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Volume 17, No.4 Pages 349 - 351

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第9回SPring-8産業利用報告会
The 9th Joint Conference on Industrial Applications of SPring-8

佐野 則道 SANO Norimichi

(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 Industrial Application Division, JASRI

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 (公財)高輝度光科学研究センター(JASRI)、産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム)、兵庫県、(株)豊田中央研究所の4団体の主催、SPring-8利用推進協議会、愛知県、(公財)科学技術交流財団の3団体の共催、およびフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体の協賛で、第9回SPring-8産業利用報告会が、9月6・7日に、愛知芸術文化センターにおいて開催された。総参加者数は282名であり、SPring-8産業利用の活況を反映した報告会となった。この報告会は、SPring-8の産業界利用者の相互交流と情報交換を目的として、共用および専用のビームラインを産業利用に供する各団体が成果報告会を合同して、SPring-8利用推進協議会の共催の下、2004年より毎年開催されてきた。特に今年は、「地の拠点あいち」のシンクロトロン光利用施設が年度中の供用に向けて本格的な試験調整を実施中であることに因み、愛知県と同県の科学技術交流財団が共催団体として加わり、名古屋市での開催となった。また報告会の終了後実施された同施設の見学会には、76名もの参加者を見た。
 6日の12時に主催4団体を代表してJASRIの白川理事長が挨拶した(セッション1)のち、第12回サンビーム研究発表会(セッション2)が始まった。このセッションではサンビーム(BL16B2とBL16XU)を利用した研究成果の他、サンビーム所属企業による共用産業利用ビームラインBL19B2を利用した研究成果も合わせて発表された。冒頭、産業用専用ビームライン建設利用共同体の矢野運営委員長((株)富士通研究所)の挨拶に続き、同社の淡路氏により「富士通研究所におけるSPring-8放射光の利用」と題して、同社分析グループの放射光利用の歴史が語られた。続いて(株)神戸製鋼所の瀬尾氏による「Ni表面にUPDしたPb単原子層のin-situ XAFS解析」、住友電気工業(株)の飯原氏による「低環境負荷タングステンリサイクル技術開発」、ソニー(株)の細井氏による「Ru Ptコアシェルナノ粒子のXAFS解析」、日産自動車(株)の茂木氏による「In situ XAFSと第一原理計算によるLiイオン電池充放電挙動の解析」、(株)日立製作所の平野氏による「XASによるリチウム電池正極材の価数分布評価」の5件の成果報告があった。以上口頭で行われた成果報告5件のうち4件までが環境・エネルギー関連のテーマであり、世界規模で取り組まれているこの分野の研究において、放射光利用技術の貢献への期待が高いことが示された。筆者は、サンビーム所属各社がこの分野の技術開発を先導し、持続可能な人類社会の発展に顕著に寄与されることを願うものである。また、これらの研究ではXAFSなどのX線吸収分光法が重要な役割を果たしており、サンビーム所属企業以外の聴衆の方々も、これらの手法の金属原子の価数評価や局所構造解析における有用性を再認識されたのではなかろうか。


