Volume 09, No.6 Pages 428 - 431
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第8回SPring-8シンポジウムを終えて
After the 8-th SPring-8 Symposium
1.はじめに
本稿はシンポジウム実行委員の一人である著者から見た第8回SPring-8シンポジウムの一断面である。他の委員の方々はまた違った視点をお持ちかとは思うが、原稿締切がシンポジウム直後ということもあって、こういった形で報告させていただく事をお許し頂きたい。
今回のSPring-8シンポジウムはいわゆる「課金問題」という重たい問題が主要テーマになるであろうと言う見通しの中で準備作業が始まった。またトップアップ運転の開始によってユーザー実験の形も大きく変わろうかという技術的にも重要な時期の開催であった。
さらに夏の停止期間が終わり準備作業も終盤という時に、蓄積リング棟の屋根が台風による被害を受け、その応急処置、恒久処置のために大きく運転の状況が変わることとなった。このため昨年まで停止期間中に開催するというずっと守られてきた条件を満たすことが不可能となった。今年のSPring-8シンポジウムは、異例ずくめであったといえるかもしれない。
昨年のシンポジウム終了直後の反省会にて前任の廣沢副委員長から指名を受けて以来、第8回のシンポジウムをどのように開催するか色々悩みながらの1年であったと思う。特に昨年度からSPring-8シンポジウムと利用技術に関するワークショップを同時開催という形に変更になったが[1][1]廣沢一郎:「第7回SPring-8シンポジウム」 SPring-8利用者情報 Vol. 9, No.1(2004)52.、昨年度の反省として3日間は期間として長すぎるのではないか、ということがあげられた。また今年は昨年度のように秋に1週間超という長い停止期間(中間点検期間)を設けないため3日間の開催期間を確保するのは困難であった。結果としてシンポジウムにもワークショップにも時間が不十分という結果になったかもしれないが、ひとえに副委員長の私の不徳の致すところである。
さて、今回のSPring-8シンポジウムの日程は2月頃には内定していた。今年はESRF-APS-SPring-8の三極ワークショップが11月にSPring-8で開催されることもあり、重複しないように、また停止期間に開催するという条件の下で、ほとんど選択の余地がなかったのが実状ではあった。委員選定や開催要項など具体的な作業は5月の連休明けに開始し、別表の通りの委員および事務局に様々な作業をしていただいた。
2.プログラムについて
今回のプログラムを説明させていただくと、一つはポスターセッションに十分な時間を与えようということに特徴がある。前回はポスターセッションを昼食時間につながる形で開催したところ、先に昼食に行ってからポスターを見る人と逆の人が現れたために、ポスターにアテンドする人が昼食に行く時間がなかったり、あるいは昼食から帰ってみるとアテンドする人が居なくて議論ができなかったという状況があったために、今回はあえてポスターセッションの前後に講演を挟む試みを行った。
ポスターセッションの様子
もう一点はポスターセッションにおいて前回まではビームライン毎に報告を求めてきたが、ビームラインによっては大きな変更などお知らせすべきことが少ない所もあったので、特に共同利用ビームラインに関しては形態を変えてみることにした。JASRIのグループ制が形だけでなく、運用面でも機能し始めているので、利用研究促進部門の各グループリーダに、グループとしてユーザーに特に伝えたい事を纏めて報告して貰う形にしてみた。原研、理研および専用施設でも複数のビームラインを抱えている機関については同様の形態で報告をお願いした。参加者のみなさんの感想は如何であろうか。またポスターセッションには長期利用課題やパワーユーザー活動の報告も含めたので、ビームラインの実状ばかりでなく、少し利用に即した報告も入るよう出来たのではないかと思っている。
また、シンポジウム本体には施設者側からのお知らせや課題選定など利用環境に関わる重要な点を中心に講演を展開し、利用の成果など研究的な内容についてはポスターセッションやワークショップにできるだけ組み込む形態になるよう工夫したつもりである。
ポスターセッションではポストデッドラインではあるが、ユーザーの方々への重要なお知らせとして課題申請システムの更新の状況を利用業務部から報告していただいた。さらに最後のセッションの利用業務部報告の一部として口頭でも報告いただいた。このような重要な案件は今後もシンポジウムで取り上げて行くべきテーマだと思われる。
3.ワークショップ
