Volume 10, No.2 Pages 90 - 91
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
−XAFS分科会−
– XAFS Subcommittee –
2003B-2005AのXAFS分科会
二年前(2003B)に分科会の再編および選定方法の変更がありました。
前者の再編というのは、これまでXAFS分科会で実施していたXMCD関連課題の審査が分光分科会に移されたこと、また、蛍光X線分析がXAFS分科会の小分科として取り入れられたことです。従いまして現在XAFS分科会は、Xa(XAFS小分科)、Xb(蛍光X線小分科)の二小分科からなっています。このことは申請要領に記載されているので十分知れ渡っていると思われます。これらの変化と同時に、各分科には「責任ビームライン」というものがアサインされました。これは、ビームラインにおける採否ならびにビームタイム配分を責任分科が最終的に決定・調整する、と言うものです。もちろん、最終決定を行うためには分科会での最終調整の後も選定委員会で議論が行われ承認が必要であることは言うまでもありません。さて、Xa小分科ではBL01B1、BL15XUが、Xb小分科ではBL37XUがそれぞれ「責任ビームライン」にあたっています。BL15XUに関しては「おや?」と思われる方がおられると思います。このビームラインに関しては実際に申請課題の分科が分散して多岐に亘っていますが、XAFS分科の責任ビームラインとなっていることに関しましては2003Bの課題募集時に件数として多いのがXAFS分科であったことに由来します。今後も申請課題数の変化に伴いビームラインの責任分科は柔軟に変化していくものと思われます。
選定方法の変更に関してですが、一つはレフリー制度が取り入れられたことであります。最初はXAFS分科を含む一部の分科で実施されていましたが、その後徐々に増えており現在ではほぼ全部の分科で取り入れられています。一課題につき4名のレフリーが匿名でレイティングを行っています。本来ならばサイエンス的判断が要求され、結果は絶対評価にならなければならないわけですが、採用課題数が限られていることや審査基準の異なる他の分科も併せて判断せねばならないことなどから、レフェリーには相対評価をお願いしています。2005Aの審査ではレフェリー一人当たりわずかな日数で実に44件の審査が必要であったわけです。レフェリーをお願いしている皆様方には大変なご苦労をお掛けしており、本紙面をお借りしてお礼を申し上げたい次第です。分科会審査はこのレフェリーの採点およびコメントを重要な判断基準として進められることになります。2005A XAFS分科会では、約100件の審査を行ったのですが、レフェリーの採点は概ね一致しており、評価が割れた課題は2課題に過ぎませんでした。
選定方法の変更点の二番目は、ビームタイム配分に関するものです。2003Aまでは、分科会判断が中心で、申請書記載の希望ビームタイムならびにビームライン担当者から報告された推奨ビームタイムを下回るビームタイム(時には上回ることもあった)を配分し採択基準に達している課題をできるだけ多く採択するようにしていました。これは、採択率を高める、そして同時に、無駄なビームタイムを無くすという考えから来ていたものであろうと思われます。しかし、2003Bからは推奨ビームタイムを原則として配分するようになり、採択率を犠牲にしても充足率を高めるよう方針が変更されました。これに伴い採択率は30~60%に低くなりましたが、この方針変更にはビームタイ厶不足により実験が満足に実施できないというリスクを減少し、十分な実験時間の中で目覚ましい成果を挙げて戴こうという狙いがあります。研究の良し悪しは当然ながらその質と量に関わってきます。SPring8が我国ひいては人類にとって重要な研究施設としてその位置を維持し高めていくためには客観的なアウトカムズが必須であり、充足率を高めるのはそれをより達成しやすくするための措置であるわけです。この措置がなされてから四期目になりますからその効果がそろそろ見え始める時期にさしかかってきていると思われ、次期以降の分科会がそれを如何にフィードバックしていくかは注目すべき点であると思われます。
課題申請されるユーザーの皆様
旧高エネルギー物理学研究所の放射光実験施設(PF)でXAFS関連の一般課題申請書の公募が始まって二十年以上たつのですが、総体的な申請書の書き方についての向上はなぜか余り感じられません。これまで良い評価を受けておられない方や採択率の低い方はSPring-8利用者情報Vol.8 No.2(2003)68 に書かれてある前主査の渡辺巌先生の文章をよくお読みになることをお勧めします。しかし、実は、渡辺先生がお書きになっている内容はこの二十年間場を変え人を変え幾度となく言われ続けてきたことなのです。要するに、「何を知るためにどういう実験を実施したいか」を具体的且つ明確に書くことがポイントになります。低評価の申請書を読んでいるとこのポイントを外している課題が非常に多い事が気になります。また、高エネルギー加速器研究機構のPFとの重複申請もよく見受けられます。レフェリーや審査員も重複していることがありますので、余り良い印象が残りません。何故SPring-8なのか、なぜPFなのか目的意識を強く持った申請書の作成をお願い致します。
また細かいことですが、課題責任者が実際にはSPring-8での実験に参加されない、あるいは実験の実施に直接関わっていない申請書が散見されます。SPring-8における実験がある人物を代表とする研究プロジェクトの一貫であるとしても、直接実験に関わらないプロジェクト代表者を課題責任者におくことは申請書評価の際にネガティブな結果を与えることがあります。これに多少関連したことですが2005Aから萌芽的課題の公募が始まり、大学院生(博士後期課程)諸君も研究課題の申請が可能になりました。現在は採択課題に関して旅費や研究費の一部助成が考えられています。
このように、課題選定委員会では新しい科学、より高い科学、新しい技術、より高い技術の創造のために日々変化を遂げています。しかしこの変化は一方からだけのものでは駄目でユーザーの皆様からのご意見やご希望を集約して初めて良い方向づけがなされます。今後とも運用に関してはご協力とご理解を戴ければ幸いです。また、これで私の役目に一段落つくと思いますと心が軽くなり過ぎ、間違った点や理解が足りなかった点などを書いているかもしれません。なにとぞご寛恕下さい。
田中 庸裕 TANAKA Tsunehiro
京都大学 大学院工学研究科 分子工学専攻 教授
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