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Volume 10, No.2 Pages 98 - 101

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

「2001A期、2001B期実施開始の長期利用研究課題の事後評価」について
Evaluation of 2001A and 2001B Long-Term Proposals

(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 User Administration Division, JASRI

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 2000B期(平成12年9月〜平成13年1月)から開始した特定利用課題は、2003B期(平成15年9月〜平成16年2月)から重点研究課題を導入するのに合わせて長期利用課題と改称し実施しています。2001A期及び2001B期に各1件特定利用課題として採択した2課題は2003B期及び2004A期に終了しましたので以下の通り事後評価を行いました。
 今回の事後評価手順は、長期利用分科会委員に3名の有識者を加えた事後評価委員がSPring-8シンポジウム(平成16年10月18〜19日)において発表された2件の長期利用課題の終了報告で審査を行い、利用研究課題選定委員会で評価結果を取りまとめて諮問委員会に報告しました。以下に評価対象の長期利用2課題の評価結果と成果リストを示します。各課題の研究内容につきましては、各実験責任者が執筆して次号の「最近の研究から」に掲載される予定です。


(1)
〔課題名〕:高圧下における実験的精密構造物性研究手法の開発
〔実験責任者〕:高田昌樹(財団法人高輝度光科学研究センター(採択時は名古屋大学))
〔採択時の課題番号〕:2001A0004-LD-np
〔実施BL/総シフト数〕:BL10XU 計233シフト

〔評 価〕
 本課題は、低温高圧下での粉末X線回折実験を精密に行うことを目指したもので、精密構造物性研究手法の開発を通じ、結晶中での電子密度分布を明らかにすることを目的とした。
 Heガス加圧ダイアモンドアンビルセルによる10 GPa、10 Kまでの温度圧力範囲について、高圧下粉末X線回折法の信頼性を著しく向上させ、電子密度が議論できるレベルにまで到達した点を高く評価する。既存の高圧技術を利用するとともに、ガスケットなどの独自の開発も行っている。その上で、実験結果を信頼できる上記圧力範囲において、総合的な測定解析システムをうまく築き上げている。このような地道な技術開発の結果として、低温高圧粉末X線実験が標準的に実施できるようになっている。また、超伝導や金属絶縁体転移を起こす遷移金属酸化物を始めとするいくつかの物質系について、高圧相の構造解析を精密解析のレベルにまで高めることに成功している。したがって、電子密度を解析するという目的はおおむね達成できたと判断する。高圧下での粉末X線データに信頼性を与えたことにより、構造物性研究に重要な低温高圧下での情報が確実に得られてきており、その意味で科学技術的な波及効果は大きい。
 10 GPa以上の圧力領域については、SrTiO3の圧力誘起相転移で超格子反射の観測など一部に成果が出ているものの、技術開発に十分な時間がとれなかったとのことである。この点は残念であるが、超高圧下の精密構造解析が現在の手法の延長や改良だけでは困難であり、10 GPa以下に集中したことは時間的制約からも妥当と判断する。超高圧下では、試料が微量であるため回折強度が弱く均一性も問題になり、圧力媒体の変更も必要になるなど、解決すべき問題も多い。今後、中間評価の指摘事項でもある、より高圧領域での高精度データを取得する方法について、継続的に検討されることを望む。
 一般に高圧技術は、職人的な要素を持ち個人的に伝達される傾向にあるが、常に技術をオープンにしながら、高圧下での精密構造物性研究の普及に努められたことは特筆に値する。今後の研究の発展には、どのような物質をどのような切り口で研究するかについて的確に理解することが重要であり、その面での努力に期待したい。


〔成果リスト〕
(論文等)

1) 1238 K.Prassides,Y.Iwasa,T.Ito,Dam H.Chi,K.Uehara,E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata,Y.Ohishi,O.Shimomura,T.Muranaka,and J.Akimitsu “ Compressibility of the MgB2 superconductor”,Phys.Rev.B64(2001)012509.

2) 1918 A.Kuriki,Y.Moritomo,A.Machida,E.Nishibori,M.Takata, M.Sakata,Y.Ohishi,O.Shimomura,and A.Nakamura,“ High –pressure structural analysis of (Nd,Sm) 1/2Sr1/2MnO3: Origin for pressure- induced charge ordering”,Phys.Rev.B65(2002)113105.

3) 3105 A.Kuriki,Y.Moritomo,Y.Ohishi,K.Kato,E.Nishibori,M. Takata,M.Sakata,N.Hamada,S.Todo,N.Mori,O.Shimomura,and A. Nakamura,"High-pressure structural analysis of Fe3O4",J.Phys.Soc.Jpn.71(2002) 3092-3093.

