Volume 11, No.6 Pages 391- 392
2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
文部科学省先端大型研究施設戦略活用プログラム成果報告会
Symposium Report on the Program for Strategic Use of Advanced Large-scale Research Facilities by MEXT
平成18年10月4日10時から18時まで、文部科学省先端大型研究施設戦略活用プログラム成果報告会が東京駅前のコンファレンススクエア・エムプラスで開催された。平成17年より開始された先端大型研究施設戦略活用プログラムは、我が国が有する最先端の大型研究施設について、その汎用性にふさわしい広範な利用者・領域により、施設の能力を最大限に引き出すような質の高い研究開発を実施し、新技術・新産業を創出していくために、戦略的な活用を推進するものであり、SPring-8と地球シミュレータを対象にして行われた事業である。この事業の趣旨にもとづき、新規利用者・新領域の拡大、とりわけ産業界の利用者拡大を目指して現在も事業が実施されている。
SPring-8では、2005B期より戦略活用プログラムの課題をA)新規利用者、B)新領域、C)重点領域の3つの区分で募集を行っているが、今回の報告会では、2005B期を中心に2005年10月から2006年3月までの半年間に、SPring-8に応募された205課題(緊急実施型課題を含む)より採択された134課題より、SPring-8と地球シミュレータとの併用課題の2件を含む6件の口頭発表と22件のポスター発表を行った。地球シミュレータからは、先の併用課題2件を含む全実施課題5件の口頭発表が行われた。
報告会は、高輝度光科学研究センター産業利用推進室の渡辺室長の挨拶で開会後、先端大型研究施設戦略活用プログラムを担当している文部科学省研究振興局研究環境・産業連携課課長補佐の上田光幸氏より、事業全体と平成17年度の成果概要が紹介された。その中で、文部科学省が平成17年度のユーザーに対して行ったSPring-8におけるアンケート結果については、先端大型研究施設戦略活用プログラムに基づいて強化されたコーディネータ等による「利用にあたりSPring-8側の技術的説明・コンサルタントは適切だった」との回答が86%、「期待された成果が得られた」及び「期待以上の成果が得られた」との回答が合計71%であったと紹介された。また、それぞれの質問に対して「不適切だった」、「全く結果が得られなかった」はなく、順調に事業が進んだことが報告された。更に、来年度は現在の事業を発展させて参加研究施設を拡大した事業を検討しているとのことであった。
口頭での研究発表は、午前中に資生堂の國澤氏によるBL40B2で実施した“ヒト皮膚角層中の角層細胞間脂質の構造解析”、BL47XUでの高エネルギー光電子分光とBL13XUでの微小角入射X線回折を利用した“カーボンナノチューブ/金属電極間の低抵抗オーミック接触界面構造の作製とその電子状態の解析”及びリコーの岩田氏によりBL39XUでの光電子分光と緊急利用型課題としてBL19B2で行った微小角入射X線散乱の成果“微小角入射X線散乱および高エネルギー光電子分光によるZnS-SiO2薄膜の評価”の成果報告が行われた。これらは最近SPring-8の利用が広がりつつあるヘルスケア分野での成果や、複数のビームラインによる課題実施、及び緊急利用型課題など戦略活用プログラムの特徴を活かした成果であり、発表後の質疑を通して複数ビームラインの利用や緊急利用はユーザーにとって大変有効な制度であることが明らかになった。
その後行われた22件のポスター発表はすべてSPring-8での成果の発表で、新規利用の課題ばかりでなく、ヘルスケアなどの新領域の課題、LSIなどの重点分野の課題など幅広い分野の成果が発表された。発表時間が、昼休みが中心であったにもかかわらず、2時間のコアタイムの間中ポスター会場には多くの人が訪れ、会場のあちらこちらで活発な質疑が行われていた。
午後の口頭発表は、ジーエス・ユアサの尾崎氏によるBL19B2での実験で得られた成果“La-Mg-Ni系水素吸蔵合金の結晶構造解析”の発表と、富山工業技術センターの釣谷氏による“フリップチップ接合部における熱疲労損傷のX線マイクロトモグラフィーによる評価技術の開発”の発表に加え、SPring-8と地球シミュレータの併用課題であるSRI研究開発の岸本氏による“ゴム中のナノ粒子ネットワーク構造のモデル構築による高性能タイヤの開発”の発表があった。岸本氏の発表はBL40B2とBL20XUで実施した広い波数範囲での小角散乱、極小角散乱の測定データからタイヤのゴム中に分散したカーボンなどのナノ粒子が形成する高次構造を、地球シミュレータを用いたRMC法で検討した大変興味深い発表であった。
以上の発表の後に行われた渡辺室長の先端大型研究施設戦略活用プログラムのSPring-8での実施状況報告に対して、会場からコーディネータの人選や産業利用のあり方に関する質疑やコメントが寄せられた。
これに引き続いて午後の後半には、1件の併用課題を含む4件の地球シミュレータを利用した成果発表が行われた。午後の後半になって若干空席が増えたようでもあったが、発表者をふくめ、のべ125人が来場して報告会は盛況のうちに終了した。
廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro
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