2006B採択、BL41XU)です。

 SPring-8シンポジウムで要望がありました、一人の申請者が複数のビームラインを使って実験したい場合の申請方法について、課題審査委員会を中心に検討を行いました。シンポジウムの中では要望に応えられそうな感触でお話をしましたが、検討の結果、審査と事務処理が非常に煩雑になることがわかりました。したがって、1つの申請で複数のビームラインを利用するシステムは導入せず、従来どおり、ビームライン毎に課題申請を行うことになりました。
ただし、レフェリーおよび分科会委員の審査段階で、以下の配慮を行います。すなわち、複数の申請書でサイエンスの記述が同じであっても、別のビームラインへの申請と考えればサイエンスの記述に矛盾がない場合には、同一内容の申請を容認する審査体制をとらせていただきます。なお、複数の申請課題について、同一申請時期に全ての課題を実施することが必要な場合や、不採択課題があると研究全体に意味がなくなる場合には、その旨を申請書に明記していただきたいと思います。





2.第6期の課題選定を終えるにあたって

 第6期課題選定委員会と第1回課題審査委員会とを合わせた2年間が終了します。大きな目で見ますと、SPring-8の課題選定は定常期に入ったと考えられます。2005年度に課題選定のあり方が諮問委員会の専門委員会で検討されましたが、今後の課題選定では、分科会の分類法の継続、レフェリー制の堅持や研究成果の審査への反映などが謳われ、運営が変わっても現行の課題選定システムが継続されることになっています。また、50%以上の公募課題の枠が確保されます。そのような中でも、この2年間で、2006年7月に共用促進法が改正され、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律が施行されるなど、SPring-8を取り巻く環境は大きく変化しました。
SPring-8に関係する組織も、原研・理研・JASRIの3者体制から理研・JASRIの2者体制へと移行されました。それに伴い運営形態も大きく変わり、利用研究課題選定委員会も利用研究課題審査委員会となっています。共用促進法の改正により、JASRIスタッフの共用ビームライン利用は、調査研究という範疇になりました。しかし課題審査では、内部スタッフも外部ユーザーも同じ基準と方法で審査を受けており、実質的な変更はありません。

 もう1つの大きな変化は、2005B期からSPring-8戦略活用プログラム(重点領域指定型)が導入されたことでした。このプログラムを利用したシフト数が大量であったため、一般利用研究課題枠への大きな影響が懸念されました。実際に、募集分野が偏り幾つかのビームラインに利用の集中が起こりました。このようにプログラム導入時には混乱がありましたが、その後は多くのビームラインに研究課題を分散させるなどの対策が功を奏してきました。このプログラムは今後、文科省の新プロジェクトに引き継がれることが想定されています。この種のプログラムだけの問題ではありませんが、BL25SUのように非常に競争率の高いビームラインが出てきています。残念ながら、ビームタイムの完璧な配分法は未だ見つかっていません。今後、新ビームラインを建設する努力と建設までの期間での木目細かな対策が望まれます。

 最後になりましたが、お世話になった課題審査委員会委員、各分科の委員やレフェリーの方々、そしてJASRIの関係者に深く感謝いたします。また、利用者の皆様には、今後ともSPring-8へのサポートをよろしくお願い申し上げます。



佐々木 聡 SASAKI Satoshi
東京工業大学 応用セラミックス研究所
〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259
TEL : 045-924-5308 FAX : 045-924-5339
e-mail:sasaki@n.cc.titech.ac.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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