今回はワークショップに「検出器」を取り上げた。多くの利用に共通する課題を取り上げる、SPring-8固有の問題を議論するという観点から、施設者側提案とさせていただいた。またSLSとの共同研究によるPIXEL検出器が試用という形ではあるが一部SPring-8でもデータが出始めるなど時期的にも良い時期であるように思われた。検出器は光源の進歩になかなか追いついてこないために、実験条件に応じて様々な検出器を適宜選択して使っていかなければならないが、本当に適した検出器を使用しているのかどうか十分な検討が行われていない場合も見受けられる。SPring-8で使用されている検出器にどのような物があり、どのように使われているかの一端が紹介できたことで今後研究を進める上で検出器を検討するための一助となれば幸いである。
検出器も常に進歩する物であるからこの先も数年周期で取り上げるのが良いかと思われる。ワークショップのプログラムの内容は主にJASRI ビームライン・技術部門の検出器チーム 豊川委員を中心に纏めていただいた。ワークショップの詳細を豊川委員に受け持っていただいたため、著者はシンポジウム本体に注力することができた。
ワークショップでは1次元、2次元の検出器を中心に、最近の開発状況や利用状況、さらにそれらを用いた研究成果というセッションに分けることで、ハードウエアに偏らない編成が出来たのではないかと思う。
4.課金問題・台風被害
冒頭にも記したように、今回のシンポジウムではいわゆる「課金問題」が大きなテーマになるであろうと思われた。シンポジウムでは、最初のセッションで大野専務理事からJASRIの運営、予算などの観点から課金問題も含む様々な問題を報告していただいた。初日の午後には利用者懇談会総会があるので、利用者としての議論をしていただく形を取った。さらにワークショップの傍らでこれらの問題についてユーザーの方々に考えておいていただいて、最後のセッションでの討論の時間にじっくりと議論をして貰うように設定した。実際には翌日台風23号が通過するということで、JASRI内部の対応検討会議が入ってしまい、あまり具体的な議論にまで発展しなかったのは残念であった。
シンポジウムの開催準備を進めている間にも課金問題は様々な展開があり、ある程度結論が出た状態でシンポジウムに入るかと想定していたが、実際にはユーザーの皆様へ具体的な形で提示することができず、来年への持ち越し事項となってしまった。
シンポジウムの予稿がほぼ集まって来た頃、台風による蓄積リング棟の屋根の被害が生じた。この時点では壽榮松部門長に被害の状況とその後の処置について話していただくという方向で検討していたが、熊谷加速器部門長が施設管理部長を兼ねており詳細な情報を持っていると言うことで、技術的な点については熊谷部門長の報告の中に含めていただくこととした。屋根の補修とそれに伴う運転計画の変更については壽榮松部門長から簡単に説明があったが、残念ながらシンポジウムの段階では補修手順やスケジュールなど技術的な面および予算的な面で不透明な部分が多く、十分な説明が出来なかった。
5.Top-up運転
Top-up運転は数年前から準備が進められ、前回のシンポジウムでは本格導入はこれからという状況であった。今年の5月の連休明け以降はニュースバル入射時のみ中断という形で導入され、夏の停止期間開け以降はマシンに特にトラブルがない限り常時という完全な形となった。計画段階では入射時にビームが振れることによる様々な弊害の可能性が指摘されたが、加速器部門の方々の不断の努力により「世界に例を見ない」安定なTop-up運転が開始されている。そこで、熊谷加速器部門長からの紹介の他に、利用系3部門のTop-up運転対応の取り纏めを行ってきてくれた木村洋昭氏から、利用者側から見てTop-up運転がどのような状況であるかを報告いただくことにした。当初の想定では完全なTop-up運転が開始される夏の停止期間開けに実ビームを使って様々な測定を行った上で報告していただく予定であった。残念ながらこの実ビームでの測定は、台風による運転停止に伴ってビームラインスタディが実施不可能となってしまい、提示することが出来なかった。しかし、Top-up運転に関しては利用者から特段の問題も指摘されず、孤立バンチを使うユーザーからは大変好評である旨が報告され、順調な滑り出しを感じさせてくれた。
6.ナイトセッション
前回からシンポジウムに合わせて開催されているサブグループミーティングの内、特に問題ないミーティングについてはサブグループのメンバー以外にも公開していただくようにお願いし、ナイトセッションと称している。シンポジウムの一部としては位置づけていないが、シンポジウムの参加者や施設の者などが多く参加してくれることで、議論が深まることを期待している。今回も4グループがこの形態でミーティングを開催してくださった。残念ながら著者は所用で参加できなかったため詳細は把握していないが、今後この形式が定着していくものと考えている。
7.坂田会長提案
