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Volume 09, No.2 Pages 102 - 106

2. ビームライン/BEAMLINES

理研構造ゲノムビームライン(BL26B1&B2)の自動化
Automation of RIKEN Structural Genomics Beamlines (BL26B1&B2)

上野 剛 UENO Go[1]、山本 雅貴 YAMAMOTO Masaki[2]

[1](独)理化学研究所 播磨研究所、理学電機株式会社 X線研究所 Harima Institute, RIKEN / X-ray Research Laboratory, Rigaku Corporation、[2](独)理化学研究所 播磨研究所 Harima Institute, RIKEN

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要 旨
 理研構造ゲノムビームライン(SPring-8 BL26B1&B2)は構造ゲノム研究推進を目的として、膨大な数のタンパク質結晶の迅速回折データ収集を行うことを目的に建設された。本ビームラインの最終目標はビームライン自動運転であり、人手に代わり結晶交換を行うサンプルチェンジャーや大量サンプルの統合管理システムを開発した。現在BL26B1は通常のユーザ運転、BL26B2では自動運転のコミッショニングを行っている。


1.はじめに
 タンパク質は遺伝子情報をもとに作り出される生命現象の基本単位であり、その機能を解明することが生命現象を解明するためには必要不可欠である。構造ゲノム研究では、多くのタンパク質について立体構造情報の蓄積を進めることにより、タンパク質の機能発現機構を明らかにし生命現象に対する理解を深めることを目的としている [1, 2] [1]Raymond C. Stevens et al. : Global Efforts in Structural Genomics SCIENCE 294 (2001) 89-92.
[2]David Baker et al. : Protein Structure Prediction and Structural Genomics SCIENCE 294 (2001) 93-96.
。また、タンパク質立体構造情報の蓄積は合理的な医薬品開発などへの応用も期待されている。
 理研構造ゲノムビームライン(SPring-8 BL26B1&B2 図1)は、構造ゲノム研究のために調製される膨大な数のタンパク質サンプルの立体構造決定を目的に、迅速かつ簡便にタンパク質結晶の回折強度測定を行うことを目指している。さらに迅速・簡便な結晶のスクリーニングや、セレノメチオニンを導入したタンパク質に対する多波長異常分散(MAD)法により、将来的には結晶構造解析のルーチン化をも視野に入れている。



図1 理研構造ゲノムビームライン(BL26B1&B2)外観


 ビームタイムの有効利用の観点から、ビームライン・実験ステーションに設置しているすべての機器・制御ソフトが回折データ収集時の自動運転を念頭において設計されている。なかでも最大の特徴は、大量のサンプル結晶を人手を介さず次々と交換するロボット、凍結試料サンプルチェンジャーの導入である。通常、ビームラインにおけるタンパク結晶の回折実験において最も時間と手間のかかる作業は、持ち込まれた凍結試料結晶の交換作業である。タンパク結晶サンプルは放射線による損傷を軽減するために、液体窒素温度に近い低温で瞬時に凍結された状態でビームラインに持ち込まれる。凍結保存しているデュワーから取り出したサンプルをゴニオメータにマウントする際に、試料の温度が上昇すると結晶性の低下が起こり、回折データに悪影響がでるため慎重な作業が必要とされる。理研構造ゲノムビームラインではサンプルチェンジャーと専用サンプルピンおよび保存運搬用トレイを新たに開発することにより、結晶交換作業をロボット化し作業の安定化、効率化を図っている(図2)。新たに開発した専用のサンプルピンは、これまで一般的に使われていた磁石による着脱方式ではなく、ネジによる固定方式を採用した。これにより複数回のマウント動作にわたりサンプルの位置再現性が実現され、回折データ収集の完全な無人自動測定が可能となった。



図2 サンプルチェンジャーと専用ピン、トレイ
(a)サンプルピン 全長:27mm、直径:7mm、材質:ジュラコン
(b)サンプルトレイ   サイズ:75×75×50mm、材質:アルミニウム、SUS
(c) BL26B2実験ハッチに設置されたサンプルチェンジャー(試料マウント時)
(d)サンプルチェンジャー(試料ピックアップ時)


 また同時に膨大な数のサンプル結晶を効率的に管理するために、実験室での結晶凍結からビームラインへの輸送、回折強度データ収集および測定後のデータ保存までを含めた統合管理システムを構築した。サンプルピンはトレイに52個単位で収納され、サンプルトレイに付けたバーコードによりデータベース管理されている。さらにサンプルピンをサンプルトレイに充填するためのロボットシステム(ロボット本体はビームライン用と互換)を開発し、SPring-8サイト内の実験室に導入した。実験室およびビームラインはデータベースとネットワークで結ばれ、試料情報の登録、取得がそれぞれの場所から可能となっている。実験室で登録された個別サンプルの情報はトレイIDを元にビームラインで取り出され、情報に基づいて回折データ収集が行われる。測定データはネットワークを介して再びデータベースに登録されるしくみとなっている。
 理研構造ゲノムビームラインは平成13年度末にビームライン建設を終了し、平成14年度はじめからビームライン光学系の立ち上げ調整および実験ステーション機器の試験調整運転を開始した。平成14年秋よりBL26B1では通常のユーザ実験を開始しており、BL26B2ではサンプルチェンジャーによる自動運転のテストを行っている。


