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Volume 11, No.4 Pages 229 - 232

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

第1期パワーユーザー活動報告(5)
地球深部物質の構造解析
Structural Analyses on the Materials in the Earth’s Deep Interior

巽 好幸 TATSUMI Yoshiyuki

独)海洋研究開発機構 Japan Agency for Marine - Earth Science and Technology

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(1)
〔採択時課題番号/ BL〕
 2003A0892-PU0(BL10XU)
〔課題名〕 地球深部物質の構造解析
〔実験責任者〕 巽 好幸(海洋研究開発機構(採択時は海洋科学技術センター))
〔実施シフト〕
 2003A0892-PU0    0シフト
 2003B2892-PU0    0シフト
 2004A3892-PU1    15シフト
 2004B4892-PU1    24シフト
 2005A5892-PU1    24シフト
 2005B7005-PU1    21シフト
  *************************計84シフト

〔支援課題数〕
 2003A/ 1     2004B/ 4
 2003B/ 1     2005A/ 5
 2004A/ 3     2005B/ 8


〔BL調整来所件数〕
 2003A/ 0     2004B/ 0
 2003B/ 2     2005A/ 0
 2004A/ 0     2005B/ 0


(2)研究目標・目的

 われわれのグループは、本パワーユーザー課題の研究と長期利用課題の研究を同時期に行っていた。このうちパワーユーザー課題では、レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた超高圧高温の発生とX線その場観察実験に関する技術開発ならびに関連する機器の高度化、さらには超高圧高温下における相転移の研究を目的とした。
 また300万気圧以上の超高圧下における高温(2000K以上)の実験を技術開発の目標として設定した。それは、地球のマントルと外核の境界は135万気圧、さらに外核と内核の境界は330万気圧に位置しており、この目標の達成は地球の最下部マントルおよび金属核の物質学的な理解に不可欠と考えたからである。

(3)研究・支援の内容

1)研究内容
 本課題で行われた技術開発と機器の高度化の結果、われわれは地球のマントル最深部の高圧高温状態(135万気圧・2500K)におけるX線回折実験をルーチンで行うことができるようになった。このことはマントル最下部層の主要構成鉱物MgSiO3ポストペロフスカイト相を発見し、観測される地震波速度異常の成因を解明するなど、これまで地球内部でもっとも謎めいた領域とされてきたD”層の理解を急速に進めるきわめて大きな貢献を果たした。さらに、300万気圧・2000Kというこれまでの高温実験(2000K以上)では世界最高圧力の実験が可能になったことにより、SiO2のあたらしい高圧相(パイライト型立方晶構造)の発見に至った。
 ここではパイライト型SiO2(シリカ)相の発見につき、やや詳しく述べる。この成果はScience誌に掲載されている。シリカは地球の地殻やマントル中に含まれるもっとも主要な酸化物であり、また工業的にも広い用途がある。それゆえ、その構造相転移は、地球科学のみならず、物質科学、固体物理の分野でも大きな関心を集めている。シリカの多形は実験的に古くから数多く知られていた。また超高圧下では立方晶の構造をとることが、理論計算により1980年代から予測されていた。しかしながら予測されていた立方晶構造相への相転移圧力は約200万気圧であり、そのような超高圧下の実験はこれまでまったく行われていなかった。今回合成されたパイライト型と呼ばれる立方晶構造相は、これまで知られていたどのシリカ鉱物よりも密度が大きい。271万気圧における密度は6.6g/cm3であり、常圧における石英の密度(2.6g/cm3)の2倍を大きく超えている。ただし、この新相の安定な圧力領域はすでに地球のマントルの圧力範囲(135万気圧以下)をはるかに超えており、残念ながら(?)地球内部には存在し得ない。しかし、シリカは太陽系全体、さらにはおそらく多くの系外惑星の主要成分であり、今回発見された立方晶構造相は天王星や海王星の中心核を形成している可能性がある。
 このように、われわれのグループは現在すでに320万気圧以上の実験に成功しており、内核(330万気圧以上)や地球の中心(364万気圧)まであと一歩のところにいる。このように、実験室で地球中心核の環境の再現を可能にしたことは、地球科学的にきわめて大きなメリットがある。たとえば内核条件における純鉄や鉄合金のX線回折実験により、内核物質の結晶構造と密度、化学組成を明らかにすることができる。われわれは純鉄の高圧相については、すでに内核に近い条件でのデータ取得に成功している。近い将来、核まで含めた固体地球の標準的な物質モデルを世界ではじめて構築することができるであろう。


