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Volume 09, No.2 Pages 141- 144

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

理研シンポジウム 構造生物学(IX)
RIKEN Structural Biology Symposium IX at SPring-8

堀 哲哉 HORI Tetsuya、宮野 雅司 MIYANO Masashi

(独)理化学研究所 播磨研究所 Harima Institute, RIKEN

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 「理研シンポジウム 構造生物学(Ⅸ)」は、2004年1月22日と23日の2日間SPring-8普及棟において、国内外から講演者(海外3名、国内6名、理研14名)を招待して行われました。2日間で138名の方に参加いただきました。今回のシンポジウムでは、初日に新たな試みとしてこれからの構造生物学の広がりを目指した「脂質メディエーター関連タンパク質の生物学からその応用発展」と題して、プロスタグランジン(PG)やロイコトリエン(LT)など、細胞機能を調節する脂質分子の代謝酵素と受容体の機能に焦点を絞り、この分野の専門家である著名な諸先生方に講演をお願いしました。2日目は「放射光構造生物の進展とさらなる飛躍を目指して」と題して、昨年同様、理研シンポジウムと理研マンスリーフォーラム (RMF)のポスターセッションと共催することで、幅広く理研内外で行われている最新の構造生物学研究成果を、若手を中心に発表する場として構造生物学とその周辺の講演をして頂きました。
 初日の脂質メディエーター関連タンパク質のシンポジウムでは、各講演者に最新の実験データに加え、その研究テーマの背景や概略をとても分かりやすく説明していただきました。まず、山本尚三教授(京都女子大学)には脂質メディエーターの生合成経路と作用機構の総括をしていただいた。脂質メディエーターは、主に細胞の膜組織のアラキドン酸を出発材料として、数段階の酵素反応を経て強い生理活性因子となること。これら生理活性因子は、細胞表面に存在する7回膜貫通型受容体(GPCR)に特異的に作用すること。その受容体からの細胞内シグナル情報伝達によって細胞機能が調節されることを非常に丁寧にわかりやすく紹介していただきました。早石修名誉所長(大阪バイオサイエンス研究所)には、20年以上も研究に取り組んでいらっしゃる眠りの謎について講演いただきました。PGD2が哺乳動物の脳の主要なPGであり、内在性の睡眠誘起物質であることを発見したこと。さらに、PGD2により惹起される睡眠の分子機構を紹介していただきました。発見当時の現場の熱気が伝わってくるような迫力のある講演でした。清水孝雄教授(東京大学)には、150種類あると言われているオーファンGPCRのリガンド検索と、その結果新規に同定されたLPA受容体(lpa4)の個体レベルでの機能解析の結果を紹介していただきました。成宮周教授(京都大学)は、これまで知られているプロスタグランジン受容体、トロンボキサン受容体の殆どのcDNAのクローニングを行い、薬理学的解析から個体レベルの機能解析まで、網羅的に行っている研究結果を報告していただきました。また、受容体の結晶構造の情報が必要不可欠であると力説され、講演を締めくくられた。
 初日のセッションの後半は、脂質メディエーター代謝酵素の結晶構造解析が中心となった。W.L.Smith教授(University of Michigan Medical School)は、プロスタグランジンH合成酵素の結晶構造解析や変異体解析から、シクロオキシゲナーゼ活性を担うアミノ酸残基を同定し、反応メカニズムを分子レベルで明快に説明された。COXは抗炎症薬等のターゲットであり、この結果はあっという間に最も使われている薬となったcelecoxibなどのスーパーアスピリンCOX2選択阻害抗炎症剤開発で多大な情報を提供した。裏出良博博士(大阪バイオサイエンス研究所)は、PGD2合成酵素の臓器分布や細胞局在、遺伝子ノックアウトマウスやトランスジェニックマウスをもちいた生理機能解析の結果を紹介いただいた。J.Z. Haeggström教授(Karolinska Institute)はLTB4の前駆体であるLTA4をLTB4に変換する酵素LTA4 hydrolaseの結晶構造と反応機構の考察をした。本酵素も抗炎症薬等の創薬ターゲットであり、酵素—阻害剤の結晶構造に基づいたStructural Based Drug Designの戦略を述べられた。井上豪助教授(大阪大学)は、裏出博士らと共同でヒト由来造血器型PGD2合成酵素の結晶構造を解明し、本酵素はMg2+によって活性化されて効率的にPGD2を産生することを明らかにした。さらに、本酵素の阻害剤との複合体結晶構造を報告し、その阻害率と構造の相関について議論した。本セッション最後に宮野雅司が、造血器型とリポカリン型PGD2合成酵素の比較構造生物からその微細構造の違いが生物機能に重要であると強調した。また、最近我々が解析に成功した脂質メディエーター不活性化酵素LTB4 12-HD/PGRの結晶構造についても報告した。
