ページトップへ戻る

Volume 11, No.5 Pages 287 - 290

特定放射光施設の共用の促進に関する法律の改正について

文部科学省

Download PDF (19.43 KB)


1.改正の趣旨・目的
 第164回国会(平成18年度通常国会)において、「研究交流促進法及び特定放射光施設の共用の促進に関する法律の一部を改正する法律」(平成18年法律第37号)が成立しました。この法律は、平成18年7月1日に施行されております。
 この法律は、科学技術に関する試験、研究、開発に関して、国と国以外の者との交流等を促進するために、国の研究施設等の利用、共用の促進を図るとともに、世界最高性能を誇る放射光施設である「SPring-8」、今年度より開発を開始する世界最高性能の「次世代スーパーコンピュータ」といった先端的な大型研究施設が、公正かつ効率的に運用され、あらゆる分野において基礎研究から産業応用まで幅広く活用されるような措置を講ずるものです。

2.改正の概要
(1)共用の促進の対象とする施設の追加
 改正前の「特定放射光施設の共用の促進に関する法律」は、SPring-8の共用の促進を図るための法律でした。
 この法律のもとで共用の促進が行われてきたSPring-8は、世界最高性能の放射光施設として、平成9年10月の供用開始から平成17年12月までに、のべ約59,000人の研究者に利用され、幅広い分野で約9,000件の研究が実施されたところです。発表された論文数は、2,419件(平成17年11月末現在)であり、その中にはネイチャーやサイエンスなどの著名な科学誌に掲載されたものも含まれており、世界的に評価の高い成果が数多く輩出されています。
 今般の改正により、共用の対象とする施設として、平成18年度より独立行政法人理化学研究所(理研)が開発を開始する次世代スーパーコンピュータを追加することとしました。次世代スーパーコンピュータは、幅広い分野に対して世界最高水準の処理速度を発揮する汎用性を有しており、共用を促進するための施策を講ずるべき施設と考えています。
 また、対象施設を追加したことに伴い、法律の名称を「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」に改めました。

(2)登録施設利用促進機関による利用促進業務の実施
 改正前においては、文部科学大臣が「放射光利用研究促進機構」として(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)を指定し、それを受けてJASRIがSPring-8の共用の促進に関する業務を行ってきました。
 改正後においては、文部科学大臣の登録を受けた「登録施設利用促進機関」(登録機関)に対し、文部科学大臣が共用の促進に関する業務(利用促進業務)を行わせることとなります。
 なお、改正前に「放射光利用研究促進機構」として指定を受けていたJASRIについては、平成18年度末(平成19年3月末)まで登録機関としてみなされ、利用促進業務を行っていくこととなります。

3.利用者の皆様に御理解いただきたいこと
 SPring-8の利用者の皆様方におかれては、以下のことについて御理解いただければと存じます。

(1)利用促進業務の内容
 上記2.(2)でも述べましたが、平成18年7月1日より、SPring-8の利用促進業務については、文部科学大臣の登録を受けた登録機関に行わせることとなります。
 利用促進業務は、施設利用研究を行う者の選定等を行う「利用者選定業務」と、施設利用研究の実施に関し、情報の提供、相談、援助などを行う「利用支援業務」に分かれます。
 利用者選定業務とは、
 ①共用ビームラインを利用した研究を行う者、その者が行う研究等の課題(ここでいう課題には、題目を含めた研究等の意義、目的、内容などを含みます。)の募集・選定を行うこと
 ②専用ビームラインを設置する者、設置する専用ビームラインに関する計画(ここでいう計画には、設置の意義、目的、設置方法、設置後にこれを利用して行う研究等の内容などを含みます。)の募集・選定を行うこと
をいいます。なお、登録機関は、利用者選定業務を実施するに当たっては、SPring-8を利用した研究に関して学識経験を有する者からなる選定委員会を設置し、その委員会の意見を聴かなければなりません。

