Volume 18, No.1 Page 38
5. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS
2009B期 採択長期利用課題の事後評価について -1-
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2009B -1-
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2009B期に採択された長期利用課題について、2012A期に3年間の実施期間が終了したことを受け、第42回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(平成24年10月)による事後評価が行われました。
事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に対象となる長期利用課題5課題のうち評価を受けた1課題の評価結果を示します。研究内容については次号5月号の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載する予定です。
なお、2009B期に採択された長期利用課題5課題のうち残り4課題については、平成25年春頃に事後評価を実施する予定です。
課題名 | 膜輸送体動作機構の結晶学的解明 |
実験責任者(所属) | 豊島近(東京大学) |
採択時課題番号 | 2009B0025 |
ビームライン | BL41XU |
利用期間/配分総シフト | 2009B~2012A/148.5シフト |
〔評価結果〕
本課題では、生体膜を通してイオンを輸送する膜輸送体の動作機構の解明を目指し、 (i) Ca2+−APTase、 (ii) Na+, K+−ATPase、 (iii) H+−PPaseの3つの膜タンパク質のX線結晶構造解析と、結晶中の脂質二重膜の可視化を目指す (iv) コントラスト変調法を用いた脂質二重膜の可視化の4つの研究テーマを進めた。
(i) については、本研究期間内で初めて構造決定に成功したE1状態を含む、様々な反応中間体の構造決定に成功し、Ca2+−ATPaseの反応機構をほぼカバーする中間体の構造を明らかにした。これらのうちNPAxPとの複合体の構造解析についてはPNASに報告され、また、E1状態の成果についても現在Natureに投稿・改訂中である。さらに大量発現系を確立し、結晶化・構造解析に成功したことは、本タンパク質の機能解明に重要な変異体の構造解析を行えるようになったことを意味しており、今後さらなる研究の発展が期待できる。 (ii) については、本研究期間中に、E2・2K+・Piアナログ複合体の構造をNatureに、ウアバインとの低親和性結合状態の構造をPNAS誌に報告している。さらに、まだ論文としてはまとめられていないが成果がいくつも得られており、それらの完成が期待される。 (iii) については、台湾およびフィンランドのグループから同じタンパク質の構造解析が報告されたが、豊島らは、複数の基質アナログとの複合体の構造解析に成功し、さらに詳細な反応メカニズムを理解する成果を得ており、その結果の完成が期待される。 (iv) については、新規方法論の開発であり、その成果が現れてきている。残念ながら期間内での完成には到っていないが、手法の開発は進んできており、今後の展開が期待される。
以上のように、当初計画で挙げられた4つのテーマについて、いずれも非常に困難なテーマであったにも関わらず、計画以上の成果が挙げられている。これは,長期利用課題のメリットを生かしたビームタイム配分が有効に機能した結果であり、また、ビームライン担当者との緊密な情報共有を通して、研究が進められたことは特筆すべきである。
本研究を進展させるため、さらに、SPring-8のさらなる高度化・活性化のために、次回以降も長期利用課題を申請して頂くことを強く期待する。