2)ユーザー支援内容
 われわれのグループの佐多がSPring-8に常駐し、BL10XUに設置されたレーザー加熱システムを用いた研究の支援を行った。レーザーの光学系の調整には時間がかかるため、ユーザータイムを有効に活用すべく、佐多はユーザータイム開始前にすでに調整を終え、さらに実験中もかなり長時間付き添っていた。このことは一般ユーザーの実験を効率的に進めるのにきわめて大きな貢献を果たしたと考えている。事実、本パワーユーザー課題がはじまってから、レーザー加熱システムを用いた研究の課題申請が大きく増加した。現在では全ビームタイムの約半分程度がレーザーを用いた実験に当てられている。
 現在、このようなレーザー加熱システムを用いた高温高圧実験は地球科学の研究が圧倒的に多い。しかし100万気圧・2000Kを超える実験がルーチン化され、300万気圧を超える圧力での高温実験まで可能になったことは、物性物理、材料科学など他分野の研究にも大きなメリットがあるはずであり、今後の積極的な利用を期待している。


3)測定技術開発など、その他内容
 本パワーユーザー課題では、超高圧高温の発生とその場X 線回折測定を可能にするため、BL10XUに設置されている測定機器の高度化を行った。具体的には、加熱用にNd:YLFレーザーと、回折計としてX線CCDカメラを導入した。約150万気圧を超えると試料の大きさは直径30ミクロン以下になる。加熱用レーザーの集光径がこれよりはるかに大きいとダイヤモンドアンビルが容易に割れてしまう。あたらしく導入されたNd:YLFレーザーは、集光性と安定性に優れたレーザーである。このレーザーを導入してはじめて、150万気圧以上における高温実験が可能になった。またX線CCDカメラはわずか数秒で回折データの取得と読み込みができるため、短時間で物質が変化していく高温実験には大いに有益である。併設されているイメージングプレートではひとつのデータ取得に通常10分以上かかるのと対照的である。現在両者は目的に応じて容易に切り替えが可能になっている。
 また微少試料から短時間で質の良いX線回折データを取得するにあたって、JASRIの大石を中心に開発・改良されたX線集光システムは大きな武器となった。本集光システムはX線の強度を上げるばかりでなく、ビームの平行性がきわめて優れているため、ごく微小領域からのみの回折データが得られる。具体的には回折データの中にガスケットからの回折線が入らないことは、研究上大きなメリットである。同種の実験を行っているアメリカのAPRでは、必ずガスケットの回折線が入ってしまい、試料のそれと重なってしまっているのと対照的である。


(4)研究成果目標達成度の自己評価
 本パワーユーザー課題では、300万気圧以上の高温実験を最大の目標に掲げていた。本課題開始時には100万気圧以上と2000K以上の高圧高温下におけるその場X線観察の実験例は世界的に見てもきわめて限られていた。またわれわれのグループはその直前にやっと100万気圧を超える高温実験に成功したところであった。すでに述べてきたように、本研究課題の結果、現在までに300万気圧・2000K以上の高温実験に成功しており、目標を達成することができた。当初の状況を考えるとやや大きい目標設定であったことを考えると、技術開発はきわめて順調に進んだと言えるだろう。またこのような高圧高温発生技術は2本のNature論文と2本のScience論文に代表される研究成果につながっており、本課題は当初の計画以上の成果を挙げたと考えている。


