Volume 10, No.1 Pages 40 - 44
4. 告知板/ANNOUNCEMENTS
2004年におけるSPring-8関係功績の主な受賞
Award-winning Achievements on SPring-8 in 2004
昨年一年間に、SPring-8関係の研究で受賞した主な功績を以下に紹介します。
「第2回ひょうごSPring-8賞」を高田昌樹氏、樋口隆康氏、田中均氏が受賞
「ひょうごSPring-8賞」(主催:ひょうごSPring-8賞実行委員会、後援:財団法人高輝度光科学研究センター、日本原子力研究所関西研究所、独立行政法人理化学研究所播磨研究所、SPring-8利用者懇談会、SPring-8利用推進協議会)は、SPring-8の特性を生かした業績をあげられた研究者を顕彰することにより、SPring-8に関する認識が、専門家だけでなく、産業界、県民をはじめとする社会全体において幅広く高まることを目指して設置されたものである。
第2回目となった“ひょうごSPring-8賞”では、この度、3名の方の優れた業績が高く評価され、平成16年10月14日、兵庫県公館にて表彰式が行われた(写真1)。
写真1 高田昌樹氏(右から4番目)、樋口隆康氏(左から4番目)、田中均氏(右から3番目)
受賞者紹介
高田 昌樹 財団法人高輝度光科学研究センター利用研究促進部門Ⅰ 主席研究員
功績名:新機軸の粉末回折法の開発による物質科学への貢献
産業界が着目し、科学的にも興味をもたれる新しい機能性材料は、大きな単結晶が得られにくく、粉末結晶あるいは多結晶状であることが多く、しかもごく微量しか得られないのが普通である。この種の材料の構造解析には従来のX線回折法は通用しない。高田氏は名古屋大学坂田教授とともに開発した新しい解析手法(MEM法)を駆使して、粉末回折法を画期的な高精度の新技術に発展させ、驚くべき精密さでの構造解析だけでなく、原子間の結合にあずかる電子密度分布まで目に見えるように描き出す新手法を実現した。
その中で、高田氏は信頼性の高いデータを得るためにビームラインBL02B2に設置されている大型粉末回折計の設計、立ち上げに携わり、重元素から軽元素まで含むわずか数mgの試料から世界最高精度の粉末回折データが得られる装置を実現させた。さらに、この装置を幅広い構造物性の研究分野に役立てるために、低温、高温、ガス吸着その場観察もできるように装備し、強力な新規ユーザーを積極的に開拓している。
このビームラインでの成果はNature、Scienceをはじめ全世界の学界で最も高い権威を認められる専門誌への発表が多く、また論文発表件数の多いビームラインとしてSPring-8で際立っており、物質科学に多大の貢献をしている。
樋口 隆康 泉屋博古館古代青銅鏡放射光蛍光分析研究会 泉屋博古館 館長
功績名:SPring-8を利用した古代青銅鏡の放射光蛍光分析
蛍光X線分析は組成分析の有力な手段であるが、古代青銅鏡の場合は表面に錆があるため、精度の良い分析が出来ない。
樋口氏らは、SPring-8の70keVという高エネルギーのX線を利用して、非破壊で高精度の測定が得られるよう、古代青銅鏡の主成分ではなく副成分であるSnを基準とした銀、アンチモンの微量濃度を測定することで、原材料産地の特定を試みた。所有する79枚の中国鏡、18枚の日本鏡を測定して、中国鏡でも戦国時代、前漢時代、後漢時代、三国時代に応じて不純物の含有量が異なり、日本鏡はそのいずれとも異なる分布を示すことを明らかにした。さらに被検体となる8枚の三角縁神獣鏡を測定して、うち6枚は中国の三国西晋鏡と分布が重なり、残り2枚は日本鏡と分布が重なることを見いだした。
この結果は、邪馬台国が畿内にあったのか、九州にあったのかという長年の論争に一石を投じ、考古学会に大きな影響を与えただけではなく、各メディアに大きく取り上げられ、世界最高の分析装置であるSPring-8の存在感を高め、一般の人にもわかる身近なものとした。
田中 均 財団法人高輝度光科学研究センター 加速器部門 副主席研究員
功績名:SPring-8蓄積リングのビーム性能の向上
電子ビームは沢山の集団に分かれて軌道を回っており、その一つの集団は少ない場合でも約15億個の電子が小さな空間にひしめき合いながら固まりを作っている。現在、SPring-8ではその集団の大きさは正面から見て縦が20μm、横が1mm、長さは10mmが達成され、高い「輝度」、高い「安定性」に貢献しているが、当初から実現したものではなかった。
田中氏は常にこれらの電子ビームの性能向上の中心となり、弛みない性能向上の努力を重ねた結果、ビーム断面の大きさ、特に縦の幅は当初設計値に比べて1桁、運転初期と比べても数分の一に改善した。さらに、縦方向の位置の変動1μmという驚異的な値を達成した結果、X線による物性測定、構造解析は高感度、高精度、高い時間的・空間的分解能を保証され、微小試料の測定、早い現象の測定等が可能となった。
