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Volume 09, No.6 Pages 425 - 427

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

26th International Free-Electron Laser Conference and 11th FEL User-Workshop (FEL2004)報告
26th International Free-Electron Laser Conference and 11th FEL User-Workshop (FEL2004)

渡川 和晃 TOGAWA Kazuaki

(独)理化学研究所 播磨研究所 新竹電子ビーム光学研究室 RIKEN Harima Institute, Advanced Electron Beam Physics Laboratory

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 第26回自由電子レーザー国際会議および第11回FEL利用者ワークショップ(FEL2004)が8月29日から9月3日の日程で、イタリア北東部のTriesteで開催された。Triesteはアドリア海およびスロベニアとの国境に面した港湾都市で、大陸とバルカン半島をつなぐ交通の要所として歴史的に栄えてきた町である。近郊には、放射光施設Sincrotrone Trieste(ELETTRA)があり、エネルギー2 GeVのシンクロトロンが稼動している。今回の会議はELETTRAの主催で行われ、世界十数カ国から自由電子レーザーに関する研究者約300名が参加した。SPring-8からは理研の4名(新竹、原、田中、渡川)とJASRIの1名(谷内)が参加した。尚、自由電子レーザー(Free Electron Laser、略してFEL)とは、電子線加速器とアンジュレーターを利用して波長可変の強力なレーザー光を発生する装置のことである。
 会議内容であるが、最近のトレンドを反映して、短波長側ではX線領域のレーザー発振を狙うシングルパス FEL、長波長側では10 kWレベルの強力な赤外線レーザーやテラヘルツ光源に関する報告が主流であった。会議は幾つかのセッションに区分して進められた。その中で、特に興味があった内容について報告したい。
 Opening Session:初日のオープニングセッションでは、毎年恒例となっている前年度のFEL prize受賞者による招待講演が行われた。今回はBNL研究所のLi-Hua YuによるカスケードHGHG(High-gain Harmonic-generation)FELの開発研究についてであった。HGHGとは、種光源である長波長レーザー光と電子ビームをアンジュレーター中で相互作用させ、より波長の短い高調波レーザー光を発振するものである。Yuのグループは波長800nmのチタンサファイアレーザーを種光源として266nmの高調波を生成することに成功しており、今後、軟X線からX線へとより短波長の領域への発展が期待されているテーマである。また、このセッションでは初めて発振に成功した施設がその報告を行うことが定例となっており、今年はFZR研究所のP.MichelによりELBE加速器における波長20μmの中赤外レーザー光の発振実験が報告された。
 
 
 
FEL2004が開催された会議場 Stazione Marittima
 
 Single Pass FELs:シングルパスFELとは、ミラー共振器を使用せずに、アンジュレーターに電子ビームを1回だけ通過させることによりレーザー光を発振するタイプのFELを指す。自己増幅型自由電子レーザー(SASE-FEL)とも呼ばれ、反射ミラーが存在しないX線レーザーは必然的にこの方式となる。X線レーザーの発振を目指すプロジェクトは、現在、LCLS(SLAC)、TESLA-XFEL(DESY)、SCSS(SPring-8)が進行中であるが、韓国のPAL研究所が新たにR&Dのための予算が認められたことが話題となった。
 セッションでは、まず、理研の新竹によりSingle Pass FELの基礎技術に関するトークがなされた。Single Pass FELは加速器が安定に稼動しなければ成功はありえないというのが彼の信念である。ビームを安定化するための電源の安定化や精密架台など、加速器に不可欠な基礎技術の報告がなされた。ANL研究所のY.Chaeはビームアライメントの誤差がFEL発振(紫外線)に及ぼす影響についての実験結果を報告した。実験データの評価には、昨年の会議で理研の田中が発表した理論が使われており、実験と理論の良い一致が確認された。ポスターセッションでは、Start-to-Endシミュレーションの報告が目立った。最近のビームシミュレーションコードの発展により、電子銃(Start)からアンジュレーターでのFEL発振(End)までの計算が可能となっており、Single Pass FELのプロジェクトを持つ各研究所はこれに基づいて装置設計を行っている。
 
 
 
