ページトップへ戻る

Volume 09, No.5 Pages 363 - 366

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

プレス発表の状況(2004年6月〜7月)
Press Releases (June-July, 2004)

(財)高輝度光科学研究センター 広報室 Public Relations Office, JASRI

pdfDownload PDF (27 KB)


 SPring-8利用者情報では、今後、発行月の前々月末締めで、2ヶ月間にSPring-8からプレス発表されました記事の要旨を掲載することとなりました。今回の9月号は、2004年6月~7月の2ヶ月間にプレス発表されたトピックスを紹介します。

 各記事の詳細、用語説明等につきましては、SPring-8ホームページhttp://www.spring8.or.jp/j/topics/へ掲載してございますので、そちらをご覧ください。



夢の運転を世界で初めて実現

-トップアップ運転の開始-

                                        平成16年6月7日

                                (財)高輝度光科学研究センター


 (財)高輝度光科学研究センター(JASRI、理事長:吉良爽) の加速器部門(熊谷教孝部門長)は、大型放射光施設(SPring-8)の蓄積リングにおいて、放射光を利用している間の電子ビームの減少を、継ぎ足し入射で常時補い、一定の蓄積電流を維持するトップアップ運転の実現に成功した。従来の運転方式では、蓄積電流値が時間と共に減少し、また、新たに電子ビームを入射する際に、電子ビームの軌道変動や放射線の問題から一時的に放射光利用をストップしなければいけないなどのデメリットがあり、その改善策が望まれていた。

 今回、SPring-8 で実現したトップアップ運転は、この問題を解決するとともに、(1)電子ビームの継ぎ足し入射が利用実験に悪影響を及ぼさないこと、(2)入射した電子ビームの損失が非常にすくないこと、(3)純度の高い高密度電子ビームを実現すること等、これまで他の放射光施設で追い求められてきた”夢の運転”を世界で初めて実現した。

 この成功により、従来の運転と比較して、ビーム強度を一定に保つことと入射時のロスタイムをなくすことで、時間平均輝度が実効的に約2倍改善される見込みである。また、SPring-8蓄積リングの蓄積電流値の変化を0.1 %以内で安定化することにより、放射光を受けるX線光学系の熱的安定性が飛躍的に改善され、実験精度の向上が期待される。さらに、従来の運転方式では蓄積ビームの減少が著しく、利用運転が不可能であった高密度電子ビームの利用も可能になり、生成される高強度パルスX線を用いた新たな放射光利用実験の開拓にも貢献すると考えられる。SPring-8では5月20日より利用実験時のトップアップ運転が開始され、利用者から大きな期待が寄せられている。

 本研究の詳細は、7月にスイスのルツェルンで開催される欧州粒子加速器会議EPAC'04で、田中均博士(JASRI)等が発表を行う予定である。


 発表タイトル: "Top-up Operation at SPring-8- Towards Maximizing the Potential of a 3rd Generation Light Source" (SPring-8 におけるトップアップ運転─ 第3世代放射光源の能力最大化に向けて)



遺伝子翻訳システムの重要なタンパク質の分子構造を解明

- タンパク質がRNAの分子擬態をしていることが明らかに-

                                     平成16年6月22日

                                 独立行政法人理化学研究所


 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、遺伝子の翻訳過程に重要な役割を果たすタンパク質(翻訳伸長因子P(EF-P))の立体構造を世界で初めて決定しました。理研ゲノム科学総合研究センター(榊佳之センター長)、タンパク質構造・機能研究グループの横山茂之プロジェクトディレクター、白水美香子チームリーダー、塙(末次)京子リサーチアソシエイト、播磨研究所・横山構造分子生物学研究室の関根俊一研究員らの研究グループによる成果です。

 遺伝情報は、DNAに遺伝暗号という形で蓄積されています。遺伝暗号通りの決められたアミノ酸が決められた順序で結合し、決まった構造を持つことにより、生命の体を作り生命活動を行うタンパク質が生まれます。この過程は“翻訳”と呼ばれています。翻訳は、リボソームと呼ばれる巨大な分子装置上で行われますが、リボソームの働きを助けたり、タンパク質合成に必要な材料やエネルギー源を供給するために、数多くの翻訳因子と呼ばれるタンパク質やRNAが関与しています。

