Volume 11, No.2 Pages 77 - 80
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
SPring-8運営の2者体制について
Two-party Framework Implemented in SPring-8 Management
1.はじめに
SPring-8は、平成17年(2005年)10月から独立行政法人理化学研究所と財団法人高輝度光科学研究センターとの2者体制で運営されています。利用者の皆さんにとって「2者体制」という言葉は初めて目にする言葉かもしれません。実際SPring-8を利用する上で、そんな言葉を知る必要はないという態勢を整えることが、2者の目指しているところであり、理想であります。ここではそのような運営体制について、これまでの経緯を含めて説明いたします。これによって内部の努力を理解していただければ幸いです。
2.3者体制から2者体制へ
3者体制とは
SPring-8の歴史を簡単に振り返りますと(表1)、1980年代後半に日本原子力研究所(原研)と理化学研究所(理研)とが共同でSPring-8の建設を計画し、時を同じくしてSPring-8の運営のために高輝度光科学研究センター(JASRI)が財団法人として設立されました。この原研、理研及びJASRIが3者です。
表1 SPring-8の簡易年表
1991年に建設が開始されてから供用が開始されるまでの間に、いわゆる共用促進法又はSR法と呼ばれている「特定放射光施設の共用の促進に関する法律」が制定されました(1994年)。この法律の目的は、特定放射光施設(SPring-8)の共用を促進して、科学技術に関する試験研究基盤の強化と国際交流の促進を図り、科学技術の振興に寄与することです。この法律は、理研と原研がSPring-8の設置者としての業務を受持ち、放射光利用研究促進機構に指定された財団法人が供用業務と支援業務を行い、なおかつ運転維持管理も行うと決めています(図1)。噛み砕いて言えば、理研と原研は自分の研究のためにSPring-8を作りますが、そればかりでなく広く研究者・技術者が利用できるように共用施設も作りなさい、この共用施設の運営は放射光利用研究促進機構(すなわちJASRI)に任せなさい、というものです。こうして3者体制がスタートしました。法令の概念はそれとして、実際にはそれぞれの機関が培ってきた経営風土が異なり、SPring-8の運営資金が3者に分割されているところに、3者体制の難しさがありました。事実、調整に時間がかかり意思決定の迅速さに欠けるという批判をしばしば受けました。
図1 3者時代の共用促進法
総合科学技術会議の評価(平成16年(2004年)
この点は、翌年度の科学技術関係施策を評価して優先順位をつけている総合科学技術会議の評価結果に現れるところとなりました。
総合科学技術会議の平成17年度施策の評価(平成16年実施)
①世界で屈指の大型放射光施設として、実験、成果ともに多大であり、科学的・経済的・社会的意義は十分に高いものである。今後とも優れた科学的・技術的成果が得られるよう、研究者・利用者を主体とした適切な運営がなされる必要があり、そのための基盤的な運転費の確保は重要である。
②従来は、原研・理研・放射光利用研究促進機構の3者が施設の維持管理、供用促進業務等を実施してきたが、平成17年10月以降は後2者がこれら業務を行うこととしている。しかしながら、資金の投入方法や運営体制は依然として複雑であり、より透明性が高く、効率的な運用システムが望まれる。
③以上から、本計画については、研究者・利用者の要望等を適切かつ効果的に反映し、運営面でより効率的な実施に向けた努力をすべきと考える。
2者体制へ
平成17年10月、原研が、核燃料サイクル開発機構と統合されて独立行政法人日本原子力研究開発機構となる機会にSPring-8の運営から撤退することとなり、原研の業務は全て理研に引継がれることとなりました。ここに理研・JASRIの2者体制がスタートしました。
この時期は、また、SPring-8の供用開始後8年が経過しており、本格利用期としての運営を充実させるべき時期でした。この機会をとらえて、2者体制においては、SPring-8のより一層の利便性、効率性を追求して引き続き高い成果を輩出していけるような運営体制を組むことが重要と認識しました。
2者体制をスタートするにあたっての基本方針は、次のように述べることができます。すなわち、SPring-8の運営については、JASRIと理研の責任分担を明確にしたうえで、極力「擬一者的」に行う。
すなわち、概念的には、理研は施設所有者および運営業務委託者の立場としての業務が、JASRIは供用業務及び理研から委託を受けて行う運転管理やそれに関連する高度化研究等の業務がそれぞれの責任範囲であり、外部の利用者から見た場合にはいわば「SPring-8共同利用センター」として一体的に運営されることです。
