Volume 12, No.2 Pages 117 - 118
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
利用研究課題選定委員会を終えて、分科会主査報告3 − XAFS・蛍光分析分科会 −
Report by the Chief Examiner of the Division of the Proposal Review Committee – XAFS Subcommittee –
1.序
2005年から課題選定委員をお引き受けいたしました。私自身は主にPFのユーザであり、SPring-8には、1999年と2003年の2度ほどお世話になりましたが、その後は、研究会等でお世話になるくらいのもので、お引き受けして本当につとまるか自信がありませんでした。実はその2年ほど前の2003年にもお話があったのですが、当時はPF-PACの分科会の委員長をしていましたので、そちらが終わる2年後にというお約束をして、そのときはお断りしました。しかし、今から考えてみると、実にSPring-8の激動の時期に、右も左もわからないものが課題選定委員を引き受けて、多くの人にご迷惑をおかけしたのではないかと反省しています。そういう私ですから、この選定委員を終わって何か書いてくださいと参考に渡された京大の田中先生のように、皆さんの役に立つことは書けそうもありません。困りましたが、もし私が感じたことを率直に述べることで、SPring-8のお役に立つのであればと思い、駄文を書かせていただきます。
2.大きな力と違和感
2-1.SPring-8戦略活用プログラム枠(文部科学省のプログラム)
SPring-8の課題選定委員になってまず感じたのは、何かとてつもない大きな、しかも顔も見えない力があって、物事が決まってしまう。責任ある誰かがトップダウンで決めるのではなく、得体のしれない何者かが決めてしまう、というある種の訳のわからなさでした。最初は自分自身が何も知らないこともあったのでしょうが、それ以上に訳のわからないことにある種の恐怖を感じました。
2005年春に課題選定委員になって、すぐでしたが、東京で委員会があるということで行ってみました。最初は顔合わせ程度のことだろうと軽い気持ちでしたが、とんでもない。原研(現 原子力機構)が撤退し、SPring-8戦略活用プログラム枠という一般課題とは別ルートの申請ができるようになったという話でした。1ビームラインあたり一般課題を50%以上通すというのが、大原則だそうです。当時はそんなこともしらなかったのですが、それが守れないかもしれない。さあどうするということでした。その後覚悟して望んだ第1回の課題選定委員会でしたが、案の定、BL01B1はかなりSPring-8戦略活用プログラム枠でとられたが、Quick XAFSによる1ビームタイム必要時間が減少できたことや、同様な実験ができるBL37XUでの配分を行ったために何とか50%が確保できたと思います。それでもビームタイムは危機的に少ないと感じましたから、XAFS研究会や討論会にでては、いろいろ訴えました。
2-2.登録論文
もう一つの激動は、論文数による加点減点ではないでしょうか。最大10%程度加わったり、下げられたりする。これは実に大きいことです。「あれ?この人が落ちるの?」という人が、論文が登録されていないということで落とされます。加点の方は、機械的に何報出ているから、何点増しということです。PFもそうですが、ユーザの論文登録が悪いことが、こうした制度を生んだのでしょう。PFもSPring-8も一体共同利用の成果は何だと厳しく問われています。ですから、ユーザのみなさん、論文は必ず登録しましょう。今はそれほど加点減点される人が多くありませんが、これが行き過ぎると、いろいろ問題が起こるかもしれません。特に、機械的に論文数ですから、短くても長くても一報は一報ですし、どこかで結果が使われていて、それが登録されていれば、一報ですから、ちょっと不公平な気もします。ユーザの皆さんは、測定したら論文を出して、一部でもよいから使われていたら登録する。これをユーザが必ず履行するようになったら、廃止すべき制度であると思います。
2-3.成果公開・優先利用枠
その次に起こったのが、成果公開・優先利用制度でした。これもどこで議論したのかわからないうちに決まってしまった感じでした。確かに、SPring-8での研究をすることで予算をとってきて、課題審査の結果SPring-8で実験ができないのでは意味がないわけですから、こうした枠を作るのはよいことでしょう。しかし、EXAFSに関する限りは、材料開発で予算を取ってきてEXAFSの枠を買う場合もあり得るわけです。材料は重要かもしれませんが、それのEXAFSを測定することに意味があるかはわかりません。もしEXAFSを測定する意味のないことだとしたら、貴重なビームタイムが使われるわけですから、大きな損失と考えられます。無条件に優先させることは極力避け、課題選定をすべきと思います。それが決まった時は、むしろ成果専有利用課題の申請が多くなったためBL01B1のビームタイムが抑えられ、成果非専有の一般課題の申請は相当落とされていました。
2-4.ビームタイム
こうして、ビームタイム不足の危機的な状況はつづき、ことあるごとにEXAFS ユーザコミュニティーやXAFS討論会で発言しました。そうこうするうちに、新しくXAFS用のビームラインを作る話が出てきたということも聞き、それまでの辛抱と思いました。ところが、最後のおつとめとなった2007A期は、逆にBL01B1のビームタイムは余裕が出てきて、今度はかなり点数の低いものも拾い上げる結果になりました。SPring-8戦略活用プログラム枠がなくなるという話を聞きました。結局なんだか現場とかけ離れたところで、決まる大きな力に右往左往していたような感じがしています。一体この力はなんなのでしょうか。
2-5.SPring-8方式課題選定
SPring-8で違和感を感じたのは、半年ごとに課題を出す方式です。半年おきに申請を出して、その都度採択、非採択、さらにはマシンタイムの割り振りを決めるSPring-8方式と2年間有効課題として、採択・不採択を絶対評価し、その評点に従い、PFが配分するPF方式を比較してどっちがよいとかわるいとか簡単にはいえないでしょうが、SPring-8方式では、未知の課題というより、確立したルーチンな課題に向いているように思いました。又、レフリーの判定基準に、SPring-8にふさわしい課題かという項目があるのも違和感を感じました。学問的にはおもしろいが、他の施設でもできるということで評点が低くなると、お客さんが逃げてしまうのではないかという疑問です。ことEXAFSに関しては、SPring-8にふさわしいかという項目は外してもよいと思います。そうすることで、学問的におもしろい課題がSPring-8でもっともっと測定しやすくなると思います。
とはいえ、レフリーの皆さんにはお世話になりました。ありがとうございました。ただ一つお願いですが、コメントをつけて、審査結果を返していただけるとありがたいです。たしかに一人で40も見ないといけないので、コメントをいちいち書いていたのでは大変ですし、システム的にコメントが申請者に戻ることはないようですが、やはり、同じ4点でもコメントがあるとないとでは、ずいぶんと重みが違ってくると思います。レフリーの方には是非ともコメントをつけて返していただけるようお願いします。
3.結語
なんだか訳のわからないことを書いてきましたが、この大きな力とSPring-8は今後も戦っていくことになるのだろうと思います。心から応援しています。今一番おそれていることは、自由電子レーザができたときにSPring-8の運転が止まってしまうことです。おそらくないとは思いますが、この得体の知れない力は、何を始めるかわかりません。放射光学会の特別委員会でも述べられているように自由電子レーザと放射光は全く異質の光ですから、その点を是非強調され、SPring-8がますます日本の、そして世界の放射光施設の中心として発展していくことを祈念しております。
いろいろお世話になりました。ありがとうございました。
朝倉 清高 ASAKURA Kiyotaka
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