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Volume 10, No.2 Pages 81 - 84

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

2005A 利用研究課題選定委員会を終えて
Report of the Proposal Review Committee on the 15th Public Research Term 2005A

佐々木 聡 SASAKI Satoshi

東京工業大学 応用セラミックス研究所  Materials and Structures Laboratory, Tokyo Institute of Technology

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1.はじめに

 早いもので第5期の課題選定委員会をお引き受けしてから、2年間が経とうとしています。SPring-8から離れた地にいて、このような大役が勤まるであろうかと躊躇していたのが懐かしく想い出されます。この2年間で、SPring-8を取り巻く環境も大きく変化しました。成果創出に対する施設の責任や、成果公表に対するユーザーの責任が色々な所で議論されるようになってきています。一般利用研究課題に対する旅費支援のカットという大きな事件もありました。現在、原研・原研・JASRIの3者体制から理研・JASRIの2者体制への移行、SPring-8課金問題、SPring-8利用者懇談会の再編など、重要案件が山積みであり、次期課題選定委員会への期待も大きいものとなっています。
 本報告では、まず、2005A期の課題選定の経緯と特徴を簡単に述べた後、この2年間の利用研究課題選定委員会の主な活動について簡単に振り返ってみたいと思います。


2.今期の課題募集と審査

 今期15回目の課題選定を行いました。2005A期の選定結果は、本利用者情報誌に詳しく掲載されています。台風被害による屋根工事の影響のため、対象期間が2005年4月から2005年8月までに変更され、共同利用に配分されるシフト数は、全240シフト(1シフトは8時間)中192シフトとなっています。一般利用研究課題644件と重点研究課題234件の総計878件の応募に対し、レフェリー制のもと事前評価と一般課題分科会による最終審査を行いました。その結果を受けて、2月10日開催の第35回利用研究課題選定委員会で、380件の一般利用研究課題と167件の重点研究課題が採択されました。平和目的であること、共用ビームラインで一般利用研究課題の占める割合が50%を切らないこと、選定した課題についてシフト充足率を満足させること、挑戦的な課題に充分な配慮をすることに留意しました。
 研究分野別では、生命科学204件(重点タンパク500の採択数102件を含む)、散乱・回折158件、分光65件、XAFS59件、産業利用45件、実験技術16件が採択され、採択数は前回とほぼ同程度となっています。タンパク500関係の課題では、シフト枠の確定のみを行い、実施1ヶ月前までに個別の課題へのシフト配分が確定することになります。また、重点ナノテクノロジー総合支援で選定されなかった59課題、および、トライアルユース課題で選定されなかった8課題は、一般利用研究課題として再審査され、そのうちの21課題は最終的に、一般課題として採択されました。これらの課題を除き、重点ナノテクノロジー支援課題は、応募課題数111件のうち52件が、重点トライアルユース課題は、応募21件に対し13件が採択されています。今回から、課題責任者が大学院生である場合、大学の指導教官の承認を受けた上で、萌芽的研究支援課題として申請する道が開けました。課題審査の面では、一般利用研究課題と何ら違いはありません。したがって、萌芽的研究支援課題に対しては、他の一般利用研究課題とまったく同じ条件で課題選定の作業が行われました。応募40課題に対し18課題が選定されましたが、これらの課題には、課題実行の際に若手支援が行われます。
 1年課題は、2004B期からBL02B1(単結晶構造解析、D1分科)、BL04B1(高温高圧、D2分科)、BL10XU(高圧構造物性、D2分科)、BL27SU(軟X線光化学、S分科)の4本のビームラインで実施されており、2004B期で選定された課題に対し、今期それぞれ、58, 60, 33, 57シフトが割り当てられました。1年課題の募集は今後もこれら4本のビームラインで継続しますが、受付はB期開始分のみです。また、括弧内の分科に対して申請された場合のみ有効となります。1年課題の申請であっても、課題選定委員会の判断で、通常の半年課題に変更される場合があります。
 長期利用は、一般利用研究課題の枠内にあり、ビームタイム配分枠の20%までを限度に優先的に利用できる研究制度です。今期は、4件の長期利用研究課題の応募があり、外部の専門家を含む長期利用分科会での書類審査の結果、3件が面接審査に進み、うち1課題が採択となりました。今回選定された課題は、「Measurements of SuperRENS Optical Memory Material Properties」(2005A0004-LX-np、Paul Fons、産業技術総合研究所、BL01B1、BL39XU)です。課題申請者らにより開発された記憶ディスク材料について、構造変化機構を検証する基礎研究とそれに基づく材料設計の最適化を目指したものです。高エネルギーX線を利用した動的微小領域XAFS実験は、SPring-8での挑戦的なテーマであると評価されました。2005A期に有効な長期利用課題は、2002B採択守友課題(BL02B2、BL40XU)、2003A採択巽課題(BL10XU)、2003B採択Cramer課題(BL09XU)、2003B採択村上課題(BL41XU)、2003A採択小賀坂課題(BL20B2)および、2005A採択Fons課題( BL01B1 ) です。今期には、BL01B1、BL02B2、BL09XU、BL10XU、BL20B2、BL41XUで、それぞれ、9, 6, 45, 36, 24, 9シフトが利用されます。長期利用研究課題は実験開始後2年で中間評価を受けます。9月9日に巽課題の中間評価が行われ、3年目を実施することになりました。今期中には、2003B採択のCramer課題および村上課題についても中間評価を受けることになっています。2001A期に開始した高田課題(BL10XU)と2001B期に開始した菅課題(BL25XU)が終了し、10月18日に開催されましたSPring-8シンポジウムの中で事後評価が行われました。ユーザーに公開された形での成果発表と質疑応答が行われ、引き続き事後評価委員会による評価が別室で行われました。評価結果は、諮問委員会の了承を得た上で公表されます。また、得られた成果について、課題責任者による解説記事が利用者情報誌に掲載されることになっています。