冒頭のご挨拶で坂田利用者懇談会長から近未来のSPring-8(仮称)というワークショップを来年の2、3月頃に開催してはどうかという提案があった。利用者懇談会の各サブグループからどうやってビームライン、ステーションを高度化していくか提案を出して貰って、それによってどのような研究が遂行できるようになるのかといった点を議論しようというワークショップであろうと解釈している。施設者側でも高度化については様々な検討を行っており、一部はビームライン評価の資料に将来計画として記述されているので、共に議論できる可能性もある。まだ提案段階であって具体化はこれからであろうが、興味深い話として紹介させていただく。
8.参加者
今回は230名の方に参加いただいた。昨年に比べるとかなり減ってはいるが、一昨年よりは若干の減少程度である。ユーザー運転中であること、大学の先生方が参加しづらい日程であったことを考えると、まずまずの参加者数であったと考えている。今後の参加者数がどのように推移していくか気になるところではあるが、昨年度並みに戻るよう次回については日程等の検討を行う必要があろうかと思われる。
今回は運転停止期間として想定されていた時期にシンポジウムの日程を設定したので、月曜日、火曜日という形になった。お恥ずかしい話ではあるが、いくつかの祝日を月曜日に固定する通称「ハッピーマンデー法」の施行以後、学校関係では月曜日の授業日数がぎりぎりになっており、休講に出来ないという事情が発生していると言うことを開催直前に知ることとなった。SPring-8ユーザーの多数を占める大学関係の方々にとって参加しづらい日程になっていたということである。今後の日程を決める上で重要な観点になるであろうが、一方で公的研究機関や企業ユーザーの方々の事情は如何であろうか。もしご意見が有れば著者までご一報頂ければ幸いである。
9.次回に向けて
今回のシンポジウムで結論をお伝えできなかった「課金問題」のその後の状況については次回のシンポジウムで取り上げる必要があろう。もう一方で今回のシンポジウムでも紹介があったように、日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構との統合に伴い、現状の原研−理研−JASRIの三者体制から、理研−JASRIの二者体制に変更になることがほぼ確実となりつつある。次回のシンポジウムの開催時期には新体制に移行しているであろうから、その点についても取り上げる必要があろう。
また課題選定についても今回報告があったように成果を課題の評価に反映させる仕組みの導入が検討されており、その運用状況について議論を行う必要があると思われる。これと関連して今回利用業務部から報告があった課題申請の新システムの運用状況および使い勝手についても議論がなされるであろう。
開催時期についても検討を行う必要がある。より効率的な運転を行うために長期連続運転の検討も行われているため、運転期間中の開催という事も想定しておく必要がある。この場合、これまで利用研究促進部門の若手の方々にお願いしてきた会場係やポスターセッションのアテンドがユーザーを抱えたビームライン担当者には困難であることを念頭に置く必要がある。マシンスタディ、ビームラインスタディなどユーザー運転中でない時期に開催するのも一考であるが、その場合には加速器部門の方々に無理をお願いする必要がありそうである。執筆時点では境界条件に未定の物が多く、こうすべしという解を示すことはできないが、次回への検討事項として記させていただくことにした。
10.終わりに
実行委員、事務局の方々には講演者との折衝、会場準備など様々な側面でお世話になった。下村研究調整部長には開催の理念や実際のプログラム編成に関してアドバイス等をいただいた。また若手の研究者の方々に当日会場係(時計、マイク)をお願いした。講演を快く引き受けてくださった講演者の方々、座長を引き受けてくださった方々にも紙面を借りてお礼を申し上げたい。実際にはここでは紹介しきれなかった様々なテーマで講演、報告をしていただいた。多くの方々にご支援を頂き、困難な日程の中、円滑にシンポジウムを開催することができた。これらの方々に感謝の念を記して筆を置きたい。
表 第8回SPring-8シンポジウム実行委員会 委員名簿
委員長: 伊藤 正久 群馬大学
副委員長:古川 行人 JASRI
委 員:黒岩 芳弘 岡山大学
鳥海 幸四郎 兵庫県立大学
難波 孝夫 神戸大学
樋口 芳樹 兵庫県立大学
上杉 健太郎 JASRI
木村 滋 JASRI
清水 伸隆 JASRI
高雄 勝 JASRI
豊川 秀訓 JASRI
中村 哲也 JASRI
宮武 秀行 理化学研究所
石井 賢司 日本原子力研究所
事務局: 當眞 一裕 研究調整部
仲田 和代 研究調整部
平野 志津 利用業務部
(SPring-8利用者懇談会事務局)
参考文献
[1]廣沢一郎:「第7回SPring-8シンポジウム」 SPring-8利用者情報Vol.9,No.1(2004)52.
古川 行人 Yukito Furukawa
(財)高輝度光科学研究センター ビームライン・技術部門
〒679-6198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
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