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Volume 09, No.4 Pages 253 - 256

2. ビームライン/BEAMLINES

共用ビームライン評価委員会の報告概要(平成15年度)
Report of the Public Beamline Review Committees in 2003

下村 理 SHIMOMURA Osamu

(財)高輝度光科学研究センター 研究調整部 Research Coordination Division, JASRI

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1.平成15年度共用ビームライン評価の経緯
 SPring-8では平成14年度から共用ビームラインの個別評価を始めたが、その経緯については昨年度の利用者情報誌で説明した[1]。その基本的な考え方は、今後の共用ビームラインにおける研究活性の展開を考えるために、個々のビームラインの性能と整備状況、共同利用の状況及び利用研究成果並びに将来計画等に関して外部評価を行うことである。具体的には、放射光研究所長の下に、ビームライン毎に評価委員会を設置し、各評価委員会からの評価報告書は、放射光研究所長を通じて、諮問委員会、特定放射光施設連絡協議会等に報告し、より優れた成果を目指した供用業務と利用支援の推進、及び今後のビームライン整備・改造、移設、建設等の検討に充分に活用することとした。

2.平成15年度における共用ビームラインの個別評価方法と結果
 平成15年度は、1997年に供用を開始した10本の共用ビームラインの内、平成14年度に評価を行った5本に引き続き、以下の5本を評価対象とした。
(1)BL04B1(高温高圧ビームライン)
(2)BL09XU(核共鳴散乱ビームライン)
(3)BL25SU(軟X線固体分光ビームライン)
(4)BL27SU(軟X線光化学ビームライン)
(5)BL39XU(磁性材料ビームライン)
 各ビームライン毎の評価委員会の委員および日程を表1に示す。各評価委員会における評価項目として、以下の4項目を設定した。
 1)ビームラインおよび実験ステーションの性能・整備の状況
 2)共同利用及び支援体制
 3)利用研究成果
 4)ビームラインおよび実験ステーションの改善・改廃に関する勧告
 各評価委員には事前にJASRIで用意した各ビームライン毎の“Beamline Report”を送付し、コメントを集めた後に、国内委員のみによる委員会を開催し議論をお願いした。
 5本のビームラインの評価報告書では、全般に測定装置を含めてビームラインの性能・整備状況についての評価は共通して高いものであったが、改善すべき点として次の問題が共通的に指摘された。
 1)各ビームラインの整備状況は全般的に評価できるが、試料環境などの整備が必要である。
 2)ビームライン担当者による利用支援は充実しているが、オーバーワーク気味であり、また、研究分野をリードする担当者やパワーユーザーを充実すべきである。
 3)利用者の固定化が見られるところがあり、新しい研究分野と新しいユーザーの拡大に努力すべきである。また、施設側の科学的戦略を明確にすべきである。
 4)ユーザーの成果公表が不充分であり、未発表の実施課題が多い。未発表の理由を検討すると共に、課題審査に反映することも検討すべきである。
 各ビームラインに関する評価委員会の報告書の概要は以下の通りであるが、これらの指摘・勧告は、冒頭の経緯で述べたように「充実した供用業務、利用支援の推進、及び今後のビームライン整備・改造、移設、建設等の検討」に深く関わるものとして、施設側として今後の運営に積極的に反映させていく所存である。

 各評価委員会の委員の皆様には、ご多忙にもかかわらず貴重な時間を割いて熱心に作業をしていただき、貴重で適切なご意見や勧告を頂き深く感謝する。
 なお、平成16年度は表2に示す5本についてビームライン評価を本年10月〜11月に実施する予定である。
(1)BL04B1 (高温高圧ビームライン)
 評価:
 2台の大容積高温高圧発生装置と白色X線との組み合わせは世界最高水準である。
 X線回折による構造研究のみならず、イメージング手法による粘性測定などユニークな活動は評価できる。地球深部の物質研究に大きな貢献をしている。一方、ユーザーがかなり固定化しているきらいがある。
 出版論文数についてはほぼ妥当であると思われるが、未登録のものが見受けられる。
 提言:
 2台の大型プレスの役割分担(大容量物性測定装置と焼結ダイヤモンド超高圧発生装置)を明確にし、それぞれに適したシステムアップを図り全体のパフォーマンスを向上させること。また、信頼できる圧力スケールの確立に取り組む時期でもある。
 共同利用支援態勢を強化すると共に、ビームライン全体の高い装置性能を国内外に対し積極的に広報し、研究水準の高いユーザーを拡大すること。特にテクニカルサポートに専念するパーマネントスタッフの増員が急務である。
 課題審査に発表業績を反映するシステムを検討すべきである。

