Volume 09, No.1 Pages 20 - 21
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
「長期利用2002A採択課題中間評価」について
Intermediate Evaluation of 2002A Long-term Proposal
2000B期(平成12年9月~平成13年1月)から開始した特定利用課題は、2003B期(平成15年9月~平成16年2月)から重点研究課題を導入するのに合わせて長期利用課題と改称し実施しています。これに合わせて、これまで3回実施した「特定利用 中間評価」についても今回の第4回中間評価からは「長期利用 中間評価」と改称します。
長期利用の中間評価は利用研究課題選定委員会長期利用分科会において、書類による評価と面接による評価の両方で行いましたが、面接評価の際に評価用書類の内容をふまえて、(1)研究の進捗状況(2)採択時の審査員の意見の反映度(3)成果の発表状況(4)成果の位置づけ、意義(5)3年目の計画の妥当性、の5つの観点から評価を行いました。以下に対象課題の評価結果と研究概要および得られた成果を示します。
〔課 題 名〕:
高分解能(磁気)コンプトン散乱測定による巨大磁気抵抗物質の電子及び軌道状態の研究
〔実験責任者〕:小泉昭久(姫路工業大学)
〔採択時の課題番号〕:2002A0008-LD3-np
〔評価結果〕:実施する。
〔研究概要〕:
現在、巨大磁気抵抗効果(CMR)を示す物質の研究が精力的に行われている。例えば、ペロフスカイトMn酸化物は、最近の強相関電子系における様々な研究を通して、電子の内部自由度とそれらの結合状態が、CMRを含めた系の物性に重要な影響を与えているということが広く認識されるようになってきた。また、新たなCMR物質Sr2MoFeO6は、高い磁気転移温度を持ち、低温のみならず室温においてもCMR効果を示すことから注目されている物質である。
本課題では、上記2つの酸化物試料を主対象にして、SPring-8を用いて電子・軌道状態の研究を行い、CMRの起源に迫ることを目的とする。このような巨大磁気抵抗物質を研究するにあたり、放射光を用いた高分解能コンプトンプロファイル(HRCP)・磁気コンプトンプロファイル(MCP)測定では、測定試料の純度・表面状態や、測定温度、磁場の有無についての実験的制約が無いため、ホールドープ系の試料における測定、磁気転移点前後での温度変化の測定、CMRに関連して磁場依存性の測定等が系統的に行えるという有用性がある。また、入射X線に円偏光X線を用いると、磁性電子のみの運動量分布を反映したMCPが測定されるが、CMR物質においては、磁性と伝導を担う電子のみを選択したデータが得られることになる。
本課題では、このような放射光を用いた利点を十分に生かし、ホール濃度依存性、磁場依存性、温度変化、プロファイルの異方性を測定し、分子軌道計算・バンド計算から求められる理論的プロファイルとの比較を行う。これはCMR効果を含めた磁性と伝導性との関係、CMRと軌道状態との関係を研究する上で、有効な実験手法となり得るものと期待される。また、コンプトン散乱測定を軌道研究という観点から捉え、軌道状態の直接的観測手法の確立を目指すという点にも意義・特色がある。
〔成 果〕:
磁気コンプトンプロファイル(MCP)および高分解能コンプトンプロファイル(HRCP)で、Mn系酸化物のMn 3d 軌道を中心とした電子状態を観測する目的を達成しつつあり、当初目的の成果は得られている。また、コンプトン散乱の計測・解析では世界トップグループに位置し、他の方法では得られない精密物性測定の手法が開発されつつある。
〔成果リスト〕:
(原著論文)
[1]A.Koizumi,T.Nagao,Y.Kakutani,N.Sakai,K.Hirota and Y. Murakami, ”Change in Mn 3d Orbital State Related to a Metal-Insulator Transitionon on Bilayer Manganite Studied by Magnetic Compton-Profile measurement”,
(Submitted to Phys.Rev.B,Rapid Communication)
[2]M.Suzuki,H.Toyokawa,K.Hirota,M.Itou,M.Mizumaki,Y.Sakurai,N.Hiraoka,N.Sakai,“ A 128-channel Microstrip Germanium Detector for Compton Scattering Experiments at the SPring-8 Facility,“Nucl.Instr.and Meth.A510(2003)63.
