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Volume 09, No.2 Pages 132 - 134

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

JAERI国際ワークショップ“X線散乱と電子構造”報告
JAERI International Workshop on“X-Ray Scattering and Electronic Structure”

五十嵐 潤一 IGARASHI Jun-ichi

日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター Synchrotron Radiation Research Center, Kansai Research Establishment, JAERI

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 2003年12月11日(木)〜12日(金)とSPring-8の普及棟で、原研主催JASRI共催で“X線散乱と電子構造”と題して、国際ワークショップが行われました。X線散乱、特に共鳴X線散乱(RXS)による物性研究はこの数年来の話題であり、同様の題名のワークショップが二月にヨーロッパ放射光施設(ESRF)でも行われました。この新しい分野の特徴は、内殻励起等の複雑な過程を含むため、理論家と実験家が緊密に協力しあって研究を進めることが要求されている点です。このワークショップでは、この点を意識して計画されました。発表はすべて招待講演で、21件の発表の内、12件が理論家によるものでした。ちょうど、同じ日にBrookhavenで研究会が企画されていたので、米国からの参加者が少なくなりましたが、ヨーロッパを中心に豪華な顔ぶれの講演者になりました。プログラムは表をご覧ください。以下、プログラムに沿って講演内容を簡単に紹介致します。
 下村(原研放射光科学研究センター長)の挨拶ではじまりました。SPring-8における理論グループと実験グループの協力体制についての話がありました。それに続いて、D.Mannix(ESRF)は、TmGa3、ErGa3およびその混晶についての希土類L3吸収端でのRXSの実験結果について報告しました。また、A.Stunault(Institut Laue Langevin)は、CeSbのCe L2,3吸収端を用いたRXS実験を報告し、複雑な磁気相図との関連を議論しました。実験データの蓄積は十分ですが、複雑な対象であるだけに、その理論的取り扱いは今後の課題です。G.van der Laan(Daresbury Laboratory)は、新しい方向として、遷移金属L2,3吸収端を用いたRXSを磁気ナノ構造の研究に用いる試みを紹介し、関心を集めました。遷移金属L吸収端に対応するX線の波長は長いためナノ構造の研究に適しています。また、秩序変数を担う3d軌道が直接関与することからも有力な研究手段です。S.Lovesey(Rutherford Appleton Laboratory)は、NpO2におけるM4吸収端の実験結果の理論的解析から、低温相は八重極モーメントが秩序したものであると主張しました。
 午後は、C.R.Natori(Laboratori Nazionali di Frascati INFN)がV2O3のバナジウム K吸収端における共鳴X線散乱のスペクトルの第一原理計算結果を報告しました。磁気秩序を仮定し、双極子−双極子、双極子−四重極子、四重極子−四重極子遷移を考慮することにより、禁制散乱のブラッグ強度の実験と一致する結果を導き、以前に示唆されていた軌道秩序の可能性を否定しました。V2O3のRXSの問題は一応解決したと思われます。続いて、五十嵐(原研放射光)は、グループで行っている、遷移金属化合物のK吸収端におけるRXSスペクトルの第一原理計算に基づく解析とその機構を報告しました。RXSの機構は、遷移金属4p電子状態のひろがった性質と関連した一般的なものであることを強調しました。M.Altarelli(Sincrotrone Trieste)は、K吸収端を用いたRXSが3d状態の直接の反映でないところから来る限界を強調し、L吸収端を用いたRXSの実験および理論の現状を報告しました。先のG.van der Laanの講演と合わせて、今後盛んになってくると思われます。P.Carra(ESRF)は、空間反転対称性をもたない系のRXS、磁気円二色性(XMCD)に関連して、linear magnetoelectric effect について議論しました。城(広島大)は、U化合物のM4,5 吸収端のXMCDスペクトルのハートレーフォック法に基づく計算を、また、遷移金属化合物におけるL吸収端を用いた線二色性の解析を報告し、線二色性の研究が軌道秩序を探る手段として有効であることを示しました。W.Huebner(Kaiserslautern University of Technology)は、クラスターを用いたNiO表面におけるsecond-harmonic generation tensor の量子化学計算に基づく解析を報告しました。
 以上、一日目は、主に弾性散乱とX線吸収が中心でした。二日目は、Y.-J.Kim(Brookhaven National Laboratory)の銅酸化物に対する共鳴非弾性X線散乱(RIXS)の実験結果の報告からはじまり、稲見(原研放射光)は、マンガナイトのRIXSの実験結果を報告しました。引き続いて、前川(東北大金研)は、ハバード模型の有限系の厳密対角化法により、また、野村(原研放射光)はd-p模型のハートレーフォック-RPA法により、銅酸化物のRIXSスペクトルの解析した結果を報告しました。理論的解析は、まだこれから発展するものと思われます。小谷(理研・SPring-8)は、グループで展開している、dおよびf電子系における軟X線RIXSスペクトルに関する多彩な解析結果を報告しました。G.Sawatzky(University of British Columbia)は、彼のグループの計画も含めて、軟X線RXS実験の報告をしました(非弾性散乱の話でないので、第一日目に話すのが適切なのですが、参加が急に決まったため、この順番で話すことになりました)。辛(理研・SPring-8)は軟X線発光分光(SXES)の豊富な実験結果を報告しました。A.Q.R.Baron(JASRI)は、共鳴を用いないX線非弾性散乱により、MgB2、HgBa2CuO4+δのフォノンの測定を、また、水木(原研放射光)は、La2-xSrxCuO4のフォノンの測定を報告しました。中性子散乱と相補的な情報を与える有力な実験手段として、注目を集めました。桜井(JASRI)は、CeRh3B2およびUGe2の磁気コンプトン散乱の実験を報告し、小泉(筑波大物質)は、マンガナイトの磁気コンプトン散乱スペクトルの量子化学計算に基づく解析を報告し、磁気コンプトン散乱の有用性をアピールしました。最後のまとめは、G.Sawatzkyにお願いしました。このコミュニティーの研究を、他の物質科学、特にtransport等の低エネルギー現象の研究、との接点を意識して進める重要性を強調しました。
 テーマを絞ったワークショップであったため、お互いに、少なくとも論文では知っている人々で、参加者間のコミュニケーションもスムーズに行われたと思います。講演での質疑応答だけでなく、その前後に個人的に議論をする機会も十分あり、若い人たちにもよい影響があったのではと思っています。
 最後に、このワークショップを支えてくれた原研放射光およびJASRI事務局の方々に感謝する次第です。


