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Volume 12, No.1 Pages 26 - 28

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

2003Bおよび2004A採択長期利用課題中間評価について
Interim Review of 2003B and 2004A Long-term Proposals

(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 User Administration Division, JASRI

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 2000B期(平成12年10月~平成13年1月)から開始した特定利用課題は、2003B期(平成15年9月~平成16年2月)から重点研究課題を導入するのに合わせて長期利用課題と改称し、実施しています。
 今回は2003Bおよび2004A期に採択となった3件の課題の中間評価の実施結果を報告します。なお、評価結果の利用者情報掲載が大幅に遅れたことをお詫び申し上げます。

1.Nuclear Resonance Vibrational Spectroscopy(NRVS)of Hydrogen and Oxygen Activation by Biological Systems

〔実験責任者名〕Stephen Cramer(University of California)
〔採択時の課題番号〕2003B0032-LD3-np
〔ビームライン〕BL09XU
〔評価結果〕実施する

〔評価コメント〕
 当初目標とした高エネルギー領域でのFe-H等の伸縮振動状態の測定には問題がある。申請者らはその問題に気付いており、低エネルギー領域でのベンディングモードの測定へと方針変更を行っている。しかし、その場合であっても、他のモードが混在する領域でベンディングモードの測定を行う必要があるため、相当の困難が予想される。また、測定結果の解析にDFT計算等を併用することが必要になるとも考えられ、断定的な結論まで到達するかどうか不安が残る。問題は、観測されるNRVSスペクトルがブロードで複雑なものになっており、その効果が周囲の巨大な分子集団によっていると考えられることである。現段階で、必要十分な振動スペクトル解析が可能かどうか、真摯に検討していただきたい。
 以上のように、研究は一時的に停滞しており、それが成果公表の遅れの理由となっている。一方で、モノクロメータの分解能向上など最近の技術的進展もあり、今後の取り組み方次第ではブレイクスルーが生まれる可能性もあり、今が本研究の勝負所であると期待したい。また、3年目の研究として、ニトロゲナーゼをメインテーマとして実施することも検討に値する。

〔研究概要〕
 本研究は、X線核共鳴散乱による分子振動分光法(Nuclear Resonance Vibrational Spectroscopy ;NRVS)を用い、ヒドロゲナーゼおよびオキシゲナーゼの触媒作用を明らかにしようとするものである。これら酵素の結晶構造は明らかにされているが、金属原子を活性中心とする原子レベルでの機能解明はなお未解決の部分が多い。従来の他の手法、例えば共鳴ラマン散乱では適切な光学モードを欠いていたり、結晶構造解析では水素原子判別の十分な分解能がないなどの問題があった。これに対し、NRVSは、これら酵素内の57Fe原子の局所振動スペクトルを直接観測することができるユニークな手法であり、Fe-HおよびFe-O等の相互作用に関わる振動モードを特定できる唯一の観測手段である。NRVSの持つこの元素選択性によって、特にH-D等のアイソトープ置換による振動モードの解析をあわせ、活性中心である金属原子近傍の結合状態および酵素反応過程を明らかにしようとするものである。これらの酵素における基礎反応過程の解明は、生物学および触媒化学の基礎科学としての重要性は勿論、水素活性化などのバイオプロセスに道を拓く等、工業的にも重要な課題である。
 既に、予備的実験はSPring-8において行われ、57Fe振動スペクトルは観測されており、金属クラスター(FeNi、FeFeなど)の活性中心の構造解析が進展中である。

〔成果リスト〕
(1) Y.Xiao,K.Fisher,M.C.Smith,W.Newton,S.J.George,H.Wang,W.Sturhahn,E.E.Alp,J.Zhao,Y.Yoda and S.P.Cramer(2005)How Nitrogenase Shakes.Submitted to Science.

(2) Y.Xiao,A.Dey,H.Wang,S.J.George,M.C.Smith,M.W.W.Adams and F.E.Jenney,Jnr,W.Sturhahn,E.E.Alp,Y.Yoda,E.I.Solomon and S.P.Cramer(2005)Normal Mode Analysis of Pyrococcus furiosus Rubredoxin via Nuclear Resonant Vibrational Spectroscopy(NRVS) and Resonance Raman Spectroscopy.Submitted to J.Am.Chem.Soc.

(3) M.C.Smith,J.Meyer and S.P.Cramer(2005)Normal Mode Analysis of a (2Fe2S) Ferredoxin from Aquifex aeolicus by Nuclear Resonant Vibrational Spectroscopy. In preparation for J.Am.Chem.Soc.

(4) M.C.Smith,Y.Xiao,H.Wang,M.W.W.Adamsand S.P.Cramer(2005)Normal Mode Analysis of a(4Fe4S)Ferredoxin by Nuclear Resonant Vibrational Spectroscopy and Resonance Raman Spectroscopy.Inpreparation for J.Am.Chem.Soc.

(5) M.Smith,Y.Sunada,Y.Ohki,Y.Yoda and S.P.Cramer(2005)Nuclear Resonant Vibrational Spectroscopy(NRVS) of the Nitrogenase P-cluster and a Relevant Model.In preparation for Inorg.Chem.