写真1 口頭発表の様子

 セッション3は、JASRIの重点産業利用課題(2011B期で終了)5件の実施報告であった。このセッションでは、各利用者がそれぞれの問題解決のために、産業利用推進室が担当する3本のビームライン他で利用できる多彩なX線利用計測技術の中から、各技術の特徴を十分に理解し活用することであげられた成果が紹介された。まず住友金属工業(株)の牧野氏により発表された「高強度鋼の転動疲労下のはく離損傷および内部き裂形態の観察」は、神戸大学の中井氏らとの共同研究であり、BL19B2でのμCTイメージングを活用した例であった。次にJASRIの佐藤氏により発表された「白色X線マイクロビームを用いたステンレス鋼の内部応力ミクロ分布評価」は、(株)原子力安全システム研究所の有岡氏らとの共同研究で、BL28XUの白色X線を用いた画期的な鋼材の評価方法であった。続いて、(株)豊田中央研究所の片岡氏による「HAXPESによる半導体のバンド曲がりの評価」は、奈良先端科学技術大学院大学の大門氏らとの共同研究で、BL46XUで利用できるHAXPESの特徴である検出深さの大きさを活用した独特な研究の報告であった。宇都宮大学の飯村氏による「固/水界面における毛髪コンディショナー吸着膜構造解析のためのX線反射率測定システムの構築」は、ライオン(株)の細川氏とJASRIの廣沢氏との共同研究で、BL46XUの多軸回折装置を用い、固/水界面での吸着膜構造の示唆に至る完成度の高い印象的な研究であった。このセッション最後の(株)ノリタケカンパニーリミテドの犬養氏による「酸素透過膜および固体酸化物形燃料電池に用いるAg触媒複合化したペロブスカイト酸素イオン伝導材料のin situ XAFS解析」は、BL14B2でのその場測定の活用例であった。
 6日最後のセッション4は、第3回豊田ビームライン研究発表会で、BL33XUにおける研究成果に関し2件の口頭発表があった。まず長井氏による「自動車用三元触媒 〜Rhの粒成長抑制とRh-担体相互作用〜」は、TEM-EDXで推測されていたRhとNdの相互作用を、EXAFSにより検出されたRh-O-Nd結合により具体的に明らかにした。また野中氏による「Liイオン電池の昇温XAFS・XRD解析」は、二つの新規その場測定装置を開発して、材料高温下に晒した際の状態変化モデルを得るという、高い研究力量が印象的な発表であった。いずれもBL33XUにおけるXAFS技術の充実ぶりを示す発表であった。
 この後行われた技術交流会(懇親会)には、全参加者の半数を超える143名が参加した。これまでの産業利用報告会やSPring-8利用推進協議会の数々の研究会などで培われたと思われる、産業分野や産官学の所属組織を超えた「SPring-8利用者仲間」の連帯感が、やや狭い感のある会場に充満していた。また多くの人の輪の中で名刺交換が行われ、このコミュニティーが拡大発展していくことが、大いに期待された。
 7日は午前10時よりセッション5として兵庫県放射光産業利用研究発表が、兵庫県放射光ナノテク研究所の松井所長の挨拶で始まり、5件の報告が行われた。そのうち4件は兵庫県ビームラインBL08B2での研究成果、また最後は、ニュースバルでの研究成果であった。まず、(株)アシックスの立石氏による「X線CTを用いた圧縮負荷下におけるポリマーフォームの気泡構造観察」は、その場CT測定法により、気泡の挙動が応力−歪み特性を発現させることを示した。住友ベークライト(株)の首藤氏の「ナノシリカ分散フィルムの透明性・構造発色性発現機構の解明」では、SAXS測定により、フィルムの光学特性を左右するシリカの分散性を特徴づける構造因子を把握することができた。旭化成(株)の東口氏の「オレフィン系部分酸化触媒の焼成過程解析」では、in-situ XRD法により急峻な結晶相転移を追跡できることを示した。(株)住化分析センターの高橋氏は、「放射光利用したエネルギーデバイス材料の構造解析」で、in-situ XAFSおよびμXAFSを用いた、リチウムイオン2次電池正極活物質の構造解析の例を紹介した。兵庫県ビームラインの研究発表は、何れも測定した物理量や画像が直接利用者の知りたい情報と直結している印象があり、利用者がSPring-8から持ち帰った成果もとても分かりやすかった。これは、兵庫県ビームライン独特の利用者に寄り添う支援体制によるところが大きく、利用制度が大きく異なってはいるがJASRI産業利用推進室における支援体制強化の一つの方向性を示唆するものである。口頭発表最後の兵庫県立大学の内海氏による「フルプロトコル多項目検査のための積層型Lab-on-a-CDの開発」は、ニュースバルX線加工ビームラインBL2とBL11における3次元微細構造体の作製の成果で、印象深かった。
 9日の昼過ぎよりポスター発表を行った。今回は、主催のJASRI(重点産業利用課題)28件、兵庫県26件、サンビーム21件、豊田中央研究所7件のポスター発表に加えて、共催のSPring-8利用推進協議会より1件と愛知県より2件、協賛のフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体より2件で、計87件のポスター発表が行われた。また、同じ会場でJASRI産業利用推進室の活動紹介も行った。ポスター発表時間が終了するまで、会場内では活発な議論が行われていた。


写真2 ポスター発表の様子

 更にポスター発表終了後、希望者達は2台のバスに分乗して「知の拠点あいち」に向かった。現地では、講堂でのシンクロトロン光利用施設の概要説明と、整備が進んでいる実験ホール内の見学、さらに、あいち産業科学技術総合センターの計測分析機器類の見学ができた。6本あるビームラインの全容を見学することができ有意義であった。


写真3 見学会の様子

 当日、参加者にご記入いただいたアンケートでは、開催場所、開催時期等を評価するとした意見が多数を占め、また次回以降の参加希望が大多数であったことから、多くの参加者にある程度満足していただけたと考えている。一方、開始・終了時間など次回以降改善が必要な事項のご指摘もあった。見学会も含め、本年の産業利用報告会が無事、盛況のうちに終えることができた。準備段階から当日の会場運営、さらに事後のとりまとめ等、主催4団体の事務局のご尽力と共催3団体の関係者各位のご協力に、この場を借りて感謝を表したい。



佐野 則道 SANO Norimichi
(公財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室
〒679-5198兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL:0791-58-0803;3650
e-mail:sanon@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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