 利用支援業務とは、
 ①SPring-8に関する技術情報や、国内外の放射光施設で得られた研究成果等の情報を利用者等に提供すること
 ②SPring-8の利用に関する応募をしようとする者に対し、必要に応じて研究等の実施計画の企画立案に対する指導等を行うこと
 ③専用ビームラインの取付工事のために必要な仕様、工事方法等について、教示・指導を行うこと
 ④選定された研究者等に対し、研究等の安全確保を含む適切な技術指導を行うこと
 ⑤SPring-8の利用者が、より円滑に効率よく研究等を行えるよう、研究手法等の改良につながる研究等を行い、その成果を利用者等に提供すること
 ⑥研究実施相談者(研究等を実施するに当たり、研究現場において技術的な指導を実施する者)の育成を図り、研究等を行う利用者の支援を行うこと
 ⑦研究等の実施により得られた結果の解析、加工などの支援を行うこと
などをいいます。

(2)登録機関による共用ビームラインを利用した調査研究等
 改正後においては、登録機関は、施設利用研究の促進のための方策に関する調査研究その他の目的で、共用ビームライン(ビームタイム)の一部を利用できることを明確にしました。
 これは、SPring-8が世界でも比類ない性能を有し、かつ広範な分野で多様な研究等に利用されることにより効果を発揮する施設であることから、登録機関が利用促進業務を行うに当たっては高度な水準の業務を実施する必要があるとともに、その水準を維持するために登録機関自身も調査研究等を実施し、日々研鑽を積む必要があることによるものです。
 なお、登録機関がこれら調査研究等を行うために共用ビームラインを利用する場合は、文部科学大臣の承認が必要となります。

(3)特定放射光施設の共用の促進に関する基本的な方針
 この法律に基づいて理研・登録機関が実施する活動は、利用者の利用環境に大きな影響を与えます。このため、文部科学大臣は、これらの活動に関する基本的な事項をビジョンとして明らかにすることを目的として、特定放射光施設の共用の促進のための活動の基本的な方針(基本方針)を定めます。

 基本方針では、主に以下の事項について定めています。
①共用の促進に関する基本的な方向
②共用ビームライン・専用ビームラインを利用した研究等に関する事項
③共用ビームラインの整備・専用ビームラインの設置に関する事項
④共用ビームラインの運営・専用ビームラインの利用に関する事項
⑤上記の他、共用の促進に際して配慮すべき事項

 登録機関が利用促進業務に関する実施計画・業務規程を作成する際には、この基本方針を踏まえなければなりません。
 また、文部科学省では、今年の秋に行うことが予定されているSPring-8の中間評価報告を踏まえて、基本方針の改定を検討しています。

(4)共用の促進に関する業務の実施計画
 理研・登録機関は、毎事業年度、法律に基づいて行う共用の促進に関する業務の実施計画を作成し、文部科学大臣の認可を受けなければなりません。実施計画では、主に以下の事項について記載することとなっています。
①共用ビームラインの建設・維持管理に関する計画
②共用ビームラインの運転に関する計画
③研究等に必要な放射光の提供に関する計画
④共用ビームラインの利用条件に関する事項
⑤利用促進業務に関する次に掲げる事項
 ア 共用ビームラインを利用して研究等を行う者の選定における基本的な方向
  (重点的に行うべき分野に関する事項、利用時間の配分に関する事項)
 イ 共用ビームラインの利用者の募集・選定の実施に関する計画
 ウ 共用ビームラインの利用時間の設定に関する事項
 エ 専用ビームラインの設置者の募集・選定の実施に関する計画
 オ 利用支援業務の実施に関する計画
 カ 利用支援業務の充実のための措置に関する事項
  (利用支援業務を担当する者の資質の向上のための措置など)
 なお、これらの事項のうち、登録機関が行う業務に関しては、理研はその業務を行わないため、実施計画は作成しません。