(5)成果リスト
[1] 6361 M.Murakami, K.Hirose, K.Kawamura, N.Sata, Y.Ohishi, Post-perovskite phase transition in MgSiO3, Science, 304, 855-858, 2004.
[2] 6519 T.Iitaka, K.Hirose, K.Kawamura, M.Murakami, The elasticity of MgSiO3 postperovskite phase at the Earth's lowermost mantle, Nature, 430, 442-445, 2004.
[3] 6517 A.R.Oganov, and S.Ono, Theoretical and experimental evidence for a post-perovskite phase of MgSiO3 in Earth's D”layer, Nature, 430, 445-448, 2004.
[4] 6362 T.Kurashina, K.Hirose, S.Ono, N.Sata, Y.Ohishi, Phase transition in Al-bearing CaSiO3-rich perovskite: implications for seismic discontinuities in the lower mantle, Physics of the Earth and Planetary Interiors, 145, 67-74, 2004.
[5] 6338 J.-F.Lin, O.Degtyareva, C.T.Prewitt, P.Dera, N.Sata, E.Gregoryanz, H.-k.Mao and R.J.Hemley, Crystal structure of a high pressure-temperature phase of alumina by in situ X-ray diffraction, Nature Materials, 3, 389-393, 2004.
[6] 7601 K.Hirose, K.Kawamura, S.Tateno, N.Sata, Y.Ohishi, Stability and equation of state of MgGeO3 post-perovskite phase, American Mienralogist, 90, 262-265, 2005.
[7] 7603 M.Murakami, K.Hirose, N.Sata, Y.Ohishi, Post-perovskite phase transition and crystal chemistry in the pyrolitic lowermost mantle, Geophysical Research Letters, 32, L03304, doi:10.1029/2004GL021956, 2005.
[8] 9029 K.Hirose, N.Takafuji, N.Sata, Y.Ohishi, Phase transition and density of subducted MORB crust in the lower mantle, Earth and Planetary Science Letters, 237, 239-251, 2005.
[9] 8714 S.Tateno, K.Hirose, N.Sata, Y.Ohishi, Phase relations in Mg3Al2Si3O12 to 180 GPa: Effect of Al on post-perovskite phase transition, Geophysical Research Letters, 32, L15306, doi:10.1029/2005GL023309, 2005.
[10] 8176 Y.Kuwayama, K.Hirose, N.Sata, Y.Ohishi, The pyrite-type high-pressure form of silica, Science, 309, 923-925, 2005.
[11] 7091 S.Ono, K.Funakoshi, Y.Ohishi, E.Takahashi (2005) In situ X-ray observation of phase transition between hematite-perovskite structures in Fe2O3, J. Phys. Condens. Matter, 17, 269-276.
[12] 7158 S.Ono, T.Kikegawa, Y.Ohishi (2005) A high-pressure and high-temperature synthesis of platinum carbide, Solid State Commun., 133, 55-59.
13. 7622 S.Ono, M.Shirasaka, T.Kikegawa, Y.Ohishi (2005) A new high-pressure phase of strontium carbonate, Phys.Chem.Mineral., 32, 8-12.
14. 8157 A.R.Oganov, S.Ono(2005)The high pressure phase of alumina and implications for Earth's D”layer, Proc.Natl.Acad.Sci., 102, 10828-10831.
[15] 8448 S.Ono, A.R.Oganov(2005)In situ observations of phase transition between perovskite and CaIrO3-type phase in MgSiO3 and pyrolitic mantle composition, Earth Planet. Sci. Lett. 236, 914-932.
[16] 8774 S.Ono, Y.Ohishi(2005)Phase transformation of perovskite structure in Fe2O3 at high pressures and high temperatures, J.Phys.Chem.Solid, 66, 1714-1720.
[17] 7863 H.Yusa, M.Akaogi, N.Sata, H.Kojitani, Y.Kato, Y.Ohishi, Unquenchable hexagonal perovskite in hith pressure polymorphs of strontium silicates, American Mineralogist, 90, 1017-1020, (2005).
[18] 8845 S.Tateno, K.Hirose, N.Sata, Y.Ohishi, Highpressure behavior of MnGeO3 and CdGeO3 and the post-perovskite phase transition, Physics and Chemistry of Minerals, 32, 721-725, 2006.
[19] 9030 K.Hirose, R.Sinmyo, N.Sata, Y.Ohishi, Determination of post-perovskite phase transition boundary in MgSiO3 using Au and MgO internal pressure standards, Geophysical Research Letters, 33, L01310, doi:10.1029/2005GL024468, 2006.
[20] 9031 S.Shieh, T.Duffy, A.Kubo, G.Shen, V.Prakapenka, N.Sata, K.Hirose, Y.Ohishi, Equation of state of the post-perovskite phase synthesized from a natural (Mg,Fe)SiO3 orthopyroxene, Proceedings of the National Academy of Sciences, 10.1073/pnas.0506811103, 2006.
[21] 8857 S.Ono, T.Kikegawa, Y.Ohishi(2006)Structural properties of CaIrO3-type MgSiO3 up to 144 GPa, Am.Mineral., 91, 475-478.
[22] 8967 S.Ono, T.Kikegawa, Y.Ohishi(2006)Structural property of CsCl-type sodium chloride under pressure, Solid State Commun., 137, 517-522.


