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Volume 09, No.1 Pages 59 - 63

6. 告知板/ANNOUNCEMENTS

2003年におけるSPring-8関係功績の主な受賞
Award-winning Achievements on SPring-8 in 2003

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 昨年一年間に、SPring-8関係の研究で受賞した主な功績を以下に紹介します。


「オイゲン・イルゼ・ザイボルト賞」を菅滋正氏が受賞


 大阪大学大学院基礎工学研究科の菅滋正教授が2003年ドイツ研究協会(DFG)のオイゲン・イルゼ・ザイボルト賞を受賞され、昨年4月24日にボンのドイツ博物館で授賞式がありました。同賞は自然科学と社会科学の全分野においてドイツと日本の研究交流に著しい業績を上げた日本人とドイツ人各1名に2年ごとに与えられるもので、今回で第4回目です。

 菅教授はドイツのマックスプランク固体研究所、東京大学物性研究所、大阪大学基礎工学部で半導体や磁性体、超伝導体などの研究を行い、これまで30年間にわたり日独文化交流に貢献されてきました。また、学術振興会の日独共同研究も2回推進されました。最近ではSPring-8に利用者グループを率いて共同チームと協力して建設・立ち上げられた、世界で最高性能の軟X線円偏光ビームラインBL25SUを用いて行った、光電子顕微鏡(PEEM)による磁性体ナノテクノロジーの研究や、世界で未踏の高分解能軟X線バルク敏感光電子分光、さらに世界ではじめて成功させた軟X線角度分解光電子分光等の分野で世界的な業績を上げられました。今回の賞はこれら一連の成果が認められたものです。


受賞者紹介


 菅 滋正(すが しげまさ)(58歳)大阪大学大学院基礎工学研究科教授


功績名:半導体、磁性体、超伝導体、磁性体ナノテク分野での日独共同研究およびSPring-8を用いた光電子分光研究などの一連の成果


 光電子顕微鏡ではドイツのマックスプランク微細構造研究所のKirschner教授のグループと共同で、厚さを連続的に変えた磁性3層膜におけるスピン再配向実験や、磁性超薄膜のミクロ分光などの先端研究で、SPring-8のBL25SUの最後段に持ち込んだ自作のPEEMを用いて、1999年に測定に成功した。軟X線バルク敏感光電子分光では、角度積分測定で希土類系Ce化合物やYb化合物のバルク電子状態が、これまで報告されてきた低エネルギー光電子分光の結果とは異なることを、2000年に明らかにしNature誌上で報告し、長年の未解決の問題を解明して、強相関電子系の研究にはこのようなバルク敏感測定が必須であることを証明した。その結果、VやRu化合物でもこれまでの表面敏感な低エネルギー光電子分光とは異なるバルク敏感なデーターが得られており、2001年から今日まで世界の有力グループとの共同研究が展開されている。軟X線角度分解光電子分光では、2002年にCu-O系をはじめとしてバンドマッピングやFerimiologyにたえられる軟X線励起測定の可能性を実証してきた。これらの分野でのbreakthroughをいくつも達成してきた実績が評価されたものである。



「第17回独創性を拓く先端技術大賞」にて「経済産業大臣賞」を上西真里氏、田中裕久氏、西畑保雄氏が受賞


 ダイハツ工業㈱の上西真里氏、田中裕久氏と日本原子力研究所放射光科学研究センターの西畑保雄副主任研究員に、「第17回独創性を拓く 先端技術大賞」の企業産学部門の最優秀賞である「経済産業大臣賞」が授与されました。この賞はダイハツ工業㈱と日本原子力研究所との共同研究である「『インテリジェント触媒』の研究開発と実用化~自己再生型排ガス浄化用自動車触媒」に対して贈られたものです。授賞式は高円宮妃殿下をお迎えし、昨年7月10日に開催されました。「独創性を拓く 先端技術大賞」(主催:日本工業新聞社、後援:経済産業省、文部科学省、フジテレビジョン、ニッポン放送、産經新聞社)とは「科学技術創造立国 ニッポン」の実現に向け、優れた研究開発成果をあげた全国の理工系学生と企業の若い研究者、技術者を表彰する制度です。


