Volume 10, No.2 Pages 129 - 130
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第18回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム報告
Report of the Joint Symposium on the 18th Annual Meeting of Japan Synchrotron Radiation Society and Synchrotron Radiation Science
第18回年会・放射光科学合同シンポジウムは2005年1月7日から9日まで佐賀県鳥栖市のサンメッセ鳥栖で、組織委員長=高田昌樹(JASRI・主席研究員)、プログラム委員長=鎌田雅夫(佐賀大・教授)のもと開催されました。今年の年会では予想を大幅に超え、口頭発表72件、ポスター発表356件と昨年並みの発表が行われました。また、22件の企画講演と2件の特別講演が行われました。参加登録者は607名にものぼり、最大の年会であった前回の参加者623名に匹敵する規模となりました。学生の参加者が120名と例年の倍近くにものぼったことも今回の年会の特徴です。年会が開かれた鳥栖市では、地域産業の高度化と新規産業の創出等を目的とした九州で初めてのシンクロトロン光応用研究施設の整備が佐賀県により進められています。放射光利用の全国的な関心に加え、地元の九州地区での関心も高くなってきたことによるものと思われます。また、8日、9日と行われた特別展示会にも39社の企業からの出展があり、活発な情報交換が行われました。
年会初日は、3つの企画講演のほかに各施設の利用者懇談会と総会が行われました。企画講演1『軟X線多層膜光学素子性能の進展』では4組の研究グループにより、多層膜光学素子の現状や適用範囲を拡大する最近の研究開発に関して、企画講演2『放射光利用による生態系環境試料分析の現状と展望』では4名の研究者により、生態系環境試料分析における放射光利用の現状紹介と将来の展望に関して、そして、企画講演3『テラヘルツコヒーレント放射の最近の展開』では、4名の研究者により1898年に電子線ライナックから初めて観測されたテラヘルツコヒーレント放射への国内各施設の取組や今後の展開に関しての講演がそれぞれ行われました。総会では今年の学会奨励賞に選ばれた3名の若手研究員の紹介と賞の授与式が行われました。受賞者と受賞理由は、雨宮健太氏(東大院理)『軟X線分光器の開発とそれを用いた新規手法による表面化学、表面磁性の研究』、原田慈久氏(理研)『軟X線発光の偏光依存性の研究とその応用』、矢代航氏(物質機構)『多波回折現象を利用した位相問題の研究とSiO2/Si界面下の歪み解析への応用』、です。利用者懇談会と平行して、建設が進められている九州シンクロトロン光研究センターの見学会が開催されました。見学会への参加者は309名と、予想以上の参加があり、見学会会場への輸送手段として用意したシャトルバスを増便するほどでした。
2日目は6つの口頭発表のセッション(写真1)と、ポスターセッション(写真2)が行われました。夕方からは東レリサーチセンターの石田英之副社長による『ナノテクノロジーを支える分析評価技術』、そして、タイ王国スラナリー工科大学の石井武比古教授による『発展途上国での先端科学研究−タイ王国の放射光研究の場合』の特別講演を行っていただきました(写真3、4)。これら年会行事のほかに今回は九州地区で開かれる初めての放射光学会ということで、一般市民へ広く放射光利用を知ってもらうことを目的に、市民公開講座『SAGAシンクロトロンって何だろう?』を開催しました。市民講座では佐賀シンクロトロン光計画の事業推進者である古川康佐賀県知事から、幕末から明治維新に先端科学技術を担った佐賀藩になぞらえ『シンクロトロンは21世紀の精錬方−佐賀県が期待するもの』のテーマで講演をしていただきました。理化学研究所北村英男主任研究員からは『シンクロトロン光って何だろう?−未来を拓く魔法のランプ』のテーマで放射光の原理や特徴の解説をしていただきました。東京理科大学中井泉教授からは『シンクロトロン光で何が見える?−五島列島のウナギの不思議な生態?有田か九谷か?ヒ素を蓄積する植物や犯罪捜査の話 などなど』のテーマで、放射光利用の実績の紹介の他に、今後、期待される研究や技術開発についてのお話しをしていただきました。。会場は立見が出るほど盛況でした。市民公開講座終了後には、地元の高校生から講師に質問が出るなど、鳥栖市の北の端で進められているシンクロトロン計画への地元の人たちの関心の高さが伺えました。特別講演終了後、年会会場近くのホテルビアントスで懇親会が238名もの参加者を集めて行われました。下村会長の挨拶に始まり、和やかな雰囲気のもと行われました(写真5)。最後に、次期開催地の名古屋地区の代表として名古屋大学の竹田先生から挨拶が行われました。
写真1 口頭発表
写真2 ポスター会場
写真3 特別講演:東レリサーチセンター 石田氏
写真4 特別講演:タイ王国スラナリー工科大学 石井氏
写真5 懇親会
最終日は3つの企画講演、6つの口頭発表のセッション、そしてポスターセッションが行われました。企画講演4『タンパク質の超高分解能構造解析』では3名の研究者によりタンパク質の結晶化法、データ収集、精密化など構造解析の問題点や構造と機能との関連に関して、企画講演5『極紫外・軟X線高輝度放射光源が拓くバイオ・ナノ顕微分光』では4名の研究者により極紫外・軟X線高輝度光源により飛躍的な発展が期待されるバイオ・ナノ顕微分光に関して、企画講演6『未来の放射光の役割−励起光としての放射光が拓くサイエンス』では3名の研究者により励起光としての放射光の利用の可能性に関しての講演がそれぞれ行われました。
放射光利用の広がりとともに年会の参加者が年々増加し、現地実行委員会はうれしい悲鳴をあげています。次期開催地の名古屋地区でも多くの発表が行われることを期待しています。
岡島 敏浩 OKAJIMA Toshihiro
九州シンクロトロン光研究センター
〒841-0005 佐賀県鳥栖市弥生が丘8-7
TEL:0942-83-5017 FAX:0942-83-5196
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