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Volume 09, No.2 Pages 85 - 88

1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

「長期利用2000B採択課題事後評価」について
Evaluation of 2000B Long-term Proposals

(財)高輝度光科学研究センター 利用業務部 User Administration Division, JASRI

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 2000B期(平成12年9月~平成13年1月)から開始した特定利用課題は、2003B期(平成15年9月~平成16年2月)から重点研究課題を導入するのに合わせて長期利用課題と改称し実施しています。2000B期に特定利用課題として採択した3課題は2003A期に終了しましたので以下の通り事後評価を行いました。
 今回の事後評価手順は、長期利用分科会委員に3名の有識者を加えた事後評価委員がSPring-8シンポジウム(平成15年11月12~14日)において発表された3件の特定利用課題の終了報告で審査を行い、利用研究課題選定委員会で評価結果を取りまとめて諮問委員会に報告しました。以下に評価対象の特定利用3課題の評価結果と成果リストを示します。各課題の研究内容については、各実験責任者が執筆して次号の「最近の研究から」に掲載される予定です。


(1)
[課題名]:核共鳴非弾性散乱による元素およびサイトを特定した局所振動状態密度の研究およびその測定法の開発
[実験責任者]:瀬戸 誠(京都大学)
[採択時の課題番号]:2000B0019-LD-np
〔実施BL /総シフト数〕:BL09XU計 216シフト

〔評価〕
 本課題は、核共鳴非弾性散乱実験を多くの核種で高効率に行うことを目指したもので、モノクロメーターと検出器の開発を通じて、物質中の局所的な振動状態密度を求め、その振動状態と物性の相関を明らかにすることを目的とした。
 初期の長期利用(特定利用)課題では、測定システムの開発が重要である。その開発結果が、研究の成否ばかりか、ビームラインの性能を決めることになる。本課題では、測定システム開発に重点をおき、研究課題を遂行するに当り、半ばパワーユーザー的な協力を行っている。多種の核共鳴素子に対し、液体窒素冷却型高分解能モノクロメーターを開発し、強度の大幅な増強が得られたことは特筆に値する。更に、APD検出器の効率化を中心とした性能改善に取り組むことで、不純物まわりのフォノンの測定が可能になったことは意義深い。
 以上のように、局所フォノン状態密度測定法を開発したという点で、技術的には充分に初期の目標を達成している。
 一方、利用研究という視点で本課題をみたとき、混合原子価酸化物であるマグネタイトについて、サイトを特定したフォノン状態密度を初めて測定できたことは、高く評価できる。中性子では不可能な測定を行っており、種々の研究分野の人に注目されるであろう。その実験結果についても、第1原理バンド計算と比較することが可能になってきている。AサイトとBサイトにそれぞれ特有なフォノン状態密度の存在が、計算から定性的に理解でき、相転移との相関を研究する足掛かりができている。
 このように、長期利用課題を有効活用することで、一般課題研究での利用が可能になり充分な成果が出るようになったことは高く評価できる。ただし、科学技術的波及効果という面では、充分に達成できているとはいいがたい。今後、この手法をどのような系に適用するのかという問題と共に、他のグループの研究者との共同研究を如何に発展させるかが問われている。本事後評価を新しいサイエンスの出発点と位置づけ、研究戦略を充分に練られることを切望する。

[成果リスト]
論文等
1)5651 R.Haruki, M.Seto, S.Kitao, Y.Kobayashi, Y.Yoda, T.Mitsui and Y.Maeda,“Nuclear Resonant Quasielastic Scattering from Fe Cations in Nafion Membranes: Effect of Dynamics in a Short Time Range”, J.Phys.Soc.Jpn.70(2001)445-448.
2)4563 M.Seto, S.Kitao, Y.Kobayashi, R.Haruki, T.Mitsui, Y.Yoda, X.W.Zhang, S.Kishimoto and Yu.Maeda,“Nuclear Resonant Inelastic and Forward Scattering of Synchrotron Radiation by 40K”, Hyperfine Interact.141-142(2002)99-108.
3)4567 M.Seto,“The Studies on Nuclear Resonant Scattering of Synchrotron Radiation by 40K”, Structural Chemistry 14(2003)121-128.
4)5652 M.Seto, S.Kitao, Y.Kobayashi, R.Haruki, Y.Yoda, T.Mitsui and T.Ishikawa,“Site-Specific Phonon Density of States Discerned Using Electronic States”,Phys Rev.Lett.91(2003)185505/1-185504/4.
5) M.Seto, J.Matsuno, A.Fujimori, T.Mitsui, Y.Kobayashi, S.Kitao, R.Haruki, S.Kawasaki and M.Takano,“Enhancement of Elastic Scattering with Magnetic Ordering in the Energy Spectra of Incoherent Nuclear Resonant Scattering”, submitted.
6) J.Matsuno, M.Seto, S.Kitao, Y.Kobayashi, and R.Haruki, T.Mitsui, A.Fujimori, Y.Takeda, S.Kawasaki and M.Takano,“Effects of charge disproportionation on the phonon density of states in Fe perovskites”, submitted.

