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Volume 09, No.6 Pages 415 - 420

2. ビームライン/BEAMLINES

BL08B2 兵庫県ビームラインの現状
Current Satus of Hyogo Beamline BL08B2

横山 和司 YOKOYAMA Kazushi

(財)ひょうご科学技術協会 Hyogo Science and Technology Association

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1.はじめに
 1997年10月よりSPring-8における共用ビームラインの放射光供用が開始されて以来、年次的にビームライン建設が展開されてきた。兵庫県でも第1号の専用ビームラインとしてBL24XUを1997年に建設し、8の字アンジュレータとダイヤモンド結晶によるトロイカ方式を採用することによって、3つの実験ハッチそれぞれにおいて3種の異なる実験を同時並行で実施可能とするシステムを構築した。このビームラインではこれまで多数の企業による産業利用の研究が遂行されてきた。また、姫路工業大学X線光学講座(現 兵庫県立大学 X線光学分野)による硬X線マイクロビームの研究開発やこれを活用した高精度X線回折、硬X線顕微鏡等の研究、企業との共同研究による産業利用への応用も積極的に取り組んできた。
 一方、産業界における研究開発の状況に目を向けると、材料利用技術の高度化が盛んに取り組まれている。例えばシリコンに代わる化合物半導体、複雑な系の合金材料、高分子ポリマー、多元素組成の磁性材料と酸化物等、新しい特性を持った複合材料などが挙げられる。特にポリマーや金属材料の分野では、超微粒子を材料中に分散させることで、耐磨耗性、靭性、疎水性、離型性、潤滑性、分解性、吸着性、硬度、塗布難易度といった物理的性質が変化することが分かり、新機能材料の開発において盛んに応用されつつある。このような新材料が有する構造を解明する手法として、放射光は効果的なツールとして活用されてきている。兵庫県でも上記のようにこれまで放射光の産業利用を展開してきたが、新たにBL24XUの機能を補うべく、第二の専用ビームラインBL08B2を建設することとした。新ビームラインでは、偏向電磁石光源からの放射光の波長可変性と高強度性の特長を最大限に生かし、BL24XUでは実現できなかったXAFS、小角X線散乱といった測定手法を実現させる予定である。また、装置調整や試料交換の作業も極力自動化するなどの工夫を取り入れていく予定である。産業界の多様な材料評価のニーズに対して、ユーザが使いやすい放射光の利用環境を提供していくことを最大の目標としている。


2.ビームラインの概要
2-1.装置状況

 BL08B2は現在フロントエンド部の据え付けが終わり、遮蔽ハッチ建設の段階である。図1に実験ホールの建設現場の状況を示す。本ビームラインの遮蔽ハッチは、図2に示すように光学ハッチと2つの実験ハッチから構成される。特に下流側の実験ハッチは、小角X線散乱向けとして、光軸方向において13m長のスペースを確保している。光学ハッチと実験ハッチ間、および両実験ハッチ間は、シールド遮蔽された大口径の真空パイプで接続して光を通す。輸送部のレイアウトについては、図3に示すように、SPring-8偏向電磁石標準ビームラインの構成を採用している。主な光学素子として、分光器の上流位置にコリメーション用前置ミラーを配置する。これと分光器との組み合わせにより、エネルギ分解能の向上と高調波除去を実現させる。分光器の下流には集光用後置ミラーを配置し、鉛直面内のビーム集光を実現する。ミラーはいずれもロジウムコートされたものを採用予定であり、鉛直面内での湾曲を与える機構上に搭載する。二結晶分光器は傾斜可変型タイプを採用する。産業界でのXAFS利用を想定し、4.3〜40keVの範囲のエネルギ領域を分光可能とする。このため、分光用のシリコン結晶は表面(111)とし、この面と(311)を使い分ける。前置ミラー反射による光軸偏向に対しては分光器および後置ミラーを傾斜架台および昇降架台上に設置することで対応する。この時、遮蔽ハッチ間の真空パイプについても昇降操作が可能な構成となっている。

 

図1 遮蔽ハッチ建設状況




図2 遮蔽ハッチ配置図




図3 輸送部を含む配置図



2-2.建設スケジュール
 フロントエンドの据付工事を今年度の夏期停止期間に完了した。また、光学ハッチおよび上流側の実験ハッチのパネル据付を実施し、これを完了した。周辺のビームライン実験への影響を考慮して、遮蔽ハッチの残りの部分は冬期停止期間中に、輸送部および制御インタロックの工事も順次行う予定である。来年度にビームライン運転に必要な検査を受けた後、夏期停止期間後よりコミッショニングを開始する予定である。4つの実験ステーションについても現在、準備を進めている。


3.実験装置の紹介
 上流側の実験ハッチには光学系機器およびXAFSを、下流側にはX線回折および小角X線散乱の各ステーションを配置する予定である。これらはタンデム配置であり、各ステーションの切り替えはできる限り迅速に行える機構も備えたい。さらに各実験ハッチには、反応性ガスを利用するためのユーティリティ設備を導入することも検討中である。以下に各々の実験装置に関する概要と現状を述べる。