(2)BL09XU (核共鳴散乱ビームライン)
 評価:
 高分解能分光器の整備とアバランシェ検出器の開発により、多数の核種が試料として利用できるようになった。
 核共鳴散乱実験を検証実験から利用実験の域にまで持ってきたことは功績が大である。X線核共鳴散乱による時間領域メスバウアー分光では通常のメスバウアー分光で困難な高圧下の測定やストロボ検出法を開発したことが評価される。
 核共鳴非弾性散乱による特定元素の振動モード解析、局所フォノン状態密度の測定は世界をリードする立場にいる。先駆的な材料研究手法としても今後期待が大きい。
 NEETの研究はこれまでの論争に終止符を打つ研究として高く評価されている。
 採択率は妥当な水準であるが、課題数と出版された成果の対応が整合していない。
 提言:
 技術的課題としては、高耐熱負荷モノクロメーターへの改善、微小試料のためのビーム集光、光学ハッチと実験ハッチの分割の順で優先的に扱うべきである。
 取り扱える核種の範囲をさらに拡大することと、適用対象を物性・ソフトマターへ拡げると同時に、 高圧、高磁場実験など試料環境の整備を行うこと。
 スタッフや協力ユーザーによる開発研究も必要であるが、ビームライン担当者の支援なしで実験が行える体制も必要である。
 同種の実験が行える他のビームラインとの学問的交流を図ることが必要である。また、ここで開発された手法を他の分野へ宣伝することも重要である。

(3)BL25SU (軟X線固体分光ビームライン)
 評価:
 220-2000eVをカバーする軟X線ビームラインおよび測定装置の性能・操作性は世界的に高い水準にある。偏向切り替えができるヘリカルアンジュレーターは今後の本格利用が期待できる。
 高いエネルギー領域での高分解能電子スペクトル測定の成功は、バルク敏感な電子分光の新しい分野の開拓と、電子構造研究に新展開をもたらした。MCDは偏向スイッチングにより定常利用ができるようになり、中でもPEEM利用は中心的な成果である。
 2次元電子分光は研究成果のわかりやすさで宣伝効果があった。
 利用支援体制は充実しているが、ビームタイムは慢性的に不足している。
 プロシーディングスだけでなく原著論文誌への成果公表に努めるべき。優れた成果の割りに少ない。
 提言:
 測定装置が4基タンデムになる現状は早急に解消すべきである。
 他のビームラインとの棲み分け、新規ビームラインなどSPring-8全体のビームラインを総合的に活用する必要がある。
 測定温度領域の拡大、試料作成準備装置などの整備が必要である。
 過密な課題申請数(採択率50%以下)や、担当者のオーバーワークに対処すべきである。
 他のビームラインとの棲み分けや新ビームライン建設など、SPring-8全他の総合的な活用が必要である。

(4)BL27SU (軟X線光化学ビームライン)
 評価:
 Figure-8アンジュレーターはSPring-8の独創であり、賞賛に値する。また、ビームラインデザイン、光学系の分解能・強度・安定性は世界最高水準である。持ち込み装置も含めて利用者の多様なニーズに対応できるように見事に整備されている。
 ビームライン担当者によって充分な利用支援が行われており、利用者の満足度は高い。
 研究成果は一流雑誌に多数発表されており、高水準である。特に分光学的研究で多くの成果がある。
 提言:
 現状以上に装置の高度化を目指すのではなく、完成された設備を駆使し、外国を含め利用研究グループを拡大すべき時期である。独立した研究グループ間の活発な競争が望ましい。また、そのためには現在利用支援を主業務としているビームライン担当に加えて研究分野を指導する機能を待たせるような見直しも必要となろう。
 10μmオーダーのビームサイズの縮小や高次光の除去、特殊ガス操作システム、IDと分光器の同期操作などの整備が必要となる。
 SPring-8の各SX-BLは全体として成功していると言えるが、分野の棲み分けをし、各ビームラインが世界的競争力と特徴を持つような検討が必要である。

