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Volume 17, No.4 Pages 428 - 429

6. 告知板/ANNOUNCEMENTS

創薬産業ビームライン(BL32B2)の契約期間満了に伴う評価(事後評価)について
Post-Project Review Result of Pharmaceutical Industry Beamline (BL32B2)

(公財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 User Administration Division, JASRI

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 SPring-8に設置されている専用ビームラインはSPring-8の施設所有者である独立行政法人理化学研究所および登録施設利用促進機関である当財団と契約を締結し、「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき、その使用状況および研究成果等の評価が行われます。
 その専用ビームラインの1つ、蛋白質構造解析コンソーシアム(蛋白コンソ)が設置した創薬産業ビームライン(BL32B2)については、放射光による蛋白質の構造解析を目的に、日本製薬工業協会加盟の複数の製薬会社が共同で建設し、構造ゲノム研究から創薬を目指した研究開発が実施されてきました。
 蛋白コンソから、契約上の設置期限である10年が経過する平成24年3月末をもって、撤退する旨の連絡を受け、契約期間満了後、専用施設審査委員会にて事後評価を実施しました。その評価結果をSPring-8選定委員会に諮った上で、財団より蛋白コンソへ平成24年8月17日付けで通知いたしました。以下に、その評価結果を掲載します。なお、撤退後のビームラインは、一旦、理化学研究所に移管され、今後の有効利用について検討されております。



〔評価結果〕
 本ビームライン(BL32B2創薬産業ビームライン)は、構造ゲノム研究からの創薬を目指して、当初22の製薬会社が蛋白質構造解析コンソーシアム(以下「蛋白コンソ」)を組織し、共同出資して建設したものである。放射光ビームラインを運用した経験の全くない企業が一体となって新たなビームラインを建設し運用するという形態は、SPring-8にはそれまでに例がなく、他の多くの専用ビームライン建設の先鞭を付けるものであった。このことは、高く評価したい。
 ビームラインとしては偏向電磁石を光源とし、定位置出射型のシリコン二結晶分光器と湾曲シリンドリカルミラーによる集光光学系を有し、CCD検出器を用いてMAD測定やSAD測定も可能であった。試料測定部はSPring-8の蛋白質構造解析用ビームラインに共通の仕様となっており、利便性が高くなっている。平成19年の中間評価による指摘を受けて、ビームライン稼働率向上に関わる対策が講じられた。粉末回折測定装置を導入してビームライン稼働率の向上が図られたのも重要な改善事項であり、最終年度近くには、実施課題の半数近くがこれを利用していた。
 本ビームラインの10年間の平均使用率は51%で、高いとはいえない。しかしそこで実施された課題は90%が成果専有課題であり、この使用率を他のビームラインと比較することは適当ではない。特に中間評価後の5年間の利用は低迷しているが、その間に蛋白コンソの参加企業による共用ビームラインでの成果専有利用等が広く行われるに至っている。本ビームラインの利用者のうち60%がSPring-8の他のビームラインを利用しており、特に半数近くが共用アンジュレータビームラインBL41XUを使用している。このためここ数年は本ビームラインよりもBL41XUの利用時間の方が多いのが実情であった。また、マイクロビームで微小結晶の解析が可能なBL32XUも既に10%近くが利用しており、困難な測定にチャレンジする姿勢も見られる。これら共同ビームラインの活用の他にも、他放射光施設の利用も活発に行われている。利用の内容については成果非公開であるため評価しにくいが、本ビームラインからだけでも26本の学術論文が発表されており、質の高い研究を行うためにアンジュレータからの高輝度ビームが必要となったものと推測される。このように、現在では、蛋白コンソは自らがビームラインを保有しなくとも、公的研究機関が保有するビームラインを活用することによって、より質の高い研究を継続できる状況となっている。
 本ビームラインの建設と利用により、参加各社はタンパク質の結晶化の方法、効率の良い測定法など、タンパク質結晶構造解析の手法を習得し、放射光の利用に関する理解を深めることができた。MAD法などの構造解析技術を習得したことは、大きな成果であったと言える。本ビームラインで得た経験と技術は、参加各社にとって今後の新薬開発において有意義であることは間違いなく、ここに本ビームラインの意義を見出すことができる。
 10年間の契約期間満了に伴って、平成24年4月に本ビームラインは理化学研究所に移管されたが、蛋白コンソは創薬産業構造解析コンソーシアムとして継続されている。本ビームラインによって築かれた製薬会社間の協力体制を今後も維持し、さらに高度の蛋白質構造解析研究へと発展されることを期待したい。


以 上



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794