 研究グループでは、生命の生存に必須であり、遺伝暗号の翻訳過程において重要な因子であるとされながらも、機能や構造の多くの点で謎につつまれたタンパク質である「翻訳伸長因子P(EF-P:Elongation Factor P)」の立体構造を、大型放射光施設(SPring-8)の理研構造生物学ビームラインBL45XUを用いて決定することに世界で初めて成功しました。1.65Å(オングストローム)という高分解能で解析された結晶構造から、EF-Pはそのかたちや大きさの点で、トランスファーRNA(tRNA)と呼ばれる核酸(RNA)分子に酷似していることが明らかになりました。

 本研究は、わが国で推進している「タンパク3000プロジェクト」の一環として行われたもので、翻訳に関わるタンパク質の解明は非常に重要であると考えられています。これまでに多くの抗生物質が翻訳機構をターゲットに作られているなど、翻訳機構の分子メカニズムの解明は、学術的な貢献の他、今後の新たな創薬開発にも寄与すると考えられます。本研究成果の詳細は、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America:PNAS』(6月29日発行)に掲載されます。それに先立ち、6月22日、オンライン版に掲載されます。

(論文)

"Crystal structure of elongation factor P from Thermus thermophilus HB8"Kyoko Hanawa-Suetsugu,Shun-ichi Sekine,Hiroaki Sakai,Chie Hori-Takemoto,Takaho Terada,Satoru Unzai,Jeremy R.H.Tame,Seiki Kuramitsu,Mikako Shirouzu,and Shigeyuki Yokoyama



熱電変換材料Zn4Sb3における、ガラス状に存在するZn原子の発見

- ガラスの熱伝導と結晶の電気伝導をあわせ持つ、高性能熱電変換材料の構造解明-

                                       平成16年6月28日

      カリフォルニア工科大学、名古屋大学、オーフス大学、(財)高輝度光科学研究センター


 カリフォルニア工科大学のJeffrey Snyder博士グループ、名古屋大学の西堀英治博士グループ、オーフス大学のBo Brummerstedt Iversen教授グループは、熱を電気に変換する熱電変換材料Zn4Sb3の構造を、大型放射光施設(SPring-8)の放射光X線を利用して解析することにより、Zn4Sb3のZn原子のうち、約10%がガラスのように無秩序に存在していることを発見した。

 今回の、結晶とガラスの両方の性質を併せ持つZn4Sb3の構造の解明は、この物質の低い熱伝導度と高い電気伝導度に起因する高い熱電性能の発現機構を解明するだけでなく、新たな熱電材料開発にも大きく寄与することとなる。

 この成果は英国科学雑誌Nature Materials 8月号で発表される。それに先立ち、6月27日発行の英国科学雑誌Nature Materialsオンライン版に掲載される。

(論文)

"Disordered zinc in Zn4Sb3 with phonon-glass and electron-crystal thermoelectric properties"「フォノングラスとエレクトロンクリスタルの熱電特性を持つZn4Sb3における無秩序なZn原子」

G.JEFFREY SNYDER,MOGENS CHRISTENSEN,EIJI NISHIBORI,THIERRY CAILLAT and BOBRUMMERSTEDT IVERSEN



カルシウムポンプ蛋白質のカルシウム閉塞機構を解明

                                        平成16年7月1日

        

                           東京大学、(財)高輝度光科学研究センター


 東京大学・分子細胞生物学研究所 豊島近教授と大学院生の水谷龍明氏(現在、東京大学医学系研究科免疫学教室)は大型放射光施設(SPring-8)の共用ビームラインBL41XU(構造生物学Ⅰビームライン)を用いて、エネルギー源であるATPの類似体が結合した状態のカルシウムポンプ(ポンプ蛋白質の1種)の立体構造を決定し、ATPの結合がポンプ蛋白質に結合したカルシウムを閉じ込める機構を解明することに世界で初めて成功した。この研究の詳細は英国科学雑誌NatureにArticleとして発表されるが、印刷に先立って6月30日にインターネット上で公開される。

(論文)