(5)登録機関の業務規程
 登録機関は、利用促進業務に関する業務規程を定め、文部科学大臣の認可を受けなければなりません。
 登録機関は、文部科学大臣の登録を受けて理研の業務を代行するなど、共用の促進のための業務を行うこととされています。すなわち、登録機関は、多額の国費を投入した最先端の研究施設であるSPring-8の共用についての判断を委ねられます。また、国から交付金を受けて、その判断の適切な実施とSPring-8の利用の促進を図るものとして位置づけられています。このため、利用促進業務の実施には、公益性、非営利性が十分に確保される必要があります。
 業務規程では、主に以下の事項について記載することとしています。
①共用ビームラインの利用者の募集・選定の方法
②専用ビームラインの設置者の募集・選定の方法
③選定委員会の構成・運営に関する事項
④利用者選定業務の公正の確保に関する事項
⑤研究実施相談者の配置に関する事項
⑥情報の提供、相談、その他の援助の方法
⑦研究者等の安全の確保に関する事項
⑧知り得た情報の管理、秘密の保持に関する事項
⑨利用促進業務の円滑な実施のための理研との連携に関する事項

(6)利用促進業務を行う義務
 登録機関が正当な理由がなく、利用促進業務を行うことを拒否したり、遅らせたりした場合、利用者に大きな影響が出てしまいます。
 そのような事態を避けるために、登録機関は、文部科学大臣から利用促進業務を行うことを求められたときは、正当な理由がある場合を除いて、遅滞なく利用促進業務を行わなければならないことを、法律上の義務として位置づけています。
 また、登録機関は、利用者が利用促進業務を受ける機会が不当に制限されることが生じないように、上記で述べたことに加えて、登録機関が作成し、文部科学大臣の認可を受けた実施計画に従うとともに、公正に、かつ、以下のような基準に基づいて、利用促進業務を行わなければなりません。
①共用ビームラインの利用者・専用ビームラインの設置者の募集を行う際に、あらかじめ申請方法、選定の基準などの必要事項について、刊行物への掲載、インターネットの利用など、広く周知を図れる方法によって公表する。
②共用ビームラインの利用者・専用ビームラインの設置者の選定の結果を公表する。
③選定委員会の委員を選任する際には、委員の職業、専門分野等に著しい偏りが生じないように配慮する。
④利用支援業務を行う際には、利用者の研究等の特性などに配慮する。
⑤利用促進業務に関して知り得た情報の管理、秘密の保持を適切に行う。

(7)財務諸表等の備付け、閲覧等について
 登録機関は、毎事業年度が経過した後3ヶ月以内に、その事業年度の財産目録、貸借対照表、損益計算書(または収支計算書)、事業報告書(これらを併せて「財務諸表等」という。)を作成し、文部科学大臣に提出するとともに、5年間事務所に備えて置かなければなりません。
 また、利用促進業務に利害関係がある人は、備え付けられている財務諸表等の閲覧等を請求することができ、登録機関の財務情報を入手することができます。
 このことにより、登録機関の業務、会計の実態を対外的に明らかにすることにより、利用促進業務が適切に行われていくことを図っております。

4.共用のあり方について
 我が国に一つしか整備されなく、先端的な科学技術に関して他に比類のない性能を有するといった、希少性と最高水準の性能を兼ね備えた施設については、国費による大規模な投資が必要となります。
 これらの施設の中でも、SPring-8や次世代スーパーコンピュータは、広範な分野における多様な研究等に活用されることによって、その価値が最大限に発揮されるものです。このため、これらの施設の共用を促進していくことが我が国の科学技術の振興につながります。
 このような先端的な大型研究施設において、試験、研究、開発等の科学技術に関する活動が活発に行われることは、人類の知見の拡大につながるとともに、その成果が盛んに社会、人の生活などに役立てられていくことにつながると考えております。文部科学省としては、今後もこのような施設の共用を促進していくことを積極的に図っていく所存です。



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794