PROGRAM
 
December 11 (Thursday)
9:15 - 9:20 O.Shimomura
Opening address
 
Session 1 Chair: S.Lovesey
9:20 - 10:00 D.Mannix
Resonant X-Ray Scattering Studies of TmxEr1-xGa3 Solid Solutions
10:00 - 10:40 A.Stunault
Study of CeSb by Resonant X-Ray Scattering: Magnetic Order and Charge Distribution
10:40 - 10:55 Coffee break
 
Session 2 Chair: J.Mizuki
10:55 - 11:35 G.van der Laan
Soft X-Ray Resonant Magnetic Scattering from Magnetic Nanostructures
11:35 - 12:15 S.Lovesey
X-Ray Diffraction by Magnetic Crystals,and the Case for Np Octupole
and Hexadecapole Motifs in NpO2
12:15 - 13:30 Lunch
 
Session 3 Chair: A.Kotani
13:30 - 14:10 C.Natoli
The Role of Orbital and Magnetic Ordering
in Resonant Anomalous Scattering at the V K-edge of V2O3
14:10 - 14:50 J. Igarashi
4p States and Resonant X-Ray Scattering
14:50 - 15:30 M.Altarelli
Resonant Scattering of Hard and Soft X-Rays as a Probe
of Strongly Correlated Electrons
15:30 - 15:45 Coffee break
 
Session 4 Chair: K.Makoshi
15:45 - 16:25 P.Carra
Site Interactions between Electric and Magnetic Moments in Crystals
16:25 - 17:05 T.Jo
Orbital Polarization and X-Ray Absorption Dichroism
17:05 - 17:45 W.Hubner
Nonlinear Optics and Ultrafast Dynamics on NiO(100)
18:00 Banquet
 
December 12 (Friday)
 
Session 5 Chair: M.Altarelli
9:00 - 9:40 Y.-J.Kim
Resonant Inelastic X-Ray Scattering Study of Electronic Excitations in Cuprates
9:40 - 10:05 T.Inami
Resonant Inelastic X-Ray Scattering Study of La1-xSrxMnO3 (x=0, 0.2, 0.4)
10:05 - 10:20 Coffee break
 
Session 6 Chair: C.Natoli
10:20 - 11:00 S.Maekawa
Mott Gap and Resonant Inelastic X-Ray Scattering in Transition Metal Oxides
11:00 - 11:25 T.Nomura
Analysis of Resonant Inelastic X-Ray Scattering in Insulating Cuprates
11:25 - 12:05 A.Kotani
Theory of Resonant Inelastic X-Ray Scattering in d and f Electron Systems
12:05 - 13:30 Lunch
 
Session 7 Chair: G.van der Laan
13:30 - 14:10 G.Sawatzky
Recent Results and Interpretation of Resonant Soft X-Ray Scattering
14:10 - 14:50 S.Shin
Resonant Soft X-Ray Emission Study on Electronic Structures of Solids and Fermiology
14:50 - 15:30 A.Q.R.Baron
Electron-Phonon Coupling & Phonon Softening in MgB2
and HgBa2CuO4+δ by Inelastic X-Ray Scattering
15:30 - 16:10 J.Mizuki
Direct Observation of Strong Interplay between the Bond-Stretching Phonon
and Superconductivity in La2-xSrxCuO4
16:10 - 16:25 Coffee break
 
Session 8 Chair: P. Carra
16:25 - 17:05 Y.Sakurai
Spin-Polarized Electron Momentum Density Distributions in CeRh3B2 and UGe2
17:05 - 17:30 H.Koizumi
Electronic Structures and Magnetic Compton Profile of Bilayer Manganite
17:30 - 17:40 G.Sawatzky
Closing remarks

五十嵐 潤一 Igarashi  Jun-ichi
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL : 0791-58-2640 FAX : 0791-58-2740
e-mail : jigarash@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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