2.ビームライン光学系、実験ステーション
 ビームラインの光学系は偏光電磁石光源を用いた標準的なもので [3] [3]S. Goto et al. : Standard Transport Channels of X-ray Beamlines at SPring-8 J. Synchrotron Rad. 5 (1998) 1202-1205.、光学ハッチ内にはSPring-8標準の定位置出射型Si二結晶分光器 [4] [4]M. Yabashi et al. : SPring-8 standard x-ray monochromators Proc. SPIE 3773 (1999) 2-13.を配し、下流に疑似2次元集光を行うシリンドリカルベントミラーを設置している(図3)。分光器の第一結晶には直接冷却式のSi結晶を取り付け、循環水を用いた冷却システムを採用している。X線のエネルギー範囲は6〜17keVで、重原子等の異常分散効果を用いたMAD法による位相決定を視野に入れている。集光ミラーは高エネルギー成分を排除するためにRhコーティングされた全反射ミラーで、視斜角3.7mradで実験ハッチ試料位置に集光する。試料位置における総フラックスは12keVの分光条件において1011 photons/sec、エネルギー分解能はΔE/E=10-4である。



図3 ビームライン光学系模式図


 実験ハッチ(図4)にはスリット、シャッタ等の光学ユニットの他、自動交換アッテネータ、試料用横置きκゴニオメータ、2次元検出器、サンプルチェンジャーが設置されている。試料をマウントするゴニオヘッドは電動XYZステージで駆動され、結晶サンプルの入射X線位置へのセンタリングが、放射光同軸望遠鏡の画像とXYZステージにより実験ハッチ外部からリモート操作可能である。このため、サンプルチェンジャーによるサンプル交換時も含めてハッチ開閉無しに連続測定を行うことができる。回折像を記録する検出器は、大型イメージングプレートと2×2モザイクCCDの2機種を設置した [5, 6] [5]M. Suzuki et al. : A multiple CCD X-ray detector and its first operation with synchrotron radiation X-ray beam Nucl. Instrum. Meth. A. 436 (1999) 174-181.
[6]M. Yamamoto et al. : Development of high-speed Imaging Plate detector Nucl. Instrum. Meth. A. 467 (2001) 1160-1162.
。2台の検出器はリモート切替え可能な実験架台に載せることにより、実験スケジュールに応じて最適な検出器に自動交換可能となっている。



図4 実験ハッチ内の機器


 光学ハッチ、実験ハッチ内のすべての機器はクライアント・サーバ型の制御ソフトウェアにより、ネットワークを介して集中管理されている [7] [7]T. Ohata et al. : SPring-8 beamline control system J. Synchrotron Rad. 5 (1998) 590-592.。ビームラインの端末には新規開発したスケジューリング機能をもつクライアントソフトウェア、Beamline Scheduling Software (BSS  図5)がインストールされ、各機器を制御するサーバソフトウェアと通信しながらビームライン運転を行う。




図5 Beamline Scheduling Software (BSS)メイン画面



3.サンプル管理システムを用いたビームライン自動運転
 ビームラインの自動運転は、朝の入射を境とした24時間を基本単位としてスケジュールを作成する(図6)。ビームラインにおけるルーチン的な作業は、専門のビームラインオペレータが行うので、実験責任者はビームタイムの間ビームラインに拘束されることは無い。毎朝ビームラインオペレータが、当日に実験予定のサンプルトレイのIDをバーコードリーダで読み取り、実験ハッチ内のサンプルチェンジャー用液体窒素デュワーにセットする。ネットワークを介してデータベースにアクセスし、持ち込まれたサンプルの情報を取り出して、その日の実験を開始する。日中は持ち込まれた全サンプルに対して、結晶評価のための予備的実験を行う。評価実験ではサンプルチェンジャーが結晶サンプルを交換し、オペレータがセンタリングを行う。その後数枚の回折イメージと、MAD法に用いる試料の場合はXAFSプロファイルを測定する。センタリング位置と回折データ、XAFSデータは、それぞれのサンプル固有の情報としてデータベースに保存される。



図6 理研構造ゲノムビームラインの1日


 すべての評価実験終了後、実験責任者はデータベース上の評価データを参照し、最良の回折データ収集スケジュールを決定する。そのために、実験責任者は評価実験の回折イメージから結晶の良否を判断し、データ収集に使用する結晶の取捨選択を行う。良質な結晶に対して最適の実験条件、すなわち使用する波長、スキャン条件、カメラ長などを決めデータベースに登録する。スケジュール決定後にビームラインは無人運転モードに入り、翌朝まで連続自動回折データ収集が行われる。結晶交換、センタリング、波長設定、検出器設定などの作業はビームライン制御ソフトBSSにより人手を介さず実行される。CCDを用いた回折イメージ測定では、16時間の自動測定でMADデータセット(180枚×3波長)を5サンプル程度収集することができる。BL26B1とB2の2本のビームラインで最大限に威力を発揮して、1日あたり10個の新規タンパクの分子構造が求められる計算である。


