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Volume 12, No.2 Page 79

理事長の目線

吉良 爽 KIRA Akira

(財)高輝度光科学研究センター 理事長 Director General of JASRI

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 SPring-8は62本のビームラインを持つ設計になっているが、現在までに建設されたビームラインは建設中のものを含めて49本であり、まだ13本分の場所が空いている。この意味でSPring-8は未完成である。マシンが世界一の性能を維持している間にビームラインを整備して、施設の性能を最大限に活用することこそ、この高価で高性能な施設を建設した趣旨を最も生かすことになるからである。マシンの値打ちが下がってからビームラインを作るより、今努力して建設するほうがはるかに値打ちは大きい。

 このビームライン建設の停滞の大きな理由は日本経済の不調にあった。しかし、経済も好転のきざしが見えてきたので2年ほど前からビームラインの建設の推進を再開した。その頃、国はこれ以上共用ビームラインを建設することに積極的ではなかった。国は30本程度の共用利用のビームラインを準備するということになっていて(という話がある)、もう25本作ったのだから一応良いのではないか、という感じであった。国の資金による共用ビームラインが難しいという状況をふまえて、まず最初にJASRIが資金を寄付するという形で共用ビームラインを建設した。これは2007B期から共用に付する予定である。一方、専用ビームライン建設の可能性について、大型競争資金を確保できる研究グループや会社の連合体など各方面に当たってみたところ、当初予想した以上の反響があり、これまでにすでに6本の専用ビームラインの建設趣意書が提出されている。仮に全部実現されたとすると、その時点で、専用ビームラインは20本になり、共用ビームラインに匹敵する数になる。このやり方の新設が進むと、共用よりも専用のビームラインの方が多くなる可能性も無いとはいえない。これは、共用ビームライン主体の運営をしてきたSPring-8にとって、かなり大きな運営上の変化をもたらすことになろう。ただ、上に述べた「国は30本」の話が本当ならば、半々程度というのは、最初に想定されていたことになる。

 審査があるとはいえ、資金を用意したものが専用ビームラインをどんどん建設してゆくというやり方には、いろいろと批判はあろう。しかし、自前で資金を用意しても利用したいという熱意は、国や社会に対して強い説得力を持ち、SPring-8の重要性への認識を向上させるのに大いに貢献すると思われる。いま専用ビームライン建設を考えている中にはこれまで比較的疎遠であった新しい分野が含まれている。このことは、専用ビームラインの建設が、発展する可能性のある新分野に対してSPring-8に参入するための良い機会を提供する結果となっていることを示している。国が、このような動きの中に利用者の期待と熱意を感じ取って、共用ビームラインの建設を再考してくれることを切に願うものである。今後、もしも共用ビームラインが建設されるような場合には、専用ビームラインを作ろうと熱意を持って努力した人が、ただ待っていた人よりも報いられるような仕組みが当然必要であろう。棚から落ちてくるぼた餅を、順番を決めて待っている時代は終わったのである。

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794