3-1.XAFS
 構造・形態が多岐に渡る新機能発現物質の特性解明を行うために、XAFSは強力なツールの1つとして産業界で活用されている。本実験ステーションでは、多様なニーズに応えるべく、迅速性・安定性・簡便性に特化したXAFSシステムの構築を進める。BL01B1の実験ステーションを参考として、図4に示したようなステージ構成を整備する予定である。本装置の特徴は以下の通りである。




図4 XAFS ステージ構成


(1)分光可能なエネルギ範囲を約4.3keVから40keVとする。このエネルギ領域はK端およびL端を含めるとカリウム以上の総ての元素が測定可能である。
(2)検出システムとしては、透過法、蛍光収量法、電子収量法の3つの測定法が選択できる。
(3)Quick-XAFS測定も整備する。
(4)透過法では、試料を多連装可能な試料ホルダを備える。これとステージとの構成により複数試料の自動測定が可能となる。
(5)蛍光収量法は、通常のLytle検出器の他に、有効面積の広い19素子のGe半導体検出器を整備する。Lytle検出器による蛍光収量法でも検出が困難な微量成分(ppmオーダ)の測定も行うことができる。
(6)電子収量法は、ガス増幅を利用した転換電子収量システムを設置する。
(7)検出システムの切り替えや試料交換、測定元素選択の変更による検出ガスの切り替え等の作業はできるだけ簡便かつ短時間で行えるようなシステムを検討している。
(8)全反射モードによる測定、クライオスタットによる極低温測定、反応性ガス炉を用いたin-situ での測定設備も装備予定である。特に極低温測定については、試料を一度に2、3個を装着可能とし、かつ試料交換の際にも温度を室温に戻すことなく交換可能な構造を採用する。
(9)光軸上定盤上にはユーザが持ち込む試料チャンバ等も搭載可能とする。


3-2.粉末X線回折
 本実験ステーションは、有機、無機の両産業分野での活用を期待している。特に、医薬品化合物では、結晶多形の評価において放射光による粉末X線回折の手法が注目されている。これは開発初期に結晶多形現象を正確かつ網羅的に把握することが、医薬品開発において極めて重要であるためである。特に低分子結晶の場合、無機物に比べて多数の反射ピークが回折角の低角領域に現れるため、ラボ装置以上の高い角度分解能性能を有する測定機能が要求される。このようなニーズに対して兵庫県ビームラインBL24XUでは、ユーザとともに高角度分解能の回折計整備を進め、その有効性を実証してきた。新ビームラインにおいても粉末X線回折ステーションを整備し、BL24XUと合わせて産業界での総合的な活用を目指す予定である。図5にシステム全体のイメージ図を示す。本装置の特徴は以下の通りである。




図5 粉末X線回折ステーション概念図

(1)本実験ステーションは高角度分解能とともに測定の迅速化も実現する構成を整備する。
(2)回折計はθ-2θステージをベースとして構築する。特に高角度分解能を実現するため、検出部の構成にはスリット、ソーラスリット、アナライザ結晶(シリコンまたはゲルマニウム結晶)およびカウンタからなるユニットを採用する。測定時間の短縮化を図るため、このユニットを2θ軸に複数個搭載した、いわゆる多連装検出器システムを検討している。
(3)粉末試料は、キャピラリ充填による透過配置、平板プレートである試料ホルダを用いた反射配置等を採用する。それぞれの試料ステージにスピナーを設置する。
(4)平板プレートのホルダ向けに試料の自動交換システムを検討している。数十試料を連続測定可能とすることを目標としている。
(5)タブレット形状の試料やキャピラリについても、連続測定を可能とするための簡単な自動交換機構を検討中である。
(6)金属表面の酸化、腐食等の反応による構造変化の動的観察を行うため、可燃性ガスや反応性ガスの供給および排気設備を整備する。この設備についてはテーマ内容がまとまり次第、JASRIの協力を得ながら進める予定である。試料の加熱、加湿、反応性ガス炉等のシステムをθステージ上に搭載可能とする。これらのユニットについては、現状ではユーザ側での準備とする方針である。
(7)湾曲タイプのイメージングプレートを搭載可能とする。ただし、読み取り・消去の処理は、マニュアル操作である。
 本実験ステーションでは、将来、自動読み取り装置を備えた湾曲型のイメージングプレート回折装置の開発も取り組みたい。当面はこれに代わるシステムとして、自動読み取り装置を備えた平板タイプの大面積イメージングプレートを利用して実現する。ただし平板タイプであるため、入射角の補正等を含めたソフトウェアを準備したい。