4) 3697 "Pressure-induced structural phase transition in fullerides doped with rare-earth metals" DH.Chi,Y.Iwasa,K. Uehara,T.Takenobu,T.Ito,T.Mitani,E.Nishibori,M.Takata,M. Sakata,Y.Ohishi,K.Kato and Y.Kubozono,"Pressure-induced structural phase transition in fullerides doped with rare-earth metals"Phys.Rev.B67(2003)094101.

5) 3422 Y.Moritomo,Y.Ohishi,A.Kuriki,E.Nishibori,M.Takata and M.Sakata,"High-pressure structural analysis of Mn3O4" J.Phys.Soc.Jpn.72(2003) 765-766.

6) 5060 Y.Moritomo,M.Hanawa,Y.Ohishi,K.Kato,J.Nakamura,M. Karppinen and H.Yamauchi,"Physical pressure effect on the charge-ordering transition of BaSmFe2O5.0" Phys.Rev.B68(2003) 060101.

7) 5122 Y.Moritomo,M.Hanawa,Y.Ohishi,K.Kato,M.Takata,A. Kuriki,E.Nishibori,M.Sakata,S.Ohkoshi,H.Tokoro,and K.Hashimoto,"Pressure- and photoinduced transformation into a metastable phase in RbMn[Fe(CN)6]"Phys.Rev. B68(2003)144106.

8) M.Tsubota,F.Iga,T.Nakano,K.Uchihira,S.Kura,M.Takemura, Y.Bando,K.Umeo,T.Takabatake E.Nishibori,M.Takata,M.Sakata, K.Kato and Y.Ohishi,"Holedoping and Pressure Effects on the Metal-Insulator Transition in Single Crystals of Y1-xCaxTiO3 (0.37≤x ≤0.41)"J.Phys.Soc.Jpn.72 (2003)3182.

9) Toshiaki Fujita,Takeshi Miyashima,Yukio Yasui,Yoshiaki Kobayashi,Masatoshi Sato,Eiji Nishibori,Makoto Sakata, Yutaka Shimojo,Naoki Igawa,Yoshinobu Ishii,Kazuhisa Kakurai,Takafumi Adachi,Yasuo Ohishi and Masaki Takata, "Transport and Magnetic Studies on the Spin State Transition of Pr1-xCaxCoO3 up to High Pressure." J.Phys.Soc.Jpn.73(2004)1987.

10) 6369 H.Ishikawa,Sh.Xu,Y.Moritomo and A.Nakamura,Y.Ohishi and K.Kato,"Highpressure Structural Investigation of Ferromagnetic Nd2Mo2O7."Phys.Rev.B70(2004)104103.

11) 5689 Y.Moritomo,M.Hanawa,Sheng Xu,H.Ishikawa,Y.Ohishi, K.Kato,T.Honma,P.Karen,M.Karppinen and H.Yamauchi, "Physical Pressure Effects on Charge-Ordering Transition of BaYCo2O5.0."Phys.Rev.B69(2004)134118.

12) M.Hanawa,Y.Moritomo,J.Tateishi,Y.Ohishi and K.Kato, "Pressure-induced Spin State Transition in Co-Fe Cyanide." J.Phys.Soc.Jpn.(2004)in press.

13) Makoto Sakata,Takafumi Itsubo,Eiji Nishibori,Yutakata Moritomo,Norimichi Kojima,Yasuo Ohishi and Masaki Takata," Charge Density study under high pressure."J.Phys.Chem.Solids 65(2004)1973-1976.