3.第5期課題選定委員会の活動を終えるにあたって

 今期の審査で、第5期の課題選定委員会の活動が終了します。この2年間で、専門委員制(レフェリー制)が導入され、レフェリー評価点の規格化や責任分科の設定などがうまく機能するようになり、課題選定の公平性・迅速性が更に高まってきたと思っています。松井純爾前主査から引き継いだ2年前は、施設が主導する成果創出型重点課題が船出した時でした。これは、SPring-8に関する中間評価を受け、施設が主導する利用課題を重点的に推進しようというものでした。このような重点研究課題には、JASRI所長が研究領域を指定して公募する領域指定型課題(重点ナノテクノロジー支援領域、重点タンパク500領域、重点産業利用領域)、JASRI所長がパワーユーザーを非公募で指定する利用者指定型課題、JASRIと共同研究を実施する戦略型課題が含まれています。この2年間の課題選定の様子をみていますと、利用者が積極的に重点課題に参画しており、施設主導がうまく機能しているように思われます。課題審査の立場でみますと、課題間のシフト枠調整や課題選定基準の統一など、課題選定に入るまでの交通整理が非常に重要になりました。それと同時に、課題選定の重点化で弱くなるであろう一般利用研究者の立場を守ることが、課題選定委員会の大きな役割の1つになってきました。具体的な対策として、長期利用も含めた一般利用研究課題の占める割合を、最低でも50%以上キープするような歯止めが、有効に機能しました。重点課題の遂行では、施設、利用者の双方が幸せになることが必要であり、今後さらに、皆様のご協力をお願いします。
 今後もSPring-8を安定に利用するために、外部に説明できる成果を如何に集めるかが議論されてきています。すでにビームラインごとの発表論文数が利用者情報誌を賑わしています。課題選定の分野においても、2005A期から「各研究者の成果に対する評価結果を課題審査に反映させる」審査システムが導入されました。ただし、課題選定基準の変更は行っていません。現状のシステムは、論文等で成果を公表することがSPring-8を末永く維持する上で重要である点を利用者に喚起する段階にあり、厳しさを伴う前に、このような審査システムが早く無用となることを願う次第です。実際には、審査とは関係なく、すばらしい研究の成果が社会にしっかり発信され、社会への説明責任を果たすことが最も大切なことです。また、利用研究の質やアクティビティーを低下させない努力が、課題選定においてもますます重要になってきていると痛感します。
 今後とも、高輝度放射光利用の更なる発展に寄与できればうれしいと思っております。課題選定委員会の各分科の主査をはじめとする委員の方々、レフリーの皆様、施設および利用者の方々のご協力に感謝し、厚くお礼を申し上げます。大変お忙しい中、本当にありがとうございました。