(解説、Proceedings等)
[1]「磁気コンプトン散乱による軌道状態の観測」、小泉昭久、坂井信彦、固体物理 <放射光X線による構造物性研究の最前線>特集号、Vol.37,No.9(2002)pp.105-115.
[2]“Phase Separation between Electron-Rich Ferromagnetic and Electron-Poor Antiferromagnetic Regions on La2-2xSr1+2xMn2O7 Stdied by Magnetic Compton Profile Measurement”,A.Koizumi,SPring-8 Research Frontiers 2001B/2002A.
[3]「SPring-8における位置敏感X線検出器開発」、豊川秀訓、鈴木昌世、広田克也、放射線Vol.29No.1(2003)21.
[4]M.Suzuki,H.Toyokawa,K.Hirota,“Multielement Detectors for High Energy SRX-ray Experiments,”in the proceedings of“8th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation,”San Francisco,August 25-29,2003.To be published in AIP Conference Proceedings series.
[5]M.Itou and Y.Sakurai,“Cauchois-type Compton Spectrometer Using X-ray Image Intensifier”,in the proceedings of“8th International Conference on Synchrotron Radiation Instrument“,San Francisco,August 25-29,2003.To be published in AIP Conference Proceedings series.
(学会発表等)
[1](招待講演)「磁気コンプトン散乱法で観た層状Mn酸化物の3d軌道占有状態」:小泉昭久、日本物理学会秋季大会 2002年9月 中部大学
[2]「磁気コンプトンプロファイル測定による層状Mn酸化物の軌道・電子状態の温度変化」:小泉昭久、永尾俊博、角谷幸信、尾村朱美、坂井信彦、廣田和馬、村上洋一、日本物理学会秋季大会 2002年9月 中部大学
[3]「磁気コンプトンプロファイル測定によるLa2-2xSr1+2xMn2O7(x=0.3)のMn 3d軌道状態の観測」:永尾俊博、小泉昭久、角谷幸信、尾村朱美、坂井信彦、有馬孝尚、廣田和馬、村上洋一、日本物理学会秋季大会 2002年9月 中部大学
[4]「角度依存磁気コンプトンプロファイルの2次元再構成から観たLa2-2xSr1+2xMn2O7(x=0.35)のMn3d軌道状態」:小泉昭久、永尾俊博、角谷幸信、尾村朱美、坂井信彦、廣田和馬、村上洋一、日本物理学会第58回年次大会 2003年3月 東北大学
[5]「La2-2xSr1+2xMn2O7(x=0.35)における高分解能コンプトンプロファイルの2次元再構成」:永尾俊博、小泉昭久、角谷幸信、坂井信彦、伊藤真義、桜井吉晴、廣田和馬、村上洋一、日本物理学会秋季大会 2003年9月 岡山大学(発表予定)
[6]「X線イメージインテンシファイアを用いたコンプトン散乱測定用高エネルギーX線スペクトロメータ」:伊藤真義、桜井吉晴、日本物理学会秋季大会 2003年9月 岡山大学(発表予定)
[7]M.Itou and Y.Sakurai,“Cauchois-type Compton Spectrometer Using X-ray Image Intensifier”,in the proceedings of“8th International Conference on Synchrotron Radiation Instrument,“San Francisco,August 25-29,2003.(Poster Presentation)
[8]M.Suzuki,H.Toyokawa,K.Hirota,“Multielement Detectors for High Energy SRX-ray Experiments,”in the proceedings of“8th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation,”San Francisco,August 25-29,2003.
[9]Y.Sakurai and M.Itou,“Recent Momentum Density Study of Novel Materials”, Sagamore XIV,Broome(Australia),August 13-18.(Invited Talk).