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Volume 10, No.6 Pages 382 -383

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

産業利用成果発表会報告
Symposium Report on Industrial Applications

廣沢 一郎 HIROSAWA Ichiro

(財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

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 第二回産業利用報告会が9月5、6日の2日間、SPring-8放射光普及棟で開催された。それまで別々の日程で個別に行われていた産業界専用ビームライン(サンビーム BL16XU、BL16B2)成果報告会、BL19B2を中心に複数の共用ビームラインで実施されたトライアルユース課題の報告会、及び兵庫県ビームライン(BL24XU、BL08B2)の成果報告会を同時期に開催することにより、産業利用分野のSPring-8ユーザーの技術交流と情報交換及び親睦を促進しようと、昨年はじめての試みとして産業利用成果報告会を開催した。昨年の報告会は、サンビーム、ひょうご科学技術協会、及び高輝度光科学研究センターのそれぞれが個別に報告会を行うとの形式であったが、本年はサンビーム、ひょうご科学技術協会、高輝度光科学研究センターが共催する合同報告会として行われ、名実ともに産業利用報告会となった。



発表会の様子

 5日の12時30分に高輝度光科学研究センターの吉良爽理事長、石川正行産業用専用ビームライン建設利用共同体運営委員長(東芝)、千川純一先端科学技術支援センター所長の挨拶で開会した。これに引き続いて13時より15時まで行われたサンビームの口頭発表では、“電子部品グリーン調達用クロメート膜中6価クロムのXANES分析”(富士通研究所、野村氏)、“超高品質SiC単結晶のトポグラフを用いた欠陥評価”(豊田中央研究所、山口氏)、“Bi系超電導線材の焼結過程のin-situ評価”(住友電気工業、飯原氏)、“CoPtCr-SiO2垂直磁気記録媒体高密度化のための放射光X線およびTEMによるナノ構造解析”(富士電機アドバンストテクノロジー、久保木氏)、“X線マイクロビームを用いた電線絶縁材料の微小部分析とイメージング”(日立製作所、山崎氏)、“電気化学キャパシタ電極材料のin-situXAFS解析”(関西電力、田中氏)とBL16XU、BL16B2での研究成果を中心に6件の報告があった。エレクトロニクスや鉄鋼、自動車などさまざまな産業分野の企業13社で構成された産業用専用ビームライン建設利用共同体らしく、研究対象も多岐にわたっていることを印象づける発表であった。さらに、マイクロビームやXAFSなど挿入光源と偏光電磁石光源の両方を有したサンビームの特徴を十分アピールした発表であった。
 5日午後の後半にはトライアルユース課題を中心に共用ビームラインの利用成果に関する報告が行われた。発表された7件は、“XAFSによるPET用シンチレータ材料の局所構造評価”(日立化成工業、八木氏)、“XAFSによる新規PDP用青色蛍光体CaMgSi2O6:Euの発光中心の解析”(徳島文理大学、國本氏)、“白色LED用緑色蛍光体Ca3Sc2Si3O12:Ceの発光特性と局所構造”(三菱化学科学技術研究センター、下村氏)、“XAFS法による水素貯蔵材料に添加した触媒の化学状態分析”、(広島大学、市川氏)、“放射光を利用した太陽電池用多結晶シリコンの評価”(豊田工業大学、大下氏)、“微小角入射X線回折による液晶配向膜表面構造の解析”(チッソ石油化学、平野氏)、“微小角入射X線散乱による鉄不働態皮膜の原子動径分布解析”(兵庫県立大学、山下氏)と、蛍光材料関連の発表が半分近くを占めたが、これは昨年度のトライアルユースの重点テーマである“微量、薄膜”を反映したものである。
 兵庫県ビームラインの口頭発表は、6日の午後に行われた。“微小結晶からの構造解析”(住友化学、柳氏)、“エラスターゼと阻害剤の複合体の結晶構造解析”(大日本製薬、火山氏)、“医薬品化合物の微小結晶の結晶構造解析”(小野薬品工業、小田垣氏)、“自己組織化膜の表面回折”(リコー、谷氏)、“X線回折法によるガスタービン用Ni基超耐熱合金の劣化診断法の開発”(新産業創造研究機構、宮下氏)、“放射光を用いた医薬品化合物の粉末X線回折”(大日本製薬、今吉氏)、“マイクロビームX線回折をもちいた凹凸面上のInGaAsP組成変動の評価”、(日本電気、泉氏)、“高分解能X線回折による半導体結晶歪み解析”(富士電機アドバンストテクノロジー、田沼氏)、“X線マイクロビームによる高分子微細構造解析”(クラレ、大石氏)とA、B、Cの各ハッチごとに3件、計9件の発表と各実験ハッチの紹介がおこなわれた。製薬、電気、化学など多くの異なった業種の発表があり、幅広い産業分野で放射光利用が有効であることを示す発表となった。更に、研究発表に引き続いて現在立ち上げ調整中である二本目の兵庫県ビームラインBL08B2の紹介も行われた。
 ポスター発表は6日の午前をコアタイムとして行われた。サンビームの発表全22件の中には次世代LSI用ゲート絶縁膜に関する研究が異なる機関から複数件発表されるなど、現在注目されている研究対象の傾向がよく現れていた。また、4、5社が共同で行った研究成果も発表され、共同体が運営しているサンビームの特徴を活かした活動が活発化していることを見て取ることができた。トライアルユースを中心とした共用ビームラインのポスター発表は、皮膚や毛髪を対象とした発表など、共用ビームラインそれぞれの特徴を活かした27件の成果が報告された。兵庫県ビームラインからは兵庫県地域結集型共同研究事業の概要やBL08B2の概要など6件の発表があった。ポスター会場となった普及棟中講堂には2時間のコアタイムの間中、発表を聞くために多くの人が訪れ会場のあちこちで活発な議論が行われていた。



ポスター発表の様子

 今回の報告会では、成果発表の他に5日の口頭発表の後、BL16XU、BL16B2、BL19B2、及びBL24XUのビームライン見学会を行った。見学会は時間が短かった上に参加人数が予想をはるかに上回ったため、大変慌しいものになってしまったが、普段利用しないビームラインを間近に見る機会があったことは概ね好評であった。
 参加者に記入していただいたアンケートより、開催場所や予稿集の形式、開催案内の方法、口頭発表、ポスター発表の時間配分、見学会の時間や方法など改善すべき事項が明瞭になったため、次回以降は可能な事項から改善し産業利用報告会を一層充実したものにしたい。昨年と同様、今年も台風が接近する中での開催となったにもかかわらず(台風を避けた開催時期の設定も重要な検討事項のひとつ)第二回産業利用報告会への参加者は合計217名で今年も盛会であった。報告会や懇親会の準備、運営にご協力いただいた皆さん、ご参加くださった皆様への感謝の言葉でこの報告を終わりにしたい。“皆様、ご協力ありがとうございました。また来年もよろしくお願いいたします。”

廣沢 一郎 HIROSAWA  Ichiro
(財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0924 FAX:0791-58-0988
e-mail : hirosawa@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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