ページトップへ戻る

Volume 09, No.3 Pages 200 - 202

2. 最近の研究から/FROM LATEST RESEARCH

従来の常識を破るガラス構造の発見
A Study of an Unusual Glass Prepared by the Containerless Method – Glass Formation at the Limit of Insufficient Network Formers –

小原 真司 KOHARA Shinji[1]、鈴谷 賢太郎 SUZUYA Kentaro[2]、竹内 謙 TAKEUCHI Ken[3]

[1](財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ Materials Science Division, JASRI、[2]日本原子力研究所 中性子利用研究センター Neutron Science Research Center, Japan Atomic Energy Research Institute、[3]東京理科大学 基礎工学部 Faculty of Industrial Science and Technology, Tokyo University of Science

Abstract
Inorganic glasses normally exhibit a network of interconnected covalent-bonded structural elements that has no long-range order. In silicate glasses the network formers are based on SiO4-tetrahedra of which the interconnectivity is realized by sharing the oxygen atoms at the corners. Conventional wisdom then implies that alkaline and alkaline-earth orthosilicate materials cannot be vitrified because they do not contain sufficient network forming SiO2 to establish the needed interconnectivity. We have studied a bulk magnesium orthosilicate glass obtained by levitation melting- and-cooling. We find that the role of network former is largely taken on by corner- and edge-sharing ionic magnesium species that adopt 4-, 5- and 6-coordination with oxygen.
Download PDF (83.89 KB)

 普通のガラス、例えばケイ酸塩あるいはホウ酸塩ガラスなどでは、SiO4四面体あるいはBO3三角形といった構造ユニットが頂点共有の連結によってリングやチェインなどの隙間のある構造:ネットワークを形成することで、それを構造的にガラスたらしめている [1] [1]S. Kohara and K. Suzuya : Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. B 199 (2003) 23-38.。したがって、これらのユニット(ネットワーク形成ユニット)が不足している酸化物では、隙間のある構造をつくれないので、融体を急冷してもたいていはガラスにはならずに結晶となってしまう。
 マントル上部や隕石の主要構成鉱物であるかんらん石(フォルステライト:Mg2SiO4 [2] [2]A. E. Ringwood : Composition and Petrology of the Earth’s Mantle, McGraw-Hill, New York (1975).も、MgO:SiO2が2:1のモル比であるので、組成的にガラスにはなりにくい。また、融点が非常に高いので(〜2150K)、炉材やるつぼの素材などから考えても実際にガラスの作製は大変困難であることは予想がつく。しかし、かんらん石組成のガラスは隕石 [3] [3]A. Hashimoto : Nature 347 (1990) 53-55.や星間物質中 [4] [4]F. J. Molster et al. : Nature 401 (1999) 563-565.に見つかっているし、ガラスは融体の構造を色濃く残していると考えられるから、かんらん石組成のガラスができれば、主要造岩鉱物の融体研究 [5] [5]P. Richet, F. Leclerc and L. Benoist : Geophys. Res. Lett. 20 (1993) 1675-1678.という観点からも興味深い。
 そこで、我々のグループは、るつぼ等の容器を使わないで、フォルステライトを不活性ガスと音波で浮遊させながらCO2レーザー加熱で溶融し、宇宙空間と同じように、ほぼ無重力で保持しつつ冷却することで、不純物の極めて少ないフォルステライト(Mg2SiO4)ガラスを作製した [6, 7] [6]J. A. Tangeman et al. : Geophys. Res. Lett. 28 (2001) 2517-2520.
[7]S. Kohara, K. Suzuya, K. Takeuchi, C.-K. Loong, M. Grimsditch, J. K. R. Weber, J. A. Tangeman and T. S. Key : Science 303 (2004) 1649-1652.
。(コンテナレス法、図1)レーザーの急断による冷却は、スプラット法などの超急冷法ほど冷却速度は大きくないが、結晶化の核となる容器がないために過冷却液体状態が比較的低温まで保たれるので、球形試料の径が小さい場合には容易にガラスが得られる。



