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Volume 17, No.4 Page 289

理事長室から − 若手研究者の育成 −
Message from President - Fostering Young Scientists –

白川 哲久 SHIRAKAWA Tetsuhisa

(公財)高輝度光科学研究センター 理事長 President of JASRI

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 SPring-8のキャンパスでは、9月24日から10月3日までの10日間、ケイロンスクール(Cheiron School 2012)が開催されました。これは、日本が主唱している放射光科学アジア・オセアニアフォーラム(AOFSRR)の最も主要な活動として、アジア・オセアニア地域における放射光科学と放射光利用研究の若手人材の育成を目的に毎年開催されているもので、今年で6回目になります。今年も参加各国・地域から推薦を受けた67名の若手研究者がエントリーしましたが、我が国からの推薦者は16名で最多にもかかわらず、国籍別の内訳では日本人研究者はわずか4名に留まっており、しかもその数はピーク時の8名から半減しています(因みに、国籍別の最多は3年連続で中国人研究者でした)。

 

 また、JASRIの協力研究員(ポストドクター)へ応募する日本人の若手研究者も減り続けており、アジアからの外国人研究者が優勢となっています。

 

 我が国の科学技術基本計画を持ち出すまでもなく、科学技術を担う次世代の人材育成は喫緊の課題ですが、JASRIではかねてから今後の放射光研究の発展を担う若手人材の育成の重要性を認識し、いくつかの支援プログラムを実施しています。まず、国からの交付金事業の一環として2005年度から実施している「萌芽的研究支援」では、大学院生(当初は博士課程対象、2012年度からは修士課程にも拡大)であって実験責任者としてSPring-8で主体的に研究を実行できる者を選抜して旅費や消耗品費などの支援を行っており、優秀な研究成果を挙げた院生は特別に表彰し、さらなるSPring-8の利用研究を促しています。また、2001年度から修士課程と学部4年生を対象とした放射光研究の入門コース「SPring-8夏の学校」を毎年開校しており、講義や実習を通じて将来の放射光利用研究者の発掘と育成に努めています。さらに、これはJASRI内の若手研究者・技術者が対象ですが、SPring-8の高度化研究に資するような研究テーマを内部で募集し、1〜2年間研究費を支援して高度化へのフィードバックや競争的研究資金獲得の契機にしています。まず2007年度から利用研究促進部門を対象に「GIGNO」プロジェクトを立ち上げ、その実績を見たうえで今年度からは加速器、制御・情報および光源・光学の各部門を対象とした「匠<たくみ>」プロジェクトを開始しました(この他、高校生以下を対象とした普及・啓発プログラムもありますが、紙幅の関係で割愛します)。

 

 しかしながら、放射光科学の分野の人材育成はJASRIのみの努力では如何ともし難く、放射光科学のコミュニティ全体や大学、研究機関、そして政策ご当局が一体となった戦略的な取り組みが必須です。その意味で兵庫県立大学が理研播磨研などと連携して取り組まれている博士課程教育リーディングプログラムは画期的な試みとして高く評価されますが、平成25年度から開設される専攻コースの分野は「ピコバイオロジー」に限定されています。

 

 8月末にSPRUCが中心になって開催されたSPring-8シンポジウム2012では、SPRUCの雨宮会長から、SPring-8のような大型研究施設を高度科学技術教育拠点として活用する戦略的理工系人材育成プラットフォームモデル−SPring-8大学院連合(案)−が会長試案として示されましたが、冒頭述べたケイロンスクールや協力研究員の例にみられるような懸念を抱く現場としては、このような取り組みが関係者のご努力によって実現に向かうことを強く期待しています。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794