Volume 10, No.6 Page 366
理事長の目線
10月1日からSPring-8の経営体制が変わった。すでにご承知のことと思うが、原研(原子力機構)が経営を離れ、JASRIと理研による、いわゆる二者体制になった。供用開始後8年間に蓄積した経験を生かして、運営の改善を行う良い機会であると思う。
JASRIはSPring-8の運営が任務で利用者および広く社会への玄関となっている。一方、理研は土地および施設の所有者として施設全体の責任を負っている。
SPring-8の運営に関して国が支出する費用は、共同利用を直接支援する費用を除いて大部分は理研に支払われ、理研はその資金によって、施設の維持・管理業務をJASRIに委託している。政府から直接JASRIに来る資金は、利用者支援に関する分であり、例えば利用業務部などの事業をまかなっている。施設に関して言えば、理研は大家でJASRIは店子である。したがって、台風で屋根が壊れたときには修理費は理研が調達した。また、利用実費徴収の決定において施設側の責任を負ったのも、予算的に当事者能力のある理研である。
2者体制への移行を機に、理研は理研内部におけるSPring-8運営に関する裁量を、播磨研究所の首脳に任せる態勢を取り、早い動きが出来るようにした。これを受けて、理研とJASRIはSPring-8の運営の基本的な議論をする場所として、両方の代表者(各8名程度)からなるSPring-8運営会議を設置した。これに相当する会議は三者体制時代にもあったが、それはどちらかといえば行政的、事務的な調整が主であって年2回程度行われていた。新しい体制においては、この会議を衣替えして、重要な原則はまずここで議論することにして、当面は月1回くらいの頻度で開く予定である。
この運営委員会の下部組織として、高度化計画検討委員会を設置した。この設置の直接の動機は、研究、技術に関する問題を、理研とJASRIでどのように仕分けるかを決めるためであったが、そのために必要な施設の発展計画の議論もここで行われることになり、この委員会は重要な役割を担う事になった。なお、今話題の理研のXFELについては、この委員会では処理しきれない要素を含むので別に検討を行うが、将来はSPring-8の次世代機として共同で運営に当たることを前提として、可能な協力をして行くという方向は定まっている。
SPring-8のビームラインの行政的分類は、共用、専用、理研(かっては原研・理研)加速器診断と分かれているが、外から見たときは、SPring-8は一つなのである。成果を外国と比べられるときにも、事故が起きたときにも外部からの認識はSPring-8である。そしてその対応の玄関はJASRIである。しかし、実際に改善や新しい展開を行うには、施設と予算を管理する理研の力が必要である。この度、理研との協調態勢を強めたことにより、事業がより効率よく展開することを期待している。
いま、国の大型共用施設のあり方については、国レベルの議論がたけなわで、近く放射光利用促進法の改正を行うべく準備が行われている。その議論には、JASRIの位置づけや事業内容の一部が変わる可能性を含んでいると聞いているが、詳細はまだ明らかではない。上に述べたことはあくまで現制度を前提とした議論であり、近い将来この前提が動く可能性がある。環境の変化によく適応できたものだけが生き残る(ダーウィン)と言う言葉を信じて、ゆれ動く社会の中でSPring-8が活性を維持できるように対応して行きたいと思う。