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Volume 12, No.2 Pages 112 - 114

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

利用研究課題選定委員会を終えて、分科会主査報告1 − 生命科学分科会 −
Report by the Chief Examiner of the Division of the Proposal Review Committee – Life Science Subcommittee –

福山 恵一 FUKUYAMA  Keiichi

大阪大学 大学院理学研究科 Graduate School of Science, Osaka University

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生命科学分科Ⅰ(L1:蛋白質結晶構造解析)

(1)審査全般について
 L1では、「SPring-8利用者情報」に載っているように、インパクトの高い成果が数多く出ており、しかも質量共に年々増加傾向にある。このことはビームラインのハードウエアとソフトウエア、それにユーザーの努力によるところが大きいが、課題選定を含め運用も機能した結果といえよう。今後のさらなる発展を期待して、経過と現状を以下に述べる。
 L1の課題審査では様々なユーザーのニーズにこたえるべく、分科専用の課題申請書や分科会留保ビームタイムなど、分科固有の制度を導入し、これらはユーザーに浸透したと思われる。分科会留保ビームタイムは、不安定かつ緊急性の高いタンパク質結晶についてタイムリーに放射光実験をしたいというユーザーの要望にこたえるためのものであり、実施時期の2週間前が募集締切りとなっている。タンパク3000プロジェクトがスタートしてからは留保ビームタイムを潤沢に確保できない状況になり、また、実施時期により課題申請数が大きく変り、これに応じて採択基準がその都度変動した。この様な状況ではあるが、2007A期以降も定期的に留保ビームタイムを適当量確保し、緊急を要するビームラインの利用希望に柔軟に対応していくべきであると考えている。また、課題審査に複数レフリーによる課題評価制度が導入されたが、これは非常に多くの課題申請数を抱えるL1ではこの制度の導入によって課題審査に効率や公平性が向上したと考えている。2005A期から各実験責任者がSPring-8を利用した研究成果を課題審査へ反映させることにした。この制度の導入初期には、利用者が必ずしも研究成果を登録していないことがあったが、現在ではユーザーの理解も進み機能していると考えている。

(2)タンパク3000プロジェクトおよび長期課題のビームタイムについて
 2002年度より「タンパク3000プロジェクト」のビームタイムが開始され、2002B期よりBL38B1・BL40B2・BL41XUの3本のタンパク質結晶学共用ビームラインでは、そのビームタイムの30%程度をこのプロジェクトの個別的解析プログラムで利用してきた。この中でBL40B2では、タンパク質結晶回折と小角散乱という手法が異なる2つの実験について、使用する装置をその都度切替えていたが、2004B期以降は装置切替えに伴う調整時間を省くために、タンパク3000ビームタイム枠を含めたL1枠をBL38B1に一元化した。この結果、2004B期から2006B期までの期間BL41XUではビームタイムの30%程度、BL38B1では60%程度をタンパク3000枠として利用することとなり、一般課題へのビームタイム配分へ大きな圧迫を与えた感があった。しかし、多くのタンパク質結晶学者は本プロジェクトにも参画していることを考慮すると、2005B期から2006B期までの期間は、本プロジェクト課題と一般課題の申請数はともに50件程度で推移し、ビームタイム配分において無理が生じなかったと考えている。
 本プロジェクトが終了した2007A期は、タンパク質結晶学共用ビームラインでは一般課題を中心としたユーザー利用になり、L1への課題申請数が88件と2006B期に比べ大幅に増加した。これは、本プロジェクト開始直前の2002A期の申請数76件に較べて10件以上増加しており、従来のタンパク質結晶学ユーザーに加え、広範囲の分野のユーザーが増加した結果でもあり、本プロジェクトの成果といえよう。今後とも課題申請数の増加が見込まれる。このように大幅に課題申請数が増加したが、各ビームラインの利用実験の効率化により、2007A期のビームタイムの配分に関しては大きな問題が生じていないと思われる。
 2003B期に初めて長期利用課題が採択され、それ以降現在まで一件の状態が続いている。この課題は科学的意義がきわめて高く、長期的に安定してビームタイムを利用する課題であり、結果として成功しているといえよう。長期利用課題に配分されるビームタイムは一般課題のそれよりも多いが、課題申請者がそれ以前に別のビームラインや複数の課題で利用していたビームタイムの和からかけ離れたものではなく、L1全体から見ると他の一般課題のビームタイムを現時点では圧迫していないと考えている。