平成16年度利用研究課題選定委員会委員

主 査
佐々木 聡    東京工業大学 教授
入舩 徹男    愛媛大学 センター長
岡本 篤彦    立命館大学 教授
梶谷 文彦    岡山大学 教授
片岡 幹雄    奈良先端大学院大学 研究科長
河田 洋     高エネルギー加速器研究機構 教授
木下 豊彦    東京大学 助教授
後藤 俊治    (財)高輝度光科学研究センター 副主席研究員
小林 啓介    (財)高輝度光科学研究センター 特別研究員
古宮 聰     (財)高輝度光科学研究センター 主席研究員
坂田 誠     名古屋大学 教授
澤 博      高エネルギー加速器研究機構 助教授
鈴木 芳生    (財)高輝度光科学研究センター 副主席研究員
竹村 モモ子   (株)東芝 エキスパート
田中 庸裕    京都大学 助教授
野村 昌治    高エネルギー加速器研究機構 主幹
福山 恵一    大阪大学 教授
水木 純一郎   日本原子力研究所 センター長
八木 直人    (財)高輝度光科学研究センター 主席研究員
山本 雅貴    理化学研究所 室長

施設者側委員
大熊 春夫    (財)高輝度光科学研究センター 主席研究員
下村 理     (財)高輝度光科学研究センター 審議役(部長)
壽榮松 宏仁   (財)高輝度光科学研究センター 部門長
多田 順一郎   (財)高輝度光科学研究センター 室長



平成16年度利用研究課題選定委員会分科会委員

主査
佐々木 聡    東京工業大学 教授

第1分科会(生命科学)
主査(Ⅰ主査兼)
福山 恵一    大阪大学 教授
山本 雅貴    理化学研究所 室長

(Ⅱ主査)
片岡 幹雄    奈良先端大学院大学 研究科長
八木 直人    (財)高輝度光科学研究センター 主席研究員

(Ⅲ主査)
梶谷 文彦    岡山大学 教授
鈴木 芳生    (財)高輝度光科学研究センター 副主席研究員

第2分科会(散乱・回折)
主査(Ⅰ主査兼)
坂田 誠     名古屋大学 教授
澤 博      高エネルギー加速器研究機構 助教授
鳥海 幸四郎   兵庫県立大学 教授
高田 昌樹    (財)高輝度光科学研究センター 主席研究員

(Ⅱ主査)
入舩 徹男    愛媛大学 センター長
下村 理    (財)高輝度光科学研究センター 審議役(部長)

(Ⅲ主査)
河田 洋     高エネルギー加速器研究機構 教授
水木 純一郎   日本原子力研究所 センター長
石川 哲也    理化学研究所 主任研究員

第3分科会(XAFS)
主査
田中 庸裕    京都大学 助教授
竹村 モモ子   (株)東芝 エキスパート
城 宜嗣     理化学研究所 主任研究員

第4分科会(分光)
主査
木下 豊彦    東京大学 助教授
小林 啓介    (財)高輝度光科学研究センター 特別研究員
岩住 俊明    高エネルギー加速器研究機構 助教授
城 健男     広島大学 教授

第5分科会(実験技術、方法等)
主査
野村 昌治    高エネルギー加速器研究機構 主幹
後藤 俊治    (財)高輝度光科学研究センター 副主席研究員
川戸 清爾    (株)リガク 副所長
竹中 久貴    NTTアドバンストテクノロジ(株) 主幹担当部長

第6分科会(産業利用)
主査
岡本 篤彦    立命館大学 教授
古宮 聰     (財)高輝度光科学研究センター 主席研究員
梅咲 則正    (財)高輝度光科学研究センター 主席研究員
川崎 宏一    新居浜工業高等専門学校 教授
渡辺 義夫    NTTアドバンストテクノロジ(株) 所長



長期利用分科会
主査
佐々木 聡    東京工業大学 教授
石川 哲也    理化学研究所 主任研究員
岡本 篤彦    立命館大学 教授
木下 豊彦    東京大学 助教授
坂田 誠     名古屋大学 教授
下村 理     (財)高輝度光科学研究センター 審議役(部長)
壽榮松 宏仁   (財)高輝度光科学研究センター 部門長
田中 庸裕    京都大学 助教授
野村 昌治    高エネルギー加速器研究機構 主幹
福山 恵一    大阪大学 教授
八木 直人    (財)高輝度光科学研究センター 主席研究員



佐々木 聡 SASAKI Satoshi
東京工業大学 応用セラミックス研究所
〒226-8503 横浜市緑区長津田町4259
TEL:045-924-5308 FAX:045-924-5339
e-mail:sasaki@n.cc.titech.ac.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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