 2日目は、主に理研播磨研で行われている構造生物学中心のセッションでした。シンポジウムでは、トピックス別にセッションを分けていなかったが、本稿では内容別に分類してみた。(1)合成されたタンパク質の局在決定を担うタンパク質の構造と機能が議論された。V.Patlan(ストラクチュローム)は、細胞内での新規合成タンパク質がペリプラズム膜を通過する際に必須であるSecAタンパク質の結晶構造について発表した。本結晶構造は、今まで報告されていた二量体構造とは異なる様式をとり、二量体構造の変化によりSecAの活性制御が行われていることを提唱した。柴田洋之(メンブレンダイナミクス)は、ペルオキシソーム局在膜タンパク質の輸送タンパク質Pex19のドメイン構造とその機能を解析し、輸送機構を考察した。(2)いくつかの酵素反応機構などが提唱された。ほとんどの講演は、タンパク質単独の構造だけでなく基質や補酵素との複合体構造に基づく考察であった。F.I.Tsuji(UCSD)は、GFPの酵素非依存的な発色団自動形成機構の解明を目指している。今回は、GFPのC末側領域を組み換え体として、N末側を合成ペプチドとして調製し、発色機構の考察を報告した。浜田恵輔(構造生物物理)は、あらゆる細胞に存在するリボース5リン酸イソメラーゼの反応中間体複合体の結晶構造を報告した。異性化反応は、グルタミン酸残基が触媒塩基・酸として働きプロトン転移が起こる反応機構を考察した。杉本宏(生体物理化学)は、サイトグロブリンの結晶構造を報告し、6配位構造をもつ本タンパク質が、5配位構造をもつミオグロビンやヘモグロビンよりも高い酸素親和性を示す機構を議論した。池田和子(メンブレンダイナミクス)は、グリシン開裂Tタンパク質の結晶構造から、非ケト−シス型高グリシン血症患者に見られる遺伝子点変異について考察した。藤原和子(メンブレンダイナミクス)は、リポ酸−タンパク質リガーゼのATP複合体結晶構造を報告した。金成勲(理論構造生物学)は、ヒドロキシフェニル酢酸 3-モノオキシゲナーゼの2つのコンポーネントの結晶構造を解明し、反応機構の考察を行った。菅原道泰(ハイスループットファクトリー)は、アシルCoAチオエステラーゼPaaIの結晶構造を報告し、4量体分子に2分子のアシルCoAが結合すること、さらに反応機構の考察を行った。(3)タンパク質−タンパク質相互作用の解析から、生体内での情報伝達機構が議論された。関根俊一(細胞情報伝達)は、生体内タンパク質合成の際に不可欠な伸長因子EF-Tuの結晶構造を報告した。このタンパク質の概形はtRNAの構造と類似していることを明らかにした。山内英美子(メンブレンダイナミクス)は、カルモジュリン−カルモジュリン結合タンパク複合体の結晶構造から、新規なカルモジュリン結合様式を報告した。(4)時分割測定によるタンパク質の動的解析として、田村巧(構造生物化学)は、時分割X線小角散乱法による骨格筋収縮過程の筋繊維構造変化の追跡を報告した。収縮調節には、トロポミオシンやトロポニンだけでなくアクチンの構造変化が何らかの役割を持っていると考察した。汲田英之(生体物理化学)は、緑膿菌由来NO還元酵素の触媒反応を時間分割電子スピン共鳴(ESR)スペクトルによって追跡し、反応中間体の構造と電子状態の帰属結果から、NO還元触媒反応機構を考察した。(5)海老原章郎(ストラクチュローム)は、高度好熱菌丸ごと一匹プロジェクトの進捗状況について、既に100を越える結晶構造の解析をしたことを報告した。
 今回のシンポジウムは構造生物学研究者だけでなく、細胞・個体レベルで研究を進めている研究者も招いて行われた。SPring-8でこのような個体レベルでの研究のセッションが開かれることはあまりないので、非常に新鮮であった。また、2日間のシンポジウムでしたが、初日の「脂質メディエーター関連タンパク質の生物学からその応用発展」のセッションの参加者が多かったのが印象的だった。最後に、西村江美さんをはじめとする事務局の方々、RMF世話人の方々、ポスターセッションやシンポジウムの会場を準備してくださった方々にお礼を申し上げます。
 
