Volume 11, No.2 Pages 72 - 74
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
2006A利用研究課題選定委員会を終えて
Report of the Proposal Review Committee on the 17th Public Research Term 2006A
東京工業大学 応用セラミックス研究所 Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology
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1.はじめに
第5期(平成15年4月~平成17年3月)に引き続いて第6期(平成17年4月~平成19年3月)も課題選定委員会主査をお引き受けしました。そして早いもので、もう1年間が経とうとしています。今まさに、SPring-8を取り巻く環境は大きく動いているところであり、課題選定の在り方にも厳しい目が向けられています。諮問委員会の下に設置された共用ビームライン運用方法検討委員会において、課題選定の仕組みや利用研究課題選定委員会の在り方が検討されました。第5期より課題選定にレフェリー制度を導入したことや、審査に研究成果を反映させたことなどが評価され、課題申請にやさしいホームページを充実させることを前提に、分科会の分類などは現行システムを継続することになりました。本報告では、まず、2006A期の課題選定の経緯と特徴を簡単に述べた後、2006B期から始まる課題選定に係わる変化について、簡単に触れてみたいと思います。
2.今期の課題募集と審査
今期17回目の課題選定を行いました。2006A期の選定結果は、本利用者情報誌に詳しく掲載されています。対象期間は2006年3月の第1サイクルから7月の第4サイクルまでで、共同利用の配分シフト数は、225シフト(1シフトは8時間)です。一般利用研究課題600件と重点研究課題326件の総計926件の応募に対し、採択は一般利用研究課題463件と重点研究課題246件の総計709件となっています。
課題選定には専門委員制(レフェリー制)が導入されており、レフェリーの評価点は規格化した上で使用されています。また、サイエンス中心に審査する対応分科とビームラインにも目を配る責任分科との関係が縦糸横糸的にうまく機能するようになってきており、より公平な課題選定が行われていると考えています。2005A期からは研究成果の評価結果が課題審査に反映されていますが、その対象となる課題数はまだかなり限定されたまま(マイナス評価0.4%、プラス評価3.6%)です。そして現在のところ、課題選定基準の変更は行われていません。このようなレフェリー制のもと、事前評価と一般課題分科会による最終審査を行いました。その結果を受けて、12月20日開催の第39回利用研究課題選定委員会で、上記課題が選定されました。平和目的であること、共用ビームラインで一般利用研究課題の占める割合が50%を切らないこと、選定した課題についてシフト充足率を満足させること、挑戦的な課題に充分な配慮をすることに留意しました。大学院生が課題責任者で指導教官の承認を受けた上で申請する萌芽的研究支援課題は、28課題の応募に対し18課題が選定され若手支援を受けることになります。萌芽的課題の審査は、他の一般利用研究課題と同じ条件で行われました。
一般利用研究課題と重点ナノテクノロジー総合支援課題を含めた研究分野別での採択数は、生命科学85件、散乱・回折254件、分光77件、XAFS 54件、産業利用52件です。別に重点タンパク500課題の採択が94件あり、シフト枠のみの確定を行っています。また、重点ナノテクノロジー総合支援での応募は96件あり59件が採択されました。採択されなかった37課題については、一般利用研究課題枠で再審査され、20課題が一般課題として採択されました。
長期利用は3年間にわたって計画的に利用できる一般利用研究課題ですが、各期にビームタイム配分枠の20%までを限度に優先的に使えます。今期は、1件の応募があり書類審査と面接審査の結果、採択されました。その課題名は、「共存する電荷秩序が作る機能と構造:電荷秩序ゆらぎの時間・空間分解X線回折」(2006A0001、寺崎一郎、早稲田大学、BL02B1)で、有機サイリスタと呼ばれる有機伝導体を中心に、その電荷秩序局所構造と伝導物性がもたらす機能との相関を放射光X線精密構造解析することを目指しています。非線形伝導現象に関わる電流発振現象は、従来の光励起とは一線を画し、電流通電による構造ダイナミクスとして新展開が期待できると評価されました。
2006A期に有効な長期利用課題は、2003B採択Cramer課題(BL09XU)、2003B採択村上課題(BL41XU)、2003A採択小賀坂課題(BL20B2)、2005A採択Fons課題(BL01B1、BL39XU)、2005B採択Lewis課題(BL20B2)、2005B採択雨宮課題(BL20XU、BL40B2)、2005B採択財満課題(BL47XU)、および2006A採択寺崎課題(BL02B1)です。長期利用課題は実験開始後2年で中間評価を受けます。2005年10月18日には小賀坂課題の中間評価が行われ、3年目も実施することになりました。2002A期に開始した小泉課題(BL08W)と2002B期に開始した守友課題(BL02B2,BL40XU)が終了し、11月17日に開催のSPring-8シンポジウムの中で事後評価が行われました。公開での成果発表と質疑応答に続き、事後評価委員会による評価が別室で行われました。評価結果は、諮問委員会の了承を得た上で公表され、成果については利用者情報誌に解説記事が掲載される予定です。