3-3.精密X線回折装置
 本実験ステーションは、大面積ウェーハのトポグラフィ撮像や、バルク材料、薄膜材料等の結晶性評価等を行うことを目的として設置する。また触媒材料等の開発ユーザによるin-situ実験も計画中である。実験装置としては、精密駆動ステージを定盤上に設けたスライドテーブル上に搭載し、相ステージ相互の配置を容易に調整可能とする構成とする。イメージング実験についても、実施予定である。さらに、多軸回折計についても導入を検討中である。本実験ステーションの特徴は以下の通りである。
(1)トポグラフィ実験では、偏向電磁石光源からのワイドビームを利用する。
(2)コリメータ結晶を利用した、表面選択性トポグラフィの測定配置も整備する。
(3)XAFS 同様、酸化、腐食等の反応による材料の構造変化の動的観察を実施する予定である。
(4)多軸回折計については導入を検討中であるが、ユーレリアンクレードル型の回折計を採用し、小型の試料加熱や溶液散乱、気相反応実験等を行うための試料セルを搭載可能としたい。


3-4.小角X線散乱
 ナノ材料開発の分野において、構造材料が有する長周期構造や凝集体の構造解析の重要性は非常に高い。そこで本ビームラインでは、ナノ構造材料の迅速な構造解析、構造物性相関の把握を行うために使用する小角X線散乱装置を設置する。現在設計中の装置概要を図6に示す。装置は下流側の実験ハッチ内に設置され、試料ステージ、真空パスおよび検出器から構成される。本実験ステーションの特徴は次の通りである。



図6 小角X線散乱 実験配置図


(1)様々な小角分解能を選択可能とするため、カメラ長の変更(200〜6200mm)が可能な構成とする。特に大型定盤上に真空パス退避機構を備えることで、短時間でのカメラ長変更を実現する。
(2)検出器には、自動読み取り型のイメージングプレートを使用する。時分割測定時にはイメージインテンシファイアとX線CCDとを組み合わせた検出器を使用し、数十〜100msecの時間分解能を実現する。
(3)水平軸配置であるθ- 2θ高精度回折計を標準の試料搭載ステージとして採用する。本ステージ上には、最大重量10kg、300mm×300mm×300mmまでの試験機等が搭載可能である。この試料ステージを退避させることで、設置面積が最大1m×1mの大型装置も持ち込み可能である。
(4)超小角散乱測定として、上流側および下流側の両実験ハッチを利用することにより、カメラ長17mの実験配置も実現する。また、項目(3)で述べた回折計のカウンタアーム上にアナライザ結晶を搭載することで、Bonse - Hartカメラとしても使用可能である。この時、回折計の上流側には、コリメーション用のシリコン結晶を搭載する。これらの超小角散乱装置を使用して、小角分解能1000nmの測定を目指す。
(5)将来的には、小角・広角同時測定を想定したカメラも導入する予定である。
 本小角X線散乱装置は、文部科学省の「兵庫県地域結集型共同研究事業」により手配されており、ビーム供用時の当初における利用ターゲットとなることが想定されている。


4.おわりに
 兵庫県ビームラインBL08B2では、以上で述べたように、複数の実験ステーションを備える。これらを効率的に運営するため、装置切り替えの迅速化等、ユーザが使いやすい環境を整備したい。また、反応性ガスや可燃性ガスの利用については、安全基準を守りつつJASRIの指導のもとに整備する予定である。ビームラインの運営は施設側管理のもと、財団法人ひょうご科学技術協会が行っていくことになる。新技術の開発や導入については、BL24XUの場合と同様に、兵庫県立大学大学院 物質理学研究科  X線光学分野、理研、原研、JASRIに協力を仰ぎながら展開して行く。ユーザ利用については、テーマ提案を協会が随時受け付けながら、本ビームライン利用の必要性を判断する現行の方式を継承することとなろう。高分子、ゴム材料等のそれぞれの分野におけるユーザは「兵庫県地域結集型共同研究事業」の計画の下で、利用実験を計画することとなる。
 新ビームライン完成後の運用に関しては、放射光のハンドリング技術や測定・解析手順に熟知したスタッフが実験をサポートする利用体制を含めて、放射光の産業利用をさらに展開していきたい。基本的にはBL24XUでも採用された方式をBL08B2でも継承する予定である。



謝 辞
 終わりに、本ビームライン計画において予算的な面でご尽力頂いている兵庫県産業労働部の大角真一、山本伸之の両氏に感謝の意を表します。また、ビームラインの仕様検討の段階からお世話になっている理研の石川哲也、北村英男、山本雅貴の各氏、JASRIの植木龍夫、後藤俊治、竹下邦和、木村洋昭、高橋 直、田中良太郎、福井 達、古川行人、大端 通、松下智裕、石澤康秀、高城徹也、谷口真吾、依田芳卓、伊藤真義の各氏および各グループの方々には深く感謝いたします。原研の浅野芳裕氏には遮蔽ハッチの仕様検討でお世話になりました。実験ステーションの検討では、JASRI宇留賀朋哉、谷田 肇、古宮 聰、梅咲則正、廣沢一郎の各氏のグループ、中前勝彦、小寺 賢、井上勝晶、三浦圭子の各氏、理研の藤澤哲郎、伊藤和輝、スプリングエイトサービスの福本祐史、上村重明の各氏にお世話になっています。ユーザの方々および「兵庫県地域結集型共同研究事業」の山口幸一エージェントをはじめ、参加メンバの方々からも貴重なご意見を頂いています。今後も何卒宜しくおねがいします。



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