受賞者紹介

 上西 真里(うえにし まり)(32歳)ダイハツ工業株式会社 材料技術部材料開発室


 田中 裕久(たなか ひろひさ)(45歳)ダイハツ工業株式会社 材料技術部材料開発室


 西畑 保雄(にしはた やすお)(42歳)日本原子力研究所放射光科学研究センター


功績名:『インテリジェント触媒』の研究開発と実用化~自己再生型排ガス浄化用自動車触媒


 自動車触媒はガソリン自動車の排ガス中に含まれる有害成分を無害な成分に変える働きを担い、実用化されて四半世紀が経過している。しかし、今後ますます超低排出ガス基準等のクリーン車の積極的導入による環境貢献を図るためには、自動車触媒に使用される貴金属量を大幅に低減し資源問題を解消できる触媒技術が望まれていた。

 三氏が新しく開発したインテリジェント触媒はペロブスカイト型酸化物の結晶中にパラジウムをイオンとして原子レベルで配位(固溶)することにより、自動車排ガス中で自己再生する能動的な機能を与えようというものである。今日のガソリンエンジンでは空気/燃料比が一定の幅で電子制御されており、排ガスが酸化還元変動を繰り返している。この時のパラジウム原子の挙動をSPring-8の放射光X線を用いた結晶構造解析により明らかにした。すなわちこの触媒は、高温における酸化雰囲気でパラジウム原子がペロブスカイト型酸化物に固溶する。ところが還元雰囲気でパラジウム原子はペロブスカイト型酸化物から析出して微粒子となり、再び酸化雰囲気になると完全にペロブスカイト型酸化物に固溶することが分かった。このことは、排ガスの酸化還元変動に応じて結晶構造を変えることによって貴金属微粒子の粒成長が抑制されることを意味する。このようにして、新しく開発した触媒が優れた浄化活性を維持できることを明らかにした。すなわち触媒の自己再生機能を原子レベルで発見・解明した。

 この成果は、これからの触媒開発に対して自己再生機能という新しい設計概念を与えたものであり、次世代の自動車排ガス浄化触媒として実用化にも期待できる。


 受賞した研究については、利用者情報Vol.7 No.6(2002年11月発行)の「最近の研究から・不老不死の自動車排ガス浄化触媒‐インテリジェント触媒‐」にも掲載されています。内容はSPring-8ホームページでご覧いただけます。

http://www.spring8.or.jp/j/user_info/sp8-info/data/7-6-02/7-6-02-2-p359.pdf



「第1回ひょうごSPring-8賞」を淡路直樹氏、二宮利男氏、山本雅貴氏が受賞


 「ひょうごSPring-8賞」(主催:ひょうごSPring-8賞実行委員会、後援:財団法人高輝度光科学研究センター、日本原子力研究所関西研究所、独立行政法人理化学研究所播磨研究所、SPring-8利用者懇談会、SPring-8利用推進協議会)とは、SPring-8の特性を生かした業績をあげられた研究者を顕彰することにより、SPring-8に関する認識が、専門家だけでなく、産業界、県民をはじめとする社会全体において幅広く高まることをめざして、兵庫県、関係機関、団体との連携の下、創設されたものです。

 このたび、3名の方がSPring-8の特長を全面に活かした優れた業績を高く評価され、本賞を授賞されることとなり、昨年10月31日、兵庫県公館にて表彰式が行われました。


受賞者紹介


 淡路 直樹(あわじ なおき)(49歳)株式会社富士通研究所材料環境技術研究所・主任研究員


功績名:エレクトロニクス用ナノ薄膜の超精密構造評価技術の開発


 淡路氏は、SPring-8の産業用専用ビームラインの高輝度放射光を利用し、ナノ薄膜の積層構造を分子レベルで評価する技術を世界に先駆けて開発した。これらは、次世代のLSI用ゲート絶縁膜やハードディスク用磁性薄膜の開発や製造条件の最適化に強力なツールとなっている。同氏の技術は、世界的にもトップレベルの薄膜構造評価技術であり、世界的に開発競争が熾烈なエレクトロニクスやナノテク分野に広範な応用が期待される。