“Crystal structure of the calcium pump with abound ATP analogue”「ATP類似体を結合したカルシウムポンプの結晶構造」

CHIKASHI TOYOSHIMA AND TATSUAKI MIZUTANI



高度好熱菌リン酸マンノース転移酵素の構造解析に成功

- 蛋白コンソとの初の共同研究成果-

                                        平成16年7月9日

                    独立行政法人理化学研究所、蛋白質構造解析コンソーシアム


 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と蛋白質構造解析コンソーシアム(以下蛋白コンソ)は、高度好熱菌において、耐熱性のリン酸マンノース転移酵素(Phosphomannomutase)の立体構造を決定しました。理研播磨研究所ハイスループットファクトリー構造解析第2研究チームの国島直樹チームリーダーらと蛋白コンソの研究グループによる成果です。

 大型放射光施設(SPring-8)に2002年に建設した専用ビ-ムラインBL32B2(以下創薬産業BL)では、蛋白コンソ加盟各社が自社の標的とするタンパク質の構造情報を蓄積中です。一方、理研は、新しい方法論の習得および基盤データ整備を視野に入れた共同研究を蛋白コンソと実施してきました。新薬の創製には高度の機密が伴うため、加盟各社の成果の多くは速やかな公開が非常に困難ですが、共同研究の成果は速やかに公開する方針です。今後、加盟各社が疾患関連タンパク質構造情報に基づくゲノム創薬への取組みを活発に展開して人類の健康に貢献していくことが期待されます。

 本研究は、わが国で推進している「タンパク3000プロジェクト」の一部である「高度好熱菌丸ごと一匹プロジェクト」の一環として行われました。リン酸マンノース転移酵素は、細菌からヒトに至るまで、生合成経路に存在する重要な酵素で、本研究の成果は、新薬開発に大きく貢献すると考えられます。

 本研究成果の詳細は、7月17日から22日、米国・シカゴで開催される米国結晶学会(American Crystallographic Association(ACA)Annual Meeting)で発表されます。

(学会発表)

“Crystal Structure of Putative Phosphomannomutase from Thermus Thermophilus HB8”Shintaro Misaki,Kenji Suzuki,Naoki Kunishima,Mitsuaki Sugawara,Chizu Kuroishi,Masanori Kobayashi,Shoko Fujimoto,Masahiro Sakurai,Kazumi Nishijima



脂肪酸代謝システムの鍵となるタンパク質の構造を解明

- 脂肪酸を体内で活用する為の秩序だった触媒反応の詳細な知見-

                                       平成16年7月13日

                                     独立行政法人理化学研究所


 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、大型放射光施設(SPring-8)の理研ビームラインBL26B1、BL41XU、BL45XUを使用し、生物の長鎖脂肪酸代謝システムの鍵となるタンパク質である、長鎖脂肪酸アシル化補酵素A合成酵素(LCFACS)が働く際の動的な立体構造変化を明らかにし、長鎖脂肪酸が長鎖脂肪酸アシル化補酵素Aに変換される迄の順序だった二段階触媒反応の過程を構造に基づいて詳細に記述する事を可能にしました。またこの触媒反応の中で、今までは実験的に検出する事ができなかった長鎖脂肪酸アシル化AMPがいったん反応中間体として形成されることを、世界で初めて実験的に観測することに成功しました。理研播磨研究所・宮野構造生物物理研究室の宮野雅司主任研究員、吾郷日出夫先任研究員、久永裕子ジュニアリサーチアソシエイトらによる研究成果です。

 本研究成果は、米国生化学分子生物学会の専門誌Journal of Biological Chemistry Vol:279 Issue: 30 Pages:31717 - 31726として、7月23日に出版されます。印刷版に先立ち、5月15日にJBC Papers in Press としてオンライン版が出版された。

(論文)

"Structural basis of the substrate specific two-stepcatalysis of long chain fatty acyl-CoA synthetasedimer "

Yuko Hisanaga,Hideo Ago,Noriko Nakagawa,Keisuke Hamada,Koh Ida,Masaki Yamamoto,Tetsuya Hori,Yasuhiro Arii,Mitsuaki Sugahara,Seiki Kuramitsu,Shigeyuki Yokoyama,and Masashi Miyano



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794