Volume 18, No.1 Pages 36 - 37
5. SPring-8通信/SPring-8 COMMUNICATIONS
2011A期 採択長期利用課題の中間評価について
Interim Review Results of 2011A Long-term Proposals
第42回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(平成24年10月)において、2011A期に採択された3件の長期利用課題の中間評価が行われました。
長期利用課題の中間評価は、実験開始から1年半が経過した課題の実験責任者が成果報告を行い、長期利用分科会が、対象課題の1年目の実験を実施するかどうかの判断を行うものです。以下に対象課題の評価結果および評価コメントを示します。
−課題1−
課題名 | X線マイクロトモグラフィ法によるヒト脳神経回路の解析 |
実験責任者(所属) | 水谷 隆太(東海大学) |
採択時の課題番号 | 2011A0034 (BL20XU) 、2011A0041 (BL47XU) |
利用ビームライン | BL20XU、BL47XU(併用) |
評価結果 | 3年目を実施する |
〔評価コメント〕
申請者は、X線マイクロトモグラフィ法により、ヒト脳神経回路三次元構造を調べ、複雑なネットワークをなす線状構造のトレースに成功している。採択時審査コメントとして、実験者が実験責任者と内部スタッフのみから構成され、研究体制として不十分である事が指摘されたが、外部医療機関に共同研究者を広げ、医学的に意義の有る試料入手が可能になった。これによって、精神疾患者脳の三次元構造解析に世界に先駆け成功した。また、通常者脳との比較を行う事が出来、明確な差を認める事ができた。さらに、高分解能結像光学系を使用し、ヒト組織で最も高い分解能での神経ネットワーク構造の三次元解析が達成された。試料の性格上、膨大なデータ取得は難しいが、予定通りに研究目標を達していると判断される。よって、引き続き、本課題を遂行すべきであると考えられる。
ただし、脳神経回路の三次元構造について、定量的な検討がほとんどなされておらず、統計数から考えても病理学的な知見が達成されているとは言えない。例えば線状構造の長さ、分岐の数値化を行って、医学的に意味のあるデータセットとして蓄積し、統計解析をすべきである。さらに、中間審査報告では、長期利用課題終了後の展開が十分に示されなかった。治療法に結び付けてゆく事も想定してゆくのか、ビジョンをより明確にして、ビームタイムを最大限有効に活用して欲しい。
−課題2−
課題名 | Energy scanning X-ray diffraction study of extraterrestrial materials using synchrotron radiation |
実験責任者(所属) | Michael Zolensky (NASA Johnson Space Center) |
採択時の課題番号 | 2011A0035 |
利用ビームライン | BL37XU |
評価結果 | 3年目を実施する |
〔評価コメント〕
Zolensky’s group has been applying energy scanning X-ray diffraction to many kinds of extraterrestrial samples in order to understand the birth and evolution of the solar system. In the first two years of the long-term project, Zolensky’s group has revealed valuable information in each topic, although the targets are widely distributed, such as 1) Stardust mission samples, 2) Hayabusa mission samples, 3) interplanetary dust particles, 4) lunar regolith samples, 5) carbonaceous chondrite meteorites and 6) ordinary chondrite meteorites. The most striking outcome is that the particular sample from Itokawa, #49-1, was essentially unshocked different from the vast majority of samples. Because immediate and timely experiments on Itokawa samples will be effectively conducted by the long-term project, the committee supports to continue the next half of this project.
Although the results include much information and one of results will be published in Science, the relation among individual topics was not clear at the evaluation. Therefore, the committee strongly recommends the project leader, Dr. Zolensky, to organize all outcomes into one story and to relate it to the birth and evolution of the solar system as one project, so as to make the project a success.
−課題3−
課題名 | リアルタイム2D-GIXDによる有機半導体超薄膜の成長初期過程の観察 |
実験責任者(所属) | 吉本則之(岩手大学) |
採択時の課題番号 | 2011A0036 |
利用ビームライン | BL19B2 |
評価結果 | 3年目を実施する |
〔評価コメント〕
本長期利用課題は、高性能な有機薄膜トランジスタや有機薄膜太陽電池を開発する上で重要な技術となる有機分子結晶の配向制御を目指して薄膜成長の初期過程の研究を、2次元検出器を用いたすれすれ入射X線回折法により行うものである。本課題においては、二元蒸着や製膜中のトランジスタ特性の評価が可能となるその場観察用高真空チャンバーを開発し、それを用いた成果が報告されはじめている。また、本課題の成果が掲載された論文は少なくとも4編にのぼり、研究は計画通りに進捗しているものと認められる。また、実験能率向上のために2機目の高真空チャンバーを作製する計画も妥当なものと考えられる。今後も、装置開発、解析法の開発も含め着実な進展が期待できるため、本課題は継続して実施すべき課題である。
なお、実験責任者が認識しているとおり、結晶配向制御の検討を行う場合には基板の表面状態がよく定義(制御)されていることが必要である。高真空チャンバー2機の体制になれば、製膜前にチャンバー内で基板加熱を行うなどの清浄化処理も能率よく実施できると期待されるため、今後は現有装置で可能な範囲内で基板の表面状態制御も含めてデバイス応用との関係を明確にしながら研究を行うことを推奨する。また、興味深い成果が着実に得られつつあることから、今後も論文掲載を通じた積極的な成果発表を期待する。