図1 コンテナレス法によって浮上−融解中のかんらん石(フォルステライト、2270 K、直径〜2mm)。CO2ガスレーザーによる加熱を止めるとガラスになる。



 さて、このガラスを構造的にガラスたらしめている要因は何であろうか?その要因を知るには、従来の最隣接間の原子間距離や配位数だけを求めるようなガラスの構造解析(短距離構造解析)では困難で、もっと大きな領域のガラス構造を3次元的に捉えることが必要である。我々は、SPring-8 BL04B2における高エネルギーX線回折実験 [8] [8]小原真司, 鈴谷賢太郎 : 放射光 14 (2001) 365-375.とアルゴンヌ国立研究所におけるパルス中性子回折実験を併用し、さらに逆モンテカルロ(Reverse Monte Carlo, RMC)法 [9] [9]R. L. McGreevy : J. Phys. : Condens. Matter 13 (2001) R877-R913.というコンピュータシミュレーションを援用することにより、そのガラス構造を可視化することに成功した [7] [7]S. Kohara, K. Suzuya, K. Takeuchi, C.-K. Loong, M. Grimsditch, J. K. R. Weber, J. A. Tangeman and T. S. Key : Science 303 (2004) 1649-1652.。よく知られているように、X線と中性子は、物質の含有元素に対する散乱断面積比の差から、それぞれ異なった側面の構造情報を与えてくれる。RMC法による構造モデルは広い Q領域(0.5 <Q < 30Å-1)のX線・中性子いずれのデータも忠実に再現するもので、こうして、原子数5000個ほどの信頼できる大きなガラスの3次元構造モデルが得られた。(図2)この3次元構造から、フォルステライトガラスは、通常のケイ酸塩ガラスとは大きく異なり、従来ネットワーク構造には寄与しないと考えられていたマグネシウム−酸素の多面体(比較的対称なMgO4四面体、非対称なMgO5、MgO6ユニット)が頂点および稜共有によってネットワークを形成しているという特異な骨格構造をもつガラスであることがわかった。一番多いのはMgO5ユニットである。この構造は、これまで我々がイメージしていた「ネットワーク形成ユニットが頂点共有で支えるガラス構造」という常識とは全然違っている。また、かんらん石構造(フォルステライト結晶の構造)は、よく知られているように八面体のMgO6ユニットがZ軸に平行な鎖を稜共有で形成し、それを孤立したSiO4四面体が繋いでいるやや歪んだhexagonal構造、ほぼ最密充填構造である [10] [10]S. Ghose et al. : Solid State Commun. 63 (1987) 1045-1050.。一般に、同組成の結晶とガラスでは短範囲の秩序構造はほぼ同じであるとよく言われるが、このガラスの場合は、そういう常識もまったくあてはまらないことがわかる。決して、ガラスは短範囲であっても結晶構造が適当に乱れたものではないのである。この特異なガラス構造の起源は、かんらん石の融体構造にあると考えられる。今後、コンテナレス法によって液体−過冷却液体−ガラス−結晶のより広い範囲での更なる実験が必要である。



図2 フォルステライトガラス中のMgOn多面体ユニット(n = 4, 5, 6)が形成する3次元ネットワーク構造。MgO4 : 赤、MgO5 : 黄色、MgO6 : 青色。


 我々は、これまでSPring-8での高エネルギーX線回折、さらに中性子回折とRMC法を利用して、ガラスの3次元構造という観点からその特異な物性を探ってきた [1, 8] [1]S. Kohara and K. Suzuya : Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. B 199 (2003) 23-38.
[8]小原真司, 鈴谷賢太郎 : 放射光 14 (2001) 365-375.
。このフォルステライトガラスの特異な構造も、その作製条件(ほぼ無重力の状態、熱履歴など)や融体構造を色濃く反映しているに相違なく、今後、宇宙・地球科学分野との連携研究が待たれる。また、高温電気炉も特別なるつぼもいらないコンテナレス法によって、ガラス形成範囲、化学量論に縛られない、非常に広い組成範囲の高純度ガラス作製の道筋が開かれた。この方法は、今後、金属ガラス分野も含めたガラス基礎科学、ガラス材料を中心とした光・エレクトロニクス産業の基盤技術として活用が期待される。

 本研究は、米国アルゴンヌ国立研究所(ANL)のC.-K. Loong博士、M. Grimsditch博士、米国Containerless Research社のJ. K. R. Weber博士、J. A. Tangeman博士、T. S. Key博士との共同研究である。実験およびデータ解析に協力いただいた米田安宏博士(原研)、C. J. Benmore博士(ANL)、伊藤恵司博士(京大原子炉)、一色麻衣子博士、大石泰生博士(JASRI)、ならびに有益な議論や助言をいただいたJASRIの高田昌樹グループリーダー、壽榮松宏仁部門長に感謝致します。



参考文献
[1]S. Kohara and K. Suzuya : Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. B 199 (2003) 23-38.
[2]A. E. Ringwood : Composition and Petrology of the Earth’s Mantle, McGraw-Hill, New York (1975).
[3]A. Hashimoto : Nature 347 (1990) 53-55.
[4]F. J. Molster et al. : Nature 401 (1999) 563-565.
[5]P. Richet, F. Leclerc and L. Benoist : Geophys. Res. Lett. 20 (1993) 1675-1678.
[6]J. A. Tangeman et al. : Geophys. Res. Lett. 28 (2001) 2517-2520.
[7]S. Kohara, K. Suzuya, K. Takeuchi, C.-K. Loong, M. Grimsditch, J. K. R. Weber, J. A. Tangeman and T. S. Key : Science 303 (2004) 1649-1652.
[8]小原真司, 鈴谷賢太郎 : 放射光 14 (2001) 365-375.
[9]R. L. McGreevy : J. Phys. : Condens. Matter 13 (2001) R877-R913.
[10]S. Ghose et al. : Solid State Commun. 63 (1987) 1045-1050.




小原 真司 KOHARA  Shinji
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2750 FAX:0791-58-0830
e-mail:kohara@spring8.or.jp


鈴谷 賢太郎 SUZUYA  Kentaro
日本原子力研究所 中性子利用研究センター
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
TEL:029-284-3753 FAX:029-284-3822
e-mail:suzuya@popsvr.tokai.jaeri.go.jp


竹内 謙 TAKEUCHI  Ken
東京理科大学 基礎工学部
〒049-3514 北海道山越郡長万部字富野102-1
TEL:01377-2-2681 FAX:01377-2-3430
e-mail:ken@rs.kagu.tus.ac.jp



 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794