Volume 09, No.2 Pages 137 - 138
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第17回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム報告
Report of the Joint Symposium on the 17th Annual Meeting of Japan Synchrotron Radiation Society and Synchrotron Radiation Science
第17回年会・放射光科学合同シンポジウムは2004年1月8日から10日まで物質材料機構及びつくば国際会議場(エポカルつくば)において、プログラム委員長・河田洋教授(PF・KEK)、実行委員長・岸本俊二助教授(PF・KEK)のもと、開催されました。今年の年会では口頭発表92件、ポスター発表393件と昨年度よりも100件以上多くの発表申し込みがあり、参加者はこれまでの最大の623名にのぼり、放射光学会始まって以来の盛大な大会となりました。これは、第3世代放射光施設SPring-8をはじめとする、我が国の放射光施設が建設期を終え、様々な研究開発分野への放射光利用が広く浸透してきた結果であると思われます。それに伴い、本年会の特別講演、企画講演は、放射光の科学技術研究への本格的利用や、次世代の放射光への可能性を探るフロンティアランナーの研究者の方々の講演により構成されました。特別講演は日本の物質科学をリードする十倉好紀教授(東大院工・産総研)の「強相関電子系と放射光」、第4世代放射光の可能性についてのスタンフォード大学のリンダウ教授による「Scientific Opportunities and Technological Challenges with Fourth Generation Light Sources」でした。企画講演では、次世代放射光利用の可能性についての「コヒーレントX線で見えてくる世界」、放射光の円偏向X線の特徴を利用した生体物質研究についての「生体物質のVUV・SX自然円二色性」、放射光のパルス性を利用したピコ秒での物質構造研究へのチャレンジについての「放射光時分割測定の最近の展開 −光誘起現象の解明へ−」、放射光の臨床応用への現状を視野に入れた「医用画像診断への応用」、産業界でのデバイス開発への応用についての「放射光を用いた微細加工の最前線」が行われました。そのほかの口頭及びポスター発表においても意欲的な発表が多数行われました。
特筆すべきは、今年の学会奨励賞に、JASRI/SPring-8の矢橋牧名研究員が、井野明洋氏(広島大学助手;受賞理由 銅酸化物高温超伝導体の電子構造の研究)と共に選ばれたことです。矢橋研究員の受賞理由は「強度干渉計によるX線コヒ−レンスの研究」です。内容は、最近14.4keVでのエネルギー幅120µV(ΔE/E = 8×10-9)のX線を得られる超高分解能モノクロメーターを開発し、十分な信号ノイズ比の計測を可能とし干渉測定からSPring-8の27mアンジュレーターの光源サイズを決定するとともに、電子ビームのバンチ長計測が可能なことを示したことです。この方法はX線FELのようなサブピコ秒からフェムト秒のパルスX線源にも容易に適用できることから世界的に注目され、そのことが高く評価され、今回の受賞となりました。(写真1、懇親会での受賞風景、会長、井野氏と共に)
写真1 懇親会で学会奨励賞を授与されて(右より井野氏、松下会長、矢橋氏:JASRI 青柳氏提供)
懇親会は会場から車で5分の山水亭で、鏡開きから始まり(写真2)、和やかな雰囲気のもとに行われました。年の初めに開催される本年会では現在計画中も含め14にのぼる放射光研究施設の施設報告、関連企業の42社の企業展示も行われ、研究者、放射光施設、関連企業との重要な情報交換の場となりました。初日の合同シンポジウムでは、SPring-8を取り巻く厳しい予算の状況などが問題となりましたが、放射光施設全体の共通の問題として、学会全体としても取り組んでいく必要があると感じました。
写真2 懇親会での鏡開き(右より十倉教授、小間教授、リンダウ教授、松下会長:物材機構 桜井氏提供)
来年は、建設中の佐賀シンクロトロンにおいて、九州での初めての年会開催が予定されており、放射光利用の全国的な広がりの契機となることが期待されています。是非とも、また、SPring-8から多くの研究発表の参加が行われることを期待しています。
高田 昌樹 TAKATA Masaki
(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門Ⅰ
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL・FAX:0791-58-0946
e-mail:takatama@spring8.or.jp
昭和62年 広島大学大学院 理学研究科 博士課程
昭和62年 名古屋大学 助手
平成8年 島根大学 助教授
平成10年 名古屋大学 助教授
平成15年 JASRI/SPring-8 主席研究員、理研・播磨研究所 客員主管研究員
専門:放射光構造物性
趣味:写真撮影