第6期の課題選定での大きな変化は、2005B期からSPring-8戦略活用プログラム(重点領域指定型)が新たに導入されたことです。当初(2005B期の課題選定では)、一般利用研究課題枠への多大な影響が懸念されたため、2005年5月12日開催の利用研究課題選定委員会で議論し、以下の3点をJASRIに要望しました。すなわち、(1)2005B期は緊急事態であるが最初から諦めず、一般課題枠50%を目指す。たとえ困難でも50%に近づける努力が必要であり、施設留保枠や重点枠等についても柔軟に考え、ビームライン全体のバランスをとる。(2)マシンスタディやビームライン調整についても議論し、実質的にビームタイムが増える工夫を望む。(3)最低限、2005A期と2005B期を合わせて、一般課題枠が50%を切らないことが重要である。と要望しました。実際には、総ビームタイムの増加、課題の一部を2006A期3月に配分、ビームラインの割り振りなどの対処で、一般課題枠50%以上が確保されました。配分結果を見てみますと、2005B期の全体的な影響として、一般課題への応募数が8%程度減少したことがあげられます。募集の重点が産業利用に置かれていたために応募に偏った集中が起こり、前回に比べ採択率が極端に低いビームライン(BL01B1、BL20B2、BL20XU、BL40XUなど)が出ました。ビームラインBL19B2、BL25SU、BL27SU、BL47XUなどでも採択率が相当低くなっています。この問題に関しては、ステーションの再配置などで可能な限り対処がなされてきています。また、一部のビームラインで成果専有課題が増加したことは特徴的でした。
2006A期4月分以降の戦略活用プログラムは、今回、2006A期で平成18年度前半分として公募されました。その選定結果は、本利用者情報誌の別記事に掲載されています。各ビームラインにうまく分散されているためか、一般利用研究課題への影響は落ち着いたものになっています。前に述べましたが、共用ビームラインで一般課題の占める割合は56%程度と50%以上を確保しています。また、ほとんどのビームラインでの一般課題の選定割合も50%を超えています。
3.これからの課題選定
SPring-8は本格的な利用時期に入っていますが、巨額な費用で建設され維持にも膨大なお金がかかる大型施設ですから、そこで出される成果について厳しく問われています。そのためにまず、SPring-8側が広範な研究分野を俯瞰し、成果が見込める利用研究テーマを主体的に設定する重点領域指定型の利用研究課題が導入されました。これは施設が主導する公募研究です。その他にも、非公募のパワーユーザーが、ビームラインでの研究をリードし最大限の成果を目指す利用も実施されています。このような利用枠の重点化に加え、利用者支援旅費の廃止、寒剤など利用研究に直接的に関わる消耗品経費の利用者負担の答申など、SPring-8のまわりでは大きな環境の変化が出てきています。
このような背景の中で、ついに2006B期からは、消耗品実費の利用者負担とビーム使用料を徴収する成果公開・優先利用枠の制度が実施に移されます。この優先利用枠は、大型研究費を獲得することですでに評価を得た個人的な課題で、SPring-8利用が不可欠な研究を対象にします。成果公開を前提に優先利用料金を払うことで、簡単な審査を受けるのみでビームラインが利用できる制度です。簡単な審査とは、安全審査、技術審査、およびSPring-8を利用する必要性の審査です。二重審査を避けるとの考えからSPring-8での通常の課題審査を避け、優先的にシフト配分されます。ただし、優先利用枠には、全ビームタイムに占める割合、ビームラインごとの利用時間シフト数、および、単一課題での利用可能なシフト数に上限が決められています。また、適正な審査が実施されているかどうかは、毎期ごとに利用研究課題選定委員会が評価することになっています。
前章で述べましたが、課題選定では一般課題が50%以上になるような限度枠を堅持してきました。これは、国内外の全ての利用者や研究分野に公平な利用機会を提供するために考えられましたSPring-8の課題選定の基本理念です。しかし、各種プロジェクトの導入に伴い、一般課題枠を50%以上確保することが困難になりつつあります。2003A期までは留保枠以外はすべて一般課題枠でしたが、重点課題や非公募課題が増えてきました。実際に2005年度後半には、シフト枠調整の段階で一般課題枠50%以上の確保が困難になりました。一般課題が多様化した結果であり限度枠に固執すべきではないのかもしれませんが、一般課題枠の確保で、より大きな成果がSPring-8全体で得られると期待できます。このような議論を踏まえ、今後も課題選定の基本理念を堅持していくためには、重点領域課題でも公募により一般課題並みの公平性・透明性を確保することが重要であると諮問委員会で判断されました。答申では、今後は公募・非公募の区分を重視し、公募課題枠を50%以上確保することになりました。
今後とも、SPring-8の発展と共同利用に寄与するために、課題選定委員会として出来る限りの努力をする所存です。何卒、ご理解とご支援を賜りますよう、よろしくお願い致します。
佐々木 聡 SASAKI Satoshi
東京工業大学 応用セラミックス研究所
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