Volume 17, No.4 Pages 326 - 327
3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
「X線光学素子の計測、ミラーの設計、作製に関する国際ワークショップ(IWXM2012)」の報告
Report on “The 4th International Workshop on Metrology for X-ray Optics, Mirror design, and Fabrication (WXM2012)”
4th International Workshop on Metrology for X-ray Optics, Mirror design, and Fabrication(IWXM)(組織委員長:放射光施設ALBA・Josep Nicolas)が2012年7月4〜6日にスペイン第二の都市であるバルセロナで開催された。X線光学素子(主にX線ミラー)の評価、設計や作製に関する会議である。この会議の生い立ちは些か複雑で、可変形状X線光学素子に関するワークショップである“4th Workshop on Adaptive and Active X-ray and XUV Optics(ACTOP)(2011年4月、Oxfordshire, UK)”と、X線光学素子のMetrologyに関する国際ワークショップ“The 3rd international workshop on Metrology for X-ray and XUV Optics(Metrology Workshop)(2006年、Daegu, Korea、SRI2006のサテライト)”を引き継ぐとされている。一方、IWXMの名称は2009年に大阪で開催された“International Workshop on X-ray mirror design, fabrication, and metrology”に端を発する。さまざまな名称・回数で開催頻度も不定だがいずれの会議も、各放射光施設でX線光学素子の設計や評価あるいは製作を担う光学系グループのスタッフを中心に、関係者が広く集うワークショップと大きく括ることができよう。各施設で取り組む光学系トピックスを切り口にして語られるため、具体的で突っ込んだ議論が交わされる会合となっている。本会議のプログラムはhttp://iwxm.cells.es/に掲載されている。
前回のIWXM2009においてもAt wavelength計測がホットなテーマとして取り上げられたが[1][1]大橋治彦:SPring-8利用者情報 14 (2009) 344.、今回はIn situ Metrologyとして新たなセッションが設けられ、X線やEUVレーザーを使った波面計測に関する話題で幕を開けた。例えば、透過型回折格子を用いた干渉計(PSI(スイス)、DLS(英)、大阪大学)によるX線ビームの波面計測例や、ハルトマン法(FLASH(独))あるいはペンシルビーム法によるAdaptive mirrorの形状計測(DLS)が報告された。ことにSASE光源ではパルスごとのビーム診断の重要性が強く認識されているところであり、セッションは異なるが大阪大学・SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)からも回折格子を使った1パルスでの波面計測の最新の例が紹介された。
一方、オフラインでの計測、Ex-situ metrologyのセッションはⅠ〜Ⅲに分かれて構成され、一連の会議を特徴付けている。SOLEIL(仏)からはPower Spectral Density(PSD)で50 μmから0.5 mmの領域を計測するために新たに内製した位相シフト顕微スティッチング干渉計が紹介された。ポスターセッションでもESRF(仏)が会議の1週間前に完成したばかりというスティッチング干渉計の結果を紹介していた。一方、SPring-8で進めている大きくかつ深いミラーを計測するためのスティッチング干渉計の精密な三面合わせ計測で、5%の相対湿度変化が参照面の1 nmのサグ変化をもたらすことが報告された。放射光用X線ミラーの計測では簡便さからLong Trace Profiler(LTP)などの表面からの反射角度計測による形状計測装置を用いる場合が多いが、ALBA(スペイン)、BNL(米)、HZB(独)、PSI、DLS、ESRFの各放射光施設やドイツの標準計量研であるPTBから、各施設が保有する装置の改良点が紹介された。比較計測を通じて、サブナノメートルでの形状誤差測定が可能であることが示され、“picometry”という表現が語られるようになった。また、角度計測の標準化について全欧で進められているEMRP(European Metrology Research Program)での取り組みが紹介された。
ミラーの作製に関するセッションでは、ESRFからは、多層膜ミラーの反射像で生じるストライプの要因を中間周波数帯域(1 mm-1〜1 μm-1)の粗さにあるとし、ESRF、APS、NSLS-II(米)のそれぞれの成膜装置間で進められている比較を紹介した。DLSからは、数多く採用されているBimorph方式のX線集光ミラーについて安定性、再現性などの問題点が率直に語られる一方、大阪大学からは独自に開発した形状可変ミラーにより120 nmの集光例を紹介した。LLNL(米)からは、EUV領域からXFEL、あるいはNASAの宇宙用ミラーなど豊富なコーティング実績を示しながら、SiCとWCによる1〜2 nm周期の多層膜ミラーの製作例と、378 keVでの評価結果が示された。
X線ビームライン設計に関するセッションでは、SLAC(米)で進められているビーム伝搬の計算例が紹介された。フレネルキルヒホッフ積分を使って、不等刻線回折格子の表面粗さをフラクタルモデル化し、粗さが1〜4 nmRMSのとき、粗さがないとしたときについて像の強度分布を算出した。汎用化を進め、ソフトウエアを公開する方向で検討しているとのことであった。ビームライン設計に関しては、新たに稼働を開始した日本のSACLAや、今秋に稼働を目前に控えたFERMI(伊)やPETRAⅢ(独)での軟X線ビームラインなどの話題が提供された。
事前登録者数は70名におよび、3日間で38件の口頭講演と、15件のポスター講演を数えた。2日目午後には、バルセロナからバスで約1時間の放射光施設ALBAの見学ツアーが開催された。ビーム運転中であったため、ちょうどdeformable mirrorによる集光調整の様子を見ることができた。50 μm前後のガウシアン形状のビームからフラットトップ形状への変更が数十秒で簡便に行えるようだ。SPring-8ではTop-up運転になって久しいが、時間とともにビーム電流が減少するALBAの運転画面を見て懐かしく感じた。夕刻には世界遺産のCatalana音楽堂を訪れ、隣接するレストランでの交流会が深夜まで盛大に執り行われた。
すでにLCLSとSALCAの日米の施設においてX線自由電子レーザーが本格的な利用運転に入っており、新たな放射光施設としてNSLS-IIの建設も順調と聞く。先の報告[1][1]大橋治彦:SPring-8利用者情報 14 (2009) 344.でも述べたが、新しい世代の光源に相応しいX線光学素子の開発は、光の特性から利用研究までを俯瞰できる放射光施設の関係者が率先して牽引しなければならないことを改めて強く認識させた。なお、前回のIWXM2009のプロシーディングス[2][2]Editors: K. Yamauchi, V. V. Yashchuk and D. Cocco: Nucl. Instrum. and Methods in Physics Res. A 616, Issues 2-3 (2010).と同様に、本会議のプロシーディングスが、Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section Aの特別号として発刊の予定である。
[1]大橋治彦:SPring-8利用者情報 14 (2009) 344.
[2]Editors: K. Yamauchi, V. V. Yashchuk and D. Cocco: Nucl. Instrum. and Methods in Physics Res. A 616, Issues 2-3 (2010).
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