この方針のもとに真っ先にしたことは、理研とJASRIの経営層をメンバーにして「SPring-8運営会議」を設けてSPring-8に係わる意思決定の迅速化と情報交換の緻密化を図ったことです。
このことは総合科学技術会議においても評価されるところとなりました。
総合科学技術会議の平成18年度施策の評価(平成17年実施)
①世界で屈指の大型放射光施設として、多数の高い水準の成果を産み出してきた実績を持ち、科学的・経済的・社会的意義は高い。
②運営体制は利用者から見た一元的窓口体制の構築など、昨年度に比べ、より効率的で透明性の高いシステムへ転換しようという努力がなされている。
③以上から本施策は着実に推進すべきである。
3.2者体制のめざすところ(SPring-8の利用者にとって)
図2 SPring-8の運営環境
SPring-8の運営環境は図2のようになります。2者体制は、なによりも利用者にとっての体制、世界最高の成果を輩出できる施設としての体制でなければなりません。このため次の2点を目標としています。
(1)世界最高の放射光を利用できるよう、性能、利用環境の維持、向上を図ります。
SPring-8の魅力は世界最高の放射光を利用できることにあります。JASRIは主として既存技術の高度化研究開発を担い、理研は主として研究者の自由な発想に基づく研究開発を担いつつ、相互に連携を取りつつ性能、利用環境の維持、向上を図ります。利用者を通してSPring-8の成果が社会に役立っていることが示されることが、とりもなおさずSPring-8の存在意義を高めることになります。
この目標上に新規ビームラインの建設、整備があります。SPring-8にはまだビームラインを建設できるスペースがあります。遊休施設として終わらせることのないよう努力が必要です。また、X線自由電子レーザー(XFEL)の研究開発、建設もあります。これは理研が国家プロジェクトとして建設するものですが、完成の暁にはSPring-8の共用設備として活用するようになると考えられます。
(2)利用者から見た場合、JASRIが対応窓口・玄関となり、SPring-8を一体化した形で運営し、利用者支援を行う。
理研とJASRIの経営幹部でSPring-8運営会議を定期的に開催し、情報交換、意思決定を行っています。SPring-8の運営費は利用者に負担していただいている部分もありますが、大部分は国からの資金です。今後減ることはあっても増えることは無いとの覚悟で効率的運営を行って、利用者の利便性を確保して行かなければなりません。JASRIがいわばSPring-8のポータルサイトとして、利用者の意見、要望を的確に把握して、理研の施策あるいは国の施策として実現を図ってまいります。
一例として、メールインサービスの実施を計画しています。JASRIが窓口になり、当初は理研の技術、ノウハウを利用してスタートしますが、早い機会にJASRIの業務すなわちSPring-8の業務として軌道に乗せたいと考えています。
2者体制は、利用者にとって意識してもらう必要のないことが最善ですが、SPring-8運営資金の流れを見ると相変わらず複雑です(図3)。細分化されればそれだけ融通の利く範囲が狭まりますので、間接的に利用者にもディメリットになります。今後機会あるごとに2者及び国とで束ねていく努力を行っていきます。
図3 SPring-8運営資金の流れ
4.2者体制の将来
今通常国会(第164回、平成18年1月20日召集、会期150日)中にも共用促進法が改正される予定です。JASRIにとって最も大きな変更は、法律上の位置づけが現状の文部科学大臣指定の放射光利用研究促進機構から新たに登録施設利用促進機関となり、法定業務も利用促進業務に限定されることです。この登録施設利用促進機関の具体的業務は、利用者の選定を主として行う利用者選定業務と利用者に対する情報の提供、相談その他の援助を行う利用支援業務とからなります。この利用者選定業務は、学識経験者からなる選定委員会の意見を聴いて登録施設利用促進機関が責任を持って行うことになります。
この変更は、理研の独法化、原研の独法化以上のJASRI設立以来の衝撃です。しかしながらJASRI無しでSPring-8の運営は不可能なので、今後とも2者体制の下、理研とがっちりスクラムを組んでSPring-8を運営していきたいと考えています。一方、その自負に甘えることなく、SPring-8の運営にはJASRIが不可欠であると広く社会に認めてもらえるような努力も必要であり、法の庇護から飛び出して、公益を忘れることなく財団法人としての活動も広げていきたいと考えています。それが利用者の利便性をより一層高めることになると考えられるからです。