この他にも同氏は、30m長直線部の実用化に貢献したほか、最近実用化に成功したTop-up運転にも中心的役割を果たした。Top-upは一定時間間隔で電子の入射を行い、常に満杯の状態にして光の強さを最大に保つ技術であり、特にSPring-8のTop-up運転は絶えず電子を補充しても安定性を損なわれず、国際的にも高い評価を得ている。
「平成16年度兵庫県科学賞」を北村英男氏が受賞
兵庫県は、県民文化の高揚、科学技術の向上、スポーツの振興及び明るい地域社会づくりに貢献された方々の功績を讃えるため文化賞、科学賞、スポーツ賞、社会賞の4賞を設けており、平成16年度の贈呈式が、平成16年11月8日に県公館で行われた。
今回、平成16年度兵庫県科学賞を受賞した北村英男氏((独)理化学研究所播磨研究所主任研究員)は、優れた挿入光源の開発を通じ、SPring-8における研究に貢献するとともに、放射光利用分野でも新たな装置の開発に取り組むなど、科学技術の向上と産業界の発展に尽くしたことが評価された。
さらに、兵庫県科学賞を受賞した同氏に対し、(独)理化学研究所野依理事長より、感謝状が贈られた(写真2)。
写真2 (独)理化学研究所野依理事長(左)と北村英男氏(右)
「第4回山崎貞一賞材料分野」を田中裕久氏、上西真里氏、西畑保雄氏が受賞
「財団法人材料科学技術振興財団山崎貞一賞(以下、山崎貞一賞)」は、科学技術水準の向上とその普及啓発に寄与することを目的とし、また、故山崎貞一氏の科学技術および産業の発展に対する功績、人材の育成に対しての貢献を記念して創設された賞であり、「材料」、「半導体及び半導体装置」、「計測評価」、「バイオサイエンス・バイオテクノロジー」の4分野で、実用的効果につながる優れた創造的業績をあげ、今後そのような業績をあげる可能性が高い将来性のある人を対象としている。なお、第4回山崎貞一賞の表彰は、平成16年11月29日に、マツヤサロン(東京都千代田区)にて行われた(写真3)。
受賞者紹介(材料分野)
田中 裕久 ダイハツ工業株式会社 材料技術部 主査
上西 真里 ダイハツ工業株式会社 材料技術部
西畑 保雄 日本原子力研究所 放射光科学研究センター 副主任研究員
功績名:自己再生型排ガス浄化用自動車触媒の研究と実用化
自動車触媒はガソリン自動車の排ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOX)を無害な成分に変える働きを担い、実用化されて四半世紀が経過している。しかし、今後ますます超低排出ガス基準等のクリーン車の積極的導入による環境貢献を図るためには、自動車触媒に使用される白金・パラジウム・ロジウムなどの貴金属量を大幅に低減し資源問題を解消できる触媒技術が望まれていた。
上の三氏が新しく開発したインテリジェント触媒はペロブスカイト型酸化物の結晶中にパラジウムをイオンとして原子レベルで配位(固溶)することにより、自動車排ガス中で自己再生する能動的な機能を与えようというものである。今日のガソリンエンジンでは空気/燃料比が一定の幅で電子制御されており、排ガスが酸化還元変動を繰り返している。この時のパラジウム原子の挙動をSPring-8の放射光を用いた結晶構造解析により明らかにした。すなわちこの触媒は、高温における酸化雰囲気でパラジウム原子がペロブスカイト型酸化物に固溶する。ところが還元雰囲気でパラジウム原子はペロブスカイト型酸化物から析出して微粒子となり、再び酸化雰囲気になると完全にペロブスカイト型酸化物に固溶することが分かった。このことは、排ガスの酸化還元変動に応じて結晶構造を変えることによって貴金属微粒子の粒成長が抑制されることを意味する。このようにして、新しく開発した触媒が優れた浄化活性を維持できることを明らかにした。すなわち触媒の自己再生機能を原子レベルで発見・解明した。
この成果は、これからの触媒開発に対して自己再生機能という新しい設計概念を与えたものである。なお、インテリジェント触媒は、平成17年排ガス規制レベルよりも有害物質を75%低減(SU-LEV)できることが認められ、これを搭載した軽自動車も販売されている。インテリジェント触媒の自己再生メカニズムの概要は、2002年7月に科学誌Natureや利用者情報Vol.7 No.6(2002年11月発行)の「最近の研究から・不老不死の自動車排ガス浄化触媒-インテリジェント触媒-」にも掲載されている。http://www.spring8.or.jp/j/user_info/sp8-info/
写真3 田中裕久氏(前列中央)、上西真里氏(前列右から2番目)、西畑保雄氏(前列左から2番目)
○出典:山崎貞一賞ホームページ(http://www.mst.or.jp/prize)