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Volume 10, No.2 Pages 95 - 96

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

−産業利用分科会−
– Industrial Application Subcommittee –

岡本 篤彦 OKAMOTO Tokuhiko

立命館大学 総合理工学研究機構 Ritsumeikan University, Research Organization of Science and Engineering, Synchrotron Radiation Center

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 産業利用分科会委員をはじめとして多くの方々に助けられ2年間の任期を全うすることができました。先ず、関係者各位にお礼を申し上げます。

 産業利用分科会は、主査:岡本篤彦(立命館大学)、委員:梅咲則正(JASRI)、川崎宏一(新居浜高専)、古宮 聡(JASRI)、渡辺義夫(NTTAT)の計5名で構成されています。一方、重点産業利用領域の指定に伴って、トライアルユース委員会が2003年度から発足しました[1]。その目的は、『産業界が抱える様々な問題点に関して産官学が共同で放射光実験を行い、以って地域産業の活性化、新産業の創出、雇用機会の拡大などを支援する』ことです。このことは、利用者情報誌でも述べた通りです[2]。トライアルユース委員会は産業利用分科会と表裏一体の関係にあり、密接に連携して各種の作業に当っています。トライアルユース委員会は、委員長:古宮聡(JASRI)、委員:梅咲則正(JASRI)、岡本篤彦(立命館大学)、川崎宏一(新居浜高専)、山本雅彦(大阪大学)、渡辺義夫(NTTAT)、宮入裕夫(東京電機大学)の計7名で構成されています。

 言うまでもなく、産業利用分科会は、SPring-8の産業利用活性化の一翼を担っており、特に産業界のニーズを発掘し、産業に関わる多く分野の研究に資することを第1の目的として設定されました。

 当初、産業利用専用のビームラインとしてBL19B2が建設されましたが、本ビームラインは他のビームラインにはない専任技術スタッフ制度を採用しており、初心者や経験の浅いユーザーに対する実験の指導その他の技術指導をきめ細かく行っていただいています。BL19B2には、XAFS(第1ハッチ)、多軸回折計、粉末回折計(第2ハッチ)、屈折コントラストイメージング(第3ハッチ)などの多様な測定装置が準備されています[3]が、BL19B2が極めて短期間に利用可能となったのは技術スタッフの努力に由るところが極めて大です。

 一方、主として、過去に放射光を利用したことの無い研究者に対しては、その高速性、高精度性、有効性(所謂“ご利益”)を理解していただくために、上述のトライアルユース制度が利用されています。トライアルユース課題募集に対しても多数の申請が寄せられています。2001Bには産業利用ビームライン(BL19B2)が共用ビームラインとして利用可能になりましたが、2001B~2002Bの2年間ではトライアルユース課題も含めて約200件の申請がありました。その後の2年間に産業利用分科会に申請された研究テーマは、約290件でした。放射光を利用した実験・解析に強い興味を持つ研究者が着実に増加していることが窺われます。技術スタッフ制度とトライアルユース制度が産業利用分科会への申請数増加に貢献したことは異論を挟む余地の無いことでしょう。

 このような多数の申請に対して、BL19B2のみの機能・性能とビームタイムで申請シフト数の減少を極力少なくし、かつ採択率の低下を防止することはできません。これを解決するための対策案が検討され、BL19B2以外のビームラインでの実験課題を当分科会に申請することが可能になりました[4]。これまで、BL01B1、BL02B1、BL02B2、BL09XU、BL13XU、BL15XU、BL25SU、BL28B2、BL37XU、BL40B2、BL40XU、BL43IR、BL46XUおよびBL47XUなどの課題が申請されています。この結果、採択率の低下に一定の歯止めができると共に、産業利用分野においてより幅広いユーザー支援が行えるようになりました。

