Volume 11, No.2 Pages 81 - 86
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
SPring-8ホームページの全面刷新
SPring-8 Homepage Renewal
はじめに
「SPring-8のホームページがリニューアルされ、2006年2月21日に公開されました。デザインを一新すると共に、構造も大幅に見直しました。」と、利用者情報誌にこうしてSPring-8の新ホームページ公開の記事を書くにあたり、過去にホームページ更新の記事が何度載ったかを調べてみました。すると、1996年、1998年、1999年と3回あり、今回が4回目で実に7年ぶりになっていました。随分と時間が経っていました。この間に、ホームページはHTMLベースで3000ページを超える膨大なシロモノになり、この他に何百ものPDFファイルがありました。ITの世界は技術の百花繚乱で、計算機の性能も、WWWのソフトウェアも進歩していました。今回のホームページ刷新では、これらの最新技術を広く調査し、惜しみなく投入しています(後述)。
WWW編集委員会
さて、新ホームページがどのように新しくなったか、また、どのような技術を用いて制作されているか(私は制御屋なのでこの手の話が好きです)などを説明する前に、少し、新ホームページ誕生の背景を述べておきたいと思います。
SPring-8のホームページは、高輝度光科学研究センターのWWW編集委員会(図書委員会の下部委員会)で議論された方針のもとに制作されています。今回のリニューアルは、図書委員会から2004年の夏頃に「見直して欲しい」との要請を受け、新しい編集委員長のもと新規に委員会メンバーを募り(口説き落とし)、事務局を入れて合計12名で活動を開始しました。同年秋頃からホームページのあるべき姿をゼロベースから検討し、熱い議論を交わした結果を元に作業を始め、今回のリニューアルが日の目を見ることになりました。
編集委員は、Writer、Editor、Refereeの、W.E.R-3役を背負ってこの更新作業に臨みました。こんな大変な作業になることは「つゆとも知らずに」検討作業は始まりました。旧ホームページからそのまま移動したコンテンツもありますが、多くのページは今回新規に書き下ろすことになりました。これには、編集委員はもとより多くの方々に原稿を執筆して頂きました。委員と事務局の並々ならぬ努力のかいもあって、1年4ヶ月で公開のゴールにこぎ着くことができました。これは、巨大サイトの再構築としては、短時間でできた方だと思っています。
新ホームページは公開されましたので、もう皆様の目にとまっていると思います。もう活用して頂いているかも知れません。それでは、ホームページの設計思想、構成、技術、運用などについて述べていきましょう。
目指したもの
(1)利用促進の強化
今回のホームページは、第一にSPring-8を利用される方、利用できたらいいなと思っておられる潜在的利用者の方々の利便性を考えて作られています。SPring-8を使いたいと思っておられる方が「どうもユーザーになれない」あるいは「SPring-8は使いにくい」と思われるのであれば、それは「SPing-8で何ができるのか」、「どうすればユーザーになれるのか」が分かりにくいのであろうと思われました。今回は、利用を支援するために必要な情報を強く発信でき、利用者の声をフィードバックできる、双方向情報通信の媒体としての役目をホームページに持たせています。特に、SPring-8でこれまでになされた実験の典型例を利用事例集として集め、300を超える利用事例から成る「利用事例データベース」を作成し、検索用キーワードを割り付けて、事例の検索機能を実装したことは今回の目玉と言えます(後述)。是非お試し下さい。
(2)研究成果の発信
SPring-8の運営組織として、財団法人高輝度光科学研究センターが施設の管理運営を行っています。財団の組織には加速器、ビームライン、利用促進部門などがあり、施設を運用する上で、装置を更に磨き上げ、その性能を引き出すために数々の研究が行われていますが、これらの情報発信(研究活動公表)が十分ではありませんでした。今回は新規書き下ろしの原稿を多数掲載し、専門家の方々にも読みごたえのある情報を載せています。
(3)国内外向け情報発信
良い研究成果も利用事例も、日本国内のみの発信では十分とは言えません。今回、英語コンテンツも多くを新規書き下ろしで作成し、日英二カ国語のミラー形式で対応しました。English(Japanese)ボタンを選択すると、現在表示中のページが日英で切り替わって表示されます(トップページまで戻されません)。