プロシーディングス・解説等
1)4565 瀬戸誠、“核共鳴散乱による物性研究”、日本結晶学会誌、43, 2001, 405-412.
2)5648 瀬戸誠、北尾真司、小林康浩、春木理恵、依田芳卓、三井隆也、張小威、前田豊、“放射性同位元素40Kの放射光核共鳴励起” 京都大学原子炉実験所「放射線と原子核をプローブとした物性研究の新展開」専門研究会報告(II),KURRI-KR-60(2001)67-70.
3)5650 R.Haruki, M.Seto, S.Kitao, Y.Kobayashi, Y.Yoda, T.Mitsui and Yu.Maeda, “ Dynamics of Fe Cations in an H2SO4 Solution by Nuclear Resonant Quasielastic Scattering”,Hyperfine Interact.(C)5(2002)139-142.
4)5649 春木理恵、瀬戸誠、北尾真司、小林康浩、三井隆也、依田芳卓、前田豊、“核共鳴準弾性・非弾性散乱を用いた溶液中の鉄イオンのダイナミクス”、京都大学原子炉実験所「放射線と原子核をプローブとした物性研究の新展開」専門研究会報告(III)、KURRI-KR-74 (2002) 166-168.


(2)
[課題名]:硬X線マイクロビームを用いる顕微分光法の開発
[実験責任者]:早川 慎二郎(広島大学)
[採択時の課題番号]:2000B0029-LM-np
〔実施BL /総シフト数〕:BL39XU 計117シフト(2000B~2002A) BL37XU 計72シフト(2002B~2003A)

〔評価〕:
 本課題は、微量元素の定量的イメージング、マイクロXAFS法の開発、微小高分解能蛍光X線分析、偏光顕微鏡の開発などに取り組むことで、硬X線領域での顕微分光を実現することを目的とした。
 コミュニティの要望であった顕微測定法の開発という点では、1ミクロンにビームを絞り、かつ10の11乗という強度を20keVまでのX線に対して得るという初期の目標を達成し、ビームライン整備や開発を非常に誠実に進められた点を高く評価する。特に、KBミラーを使ったマイクロビームシステムとしては、状態分析も可能であり、実用のレベルに達している。マイクロXAFSも実用化できたことは評価される。ソフトウエア開発をはじめ、装置の立ち上がり状況が非常によいため、この先の応用範囲が広がるとおおいに期待できる。特に、エアロゾル粒子や細胞レベルでの個々の分析が行えるようになったことは、さまざまな分野での応用といった波及効果がみられるであろう。
 当初予定していたX線円偏光顕微鏡の開発については、まだ充分ではないが、偏光利用をのぞくと、目標を完全に達成しており、その科学技術的価値は高く、広範な波及効果を充分に期待できる。ビーム形成に加えて応用を進めて欲しいとする中間評価の要求には、生命科学への応用展開など最低限では答えている。ただし、広い応用が期待される測定法であることを考えると、もっとと考えるのが自然である。
 以上のように本研究課題は、総合的に高く評価できる。今後は、利用に重点を置いた更なる展開(産学利用も含めて)を期待する。

[成果リスト]
論文等
1)526 S.Hayakawa, N.Ikuta, M.Suzuki, M.Wakatsuki and T.Hirokawa,“Generation of an x-ray microbeam for spectromicroscopy at SPring-8 BL39XU”J.Synchrotron Rad. 8,328-330(2001)
2)1160 S.Hayakawa, M.Suzuki, M.Oshima and T.Hirokawa,“Development of a compact beam intensity monitor for micro x-ray absorption fine structure measurements”Nucl.Instrum.Meth.A 467-468,901-904(2001)
3)2117 S.Hayakawa, S.Tohno, K.Takagawa, A.Hamamoto, Y.Nishida, M.Suzuki, Y.Sato, and T.HIROKAWA,“Ultra Trace Characterization Using an X-ray Microprobe at SPring-8 BL39XU”Anal.Sci.,17s,i115-117 (2001)
4)5371 Y.Sato, S.Hayakawa, Y.Nishida, A.Hamamoto, M.Suzuki and T.Hirokawa,“Development of a Wavelength Dispersive X-ray Fluorescence Spectrometer Using an X-ray CCD”Anal. Sci.17s,i1201-1203(2001)
5)3715 S.Tohno, S.Hayakawa, A.Nakamura, A.Hamamoto, M.Suzuki, T.Hirokawa, Y.Satoh, Y.Nishida and M.Kasahara,“Single particle analysis of fixed fog droplets using SR x-ray microprobe system”J.Aerosol Sci.,32s,S873-874(2001)
6)3742 S.Hayakawa, M.Suzuki, T.Hirokawa,“微小ビーム強度モニターの開発とマイクロビームX線分析への応用、X線分析の進歩”