(プロシーディングス等)
[23] 廣瀬敬・河村雄行、MgSiO3のポストペロブスカイト相転移の発見と地球の最下部マントル、高圧力の科学と技術、14巻、265-274、2004.
[24] 廣瀬敬、マントル最下層物質の結晶構造の発見、パリティ、19巻(12)、58-61、2004.
[25] 廣瀬敬、マントル最下層の新鉱物、パリティ、20巻(1)、56-57、2005.
[26] 廣瀬敬・河村雄行、MgSiO3のポストペロブスカイト相の発見、固体物理、40巻(2)、51-59、2005.
[27] 廣瀬敬、地球惑星内部物質の放射光結晶学、日本結晶学会誌、47巻(4)、247-252、2005.
[28] 廣瀬敬、マントル最深部の新鉱物の発見、科学、8月号、1024-1028、2005.

(口頭発表(招待講演など主だったもののみ))
[1]Fall Meeting, American Geophysical Union, December 2001. “Melting and Chemical Fractionation at CMB”
[2]International Mineralogical Assembly, September 2002. “Role of Phase Transitions in Dynamics of the Earth's Deep Interior”
[3]Fall Meeting, American Geophysical Union, December 2001. “Phase transitions and dynamics at 660-km depth and mid-lower mantle”
[4] The 2nd Workshop on Mantle Composition, Structure, and Phase Transitions, April 2003. “Mineralogy of the deep lower mantle determined by in-situ X-ray diffraction measurements”
[5] Goldschmidt Conference, September 2003. “Mineralogy under the deep lower mantle conditions determined by in-situ X-ray measurements” “Geochemical consequences of core-mantle thermal and chemical interactions”
[6] Spring Meeting, American Geophysical Union, May 2004. “Post-Perovskite Phase Transition in MgSiO3
[7] Gordon Conference, June 2005. “Experimental perspectives of the lowermost mantle; phase transition and chemical reaction with the core”
[8] COMPRES Meeting, June 2005. “Chemical evolution of the lowermost mantle”

また以下の特別セッションと国際ワークショップを本課題の成果をもとに組織した。

Fall Meeting, American Geophysical Union, December 2004, Special session “Discovery of post-perovskite phase transition in the deep lower mantle”
International Workshop on “Post-perovskite Phase Transition in the Earth's Deep Mantle” (the Postperovskite Conference), October 2005, at Tokyo Institute of Technology.



巽 好幸 TATSUMI Yoshiyuki
(独)海洋研究開発機構 地球内部変動研究センター 地球内部循環研究プログラム
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