また、SPring-8の記事が、Google、Yahooなどの検索サイトの表示上位にランクされるように、検索エンジンに「見つけてもらえる」ような、サーチエンジン最適化(SEO、Search Engine Optimization)に配慮した設計になっています。
トップページと構造
デザインを一新したホームページには、必要な情報に容易にアクセスできるような仕組みが導入されています。トップページ中央画像下には、興味あるページへダイレクトにジャンプ・インできる入り口があります。また、利用研究成果の中でも、ハイライトと言えるものを選抜して、リサーチハイライトとして掲載しています(図1参照)。
(1)タブ
ページ上部の青い帯は「タブ」といい、ホームページ全体の大きな構造を決定しています。タブからは標記の分類で、関連するコンテンツ(内容)に辿っていけます。ホームページの全体を全文検索できるように検索機能も用意しました。
図1 新ホームページのトップページ
・「ご利用の皆様へ」タブは、利用者への必要情報をまとめたページへ導きます。
・「サポート情報」タブは問い合わせの窓口へ、また、各種刊行物のダウンロードができます。
・「施設概要・案内」タブには施設情報、運営組織情報、案内などをまとめています。
・「ハイライト」タブは、輝かしい研究成果のプレス発表とアーカイブ、一般への成果ニュースを載せました。
・「おしらせ」タブには、アナウンス、行事、採用情報など各種のお知らせをまとめています。
(2)ブレッドクラム
タブの真下にある「ブレッドクラム」は、トップページから階層を深く下って行ったときに、自分が訪れたページの深さ(垂直)方向の足跡が表示されます。(例:現在の場所:ホーム→ご利用の皆様へ→初めてご利用をお考えの方へ)
(3)ナビゲーション
ページ左にあるコラムは「ナビゲーション」と言います(トップページにはありません)。ここには自分が今見ているページと、同じ階層にある各ページ(またはフォルダ)が表示されます。これを見れば、同一階層にあるコンテンツ(内容)の水平方向の広がりが分かります。
(4)新着情報、イベント
右側の新着情報の欄には、新規の情報、更新された情報が表示されます。イベントの欄には国際会議、研修会、講習会などの会議開催情報が表示されます。適宜ご覧下さい。
図2 利用事例データベース検索のページ
利用事例データベース
SPring-8でこれまでに多数の放射光利用実験がなされてきました。今回は、これまでに約30本のビームラインを使って行われた典型的な実験例を、ビームライン担当者に依頼して各10件程度選抜してもらい、これらの事例を集めて「利用事例データベース」として実装しました(図2)。
各事例には、実験の説明に加えて、実験手法、装置概要、参考文献、問い合わせ番号などの各種情報を付与し、対象試料(無機、有機、生物等)、測定手法(回折、散乱等)、エネルギー条件など多面的にキーワード分類し、希望の事例を検索して表示できるようにしました(図3-1、図3-2)。産業利用向けのキーワードも用意し、産業分野(半導体、電池等)、製品(触媒、ガラス等)、測定手法などでも、最適な検索が可能となるように配慮しています。
利用事例は現在300件以上有り(日英ではこの倍)、今後とも徐々に増やしていく予定です。
この他にも、一般向けの情報発信など、旧ホームページにあった情報は引き続き掲載しています。国内外の研究機関へのリンク情報、SPring-8へのアクセス情報、サイト内の施設情報、催し物の情報などを載せています。
図3-1 利用事例データベース検索画面(例:測定手法で検索する画面)
図3-2 利用事例データベース検索画面(例:対象試料で検索する画面)
システムと運用
今回のサイトのリニューアルで用いたWebサーバーシステムと、計算機運用に関して少し触れておきましょう。
(1)Webサーバー
多数のコンテンツの管理はもとより、データベース化された利用事例コンテンツの登録と管理、更にはサイト全体の検索機能を強化するために、CMS(Contents Management System)の導入が必須でした。このため、十分なCMS機能を有するWebエンジンを広く探し、オープンソースの「Zope(ゾープ)(http://www.zope.jp/)」を導入し、ゾープ・ジャパン㈱(http://www.zope.co.jp/)の協力を得てサイトを構築しました。