 
プログラム:
22nd January,2004 (Thursday)
Part1. Lipid-mediator related proteins from Basic Science to Clinical application
座長 宮野 雅司

飯塚 哲太郎(理研 播磨研究所)
「歓迎と開会の挨拶」
(Introductory remarks)

山本 尚三(京都女子大学)
「アラキドン酸カスケードの流れ」
(The arachidonate cascade)
座長 山本 尚三

早石 修(大阪バイオサイエンス研究所)
「眠りの謎」
(The Enigma of Sleep)

清水 孝雄(東京大学大学院医学系研究科)
「脂質メディエーターの広がり」
(Lipid mediators, from bench to clinic: an expanding research field in the postgenome era)

成宮 周(京都大学大学院医学研究科)
「プロスタノイド受容体の展望:生物学から応用へ」
(Prostanoid Receptors: An overview)
座長 井上 豪

William L.Smith (University of Michigan Medical School)
(Cyclooxygenase and Peroxidase Catalysis by Prostaglandin Endoperoxide Synthases-1 and -2)

裏出 良博(大阪バイオサイエンス研究所)
「2つの進化的に独立なプロスタグランジンD合成酵素機能とその阻害剤の医薬品開発に向けて」
(Two distinct prostaglandin D synthases and their biological and enzymatic characters as different Medicinal targets)

Jesper Z. Haeggstrom (Karolinska Institute )
(Leukotriene A4 hydrolase, structure,mechanisms and inhibitor design)
座長 裏出 良博

井上 豪(大阪大学大学院)
「造血器型プロスタグランジン合成酵素のX線構造解析と医薬品への応用」
(X-ray Structure Analyses of Hematopoietic Prostaglandin (PG) Synthase for Drug Discovery)

宮野 雅司(理研播磨 構造生物物理研究室)
「構造生物研究室での脂質関連タンパク質の構造生物学的研究−このシンポについて」
(Structural Studies of Lipid-related proteins in Structural Biophysics Laboratory)

Banquet at SPring-8 cafeteria

23rd January,2004 (Friday)
Part2. Progress in the Structural Biology at SPring-8
座長 山内 英美子

Vsevolod Patlan(理研播磨研ストラクチュローム研究グループ)
(Crystal structure of Thermus thermophilus SecA protein at 2.8 Å resolution)

Frederick I.Tsuji (University of California,San Diego)  
(Chemical Synthesis of Hybrid Precursor Molecule of Aequorea GFP)
座長 池田 和子

関根 俊一(理研播磨研 細胞情報伝達研究室)
「翻訳にかかわるタンパク質・RNA複合体の構造生物学」
(Structural studies on protein-RNA complexes involved in genetic-code translation)

海老原 章郎(理研播磨研 ストラクチュローム研究グループ)
「原子レベルでの生物学を目指した「高度好熱菌丸ごと一匹プロジェクト」の進捗状況」
(Updates of Extreme Thermophile Whole Cell Project- Toward Atomic Biology)
座長 藤原 和子

田村 巧(理研播磨研 構造生物化学研究室)
「骨格筋張力発生に伴う細いフィラメント由来X線反射の2次元高速時分割測定」
(High-speed time resolved X-ray diffraction studies on the thin filament structural changes during muscle force development)
座長 関根 俊一

柴田 洋之(理研播磨研 メンブレンダイナミクス研究グループ)
「ペルオキシソーム膜タンパク質局在化機構の解析 Pex19pのドメイン構造と機能」
(Mechanism of Subcellular Localization of Peroxisomal Membrane Proteins Domain Architecture and Activity of Human Pex19p)
座長 海老原 章郎

浜田 恵輔(理研播磨研 構造生物物理研究室)
「ユビキタスなリボース5リン酸異性化酵素の高い立体特異性を持つ触媒メカニズム」
(Structural Basis of Highly Stereo-specific Catalytic Mechanism of Ubiquitous Ribose-5-Phosaphate Isomerase)

汲田 英之(理研播磨研 生体物理化学研究室)
「緑膿菌由来NO還元酵素の反応機構解析と三次元結晶化」
(Reaction Mechanism and 3D-crystallization of Nitric Oxide Reductase  from Pseudomonas aeruginosa)
座長 田村 巧

杉本 宏(理研播磨研 生体物理化学研究室)
「サイトグロビンのリガンド結合機構」
(Structural Basis of Human Cytoglobin for Ligand Binding)
座長 浜田 恵輔

山内 英美子(理研播磨研 メンブレンダイナミクス研究グループ/徳島大学)
「MARCKSペプチド−カルモジュリン複合体の結晶構造解析」
(Crystal Structure of a MARCKS Peptide-calmodulin Complex)

池田 和子(理研播磨研 メンブレンダイナミクス研究グループ/徳島大学)
「グリシン開裂酵素系Tタンパク質の結晶構造解析」
(Crystal Structure of human T-protein of Glycine Cleavage System) 

藤原 和子(理研播磨研 メンブレンダイナミクス研究グループ/徳島大学)
「大腸菌のリポ酸−タンパク質リガーゼの結晶構造解析」
(Crystal Structure of Lipoate-protein Ligase A from Escherichia coli)
座長 杉本 宏

金 成勲(理研播磨研 理論構造生物学研究室)
「高度好熱菌HB8由来4-hydroxyphenylacetate 3-monooxygenase large chain and small chainの結晶構造解析」
(Crystal structures of 4-hydroxyphenylacetate 3-monooxygenase large chain and small chain from Thermus thermophilus HB8)

菅原 道泰(理研播磨 ハイスループットファクトリー)
「アシルCoAチオエステラーゼPaaIの結晶構造解析」
(Crystal Structure of acyl-CoA thioesterase PaaI from Thermus thermophilus HB8)




堀 哲哉 HORI  Tetsuya
独立行政法人理化学研究所 播磨研究所 構造生物物理研究室
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2815 FAX:0791-58-2816
e-mail:thori@spring8.or.jp



宮野 雅司 MIYANO  Masashi
独立行政法人理化学研究所 播磨研究所 構造生物物理研究室
構造生物物理研究室
〒679-5143 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-2815 FAX:0791-58-2816
e-mail:miyano@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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