プロシーディングス・解説等
1)5370 S.Hayakawa, S.Tohno, A.Hamamoto, M.Suzuki and T.Hirokawa、“Characterization of individual aerosol particles using an X-ray microprobe”J.Phys.IV France 104, 309(2003)
2)5372 S.Hayakawa, F.Nishiyama, S.Murao and T.Hirokawa,“Synchrotron radiation x-ray microanalysis of trace mercury”“Samll-scale mining in Asia” eds.S.Murao, V.B.Maglambayan and N.de la Cruz, ISBN:0 953733637,(AIST, 2000).


(3)
[課題名]:超臨界金属流体の静的・動的構造の解明
[実験責任者]:田村剛三郎(京都大学)
[採択時の課題番号]: 2000B0020-LD-np(BL04B1, BL28B2)
2000B0583-LD-np(BL04B2)
2001B3607-LD-np(BL35XU)
〔実施BL /総シフト数〕:BL04B1 計72シフト(2000B~2001B)
BL28B2 計72シフト(2002A~2003A)
BL04B2 計174シフト(2000B~2003A)
BL35XU 計144シフト(2001B~2003A)
計462シフト

〔評価〕
 本課題は、水銀やセレン、アルカリ金属などの超臨界金属流体について、X線回折や小角散乱により密度揺らぎなどの静的構造を、さらにX線非弾性散乱の測定から超臨界領域での動的構造を、解明することを目的とした。
 この種の研究は、実験が大変難しいのに比べ、得られる情報が少なく、さらに実空間で構造を鮮明に理解するにはバリアーがあるという特殊事情がある。確かに困難を伴う実験であり多くの時間を必要としたが、確実に実験精度は上っており、水銀やルビジウムについては着実な成果を出している。高温高圧下での融体の測定方法や反応性試料の測定方法を開発できたことは評価に値する。特に大きなブレークスルーは、アルカリ金属用モリブデン容器の開発に成功したことがあり、高く評価される。この成功により、他のアルカリ金属での超臨界金属流体の研究を、比較的容易に展開することが可能となった。
 研究面では特に、超臨界水銀について、金属-非金属(絶縁体)転移のイメージを明らかにできたことは特筆すべきである。中間評価の時点に比べ、X線小角散乱やX線非弾性散乱の情報が加わり、超臨界金属流体の描像が総合的に理解できるようになってきている。原子分子の離散集散についての様相についても、液体金属領域でダイマーが形成することを示唆する結果が得られており注目に値する。
 以上のように、本研究はSPring-8の高輝度X線を用いて初めて可能となった研究であり、液体・ガスの構造を議論することは、基礎科学として充分な価値が認められる。しかし残念なことに、非常に特殊な技術を必要としており、一般的な手法として波及させるには限界がある。すなわち、本課題の遂行が、申請者の技術力に強く依存していること、実験コストが高くつくこと、実存のセルで扱える物質が限られることなど、科学技術的波及効果を含め、今後の展開に問題をかかえていることを指摘する。また、精度の高い構造解析という観点から、どこまで目標を達成したか(物理的に何を明らかにできたか)の明確な説明が欲しかった。