 研究はスピードが大切であり、放射光実験が必要と判断されたら直ちに測定できる体制が望ましいと思います。しかし、実現は極めて困難です。そこで、ご存知のように、当分科会では、BL19B2に限りますが、A期、B期においてビームタイムの一部を留保し、期の半ばに再度募集することにしています。この制度によって、ある程度即応性が確保できたように思いますが如何でしょうか。ご意見をいただければ幸いです。

 トライアルユース委員会に申請された課題は、当分科会の一般研究課題審査に先立って審査されます[5]。トライアルユース委員会での審査において不採択と判断された課題は、引き続き開催される産業利用分科会に申請されたものと共に改めて審査されます。提案された研究課題申請書は膨大な数に上り、かつそれぞれの申請書は提出者によって十分に検討された後に提出されたものだと思います。しかし、トライアルユース委員会または産業利用分科会のいずれに提案された課題においても、内容が極めて基礎的研究である、産業応用との繋がり・発展性についての記述がない(または不明確である)、大学関係者のみの申請で産業界からの参加がない、試料や測定手法に関する記述が不明確であるというような申請書類が散見されるのは残念なことです。利用支援室のコーディネーターや産業応用・利用支援グループの技術担当者あるいはビームライン担当者との十分な事前相談が必要だと思われます。

 産業利用分科会およびトライアルユース委員会での審査は、当然諮問委員会運営要領第2条に則って行われます。特に、四項目ある科学技術的妥当性の中、③期待される研究成果の産業技術基盤としての重要性および発展性、④研究課題の社会的意義、社会経済への寄与度、に重点が置かれます。このことは以前にも触れさせてもらいました[2]。すなわち、産業界の問題解決に役立つ研究、地域活性化が期待される研究、雇用拡大に繋がる研究、産業界主導の産官学の共同研究であることなどの主張が大切です。したがって、申請書提出に際しては、出来るだけ企業研究者が主導的メンバーとして参加するように配慮していただくことをお願いします。また、不採択と判断された課題には、継続的な提案であるが過去の放射光利用実験がその研究に対してどのように役立ったのか、本提案と以前の提案とがどのような関連性を持つのかなどの記述が不明確なものが見受けられます。そのような提案に対しては、課題審査委員会では、不採択の理由を述べ、次回の提案に際して注意すべき点をコメントするようにしています。

 一方、放射光利用研究は、成果報告書の提出を条件として原則的には無料利用となっています。昨今、一部で有料化の動きがありますが、根底には成果の学術論文としての公表件数があります。お気付きの方が大勢おられると思いますが、利用者情報誌の各号には「論文発表の現状」が掲載されています[6]。これを見ても明らかなように、BL19B2関連の論文登録数は他のBLのものと比較して決して多いとは言えません。これは、産業応用分野の研究と大学等が行うものとがやや異質である(問題解決型研究が多いまたは特許獲得が優先するなど)ために論文発表し難いことに起因すると思われます。しかし、いつまでも産業利用分科会のみが治外法権を主張できるものではありません。ユーザー各位が論文化するとの強い志を持ち、かつ論文誌に掲載されたら必ず登録していただくようにお願いします。

 紙面の都合で触れることはできませんでしたが、XAFS、X線回折などの実験手法あるいは状態解析、残留応力測定などの応用分野別割合の詳細やその採択率などについては、SPring-8利用者情報[7]を参照にしていただければ幸いです。


参考文献
[1]古宮聡:SPring-8利用者情報、Vol.7, No.3(2002)169.
[2]岡本篤彦:ibid、Vol.8, No.2(2003)75.
[3]岡島敏浩ら:ibid、Vol.6, No.5(2001)360.
[4](財)高輝度光科学研究センター:ibid、Vol.9, No.6(2004)387.
[5]利用業務部:ibid、Vol.8, No.3(2003)148.
[6]例えば、利用業務部:ibid、Vol.7, No.4(2002)233、Vol.10, No.1(2005)9.
[7]利用業務部:ibid、Vol.9, No.1(2004)2、Vol.9, No.5(2004)315、Vol.9, No.5(2004)336.




岡本 篤彦 OKAMOTO Tokuhiko
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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