4.コミッショニング結果と今後の展望
 2003年10月よりBL26B2にて自動運転のためのワーキンググループを発足し、ユーザの協力のもとビームライン自動運転のコミッショニングが行われている。平均20個ほどのサンプルが、およそ2ヶ月の運転期間のあいだ継続してビームラインに持ち込まれ、オペレータによる評価実験、夜間自動運転が行われた。将来的にSPring-8サイト外からのサンプルを受け付ける可能性もふまえ、実験室にてサンプルを凍結してトレイに詰めた後、ビームラインに移送する際の専用ツールの開発も行っている。その結果、サイト内では結晶サンプルを損傷させること無く輸送できることが確認された。ビームラインにおける評価実験のスループットは、サンプル一個あたりの処理に掛かる時間が、平均10分程度であった。52個のサンプルがフルにトレイに詰められたとしても、夕方までの作業時間で十分にスクリーニング可能なペースである。
 また連日夜間自動運転時には、データベースに登録された結晶位置より自動的にセンタリングが行われ、人手を介すること無く回折データ収集のスケジュールが実行された(図7)。自動運転のテストデータとしてZnプロテアーゼ(Thermolysin)のMADデータ測定を行い、得られたデータから問題なく初期位相を決定することを確認している(図8)。



図7 結晶自動センタリング(放射光同軸CCDカメラ画像)
(a)日中評価実験時、オペレータによる手動センタリングの結果
(b)夜間自動運転にて再現されたセンタリングの結果




図8 サンプルチェンジャーを用いたMAD測定テストデータ
サンプル: Thermolysin、(Phe281付近、 d > 2.1Å )
検出器: Jupiter210 (CCD)
Solve [8][8]Terwilliger, T.C. and J. Berendzen : Automated MAD and MIR structure solution Acta Crystallographica D55 (1999) 849-861.での解析結果:構築されたアミノ酸 269/316 (85%)


 この様に、ビームラインに設置されたサンプルチェンジャーは現在良好に動作しており、予定実験スケジュールを順調にこなしている。今後はワーキンググループによる試運転をBL26B2にて継続し、サンプルチェンジャーの開発(高度化)を行いながら理研構造ゲノムビームラインの運用形態や方針を決定し、より効率的なビームライン運営を図っていく予定である。


謝 辞
 構造ゲノムビームラインの建設は、財団法人高輝度光科学研究センターの後藤俊治博士ならびに竹下邦和博士、理化学研究所播磨研究所の石川哲也主任研究員のご協力、アドバイスにより進められました。ビームライン運転スタッフのスプリングエイトサービス株式会社福本祐史博士、村上博則氏、小池真紀氏、藤尾美紀氏、ならびにサンプルチェンジャーの開発に当たりご協力いただいた理化学研究所ジュニアリサーチアソシエイトの井田孝氏、ファルマ・アクセス株式会社の廣瀬雷太博士、長谷川智一氏に感謝いたします。
 サンプルチェンジャー開発の一部は、文部科学省タンパク3000プロジェクトにより支援されました。



参考文献
[1]Raymond C. Stevens et al. : Global Efforts in Structural Genomics SCIENCE 294 (2001) 89-92.
[2]David Baker et al. : Protein Structure Prediction and Structural Genomics SCIENCE 294 (2001) 93-96.
[3]S. Goto et al. : Standard Transport Channels of X-ray Beamlines at SPring-8 J. Synchrotron Rad. 5 (1998) 1202-1205.
[4]M. Yabashi et al. : SPring-8 standard x-ray monochromators Proc. SPIE 3773 (1999) 2-13.
[5]M. Suzuki et al. : A multiple CCD X-ray detector and its first operation with synchrotron radiation X-ray beam Nucl. Instrum. Meth. A. 436 (1999) 174-181.
[6]M. Yamamoto et al. : Development of high-speed Imaging Plate detector Nucl. Instrum. Meth. A. 467 (2001) 1160-1162.
[7]T. Ohata et al. : SPring-8 beamline control system J. Synchrotron Rad. 5 (1998) 590-592.
[8]Terwilliger, T.C. and J. Berendzen : Automated MAD and MIR structure solution Acta Crystallographica D55 (1999) 849-861.
Web site: www.solve.lanl.gov



上野 剛    UENO  Go
独立行政法人理化学研究所 播磨研究所 X線干渉光学研究室
理学電機株式会社 X線研究所
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0803(ex.3640) FAX:0791-58-2807
e-mail:ueno@spring8.or.jp


山本 雅貴    YAMAMOTO  Masaki
独立行政法人理化学研究所 播磨研究所 X線干渉光学研究室
〒679-5148 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0803(ex.3805) FAX:0791-58-2807
e-mail:yamamoto@postman.riken.go.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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