[成果リスト]:
論文等
1)5463 K.Tamura and M.Inui,“ In situ X-ray Diffraction and XAFS Studies of Expanded Fluid Selenium Using Synchrotron Radiation” MRS Bulletin, 24 (1999) 26-31.
2)138 K.Tamura, M.Inui, I.Nakaso, Y.Oh'ishi, K.Funakoshi and W.Utsumi,“X-ray Diffraction Studies of Expanded Fluid Mercury Using Synchrotron Radiation at SPring-8” Jpn.J.Appl.Phys., 38 (1999) 452-455.
3)1788 K.Tamura, M.Inui, I.Nakaso, Y.Oh'ishi, K.Funakoshi and W.Utsumi,“Structural studies of expanded fluid mercury using synchrotron radiation,”J.Non-Cryst.Solids, 250-252 (1999) 148-153.
4)5465 M.Inui, K.Tamura, I.Nakaso, Y.Oh'ishi, K.Funakoshi and W.Utsumi,“X-ray diffraction measurements for expanded fluid-Se using synchrotron radiation”J.Non-Cryst.Solids, 250-252 (1999) 519-524.
5)5466 K.Tamura,“Structural studies of fluid mercury using synchrotron radiation at SPring-8” Proceedings of the symposium on the Progress in Liquid Physics (2), Wuhan, 2000, 89-96.
6)5475 X.Hong, M.Inui, K.Tamura, T.Matsuoka, D.Ishikawa and M.H.Kazi,“Structural studies on expanded fluid selenium up to the metallic region using synchrotron radiation,”J.Non-Cryst.Solids, 293-295 (2001) 446-452.
7)1280 K.Tamura and M.Inui,“Structural changes and the metal-non-metal transition in supercritical fluids” J.Phys.:Condens.Matter, 13 (2001) R337-R368.
8)3488 K.Tamura, M.Inui, K.Funakoshi and W.Utsumi,“X-ray diffraction technique in energy-dispersive mode at SPring-8 for fluids at high temperatures and high pressures” Nuclear Instruments and Methods Section A, 467-468 (2001) 1065-1068.
9)3110 K.Tamura, M.Inui, T.Matsusaka, D.Ishikawa, M.H.Kazi, X.Hong, M.Issiki and Y.Oh'ishi, “Small angle X-ray scattering measurements for supercritical fluid metals using synchrotron radiation”J. Non-Cryst. Solids, 312-314 (2002) 269-273.
10)3107 M.Inui, X.Hong, T.Matsusaka, D.Ishikawa, M.H.Kazi, K.Tamura, K.Funakoshi and W.Utsumi, “X-ray diffraction measurements for expanded fluid Se using synchrotron radiation up to dense vapor region”J. Non-Cryst. Solids, 312-314 (2002) 274-278.
11)3109 X.Hong, T.Matsusaka, M.Inui, D.Ishikawa, M.H.Kazi, K.Tamura, K.Funakoshi and W.Utsumi,“X-ray diffraction measurements for expanded fluid mercury using synchrotron radiation: from liquid to dense vapor”J. Non-Cryst. Solids, 312-314 (2002) 284-289.
12)3108 M.Inui and K.Tamura,“Structural studies of supercritical fluid metals using synchrotron radiation”J. Non-Cryst. Solids, 312-314 (2002) 247-255.
13)5395 M. Inui, X.Hong and K.Tamura,“Local structure of expanded fluid mercury using synchrotron radiation: From liquid to dense vapor”Mys. Rev. B 68 (2003) 094108 (1-9).
14)5133 M.Inui and K.Tamura,“Static and Dynamic structures of expanded fluid mercury” Z. Phys. Chem., 217 (2003) 1045-1063.
15)5467 K.Tamura M.Inui, K.Matsuda and D.Ishikawa, “Structural Studies of Expanded Fluid Metals Using Synchrotron Radiation”Trans MRS-J, to be published.
16)5468 K.Matsuda, K.Tamura, M.Katoh and M.Inui, “A molybdenum cell for x-ray diffraction measurements of fluid alkali metals at high temperatures and high pressures”Rev. Sci. Instrum., to be published.
17)5617 D.Ishikawa, M.Inui, K.Tamura, A.Q.R.Baron, S.Tutui, Y.Tanaka and T.Ishikawa, “Collective dynamics in dense Hg vapor”J. Phys.: Condens. Matter,  submitted.

プロシーディングス・解説等
1)5470 田村剛三郎、乾雅祝,“SPring-8における超臨界金属流体の構造研究 -膨張する水銀-”固体物理、34 (1999) 199-207.
2)141 内海渉、船越賢一、浦川啓、入船徹男、田村剛三郎、乾雅祝、辻和彦、下村理、“SPring-8 高温構造物性ビームラインBL04B1”放射光、12 (1999) 17-23.
3)5471 田村剛三郎、乾雅祝、“超臨界金属流体の構造研究 -膨張する水銀-”SPring-8利用者情報、4 (1999) 38-42.
4)5472 田村剛三郎、乾雅祝、船越賢一、内海渉、辻和彦、“高温ステーション(BL04B1) における金属流体の構造研究”日本結晶学会誌、42 (2000) 33-40.
5)5473 一色麻衣子、大石泰生、鈴谷賢太郎、尾関智二、田村剛三郎、乾雅祝、“高エネルギーX線回折ビームライン(BL04B2) の試験調整運転状況” SPring-8利用者情報、5 (2000) 94-99.
6)5474 田村剛三郎“放射光を用いた超臨界金属流体の構造研究”まてりあ、42 (2003) 372-376.
7) 松田和博、田村剛三郎、乾雅祝、“加藤昌弘試料容器および流体試料分析方法”特許出願2003-315946, 2003年9月.



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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