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Volume 12, No.2 Pages 115 - 116

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

利用研究課題選定委員会を終えて、分科会主査報告2 − 散乱・回折分科会 −
Report by the Chief Examiner of the Division of the Proposal Review Committee – Scattering and Diffraction Subcommittee –

篭島 靖 KAGOSHIMA  Yasushi

兵庫県立大学大学院 物質理学研究科 Graduate School of Material Science, University of Hyogo

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 散乱・回折分科は、さらにD1(構造物性)、D2(高圧物性、地球科学)、D3(材料イメージング)、D4(コンプトン散乱、核共鳴散乱、高分解能X線散乱)、D5(高分子の小角・広角散乱)の5つの分科に分かれている。これらを見ていただくだけで、散乱・回折分科への申請が、手法・ビームラインとも多岐にわたっていることがご理解いただけると思う。2年前は分科が3つであり、D3(材料イメージング)とD5(高分子の小角・広角散乱)が新たに設けられた。このことは、SPring-8の利用研究が従来の基礎科学が中心から応用研究の比重が急速に高まってきているという変化に、課題選定委員会が適切に対応した結果である。また、応用研究の比重が急速に高まってきていることは、SPring-8が広く社会に開かれ、また利用されていることの証左と考えられるので、一般論として歓迎されるべきものである。しかし、申請数の増加は、当然ながら申請者側の競争環境が厳しくなるという結果も招いている。実際、一部のビームラインでは採択率が非常に低く、大学のユーザーにとっては学生の指導に計画性が保てないという状況もあり、若手育成が疎かになるのではないかと危惧される。
 本分科会の概要を述べたいのであるが、何分分野が多岐に渡っておりとても私1人の手に負えないので、以下各分科の審査員に分科の概要を分筆いただいた。

 D1分科では、回折散乱という手法が広い範囲にわたって応用されている申請を扱っている為に、極めて難しい審査を余儀なくされている。手法としては単結晶/粉末構造解析、特殊条件下での散乱実験による機能・物性発現の解明、最近では非弾性散乱による格子の励起状態の観測や磁気散乱による磁性研究などと多岐に渡っており、必然的にカバーするビームラインも数多くなる。対象とする物質も固体だけではなく、アモルファスやメゾスコピック系、薄膜デバイスなどであり必然的に一つのものさしでは測れないのが、審査を難しくしている要因の一つでもある。しかし、SPring-8の性能を十分に生かす測定は必然的に高い評点が付いているという最近の動向は、成果のあがっているビームラインに課題が集中していることにも現れている。特にこの分科では粉末回折のBL02B2が、比較的高い評点でもビームタイムが配分できない状況が続いており、施設としては是非前向きに対応して欲しい。

 D2分科では、BL04B1に設置されている出力1500トンの大型プレスを用いた高温高圧実験と、BL10XUのレーザー加熱ダイヤモンドアンビル装置による超高圧実験の申請が主体となっている。前者は地球科学関係が主体で、後者は地球科学と物性科学関連の申請が半々程度となっているが、いずれの装置も国際的に見て間違いなくトップクラスのもので、前者では大容積の超試料空間を生かした高圧高温下のX線その場観察、後者では300GPaを超す超高圧下で高精度、高分解能の粉末X線実験といった、それぞれの特徴を生かした研究が展開されていることは喜ばしい。いずれもきわめて高度で特殊な実験技術を必要とする装置であり、かつマシンタイムに対する競争率も高いため、新規のユーザーが入り込める余地は少なく、長期的に見た場合、ビームラインの活動度を保つためには何らかの方策が必要とされそうである。

 D 3 分科( 材料イメージング) への申請は、BL28B2に単色・白色トポグラフィー、BL20B2、BL20XU、BL47XUにマイクロCT、X線イメージング(マイクロビームを含む)、X線光学系開発等、BL37XUに光電子ホログラフィー等の課題が主である。いずれも研究グループが比較的固定されているため、課題申請に関して不慣れな印象は少なく、申請書を見る限りビームラインの選定、実験の可否に関して、不適切な申請は少なかったように思える。実験手法間でレフェリーの評点(平均点)の高低差が目に付いたのが印象的であった。ビームラインと実験手法はほぼ対応関係にあるため、採択のボーダーラインにビームライン・手法間で差が生じてしまうことは避けられないようである。また、申請数の多い(人気のある?)ビームラインとそうでないビームラインが顕著になりつつあり、今後ビームライン・手法の再編成が必要かも知れない。イメージングは、一般にも分かり易い成果を提供できる研究分野であり、一層の発展を期待したい。

 D4分科では高エネルギーX線非弾性散乱(コンプトン散乱、BL08W)、核共鳴散乱(非弾性散乱、主にBL09XU)、高分解能X線非弾性散乱(主にBL35XU)をベースにした、物質科学、実験技術開発等の実験課題の評価を担当している。いずれも第3世代の放射光源を最大限に利用しなければならない実験手法をベースにしていることもあり、外国研究者からの課題申請書が他の分科よりも比率が多いと思われる。そのような中で申請書を拝見していると、言語体系の理由かも知れないが、外国研究者からの英語の申請課題のほうが非常に短刀直入に判りやすく、かつどのようなインパクトがあるかという点を明確に記載されていることの比率が高くなる傾向が見受けられる。「それに引き換え」と言うことが時々目につくことは残念なことである。ぜひ、研究の位置付けを明確にした上で、遠慮せずにアピールすることをお願いする次第である。

 D5分科には、主に高分子ならびにソフトマター関連の申請がなされている。ビームラインとしては広角、小角X線散乱測定のBL40B2、BL45XU、BL40XUなどが多く希望されている。少数ではあるが超小角ビームラインの希望もある。実験内容から眺めると、高分子溶液および高分子固体における静的構造解析、高分子溶融体からの結晶化過程における構造発展追跡、延伸や圧縮、磁場効果など外部場の下での構造変化の時間分解測定、など極めて幅広い。
 審査課題については、特定の人物がかなりの数の申請を一度に行うこともある。しかも、似たような内容の課題を小分けしていることも多い。出来る限り、自制心をもって、効率の良い実験計画を立てるようなアドバイスが何らかの形で必要と思われる。また、申請時には少人数であるが、採択後に〔恐らくは最初から予定されていて〕他機関の研究者を多数引き入れ、申請時の内容から相当にかけ離れた実験に貴重なマシンタイムを振り分ける者もいるようである。研究者としての倫理が問われる。
 分筆いただいた、澤博、八木健彦、河田洋、田代孝二の各氏に感謝いたします。




篭島 靖 KAGOSHIMA Yasushi
兵庫県立大学大学院 物質理学研究科
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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