 
会議場より見渡したTriesteの風景
 
 FEL Theory:このセッションは、FEL発振における非線形現象やHGHGに関する理論研究などが報告された。数学的にかなり難易度の高いセッションで、何割の聴衆が理解できていたか疑問である。
 FEL Technology:現在稼動中のFEL施設や将来計画が多数存在することから、非常に多くのFEL技術に関する報告があった。中でも興味があったのが、サブピコ秒の単バンチ電子ビームの測定技術に関する報告である。X線FELのためのR&Dが進み、測定器の開発も本格化してきた感じである。SLAC研究所のP.KrejcikはZnTe結晶とチタンサファイアレーザーを用いたバンチ長の測定について報告した。ビーム軌道のすぐそばに置いたZnTe結晶に電子ビームの横電場が作用する際に生じる電気光学(EO)効果を利用したもので、同じタイミングでZnTe結晶にレーザー光を通過させると、電子ビームのバンチ幅に相当する時間だけレーザー光の偏光面が回転する。あとは、レーザー光を偏光子で分光して時間測定を行なうと、電子ビームのバンチ幅が求まるのである。このアイデアにより、シングルショットで300フェムト秒バンチ幅を測定した。また、PTB研究所のM.RichterはDESYにおいて開発しているXeガスを使った紫外線FEL光のビームモニターについて報告した。Jefferson 研究所のM.Shinnからは、スクレーパーミラーを使ってFEL共振器からハイパワー赤外線(波長10μm、2kW)を取り出すことに成功した実験についての報告があった。ポスターセッションでは、ソフトウェアーからハードウェアーにいたるまで網羅しきれない程様々な報告があった。SPring-8からは、原によるSCSS電子入射器のシミュレーション結果、田中によるFEL解析コードの開発、谷内によるRF電子銃の開発についての報告がなされた。
 FEL Oscillators:光共振器を使ったFELに関するセッションで、NovosibirskのBINP研究所におけるテラヘルツFELの開発、Jefferson研究所における赤外線FELの高度化などの報告があった。
 Gun/Injector Technology:電子銃および入射器は、X線FELやエネルギー回収型リニアック(ERL)など将来の高輝度光源にとって最も重要なコンポーネントの一つと認識されており、世界的にも広く精力的に研究が行われている。そのためか、例年ならFEL Technologyのセッションの一部であったものが、今回は独立のセッションが設けられた。
 
 
 
 
ポスターセッションの様子 
 
 X線FEL用の電子銃開発で注目されているのは、如何にして低エミッタンスビームを生成するかである。世界的な主流はレーザーフォトカソードを使ったRF電子銃であり、最も開発研究が進んでいるのがDESY研究所である。DESYではX線FELのための試験加速器(TTF)にRF電子銃を用いているのであるが、これとは別に電子銃専用の試験施設(PITZ)を建設して集中的にR&Dを行っている。CsTeフォトカソードに照射するレーザーの空間プロファイルを一様にすることで、1.5πmm・mradの低エミッタンスビームの生成に成功したことが、F.Stephanにより報告された。PITZでは、エネルギー分析器やストリークカメラなど様々な測定器を集結して、電子ビームの6次元位相空間に関する全ての情報をモニターする計画である。次に、理研の渡川によりCeB6熱カソードを用いたパルス電子銃のエミッタンス測定に関する報告があった。これは、SPring-8のSCSS計画のために開発した電子銃で、ビームを安定に供給することを重要視して熱カソードを選択しているのであるが、レーザーフォトカソードに劣らない低エミッタンス(1.1πmm・mrad)が実証できたことで注目を集めた。次の課題はエミッタンスを壊さずに如何にしてビームをバンチングするかである。BNL研究所のI.Ben-Zviは、ERLにおいてアンペアー級の大電流ビームを加速することを目指したRF電子銃の開発について報告した。光電子ビーム生成の高効率化として、フォトカソードの前面に取り付けたダイアモンドフィルムに光電子を入射し、ダイアモンド内部で光電子を2次電子増幅させ、これを再び真空中に引き出してビームにしようといったアイデアが出された。電子ビームの生成方式として、熱電子(フィラメント)、光電子(フォトカソード)、電界放出電子(フィールドエミッター)はお馴染みであるが、ついに2次電子の登場といったところであろうか。また、FZR研究所のD.Jassennにより超伝導空胴を用いたRF電子銃の報告がなされた。
 さて、会議3日目の夜に開かれたカンファレンスディナーでは嬉しい知らせがあった。毎年、この場でFEL prizeの受賞者が発表されるのであるが、今年は東北大の浜広幸とBNL研究所のV.Litvinenkoの両氏に送られた。受賞理由は、蓄積リング型FELの研究における基礎的かつ先駆的な貢献に対してである。近い将来、SPring-8の研究者が受賞されることを願いたい。
 最後に、来年のFEL国際会議はSLACで開催される予定である。
 本稿で紹介できた内容は会議の中のほんの一部であり、興味ある研究は他に多数ありました。幸いProceedingsとPresentationの電子ファイルが既にWeb上で公開されているので、興味のある方は(http://www.elettra.trieste.it/fel2004/)を除いていただければと思います。



渡川 和晃 TOGAWA  Kazuaki
(独)理化学研究所 播磨研究所 新竹電子ビーム光学研究室
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2929 FAX : 0791-58-2840
e-mail : togawa@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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