(3)ビームラインの選択について
 SPring-8のタンパク質結晶構造解析ビームラインでは制御系の標準化を進め、これまでに一般共用課題で利用可能なビームラインで制御ソフトを共通化した。これにより光源の違いによるX線強度・ビームサイズやビーム指向性などに違いは存在するものの、ユーザーにとっては同じ操作で、多くの場合露出時間を増減させるだけで遜色ない回折データの収集が可能になっている。しかし課題申請ではアンジュレータ光源であるBL41XUの人気が圧倒的に高い。この結果として、レフリーからかなり高い評価を受けた課題でも、BL41XUしか希望していない場合は不採択となることが多々あった。一方、BL38B1や共用枠の理研ビームラインは第2希望としても記入されていない場合が多く、結果として競争率は低い。課題採択におけるこの著しい不均衡を軽減するために、アンジュレータビームラインの整備や偏向電磁石ビームラインの高度化もあるが、ユーザーは課題申請をする際、BL41XUの必要性や、BL38B1を初めとする偏向電磁石ビームラインでの実験の可能性を検討し、ビームラインを選択・記入するようお願いしたい。




生命科学分科Ⅱ(L2:生体試料小角散乱)
 2005A~2007A期に、これまでの合成高分子の小角散乱課題が回折/散乱分科で審査されることになったため、L2では筋肉や毛髪の繊維試料、タンパク質溶液、脂質などの非晶質の生体試料に対象が絞られることになった。このためレフリーにとってはより身近な分野の審査になり、課題評価の妥当性や公平性が高まった感があり、また分科会での最終選定作業も効率が上がった。課題内容では、SPring-8の高輝度を活かしたマイクロビーム技術の向上に伴い、BL40XUとBL45XUでこの技術を使った、筋肉、毛髪や皮膚などを対象としたより高度な回折実験課題が増えた。この分野では詳細かつ定量性のある結果が現れ始めていて、今後いっそうの優れた成果が期待される。BL40B2では、近年の大きな流れであるPDBに基づく初期構造を参照として、発展の著しいab initioモデリング法を駆使したタンパク質の溶液中構造を求める研究課題が中心となっている。しかし、タンパク質溶液散乱に対する申請課題数が横ばいなのは、BL40B2の活用の面で惜しまれる。潜在的な対象試料(タンパク質)の豊富さを考えると、今後この研究分野からの申請が増えることを期待したい。なお、小角回折はB L 4 0 X U とB L 4 5 X U 、散乱実験はBL40B2と、以前より使い分けが進み、このことは実験の効率や質の向上のうえで望ましい傾向といえる。




生命科学分科Ⅲ(L3:医学利用、バイオメディカルイメージング)
 L3では医学応用課題を扱っており、かなり広い分野から申請がある。そのいくつかを紹介すると、医学イメージングでは、主として血管ミクロイメージング、骨形状微細イメージング、肺微小形態イメージングなどの課題が採択され、例えば3次元血管構築やダイナミックな血管特性など、SPring-8を活かしたイメージングが得られている。方法論的に日本のオリジナリティが高い位相コントラストイメージングは、最近では国内だけでなく海外からの申請もいくらかみられるようになり、本イメージング手法が海外でも普及しつつあることが窺われる。心筋のナノレベルにおけるアクチン、ミオシンクロスブリッジ動態のX線回析実験は、心筋ナノ動態とマクロの心機能を結ぶ良いモデルとして期待される。治療に関しては、マクロビーム治療に関する課題の提案が増加しており、その方法論的な工夫や治療効果の生物学的評価が種々の角度から進められている。また、地味ではあるが、蛍光を利用した金属粒子のイメージングによる生体解析も進められている。今後SPring-8の医学応用を発展させるためには、他の方法に対するSPring-8の優位性をさらに明確に示す必要がある。




おわりに
 登録した研究成果を課題審査に反映させる制度は、ビームタイムの効果的利用とSPring-8の成果促進を意図したものであり、課題審査の公平性を確保するためにも、実験責任者は研究成果の登録を忘れないようにしていただきたい。レフリー制の導入に伴い、多くの先生にレフリーをお願いし、貴重な時間を割いて評価していただきました。また、定期的な課題選定以外に留保ビームタイムの課題選定の他、タンパク3000プロジェクトや長期利用課題の対応など、JASRIの方々に協力いただきました。あらためて関係の方々に感謝申し上げます。







福山 恵一 FUKUYAMA Keiichi
大阪大学 大学院理学研究科 生物科学専攻
〒560-0043 豊中市待兼山町1-1
TEL:06-6850-5422 FAX:06-6850-5425
e-mail:fukuyama@bio.sci.osaka-u.ac.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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