(5) BL39XU (磁性材料ビームライン)
 評価:
 このビームラインの特徴はX線移相子技術によるXMCDの実験であり、すべての偏光状態で非常にS/Nの高い計測が可能であり、世界でこのビームラインだけで実用化されている。また、XMCDの試料環境に関して温度、磁場、圧力などの多彩さは高く評価される。
 XMDに関しては90度磁気ブラッグ散乱実験を移相子と組み合わせた実験が展開されているが、2軸の回折計をベースとしているために通常のX線磁気散乱の実験を行うことは困難である。
 蛍光X線分析に関しては、他の第3世代施設ではマイクロビーム技術に特化する傾向が強いのに対して、本ビームラインにおける分析的視点での装置技術の整備は高く評価される。
 50%程度の採択率は競争原理が働き、高い生産性が期待できる。一方、成果未発表の実施課題が多い。
 提言:
 XMCDをベースにした研究に特化し、その研究環境(磁性薄膜、超微粒子、高圧など)を整備すること。磁性材料研究への展開としてXMCD顕微鏡の開発は重要である。
 XMDについては6軸回折計を導入することが重要であるが、人的手当てを含めてどこでどのようにして行うことが良いかを検討する必要がある。
 これらを実現するために、高耐熱負荷分光器の改善や二次元集光システムの導入が必要である。
 研究分野の拡大や物質探索にアドバイザー役の組織を構築する事によって、更なる発展を図るべきである。
 蛍光X線分析に関しては、BL39XUでの放射光蛍光X線分析の実績に基づいて、BL37XUでの更なる展開を期待する。


表1 平成15年度  SPring-8  BL評価委員会日程および委員一覧

○BL04B1評価委員会(平成15年11月5日〜6日)
赤荻 正樹    学習院大学 理学部化学科
加藤 工     九州大学大学院 理学研究院
深尾 良夫    東京大学地震研究所
八木 健彦(委員長)東京大学物性研究所 新物質科学研究部門
David Rubie    Bayerisches Geoinstitut,Universitat Bayreuth
Donald J Weidner    Mineral Physics Institute,SUNY at Stony Brook

○BL09XU評価委員会(平成15年10月30日〜31日)
梅野 正隆    福井工業大学 工学部
角田 頼彦    早稲田大学 理工学部 応用物理学科
並河 一道(委員長)    東京学芸大学 物理学科
前田 豊    関西外国語大学 外国語学部
Rudolf Rueffer    ESRF    

○ BL25SU評価委員会 (平成15年10月28日〜29日)
尾嶋 正治    東京大学大学院 工学系研究科
柿崎 明人(委員長)    東京大学物性研究所 軌道放射物性研究施設
小谷 章雄    理化学研究所 播磨研究所
谷口 雅樹    広島大学 放射光科学研究センター 大学院理学研究科
Chien-Te Chen    National Synchrotron Radiation Research Center    

○BL27SU評価委員会(平成15年11月26日〜27日)
東 善郎    高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
小杉 信博    岡崎国立共同研究機構 分子科学研究所
田中 健一郎    広島大学大学院 理学研究科
柳下 明(委員長)    高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
J. B. West    Daresbury Laboratory

○BL39XU評価委員会(平成15年10月20日〜21日)
飯田 厚夫    高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
河田 洋(委員長)    高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
城 健男    広島大学大学院 先端物質科学研究科
新庄 輝也    財団法人 国際高等研究所    
Andrei Rogalev    ESRF    
George Srajer    APS


表2 平成16年度  評価ビームライン(5BLs)

BL02B2(粉末結晶構造解折ビームライン)
BL04B2(高エネルギーX線回折ビームライン)
BL20B2(医学・イメージングⅠビームライン)
BL28B2(白色X線回折ビームライン)
BL40B2(構造生物学Ⅱビームライン)


参考文献
[1]壽榮松宏仁:SPring-8利用者情報 Vol.9 No.1 (2003) 26. 

下村 理 SHIMOMURA  Osamu
(財)高輝度光科学研究センター 研究調整部
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2731 FAX:0791-58-0878
e-mail:simomura@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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