Volume 10, No.2 Pages 88 - 89
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
−散乱・回折分科会−
– Scattering and Diffraction Subcommittee –
散乱・回折分科は、今期も相変わらず最も課題申請数が多い分科となっております。また、散乱・回折と言う極めて幅広い名前がついているため、カヴァーする分野も、多岐にわたっております。この様に、広い分野から申請される多くの課題を審査する為、散乱・回折分科会はさらに3つの分科に分かれています。今期の各分科の委員は、佐々木利用研究課題選定委員会主査の報告にありますが、散乱・回折分科会の主査として大変お世話になったことを誌上で感謝したいと思います。これらの方々の協力なしには、円滑な課題審査は不可能でした。どうも有難うございます。なお、第2分科会(散乱・回折)分科会の主査と分科Ⅰの主査は、私が努めさせていただきました。
どの分科の課題審査も、大変重要であるので、万全を期して行われるべきものです。それと同時に、評価に伴う困難さを克服してある程度効率よく評価を行う必要があります。評価が困難を伴う作業であるということは、一般的には理解されても、どの様な困難なのかを理解することは必ずしも容易ではないように思います。私は、経験上この困難を「意思決定」の困難さと理解しています。ある申請書を読んだ時、高く評価するか低く評価するのかをどこかで意思決定しなければなりません。実際に、全く迷わずに評価できる申請書は、少ないと思います。一度迷いだすと、キリがないように思います。迷った時に何が決め手になるかと言うと、審査員それぞれで異なると思いますが、体裁の比重はそれ程低くないように思います。書く方からすると、内容だけが重要と考えるかもしれませんが、研究内容で簡単に差がつくのであれば、問題はないのです。しかし、研究内容の評価は価値観が伴うので、必ずしも容易ではない場合が、結構多いように思います。例えば、電池材料の研究と磁性体の研究と、どちらが重要であるかと言うことは簡単には結論できないところであります。課題審査をするということは、implicitではありますが、この様なことに対して評価を下しているところがあります。出来ることなら電池材料の研究も磁性体の研究もどちらも大変重要です、と言える立場に自分を置いておきたいと思うのが、自然なことだと思います。課題審査では、電池材料の研究と磁性体の研究の一般的な評価をするのではなく、目の前にした2通の申請書の優劣をつける必要性が生じます。片方は、電池材料の研究で他方は磁性体の研究という状況が生じます。研究内容がそれぞれ重要であることが理解できた時、2つの申請書の共通項である体裁で判断することは、大いにありえる事だと思います。キチッとした申請書を書いてくれる方なら、キチッとした成果を挙げてくれる可能性が大きいだろうと考えることにより自分を納得させ、意思決定をするわけです。理路整然として体裁も整った、読みやすい申請書がたくさん寄せられることを願っています。その様な、申請書ならば、迷わず高い評価を与えます。
これまで、散乱・回折分科会では一人の委員が時として100に近い申請書を読む必要がありました。これは、分科会委員だけのクローズドシステムで、客観的な評価を施す為に取られた施策と理解しています。他の分科では、この様な方式でもそれ程問題がなかったかもしれませんが、散乱・回折分科会、特に分科Ⅰの各委員の労力は、大変大きなものとなっていました。いかに重要な仕事であると自分に言い聞かせても、課題審査の時期は委員にとっては、ブルーな気持ちになったことは事実だろうと思います。少なくとも、私の個人的な体験としては事実です。申請課題数が、それ程多くない場合には、このシステムは非常に有効に働くと思いますが、散乱・回折分科会ではこの審査方式は、今期が始まるころには、ほぼ限界に達していたように思います。各方面のご努力により、レフェリー制が導入されました。
SPring-8のレフェリー制は、いわば、クローズドレフェリー制とでも呼ぶシステムです。各分科には、あらかじめその分野の専門家がレフェリーとして登録されております。分科の委員は、必ず、レフェリーも務めます。私の例で言うと、40件ほどの申請書を、レフェリーとして審査します。このくらいの件数だと、統計的にも多少取り扱えて、尚かつ多すぎないように思います。各申請書は、3人のレフェリーにより審査されるので、客観性の点でも公平性の点でも問題がないように思います。このレフェリー制の導入により、分科会の作業は大変効率よく運ぶようになりました。これまでのように、課題審査の時期にブルーな気持ちになることも無く、今期の課題採択委員会第2分科会(散乱・回折)分科会の主査を無事終えることが出来ます。大変有り難く思う次第です。
坂田 誠 SAKATA Makoto
名古屋大学 大学院工学研究科
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