ZopeはCMSに必要なWeb機能、データベース、コンテンツ管理、それにワークフロー管理機能があり、利用事例集はZopeのオブジェクト指向データベースで管理されています。CMS機能を有するPlone(http://www.plone.jp/)を用いると、階層構造になっているコンテンツの保守が容易にできるという利点があります。SPring-8は研究施設であり、日英両言語で書かれたコンテンツが多いことから、編集と表示切り替えがスムーズにできる多言語処理機能(カスタマイズされたLingua Ploneを使用)は魅力的で有用です。各ページの見え方が共通になるためにCSS(Contents Style Sheet)を使って、Look&Feelを統一的に一元管理できるようにしています。
(2)サーバー計算機
以前のサーバー上では、既にできあがったページをちょうど紙芝居(少し古いですが)のように見せていましたので、1台の計算機で処理できていました。その分、情報も能力に合わせたレベルでしか発信できませんでした。一方、今回のWebサーバー上では、利用事例データベースを検索し、サーバーサイドで動的にコンテンツを生成することから、計算機の負荷が高くなることが予想されます。このため、サーバー計算機を高機能化して、図4に示されるクラスター構成としています。
前方処理の参照系Linux/Xeon計算機では、高機能なプロキシサーバーのSquid(http://www.squidcache.org/)と、ロードバランサー機能を有するPound(http://www.apsis.ch/pound/)が走り、キャッシュされたコンテンツを要求元のブラウザーに送っています。キャッシュにないコンテンツが要求された場合は、2台の負荷分散用の参照系Linux/Xeonサーバーを経て、メインの運用系Solaris/SPARCサーバーにリクエストが送られ、動的に処理されます。待機系計算機は運用系Solaris/SPARCサーバーと同一構成で、運用系に故障など発生した場合は、切り替えて使えるようにしてあります。待機系とはいうものの、日頃は更新系サーバーと共にコンテンツ作成に用います。いずれの計算機も安定に連続運用が可能なように、電源を二重化し、十分なメモリとディスクを搭載しています。
図4 ホームページ運用計算機システム
(3)ネットワーク
SPring-8は2006年2月にSuper SINETに1Gbpsで接続されました。広帯域ネットワークの開通で、さらにアクセスしやすく、Web環境も良くなった事と思います。
最後に
SPring-8のホームページがリニューアルされて、このたび公開されましたが、Webによる情報発信はこれからも強化され、延々と続いていくものです。WWW編集委員会では、見やすく、かつ、使い易いホームページとなることを目指して活動していきます。今回、日英両言語で原稿がミラーとなるようにしましたが、なおも、一部の英語原稿が完全には揃っていません。これは今後の課題となります。
ホームページは成長していくものです。すでに準備中のページもあります。今後、コンテンツの追加、デザインの変更など色々と改善されていくと思います。情報がありましたらお知らせ下さい。
動作については、Webブラウザーも各種ある中で、見え方等の試験を行いましたが、全てのブラウザーに対応することは難しく、ブラウザーに依存した違いがあるかも知れません。動作確認済みのブラウザーは、Internet Explorer 6.x、Firefox 1.0.7/1.5.0.x、Mozilla 1.7.1x、Safari 2.0.xです。もし、ホームページに関するコメントなどがありましたら、ページ下段にあるフィードバックからお寄せ下さい。
謝 辞
Zopeを採用するに当たって有益なコメントを頂いたWeb技術に詳しい、古川行人、松下智裕、山下明広の各氏に感謝します。また、計算機運用では、古寺正彦、間山皇のお二人にお世話になりました(今後ともお世話になります)。コンテンツの移動・修正では、早乙女光一、花田昌彦のお二人に手伝って頂きました。事例集の作成では、大勢ゆえ個別に書くことはできませんが、ビームライン担当者の皆さんに大変お世話になりました。担当者皆さんの協力無くして利用事例データベースはできませんでした。事例集の著作権許諾に際しては、家氏裕子、櫻井吉晴、西川健一、三好忍の皆さんにお世話になりました。協力して頂いた皆様に、この紙面を借りて感謝したいと思います。
最後に、ホームページリニューアルを力強く支援して頂きました植木龍夫前図書委員長、そして下村理図書委員長に感謝いたします。
WWW編集委員および事務局
井上直行、大橋治彦、岡田行彦、尾崎隆吉、神辺圭一、鈴木昌世、鈴木基寛、鈴木芳生、田中均、田中良太郎(委員長)、原信弘、廣沢一郎。
田中 良太郎 TANAKA Ryotaro
(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
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