 二宮 利男(にのみや としお)(61歳)前兵庫県警察本部 科学捜査研究所・所長

                  (財団法人地球環境産業技術研究機構 微生物研究グループ)


功績名:放射光映像技術・分析技術の科学捜査への応用


 二宮氏は、SPring-8の供用開始以来、高輝度放射光の科学捜査への利用、特に蛍光X線分析法を中心とする超微量元素分析の技術が犯罪捜査等において極めて優れて重要であることを指摘し、我が国では勿論、世界でも初めて放射光を実際に犯罪捜査に適用し、放射光の科学捜査における有用性と重要性を実証した。この先駆的な技術開発は、科学捜査の分野に新しい発展をもたらしたと同時に、放射光科学の社会的貢献に大きく寄与するものとして高く評価できる。


 山本 雅貴(やまもと まさき)(40歳)独立行政法人理化学研究所播磨研究所

                    X線干渉光学研究室・副主任研究員


功績名:蛋白質結晶構造解析高度化への貢献


 異なった波長の光を取り出すことができる放射光施設では、蛋白質中の鉄原子など重原子による異常散乱効果を、波長を変えて測定することによって位相決定することができる。

 山本氏は、異常散乱法を有効に利用するビームラインをBL45XUに建設した。そのビームラインでは、SPring-8の立ち上げの早い時期から、世界的に評価の高い構造解析に成功し、SPring-8の優秀性を国内外に示した。その後も注目度の高い優れた研究がこのビームラインから出されている。



「第49回仁科記念賞」を中野貴志氏が受賞


 中野貴志・大阪大学核物理研究センター教授は、大型放射光施設(SPring-8)のレーザー電子光(LEP)ビームラインBL33LEPで得られるガンマ線を用いて、クォーク5個で構成される新粒子(バリオン)を発見した業績により、第49回仁科記念賞を受賞され、昨年12月5日、東京・丸の内の東京会館で授賞式が行われました。「新粒子発見」は一昨年10月に国際会議で発表すると世界的に注目され、仁科記念賞としては、昨年7月の論文掲載から受賞までの最短記録(4ヶ月あまり)になります。

 仁科記念賞(主催:仁科記念財団)は、故仁科芳雄博士の功績を記念し、原子物理学とその応用に関し、独創的で極めて優秀な研究成果を収めた個人あるいはグループを表彰することを目的とするもので、財団が定める推薦人に候補者の推薦を依頼し、それに基づいて選考が行われ、毎年12月に表彰が行われます。


受賞者紹介


 中野 貴志(なかの たかし)(41歳)大阪大学核物理研究センター 教授


功績名:レーザー電子ガンマ線による新粒子の発見


 核子の仲間である多くの粒子(バリオン)は、クォークとその間に働く力を媒介するグルーオンから構成される世界であり、今まで観測されたバリオンは、全て3個のクォークで構成されている。

 そのため、3個のクォークから成る粒子以外のバリオンは存在し得るのかという本質的な疑問があったと同時に、クォークが単独で観測された例はないため、「なぜ、クォークは粒子中に閉じ込められるのか」という疑問には答えることができなかった。

 今回確認された粒子は、1個の反sクォークと2個ずつのu, dクォークの計5個のクォークで構成される全く新しいタイプの粒子であり、この疑問に対する世界ではじめての発見と言える。本発見は、昨年7月4日にPhysical Review Letters誌で発表された。

 同氏のグループが用いたレーザー電子光は、レーザー光をSPring-8の高エネルギー(80億電子ボルト)電子ビームに正面衝突(逆コンプトン散乱)させることにより得られる高エネルギー光ビーム(高エネルギーガンマ線)である。この光ビームを炭素原子核に当てると、原子核内の中性子との核反応により負K中間子と5個のクォークからなる新粒子の生成が確認された。大阪大学核物理研究センター、日本原子力研究所先端基礎研究センターと高輝度光科学研究センターを中心とするプロジェクトチームは、SPring-8にレーザー電子光実験施設を建設し、平成12年以来レーザー電子光を核子や原子核に照射し、発生する中間子等を測定する実験を行ってきた。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794