(2)
〔課題名〕:高分解能軟X線励起による高温超伝導物質および関連物質のバルク敏感角度分解光電子分光:光電子分光による高温超伝導体バルク電子状態研究のブレークスルーを目指して
〔実験責任者〕:菅 滋正(大阪大学)
〔採択時の課題番号〕:2001B0009-LS-np
〔実施BL/総シフト数〕:BL25SU 計241シフト
〔評 価〕
 本課題は、主として強相関電子系物質のバルク電子状態を角度分解光電子分光(ARPES)で解明することを通じ、バルクと表面成分では異なる結果が出ているバンド分散の論争に決着をつけることを目的とした。
 SPring-8の軟X線ビームラインの特性を活かすことによって軟X線領域でのARPESを確立し、バルク敏感な実験が可能であることを実証した功績は大きい。20〜80 eVでの低エネルギーARPESでは、光電子の平均自由行程が短いため、表面電子状態に敏感である。一方で、軟X線励起をすれば、平均自由行程を大きくでき、バルク敏感になる。この発想での、特に500 eVを超えるエネルギー領域でのARPES実験は、本課題によるオリジナルな仕事で ある。世界的に見て、ESRFで部分的に可能である(ただし、ほとんど実績無し)以外には、SPring-8がバルク敏感ARPES実験の独壇場となっており、長期利用によって新しい研究分野を開いたことは高く評価される。
 研究面では特に、Cu-O面をもつ強相関関連物質で当初の目標を達成している。更にV6O13やSr2RuO4などのいくつかの興味深い物質系について研究を進めている。例えば、r2RuO4を例にとると、バルクフェルミ面の直接観測に成功し、そのフェルミ面形状からネスティングベクトルを求めている。このように、フェルミ面形状とバンド分散の解明から、表面敏感とバルク敏感で電子状態が異なることを明確に示し、バルク電子状態の重要性が世界的に認識されるようになった。また、SrCuO2では、明確に観測できると期待されていたスピノン分枝は観測されず、電荷とスピンが完全には分離してはいないこともわかった。総合的に見て、フェルミ面の形状からバルク電子物性の論争に決着がつけられたことなど、長期利用研究を通して確実に研究成果が出ていると判断できる。
 同種の実験を手掛ける他のグループの研究者が育ってきている現状を考慮すると、本課題を実施した波及効果は大きい。しかし、一般向けの情報発信が十分とは言えず、SPring-8での実験を希望する多くの外国研究者との共同研究などを通じ、普及活動に更に努力されることを希望する。
 以上のように、本研究課題は、目標の達成、研究成果の両面で高く評価できる。今後は、当初目指した1 keVで10 meVという分解能でスペクトルを得る試みや他物質系への幅広い応用などの展開に期待したい。


[成果リスト]
(論文等)

1) 4039 S.Suga,“Recent Development in Soft X-ray Spectroscopy of Correlated Materials:High resolution absorption and bulk sensitive photoemission.”Surf.Rev.Lett. 9,(2002)1221-1228.Invited talk at 13th Int.Conf.Vacuum Ultraviolet Radiation Phys.Trieste.

2) 6776 A.Sekiyama and S.Suga,“High energy bulk sensitive angle-resolved photoemission study of strongly correlated systems”,J.Electr.Spectrosc.Rel.Phenom.137-140(2004)681-685.

3) 6779 A.Sekiyama,S.Kasai,M.Tsunekawa,Y.Ishida,M.Sing,A.Irizawa, S.Imada,T.Muro,Y.Saitoh,Y.Onuki,T.Kimura,Y.Tokura and S.Suga,“Technique for bulk Fermiology by photoemission applied to layered ruthenates”,Phys.Rev.B 70,060506(R)(2004).

4) 7320 S.Suga,A.Shigemoto,A.Sekiyama,S.Imada,A.Yamasaki,A.Irizawa,S.Kasai,Y.Saitoh,T.Muro,N.Tomita,K.Nasu,H.Eisaki and Y.Ueda, “High energy angle resolved photoemission spectroscopy probing bulk correlated electronic states in quasi-onedimensional V6O13 and SrCuO2”,Phys.Rev.B70,155106(2004).

5) S.Kasai,A.Sekiyama,M.Tsunekawa,P.T.Ernst,S.Imada,M.Sing, T.Muro,T.Sasagawa,H.Takagi and S.Suga,“Soft X-ray ARPES of La2-xSrxCuO4:probing bulk electronic states and Fermi surfaces different from those obtained by low-hn ARPES”,J.Phys.Chem.Solids,in press(2004).

6) M.Tsunekawa,A.Sekiyama,S.Kasai,S.Imada,Y.Onose,Y.Tokura, T.Muro and S.Suga,“Bulk electronic structures of n-type superconductor Nd1.85Ce0.15CuO4 probed by high-energy angle resolved photoemission spectroscopy”, J. Electron Spectorsc.Rel.Phenom.in press(2005).

7) S.Kasai,A.Sekiyama,M.Tsunekawa,S.Imada,P.T.Ernst,M.Sing, S.Suga,T.Muro,T.Sasagawa and H.Takagi,“Bulk electronic state of high Tc cuprate La2-xSrxCuO4 observed by high-energy angle-resolved photoemission spectroscopy”,J.Electron Spectorsc.Rel.Phenom.in press(2005).

8) A.Shigemoto,S.Suga,A.Sekiyama,S.Imada,A.Yamasaki,S.Kaisai, Y.Saitoh,T.Muro,H.Eisaki,N.Tomita and K.Nasu,“Angle resolved photoemission study of quasi-onedimensional SrCuO2 by soft X-ray”,J.Electron Spectorsc.Rel. Phenom.in press(2005).

9) A.Shigemoto,S.Suga,A.Sekiyama,S.Imada,A.Yamasaki,A.Irizawa, T.Muro,Y.Saitoh,Y.Ueda and K.Yoshimura,“Bulk sensitive photoemission studies of metal-insulator transitions in VO2 and V6O13”,J.Electron Spectorsc.Rel.Phenom.in press(2005).



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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