2.多剤排出蛋白質群のX線結晶構造解析
〔実験責任者名〕村上 聡(大阪大学)
〔採択時の課題番号〕2003B0036-LL1-np
〔ビームライン〕BL41XU
〔評価結果〕実施する

〔評価コメント〕
 得られた成果をもとに、新しい3量体モデルを提案している。これにより、プロトンと薬剤の交換輸送の分子機構が明らかになっており、本研究は意義深いものとなっている。着実に研究成果が出ている上、分子の3回対称軸を結晶の3回対称軸からはずした結晶の調製に成功していることから、現状でも当該分野を先導していると高く評価できる。よって3年目の実施は妥当である。今後は、差フーリエ解析の精度を上げるため、Brを付加した薬剤結合型結晶に対する異常分散を利用した構造解析に期待する。以上を総合的に研究することで、薬剤排出機構に関する多くの貴重な成果が得られるものと大いに期待できる。

〔研究概要〕
 近年臨床の場に於いて、抗生物質が効かない病原性細菌による感染症が大きな問題となっている。耐性肺炎桿菌など複数の薬剤に対して抵抗性を示す多剤耐性菌が出現し、治療が困難となる臨床例が増えてきた。この耐性化の重要な要因は、薬剤排出蛋白質の過剰発現によるものである。排出蛋白質の働きにより、薬剤が細胞内の作用点に達する前に菌体から排出されてしまうのである。その遺伝子のひとつ、AcrAB-TolC系は大腸菌の持つ主要な多剤排出系で、大腸菌の自然抵抗性の主因でもある。昨年申請者らは、基質認識と能動排出を担う膜蛋白質AcrBの結晶構造解析に成功し、Nature誌の表紙を飾った。
 AcrB分子は大腸菌膜から得られたNative型のもので、薬剤などの基質分子は含まれておらず、多剤の認識機構や能動輸送のエネルギー共役機構といった機能の本質的理解は今後の課題である。そこで、AcrB一薬剤の複合体構造を高分解能で解析し“多種多様な基質分子がどのような構造的基盤で認識し、そしてそれらを排出しているのか”を明らかにすることを申請課題の目的とする。研究の成果としては、
(1)多種多様な分子認識といった特徴ある基質認識機構が明らかになる。その結果、排出蛋白質によって認識されない抗生物質の設計や、排出を阻害する多剤耐性の特効薬設計の手がかりを与える。

(2)AcrBはH+濃度勾配をエネルギー源として利用する蛋白質として初めて構造が明らかになった例である。構造情報を基に、基質の能動輸送とH+流入のエネルギー共役機構を明らかにする。生体内で重要な反応を担う蛋白質のかなりの部分は膜蛋白質であるが、膜蛋白質の結晶構造解析は困難である。今後この困難さを乗り越え、膜蛋白質の結晶構造解析に取り組む必要性は益々大きくなる。


〔成果リスト〕
(1) 9963 S.Murakami,N.Tamura,A.Saito,T.Hirata and A.Yamaguchi Extramembrane Central Pore of Multidrug Exporter AcrB in Escherichia coli Plays an Important Role in Drug Transport.The Journal of Biological Chemistry. 279(2004)3743-3748.


3.飛翔体搭載用硬X線結像光学系システムの性能評価実験

〔実験責任者名〕小賀坂 康志(名古屋大学)
〔採択時の課題番号〕2004A0009-LM-np
〔ビームライン〕BL20XU
〔評価結果〕実施する

〔評価コメント〕
 本課題は、X線天文学で必要とされる飛翔体搭載X線撮像観測装置の性能を、SPring-8のX線結像光学を利用して評価するものである。
 気球フライトの前後での気球搭載装置の性能評価については、計画にそって着実な成果が得られているとともに、その評価にSPring-8のシステムが有効であることが実証されてきている。また、評価実験以外に、再帰型X線パルサー観測などの分光学的研究成果も得られている。このような状況下で3年目の長期利用研究を行えば、確実に撮像観測装置の較正実験技術が確立すると考えられる。なお、本研究は次のステージで、次期衛星計画NeXT搭載用の大口径望遠鏡の開発製作へと移行すると考えられる。採択時のコメントにもあるように、そのような本格的な実機開発フェーズでは、宇宙関連の研究機関とSPring-8との間で正式な研究協力協定を締結することが望ましく、関係者の更になる努力に期待する。
 本課題は、日本の宇宙開発に重要な技術を提供しており、評価実験を継続する意義は十分大きい。特に、X線天文学の実験分野と放射光の共同研究が実現できている点を高く評価する。なお、外的要因で評価実験が3年を超える場合には何らかの救済措置を考えるべきである。

〔研究概要〕
 本研究は硬X線天体観測システムの性能評価実験を行うもので、飛翔体観測装置の開発及び観測データ解析に必要な応答関数の作成が目的である。宇宙空間プラズマからのX線放射や銀河中心核ブラックホールの観測、また非熱的X線放射起源の解明といった研究のため、10keV以上の硬X線領域で使用できるX線望遠鏡の開発が求められている。我々はPt/C多層膜スーパーミラーを反射鏡面に用いた多重薄板型の硬X線望遠鏡を開発した。現在、気球塔載観測実験を推進しており、併せて2010年打ち上げ予定のNeXT衛星計画に向けて開発を進めている。
 硬X線望遠鏡の性能は結像性能と有効面積で評価され、これらは多層膜の反射率、反射鏡の形状精度及び組み上げ精度などの微視的な要素で決定される。理想的な性能評価は、曖昧な仮定を置くことなく、localな特性から望遠鏡性能を再現、評価し応答関数を構築することである。反射鏡積層枚数が100を越える多重薄板光学系でこのような評価が完全に行われた例は少なく、10keV以上の硬X線領域では前例がない。実験には高輝度、単色、低発散角の大口径ビームと、10m規模の大きな実験ハッチが要求される。BL20B2における実験では、上述のような「完全な」評価が初めて可能になると共に、衛星計画の実現に向けて不可欠な研究となる。既に2003A期に予備的な実験を行い、成果を上げている。


〔成果リスト〕
(1) Wide-band Imaging Spectrometer with Scintillator-deposited Charge-coupled Device,Miyata et al.,submitted to NIM-A(2005).



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794